さつき、はるか先生ともお別れする
この物語を今は会えなくなった大切な小さな友人に捧ぐ。
・・・
あれから十年。
わたし、さつきは人類初の「宇宙への留学生」となりました。
これを読んでいるみなさんにはこの場で言うのも恥ずかしいことや情けないこともありますが、みんなお話しますね。
* * *
わたしのにいちゃんは、ちきゅうに留学に来たうちゅうじんでした。
生まれてから十二歳になるまでちきゅうにいました。
にいちゃんは「アンテナ」を出して、「うちゅうのふしぎな声」とつながることができました。
学校で自分がうちゅうじんであることがばれていじめられてピンチになったこともありましたが、「大切なおやくそく」を思い出して、学校じゅうのみんなをとても優しい気持ちにさせることに成功しました。
だけど、留学の期間が終わると、にいちゃんは再び星に帰ってしまったのです。
*
にいちゃんが宇宙に帰った後、わたしは寂しかった。
そのことが、あまりにも急すぎて。にいちゃんとのできごとをずっと忘れることはなかった。
そして、はるか先生のことも言わなければなりません・・・。
はるか先生も、実はうちゅうじんでした。
当時、小学生だったわたしに、それまで聞いたことのないような大切な話や、面白い話を沢山してくれたし、みんなにもとても優しくしてくれたことをはっきりと覚えています。
うちゅうでは、国も学校もなく、ただあるたった一つの法律は「宇宙は自分を愛していると知り、自分も宇宙を愛すること。自分を大切にすること。同じようにお友達のことも大切にすること。」なのだそうです。このことは、ちきゅうの人びとにもあてはまるそう。
だけど、ちきゅうのひとびとは、うちゅうじんに対してあまり良く思っていなかったみたいでした。はるか先生がうちゅうじんだと分かると、みんなはるか先生のことを白い目で見るようになりました。
だけど、なによりもいじめられて「地球の毒」に喰われそうになったにいちゃんを救うきっかけになってくれたのもはるか先生に他なりませんでした。
にいちゃんがうちゅうに帰った後、はるか先生はうちゅうじんとして自分がちきゅうにやってきた役目を果たすため、一生懸命仕事をしていました。
はるか先生は、わたしたち生徒ひとりひとりをものすごくよくみていました。
テストもひとりひとり専用に作成するという徹底ぶり・・・。
さつきははるか先生とよく帰り道を一緒に帰ったり、たまにこっそりアメちゃんをもらったりしながら、将来の夢だとか、好きな音楽とか、たわいのないことについていっぱいいっぱいおしゃべりをしました。
だけど・・・
あれだけ私にたくさんの素敵なことを教えてくれたはるか先生もわたしの卒業する前に急に消えてしまいました。
にいちゃんは自分がうちゅうじんであることをみんなの前で言って、たくさんの人を感動させた。
だけど・・・みんなみんな少し経つと元に戻ってしまった。
みんな、その時は感動した、やさしくなったかもしれない。それが続いたのは数か月くらいだった。・・・長いほうだとは思うよ。
でも、私は決してずっとずっとにいちゃんのことを忘れることはなかった。
はるか先生も消えた。
その理由は地球のルールで「いけないこと」をしたからだって。
にいちゃんとさつきたちの家に入ったことや、苦しんでいるにいちゃんをハグしたことがいけなかったんだって。
それに、さつきやそのお友達と一緒に帰ったことも、アメちゃんをあげたりしたことも、「いけないこと」なのだそうです。
わたしは、まったくわけがわからなかった。
はるか先生は、人を助けてくれたんだよ・・・?はるか先生がいなかったら、にいちゃんは死んでいたかもしれないし、この地球自体が滅んでいたかもしれないんだよ?
