第三章 『魂魄界』
「うをいっ
うを~いっ
生きてをるかっ
生きてをるのかっ
む~~」
ツンッ……ツンッツンッ……
ツンッツンッ……グシッ
「あっ」
遥か遠くから聞こえてくるような微かな声に、
次第に意識が明るみを帯びてくる中、おでこを軽く突かれてるような感触に顔を背けた次の瞬間、ピンポイントで左目に激痛を感じた。
「あてっ……。
いでっ……。
いってぇ~~」
「ぬおっ。
生きておじゃったのでおじゃるかっ。
わざとではおじゃらんぞ~。
決してわざとではおじゃらんぞ~。
おどれが急に動くからでおじゃるぞ~」
無の状態から、おでこへの微かな感触のあと、
いきなり瞼ごしに左目の眼球をド突かれたかのような痛烈な痛みを覚え、言い訳と共に強制的に意識を呼び起こされた。瞼に残る強烈な圧痛を拭い去りながら起き上がるとこちらを覗き込んでいた『何か』とドアップのご対面となった。
「!!!っ」
「!!!っ」
超至近距離で目が合ったボク達は互いに呼吸も時間も凍り付いた。ボク自身、まだうるうる涙目状態だったが目の前に未確認生物がいるのはわかった。ギョッとするボクのドアップを見たであろうその『何か』が、ボク以上にギョッとしたのが朧げに見えた。
「うわっ」
「!!!!!!っ」
ほんの一瞬の間の後、普通にびっくりしたボクの顔と声にさらにびっくりしたのか、その『何か』は、声もなく、びっくりしすぎたままのあまりにも恐ろしい形相で引きつったまま固まっていた。あまりにもコテコテな、絵にかいたような素敵なリアクションだ。て言うか、絶対、顎外れてる……ここまでくると、未知への恐怖以前に互いの顔で驚愕の二重面奏を奏でるも、意識を取り戻したそれが畳み掛けるように話しかけて来た。
「うらぁ~~。
いきなりドアップは
びびるでおじゃろ~がっ。
かなりびびったでおじゃろ~がっ」
顎は外れてなかったようだ。
「……ん?……
ポムポム?……」
今までに経験したことが無いほどの涙目が、少々治まってくる中、一瞬、ポムポムとこの『何か』がシンクロして見えた。
「……緑色の……パンダ……
いや……猫か?……」
「うおいっ。
うお~いっ……」
強制的に意識を引きずり出されたのも束の間、全身に纏わり付く強烈な疲労感に加え、幻聴と幻覚に弄ばれているかのような困惑のなか、ボクは白目を従え再び深く堕ちた。
「ん…。
んっ……」
「やっと目覚めたか、わっぱ」
「ん?……。
ん?……。
うわっ……
うわっうわっうわっ」
「まったく……。
起きるなり騒がしいやチュじゃのぉ」
そこには目の錯覚じゃない、ポムポムっぽいパンダ染みた猫がいた。吸い込まれそうな深い琥珀色した大きな目。透明感抜群のエメラルドグリーンの体は、ボクの記憶がイメージしていたつるぷりんなポムポムに似ている。しかし、成りはつるぷりんではなく遥かに複雑なようだ。ぱっと見、猫だ。二足歩行の。しかも、ぽやんとした体型にそぐわないサムライな出で立ち。この出で立ち、どっかでか見たことあるような……。髪の毛……というより、体毛で髷を真似ているようだ。限りなくポニーテールに近いが。おでこには鉢巻……。袖口にダンダラ模様のついた水色の陣羽織を羽織っており、刀らしきものを腰に差している。……そうか『新撰組』だ。しかも意図してか初期の。そこに猫の要素が加わることで昔流行った『ナメ猫』とだぶった。結果、勇ましさと可愛さを相殺するという残念な存在感になっている。そのせいか、容赦ない親近感が湧いた。『新撰組』のコスプレをした『ナメ猫』。しかも大好きだオーラ全開だ。いやいやいやいやっそれどころじゃないっ。また現実逃避してたっ。ここは一体……。ポムポムならほんの少々免疫が出来てるが想像の域を超えることもできず既に想像から妄想になりかけている。それに、知る限り、しゃべる猫はあくまで架空の存在だ。アニメや映画なら全然普通だが、それが今、目の前に存在している。しかも時代劇かぶれして……。これが真の現実じゃないことくらい、容易に想像できる。が、想像できることと、受け入れられることは別問題だ。そうこう自分会議をしている中、微かに声が聞こえてきた。
「うをぉいっ。
うをぉ~~~いっ。
無視かっ。
それが世に言う、
無視というものでおじゃるかっ」
と、自分会議に強制的に割って入る声。そういえば言葉がわかる……。
「ポムポムって何かぁ~~~。
しかも猫でも、ましてやパンダでも
おじゃらんしっ。
ってか、パンダってなんかっ」
どうやら猫でもパンダでもないらしい……。しかし、百歩譲ってパンダはいいとして、これは誰が見ても猫だ。新撰組の格好をしたナメ猫……。なんだか、よそ様の国でこんなニュアンスの民話だったか童話だったかがあったような……と考えながら、そのサムライ状の猫的なポムポムを見つめた。
「もしかして……、
目を開けたまま、
気絶でおじゃるかっ。
気絶でおじゃるのかっ」
何やらご丁寧に日本語だ。しかも、いじりどころ満載だ。ここで、おふくろさまの遺伝子が首をもたげ、深く考える間もなく、口が勝手に動いた。
「んにゃ~っ」
「!!!っ」
あっ、また固まった。驚くと固まるようだ。
「ごめんごめんっ。
そんなに驚くとは思わなくて」
「人間様がにゃ~いうたぁ~~~。
人間様がにゃ~というたぁ~~~」
「人間様?」
「もしかして、おどれは化け猫人間様かっ。
拙者にとりチュくおチュもりかっ」
「化け猫人間様?」
恐ろしく動転しているようだ。威風堂々の象徴的なサムライという理想を模写してるわりに、精神がついてこれてないのが残念だ。そのギャップがツボと言えばツボだが……。しかも、人間『様』ってことは、こちらの方が立場が上なのか? どういう立ち位置で相手をすればいいんだ?
