さつき、「ひみつのことば」を知る
パパとママがやってきます。
クラスのお友達も数名やってきます。
でも、やっぱりさつきは、たったひとりで生きて、そして死んでいかなくちゃならないのです。誰も替わってなどくれないのです。
ハルカ先生がお見舞いに来た。
「なんで、なんで、この子がこんな目にあわなければならないの?大切なわたしの生徒、おともだちが。この子が、一体何をしたというの?」
さつきは、寂しくて寂しくてしがみつくように先生のぬくもりを感じます。
「ひとりに・・・ひとりにしないで・・・!」
先生は、ずっとそばにいてくれました。
不思議です。
その晩、さつきは夢をみました。
幸せな幸せな夢。
さつきは、宇宙にいたんです。
おともだちがたくさんいて、おともだちもさつきも、みんなアンテナに光るこころを持っていて、うちゅうとつながっている。
そして、みんなのこころはひとつにつながっていることをみんなが知っているんです。
ただ、そのことを知っただけで、さつきはうれしくてうれしくてなぜか知らないけれど、
「うわあああああああああん!」って泣けて泣けて仕方がなかったんです。
うれしくて泣いている私を見て、おともだちのみんなも一緒に泣いています。
さつきは、だれかわからないけれども、あたたかいひとに「よしよし」ってされて、抱かれているのです。
ちきゅうであったことのない人なんだけれども、さつきもその人もお互いをよく知っていました。
ひとりじゃない。なにがあってもひとりじゃない。
すべてのことはだいじょうぶなんだ、だいじょうぶなんだ、だいじょうぶなんだ。
目が覚めると、さつきの目から涙がこぼれて、あったかくて、やさしくて、安心した気持ちです。
ハルカ先生がそばにいました。
この素敵な夢を伝えたくて、言いました。
「先生、あのね、あのね・・・。
さつき・・・なにがあってもだいじょうぶなんだ、だいじょうぶなんだ、だいじょうぶなんだってわかった、わかったの。」
先生は、目をつぶって手を握り、アンテナをだしておでことおでこをひっつけました。
*
「何かしてあげられることはある?なんでも言って。」
「先生は・・・ううん。なんでもないの。」
「なあに?」
「先生は、なぜ、うちゅうに帰らなかったの?ちきゅうは今こんなに危ないのに。
あのあと・・・つまり、学校をやめちゃったあとどこに隠れてたの?何をしていたの?
火山の噴火も地震も、先生たちうちゅうじんが人工的に引き起こしたって、本当?」
「さつきさん、あなたたちのことが大切だからよ。
・・・それに、〈わたしたち〉は、何もしていない。本当になにもしていないの・・・。
・・・だけど、まさか・・・まさか・・・。」
「〈わたしたち〉って?そして、まさかって・・・どういうこと?」
「確かにね、さつきさん、うちゅうのルールにのっとってこのちきゅうにやってきてこの星を天国にしようとしているうちゅうじんはたくさんいる。
あなたのおにいちゃんも、わたしも。
基本的には、基本的にはそうなのですけれども・・・。」
「うん?」
「ただね、『闇の宇宙』からやってきた人たちもいる。」
「『闇の宇宙』?
いろいろなうちゅうがあって、いろんなうちゅうじんだっているのね。
・・・当たり前か。あまりにもうちゅうは広いから。」
「ええ。その『闇の宇宙』の人たちは、わたしたちの住むうちゅうからは閉じ込められている。」
「ややこしいわね。」
「世界のあらゆることが、時間とともに生まれて、保たれて、消えて、変化していってこそ、うちゅうは全体として成長し発展していくの。このうちゅうで変わらないものは何もない。
ただひとつの『ひみつのことば』を除いては。」
「『ひみつのことば』?」
「さつきさん、うちゅうのあらゆることはね、『ひみつのことば』がうみだして、このことばによってなりたってるんだよ。
花も、星も、岩も、山も、鳥も、そしてさつきさん、あなた自身もこの『ひみつのことば』によってつくられているんです。」
「にいちゃんも、はるか先生も、そうなの?」
「ええ、もちろん。」
「さつき・・・その『ことば』を知りたい!