みんなそのことを知らないんだ。だから、好き勝手言ってにいちゃんやはるか先生みたいなうちゅうじんを悪者にできるんだ。
いや、そんなことはどうでもいいのです。
はるか先生の存在は、ちきゅうの学校の先生たちにとって自分たちの地位や権力を脅かす危険な存在に思えたのでした。
もし、ちきゅうのみんながはるか先生や「うちゅうのルール」を実行するようになったら、「ちきゅうのルール」や世の中の在り方はそれまでのものとまったくちがったものになってしまう。だから、それが正しいことと分かりつつも、ちきゅうの権力者たちははるか先生を目の敵にしました。
このちきゅうでは、人を疑うことと、恐れることが「正しいこと」のようなのです。
何一つ血の通っていない法律やルールだけがまるで人間を機械に仕立て上げてしまう。
このうちゅうでただひとつの基本法は「自分を大切にして、同じように周りの人も大切にする。」一言で言えば「愛」のはずなのですが、ちきゅうじんの作る世界はこの基本法をまるっきり忘れて「恐れ」「疑い」「義務」「責任」「お金」が正義になっているみたいなのです。
だから、多くのちきゅうじんは何をするにしてもいつもしかめっ面をして、楽しそうじゃない。ため息ばっかりついて、怒ってばかりいるのです。
でも、わたしのせいだ・・・わたしのせいで、にいちゃんやはるか先生は誤解されて、悪者にされちゃった。
私がもし、にいちゃんやはるか先生がうちゅうじんであることを言うことがなければ・・・。
二人ともあんなことにはならなかった。
・・・はるか先生は、本当に急にいなくなってしまった。
はるか先生は、おっちょこちょいだから先生のくせによく失敗をします。
さつきはその日、筆箱を忘れてきたので、先生に
「すみません、筆箱を忘れてしまったので・・・貸してくれる?」と言ったところ、
「・・・ごめんね。先生も筆箱わすれてきちゃって。」と。
教室内は大爆笑。
休み時間、机の上で窓の外を見ながらアンテナを立ててほほえんでいるはるか先生のアンテナをいじって遊ぶのがさつきたちの趣味でした(笑)
「やっ・・・やめなさいーーー。はるか先生の命の次の次の次くらいにたいせつなアンテナを。いっ、いたいいたい。ひっぱらないでひっぱらないで。」
と言いながら、先生本人も楽しそうです。
ふと、はるか先生は言いました。
「みんな、いい子ね。本当にいい子ばっかり。
・・・この子たちがいずれ大人になる頃には、私たちの星と、ちきゅうが仲良くなっていたらいいのにな。」
そう言うはるか先生は、いとおしそうにふと遠くを眺めるような優しい目つきをしていました。
窓の外には、きれいな夕陽が。
そんないつもの光景なのですが、はるか先生と見る夕陽は格別に美しくて感動するものでした。
そう思ったとき、後ろに人影が・・・。
「あ、美しいですよ・・・ほら、夕日。」
別の先生でした。
「・・・それはいいですけれど・・・さつきさん、先生は『お友達』じゃありませんよ?
離れてください。」
さつきは、バツの悪い思いでしぶしぶはなれます。
「・・・あと、はるか先生もちょっと話がありますので、こっちに来てください。」
「ええ・・・」とはにかみながらも、はるか先生の笑顔から血の気が引いていくのが分かります。
次の日にはるか先生は、教室からも職員室からも姿を消してしまいました。
こんなやりとりが裏であったそうです。
「・・・先生・・・あなたのちきゅうの子どもたちが好きなこと、あなたの心が純粋なことはよくわかります・・・。
だけど・・・あなたは、うちゅうじんであることを隠して学校に勤めていた。
一児童を救うためとはいえ、学校の許可なくさつきさんの家に入りこみ、兄と接触を図ったこと。それに、生徒と学校の外で一緒に帰ったり、アメをあげたり、これに至っては言語道断です。・・・これはね、法律違反なんです。あなたには辞職していただかないと・・・。」
「・・・おっしゃっていることがよくわかりません。人を助けたり喜ばせたりすることのどこがいけないんですか?」
「あなたはそういう気持ちでやったのかもしれないけれども・・・もしアメに毒が混じるようなことがあったらどうします?学校の外で事故でも起こしたら責任取るのはこっちですよ?おうちなんかいくら向こうがいいといっても、入って生徒と接触などしたら、家宅侵入罪ですよ?」
「は・・・?毒って?すみません、そんなこと・・・知りませんでした。」
「知りませんでしたじゃ済まされない問題ってこの星ではたくさんあるんですよ?
