何を隠そう、皆勇者だったのさ※一人除き
不定期更新ー
というか生徒の名前全員分考えるので危うく頓挫しかけたので小出しにその場その場で考えていく所存。
能力とかはいくらでもネタはあるんだけどね、名前ばっかりはどうも。
――――歴代勇者物語第16章陽だまり勇者。
彼女の笑顔はまるで陽だまりのようだ、いつもニコニコ、見ている皆が釣られて笑顔になっていく。
それは人のみならず、魔王もニコニコ、自ら腹を切って世界は救われニコニコして彼女は元の世界に帰ったという。
のちの人々はそれを聞いてちょっと怖いと思ったそうだがあえて皆こう呼んだ『陽笑の勇者』と。
――――
神林が目を覚ますと、生徒たちが顔を覗き込んできていた。
「うわっ……ビビらせんなよ……日高」
一番顔が近かった女生徒、日高を名指ししつつ起き上がる神林の目には教室ではない白い大理石のようなもので作られた部屋が映った。
「で、何があったんだ?」
それに答えるのは日高。
「せんせー、召喚前にも言ったけど異世界召喚だよ! それも勇者召喚!」
異世界、勇者という単語を聞いても神林の反応は思わしくなかった。
ニートとは言え彼はそういった俗物的な趣味はなく、故にイマイチピンと来なかったようだ。
「随分詳しいんだな、それに……」
と言いかけたところで誰かがやって来る足音が複数。
白い部屋につながる通路から出てきたのは厳つい騎士のような格好をした男が六人と、その中心で守られるように立っているいかにも王様といった感じのと、お姫様的な少女であった。
「ちょっと勇者が多すぎやしないか……?」
王様が困ったように呟くととなりの姫が頭を下げた。
「申し訳ございません……リュウセイを呼びたかったのですがどうにも他の方々を巻き込んだようです」
巻き込んだようですとはどういうことだろうか、それにリュウセイとは、と神林はリュウセイ、つまりは名切流星へと視線を向けた。
「アティラ姫……?」
「リュウセイ! 無事だったのですね!」
アティラ姫と呼ばれた少女が日高にぶつかりながら名切へと駆け寄った。
被害にあった日高はどさくさに紛れて神林に抱きつきニコニコしている。
「なんなんだよ、結局……」
日高を引き剥がして神林は溜息をつく。
「うむ、まずは説明をせねばなるまいな……」
「あ、その必要はないですよ?」
説明をするという王の話を遮るように口を出したのはクラスのリーダー的存在の山田だった。
神林的にはぜひとも説明願いたかったのだが、あの山田が不要といったからにはその辺は後で彼自身が説明してくれそうだ。
神林の期待するような視線を受けて山田は手で待っててと合図をした。
「必要ないとは、どういう意味かね?」
「事情の程は大体二十五代目勇者に聞いていますから、それで我々の素性も先に明かしておきますね」
「素性……?」
召喚に巻き込まれただけの者たちとばかり思っていた王様はこれに面食らう。
「ええ、そこにいる彼を除き、我々男女合わせ25人全員がこの国、この世界における歴代勇者なのですよ、ああちなみに僕は初代勇者、あなた方の言うところで『破剣の勇者』山田楽園です」
山田は酷いキラキラネームだった、そんな彼のあだ名は田楽か、田の(楽)園である。
「なんと! 貴方様がラクエン様なので……?」
姫様が驚き次いで他も勇者であると神林以外に視線を向ける。
「次は二代目である私ね、二代目といえばそれでわかると思うけど一応名乗ってあげるわ『日没の勇者』佐藤林檎よ!」
彼女の事を人はこう呼ぶ……『飢えた果実』とその女性らしい口調からは想像もつかない圧倒的な暴力は勇者時代に身につけたらしい。
山田にしろ佐藤にしろ碌でもない称号を付けられている勇者達は順序通り自己紹介をしていく中、神林は部屋の隅で縮こまっていた。
生徒が○○の勇者という度に王や騎士達からどよめきや称賛などが上がっているし生徒達はそれを当たり前のように受け入れている、正直元の世界にいた時よりも楽しげで輝いているのだ。それは神林にとって家族のように思っていた者たちが遠くへ行ってしまったかのように感じていた。
「なきっちゃんの事は言わなくてもわかると思うから最後はワタシね、二十四代目、『魔王の勇者』春日部葛葉よ」
自虐ネタはカスでクズはちゃんである……自称するだけあってかなりゲスいこともやる問題児だ。
「というわけです、そしてあちらの隅で固まっているのが僕らの……そうですね父親役兼担任の神林先生です」
さり気なく神林のことを紹介に挟む山田、デキる男である。
「それで我々……というか元々流星だけの予定だったと先ほど聞こえたのですが一体この国に何が起きたのですか?」
問われれば王は俯き黙ってしまう、流石に歴代の勇者の前では気後れしているのか、余程重大なことなのかと不安げに見つめる生徒達に姫が割って入った。
「それは私しから説明致しますわ」
そもそもの発端は名切流星の帰還にあった、彼は元は帰るつもりなどなかったのである。
それについては生徒たちは本人から直接聞いていたのでただ一人を除き驚きはしなかったが。
婚約までしていた姫君はそれはもう焦りに焦って、どうにか呼び戻そうとしていたのだとか、それでどうにか再召喚の儀を行ったと。
この再召喚の儀、は召喚の義とは違い、過去にこの世界に居た物を呼び寄せるもので通常のそれより少ない魔力で良かったのだが姫が張り切りすぎて大量の魔力を使ったためにこうして少なくない人数が召喚されてしまったのだという。
「……つまり世界の危機とかではなく、彼に会いたいからと?」
こういってはなんだが完全に巻き込まれ損である……中にはまた異世界に行きたいと思っていたものも少なからず居たようなので不満の声はないのだが。
「帰還の儀は行えるのですか?」
と、山田は神林の方を見て問うた。
「それが……どうやら生き残りの魔族が居るようで召喚はどうにか行えたのですが帰還となるとすぐには難しいですね」
申し訳なさそうに頭を下げる姫。
「困っちゃうねー、せんせー帰れないってよ? どうする?」
「どうするって言われてもな……お前らはどうなんだよ」
「ウチらはそもそも帰りたくないからガッコーに泊まろうって言ってたんだし帰らなくても良いなら帰んないよ? ね? みんな」
日高の問いに皆頷き返す、そうなると帰りたいのは神林だけということになるのだが……。
「じゃあいいわ、帰らなくても、どうせ独り身だし親もちょい前に他界しちまったからなぁ」
ほんの半年前のことだ、そんなに仲も良かったわけでもない両親が突然の事故でなくなってしまった、住み込みの仕事とは言え帰って葬式やらしなくちゃなと思っていた神林に親戚一同に別に帰らなくとも良いと言われそのままうやむやにしてきてしまったが不思議と悲しみなどは感じていなかった。
「というわけだそうなので、我々が滞在する許可と、出来れば住む場所を用意してくれませんか?」
「わかった、すぐに用意させよう……おい、レマレコットに急ぎ伝えよ」
いつの間にか復活していた王が一人の騎士に伝えると騎士はすぐさま駆け出した。
「では一先ず玉座までご同行願えるかな?」
静かに歩き出した王に続き姫が名切の腕を引き連れて行った、皆その後を追い、神林もそれに習ったのだった。