それを知ることができたら、さつきのあらゆる悲しみや苦しみが消え去って喜びに変わる気がするから。」
先生は、微笑みました。
「そう・・・この『ひみつのことば』はいのちです。
世界が滅びて、うちゅうのすべてが変わっても、けっして消えることのないいのちなんです。
いい?さつきさん。
もう一つのうちゅうのルールをお伝えいたします。
それは・・・ことばが世界をつくりだしている。あなたの発したことばがあなたの人生や世界を作っていくというルールです。」
「・・・うん。」
さつきは、先生のことばに思わず引き込まれます。
「人は、誰しもがことばによってうちゅうを創造している小さな神さまなんです。
せんせいも、おにいちゃんも、さつきさん、あなたもね。」
「そうか・・・そうなのね。
でも・・・だったら、みんな神さまだって言うの・・・あの大人たちも、占領軍の兵士たちも・・・トラヒー将軍も?どうしてもそうは思えないんだけれど。」
「そう。彼らは、みんな『ことば』を間違った方向で使って苦しんでいる、そして、苦しみながら学んでいる神なんだって知ることよ。
ちきゅう人たちは、ことばのルールを『はめつの原理』に合わせて使ってしまっている。
話を戻しますが、『闇の宇宙』には、この『はめつの原理』をもたらすことばをつかうたましいたちが封じ込められているんです。
闇の宇宙の住人たちはちきゅうにはやってくることができないのですが、もし地球人たちが『はめつのことば』を多く使えば、闇の宇宙の扉を開くことになるのです。
はめつのことばにも闇の宇宙の住人の与える知恵にも力があります。しかし、それは多くの苦しみをもたらす見せかけの力でしかありません。
今、この街を占領しているのは・・・闇の宇宙の住人たちね。そして、その力を引き出すことを『はめつのことば』によって覚えたちきゅうじん。
間違いなく、何人かのちきゅうじんが、『はめつのことば』を使い、闇の宇宙の住人たちの力を借りて、また、闇の宇宙の住人も彼らを操っているの。」
「・・・じゃ、じゃあ。
噴火も、地震も・・・。そして、占領軍も、トラヒー将軍も、学校や街の人たちも・・・?」
「ええ。気が付かないうちに、闇の宇宙の住人に操られています。
でも、天変地異は直接闇の宇宙の住人が人工的に起こしたわけではありません。」
「そうなんだ。」
「この星だって、生きているんです。ひとつの生命体なんです。
人間が風邪をひいたり、病気になったりしたらどうします?」
「鼻水や熱を出したり、病原菌を追い出したりする。」
「この星だって、自分が生み出したちきゅう人たちが間違った考えで自分を苦しめて病気にかかったら、『気が付いてほしい』と言って、くしゃみをしたり、熱をだしたりするでしょう。」
「うん。」
「闇の宇宙は、ちきゅうが健康な時は、介入できない。
だけど、ちきゅうじんたちが、『はめつのことば』を使い始め闇の宇宙の扉を開いてしまったら入り放題なんです。そこの住人は。
とくに、ちきゅうじんは全員が自由な意思を与えられた『小さな神さま』として作られているんです。
すごくすごく、責任重大なんです。」
「なんで、ちきゅうじんは『はめつのことば』をつかう自由があるの?そんなの使わせないようにすればいいじゃないの。」
「うちゅうは、本当の自由を実現するために、わたしたちをいろんな星に送り出しているの。奴隷と主人のような関係ではないの。
小学生の時に教えたことを覚えている?
うちゅうのルールは、
『うちゅうはあなたを愛していて、あなたもうちゅうを愛すること。』
『おともだちを自分を大切にするように大切にすること。』
それに反する生き方をしたら、罰ではなく苦しみがある。ただ、それだけなんです。
そして、『はめつのことば』ではなくて、『いのちのことば』を使うこと。
いのちのことばは、人をもっと自分らしく生きる力を与えることができる。
人を自由にして、創造のよろこびを与えるのです。」
ハルカ先生と話しているうちに、さつきは自分が死んでしまうのを忘れてしまうくらい心が生き生きとしてきました。
「さつき、その『いのちのことば』を知りたい!」
「運がいい!」
「素敵だね!」
「ありがとう!」
「うれしい!」
「たのしい!」
「しあわせ!」
「愛しています!」
「だいじょうぶだよ!」
「よくなっている!」
暗かった病室が、明るくなりました。
さつきたちは、笑い転げました。
病院と知らない人がきたら、きっとそこは遊園地か、ピクニックの現場、海水浴場とか、そんな場所に思えたかもしれません。
病院と知らない人がきたら、この病室は面白くて楽しくて元気をもらうためにまた何度でも来たくなるようなそんな場所に違いありません。
いつぶりだろう。
こんなうれしくてたのしくてあたたかいところに来たのは。
ずっと忘れていたしあわせなしあわせな感覚。
ずっと求めていて、探しても探してもついになかったと思ってあきらめていたことが、まさかこんなところで・・・。
「あははははっ。あはははははははははっ・・・。」
さつきは、笑いながら嬉しくて、なぜか知らないけれど涙がこぼれて仕方ありませんでした。
先生も笑いながら涙を流しています。
パパもママも、ずっと見せたことがなかったような明るい顔になっています。
それまで、無表情だったお医者さんも看護師さんも、ふっとよくみたらすごく優しい顔をしていました。
その場に、なんだか不思議な力が働いたみたいでした。
先生ひとりが、さつきひとりが、なにかをしたわけじゃあなかったのです。
だけど、うちゅうの不思議な力がスーッと入ってきて小さな太陽のような光をその場にもたらしたかのようでした。
そうです。
さつきたちは、うちゅうの「ひみつのことば」とひとつになっていたのです。きっと。
「もう、がんばらなくて、いいよ。
そのままで、そのままで、いいんだよ。生きてるだけで、いいんだよ。
そのままで、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
さつきは、その言葉を聞いた瞬間、心にずうんと置かれていた重い重い石が取れて、一気に軽くなったような気がしました。
うちゅうのすべてが大丈夫なようにできているのです。