やっていいことといけないことを教える教育者がねえ、これじゃあ生徒に示しがつきませんよぉ。」
「やっていいことといけないこと・・・?人を、愛すること、いのちを助けることはいけないことですか?」
「それがいけないとは言わない。言わないけれども、トラブルの元だからやめてくださいと申しておるのです。」
「・・・おっしゃっていることがよくわかりません。
・・・うちゅうじんは・・・ちきゅうの教育に関わっちゃダメということですか・・・?
「そんなことはひとことも言ってない。だけどね、うちゅうじんの存在は学校にとって秩序を乱すもとなんです。学校ではね・・・みんな一緒ということが基本原則!自由にやらせたら世の中は崩壊しちゃうでしょう。だから、強制して檻の中に閉じ込めてみんなでいっしょを繰り返し叩き込まないといけないのです。
君は、やめたほうがいい。はっきり言って、迷惑なんですよ。
職員室じゃね、あなたがいないときにみんなであなたのことを話していたんですよ。『役立たず』ってね。
帰ったほうがいいんじゃないですか?あの規律を乱した問題児が自分の星に帰ったみたいに。あなたの星とやらに。そして・・・もう二度と子どもたちに《間違った》考え方を吹き込まないでください。あなたはね・・・このちきゅうを滅ぼす危険な存在なんです。だから、いらない。」
「・・・ま、待ってください」
はるか先生がそう言おうとした時、
《・・・プルルルル・・・》
電話がかかってきました。
「もう、あなたの話は要らない。
・・・というわけだから、もう明日から二度と来なくていいよ。以上。」
とシッシッと振り払うように手を振りました。
ガチャッ。
その教師は急に猫なで声で笑顔を作り、
「お世話になっております~。ああ~いえいえ~その節はーこちらこそ~。本当にありがとうございます~。」
はるか先生は無言でその場を去りました。
外を出た瞬間、はるか先生はその場に崩れ落ちて一歩も動けなくなりました。
そして、泣いて、泣いて、大声で泣きはらしました。
そばには、誰一人としていませんでした。
彼女の周りでは、何もなかったように楽しそうな笑い声や友だち連れ、家族連れ、恋人たちが歩いていきます。
その間をぬうように先生は頭を真っ白にしながら歩いて行ったそうです。
・・・あとで、そんなやり取りがあったということを聞きました。
さつきは・・・にいちゃんに続き、はるか先生までも失いました。
「はるか先生は・・・どんな気持ちだったんだろう。」
はるか先生がいなくなった教室は、昨日と何にも変わりない風景で子どもたちは楽しそうに遊び、走り回り、話をして盛り上がっています。
どうでもいい風景の一部が誰にも気が付かれずに消えていっただけのように。
一部の人が、はるか先生についてうわさをしています。
「やっぱりはるか先生も悪いうちゅうじんだった。ちきゅうをほろぼす計画を立てていたんですって。どうしようもないよ。」
「ちがう、ちがう、ちがうのに・・・」
と思いながら、さつきはどこにも思いのやり場を吐き出す場所がありません。
その夜の空は、月は輝かず、星は一つとして見えない濁った暗闇ばかりが覆っていました。
はるか先生がいなくなって、数日後。
超大型の台風がさつきたちの街を直撃し、警報が発令され、「学校が休みになった!」とみんなは大喜びしていましたが、事態はそう楽観できるものではなくなりました。
猛烈な雨が十日間にわたって休むことなく降り続き、山が崩れ、大水害が起こりました。
屋根や看板は飛び、街はボロボロになりました。町中には何だかよくわからない残骸や木の枝で溢れかえり身動きが取れない状態です。
さあ、台風の後片付けでもしようと懸命になっていたところ、何百年も噴火していなかった近くの火山が噴火し、街には灰が降り積もりました。
そういえば、はるか先生がこんなことを話していたような気がします。
「あのね、ちきゅうじんの心と、ちきゅうの中心って繋がっているのよ。
もし、ちきゅうじんの心が間違っていたら、ちきゅうの意識は、生き方を変えなさいというメッセージを送るために天変地異を起こすことがあるの。
それはあたかも、人間の皮膚の表面にできた病気を手術か何かで削り取るように。」
「・・・単なる偶然でしょう。こじつけもいい加減にしてください。災害なんて起こるときには起こるものですよ。」
そんなことを言う人もいたし、その話をさえぎる人もいました。
みんなは笑っていました。
さらに追い打ちをかけて地震が発生し、津波が学校を襲ったのです。
グラウンドが灰だらけの学校で、みんなマスクをしながら授業を受けている最中のことでした。
机の上でひとりでに鉛筆や教科書が揺れています。窓ガラスが大風にでも吹かれたようにガタガタと鳴っています。
誰かが貧乏ゆすりをしているのかと思って周りを見渡しました。クラスのみんなも「誰だよ」「なに?なに?」と笑いながら周りを見渡している・・・と思った瞬間、この世界のすべてがコントロールの利かなくなって崖から転げ落ちる車のように縦へと横へと揺れ始めたのです。
まるで、地上が嵐の船の上のようにすごい力で揺さぶられています。
「大きいぞ!みんな、机の下に隠れて!」
先生が呼びかけます。
大きな本棚は倒れ、机の中の教科書やお道具箱のたぐいはみんなドサドサ、ガシャーンと目の前に落ちていきますが、誰も取ろうとする人はいません。
蛍光灯はすべて落ち、ガラスというガラスは音を立てて割れ、ガラスの破片が床に散乱します。
みんな怯えている表情。泣いている子どももいました。
何分続いたでしょうか。揺れが収まりました。
さつきはそういえば思い出したのです。
くりかえし、はるか先生に言われてきたことを。
「いいですか?
もし、地震が起こったら、すぐさま一人で逃げなさい。
そのあとに大きな津波が来ますから。
点呼を取る必要もない。集合する必要もない。
できるだけできるだけ高いところに逃げなさい。
決して後ろを振り返ってはいけません。」
学校の全員が数分で校庭に集まった。
後ろで、小さくだけれども、「ドドドドドドドドド」という音が聞こえる。
点呼を取ろうとした時でした。
さつきは、大きな声で叫びました。
「みんな、この後大きな大きな津波が来ます!
今すぐ逃げてください。バラバラになって!」
何を言ってるんだ!この非常時に!集団行動を乱すな!
「バシイッ!」
さつきは思いっきり平手打ちをされた。
「・・・先生!それは体罰です、絶対だめです。あとで辞表を出してもらいます。」
「何がだ!?今は非常事態なんですよ?」
「みんな、落ち着いて!みんなで一緒に集まって固まっていれば大丈夫だから!」
さつきは、先生たちを、クラスのみんなを振り切って一人だけ思いっきりダッシュをした。
「あ、おい、待てっ!」
さつきの姿をみた何人かのクラスメイトが一緒に逃げ出す。
「そういえば、はるか先生が言ってた・・・。バラバラになって逃げろって。」
はるか先生の話をしっかりと聞いていた生徒たちでした。
先生が追いかけてきますが、必死に振り切ってさつきたちはバラバラになって山の方へ、山の方へ走ります。
ずっと、鬼ごっこをして遊んでいたことが、なんだか今になって少し役に立ったようなと少し思いましたが、命をかけてこんなに真剣に人から逃げたことは初めてでした。
校庭では大混乱状態。
怒鳴り声と泣き声とが入りかっています。
「どうせ、津波はこんなところまでは来ませんよ。」
「山なんかのぼって怪我でもしたらどうするんですか。」
「保護者への対応が・・・」
「いったん念のためここで待機して・・・」
「責任を追及されるのは誰だと思ってるんですか?」
なんていうことをごちゃごちゃと話しあっていた人たちの後ろには気が付くと、波の壁が押し寄せてきました。そろってみんな津波に飲まれて流されていきました。
高台から振り返ると、さつきの脳裏には一生忘れることのできない映像が刻まれました。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
ああああああああああっ あああーーーーーーっ!!」
さつきは、思わず目をつぶり、耳をふさぎ、しゃがみ込みました。
はるか先生やにいちゃんをのけ者扱いしていた人たちは流されていきました。
だけど、さつきと毎日遊んでいた友達も一緒に流されていきました。
さつきは、逃げのびた友達たちとその様子を一言も口にすることなく見ていましたが、やがて、何もかもから目を背けるようにただ手をつないでいるだけでした。
パパとママは無事でした。
さつきのずっと住んでいた家は壊れはしなかったけれども、家具という家具は倒れて、床と言う床に食器の割れたのや本なんかが散乱してぐちゃぐちゃになった。
パパとママとさつきは、お互いが生きていたことを喜び合い抱き合いました。
「・・・これから、どうしていけばいいんだろう。どうやっていきていけばいいんだろう。」
途方に暮れていたところでした。
地震と津波の影響で、ちきゅうではどこかの国のコンピューターが誤って核兵器を搭載したミサイルのボタンを押してしまったようです。わざとなのか、偶然なのかはわかりません。
ただ、恐ろしい地獄がこの世に出現したのです。
はるかはるか遠くで、太陽よりもまぶしい光が上空で光るのを目にしました。まもなく恐ろしい勢いでどす黒い色をしたキノコのような雲が立ち上りました。その街にいた人たちはあっという間に蒸発してしまったといいます。
その街や周辺の生き残った人でも、今まで元気だった人が次々と病気になり亡くなっていきました。
この世界中が、悲しみと、怒りと、絶望に覆われました。
「なんで・・・なんでこんなひどいことが、次から次へと容赦なくおそいかかるの?」
そんな声があちこちから聞こえます。
「人類が今まで悪を犯し続けてきたことに対する裁きですよ。世界の終わりが始まった。
昔の予言者が言った通り・・・人類は滅亡するときが来たのです。終末です。」
そんなことを言い始める人もいました。
さすがに、これは何かおかしいと人びとは思い始めた人もいました。
「これらの災害のすべては、人工によって作られたものだ!
あのはるかという宇宙人が、追放された腹いせに特殊な科学技術を駆使して、我々を滅ぼそうとしているに違いない!やはり、きれいな顔をしていたって、裏の本当の姿は邪悪な侵略者だったという何よりの証拠だ。あいつは、悪魔だよ。
見つけ出して・・・殺さなければいけない。」
さつきは思い出しました。
「・・・そういえば、にいちゃんがうちゅうじんだということで孤立した時、ブツブツ話していたな。
『UFOの大軍を送りこんで地球を滅ぼして、植民地にしてしまおう』とかなんとか・・・。
まさか・・・はるか先生・・・はるか先生も、そんなことを?
・・・まさか、ざまあみろちきゅうじんなんてうちゅうからこの様子をみながら思っているの?
呪われてしまえ、地球人みんな地獄におちてしまえ、死んでしまえ・・・そう思ってやったことなの?
・・・でも、仕方がないよね?」
はるか先生の居場所は誰にも突き止めることはできなかった。
「悪魔め、隠れてしまったようだな。」
つぎに矛先を向けられたのは、さつきでした。
「なんで、お前だけ・・・お前だけが助かったんだ?」
「そういえば・・・おまえの兄は、うちゅうじんだったよな?
ということは、仲間か・・・仲間だな。
そうだ、そうだ、そうだ、きっと何か裏にあるに違いない。」
パパとママはきっぱりと言いました。
「いいえ、あの子と私たちは、何の関わりもありません。」
家に入るなり、二人とも「ごめんね、ごめんね・・・」と言いながら泣いた。
「あの子は、いまでも私たちの大切な家族だよ・・・だけど、さつきや私たちが殺されないためにも、嘘をつくしかなかった・・・。」
それでもやっぱり、さつきたちはにいちゃんやはるか先生のことが好きでした。
「・・・にいちゃん、はるか先生・・・なにしてんの・・・?
会いたい、会いたいよ。あのやさしいうちゅうじんのお友達にもう一度会いたい。
なんで、こんなときにそばにいてくれないの?」
さつきは、うちゅうに向かって何度も何度も手紙を書きました。
「にいちゃん、あのね・・・」「せんせい、あのね・・・」
届ける術も知らず、届かないと分かっていても、それでも何度も何度も書いてはやり直し、書いてはやり直しを繰り返し・・・結局最後まで書けずにつくえのうえで寝てしまうのでした。
助けて・・・どうすればいいの・・・なんでそばにいてくれないの・・・。