「オトロシカァ~。
まっことオトロシカァ~」
「ごめんて……。
くくっ」
おっさん顔で身震いするポムポムを見て、あまりのギャップに思わず笑いを堪えきれなかった。今は『様』どころではない。おふくろさま遺伝子がそう告げている。
「おどれは拙者をどうするおチュもりじゃっ。
どうするおチュもりなのじゃっ」
なんで要所要所復唱するんだ。発動条件が分からないこともあり少々うざくなってきた。
「どうって……。
どうもしないよっ。
それに、
そもそも化け猫でもないしっ」
「拙者を油断させようとしてるで
おじゃるなっ?
しかも、
うざいとはなんじょ。
こわっぱめがっ」
「えっ……。
うざいなんて言ってないしっ。
しかも油断させようなんてしてないって、
ポムポム殿。
聞いてる?
人の話?」
「さっきから、ポムポムってナンかっ」
「おぬしでござるよ。
髷を結ったポムポム殿。
ぷぷっ」
「おっ……。
おどれはっ……。
失敬な化け猫人間様でおじゃるなっ。
しかもポムポムではないと
言っておじゃろ~がっ。
ってか、だからポムポムってナンかっ」
「何って、
おぬしとしか言いようが……。
ぷぷっ」
失敬? しかも、化け猫人間様って……。ボケツッコミもどきも何気に面白い。夢のような非現実感から現実逃避してるせいか何でも面白く感じてきた。
「ってか、
化け猫がそんなに怖いの?」
「あやチュらはとりチュいた後、
喰うのでおじゃるっ。
おどれは拙者にとりチュいて、
喰うおチュもりであろ~がっ。
喰うおチュもりなのであろ~がっ」
普通にスルーしそうになったが、取り憑いてどうやって食べるんだ?さらに、ここにきてこの舌ったらずは反則だ。何だか言いにくそうな舌ったらず加減が、気の毒さ込みでかなりツボだ。
「だからっ、化け猫じゃないってばっ。
くっくっくっ。
それに喰ったりせんしっ。
くっくっくっ」
今まで必死に堪えていたものが弾けた。腹が……、腹が……、もう止めてくれ……。腹がよじれる……。
「ん?
本当に化け猫ではないでおじゃるかっ。
カメに誓うでおじゃるかっ」
「えっ……。
何? 亀?
ぷっぷっぷっ……。
神でしょ……。
くっくっくっ……。
だめだっ。
もぉ~だめだっ」
あ~神様、とうとうボクの腹はよじ切れました。おふくろさま、先立つ不幸をお許しください……。
「このくされ外道がっ。
化け猫人間様じゃないでおじゃるかっ。
びっくりさせおってからに
してからにしてっ」
おっ立ち直った……。しかも、からにしてからにしてって……。絶対わざとだ。畳みかけてるに違いない。もしかして、今までの全て計算済みか? と考えるも、結果、何の得があるのかさっぱり見当もつかない。
「そんなに怖いんなら、
ボクのこと助けなければ良かったじゃん」
「そうもいかんでおじゃろ~がっ。
拙者もモノノフのはしくれ。
目の前の行き倒れを前に、
見て見ぬ振りはできんでおじゃろ~がっ」
「化け猫でもにゃ~?」
「!!!っ」
「あっ」
どんだけ純粋で、単純なんだ。しかも、そんなに怖いのか……化け猫。面白さも去ることながら、だんだん気の毒になってきた。
「ごめんっ。
からかっただけだよ。
ホント、ただの人間だからっ」
「モノノフをからかうとは不届き千万っ」
相変わらず音速並みの立ち直りの早さだ。てかっ、また『もののふ』言った。やっぱりそこを意識してるんだ……。
「大きなお世話かもしれないけど……、
サムライの方が箔が付くよ……」
「げんみチュに言えばサムライでおじゃるが、
モノノフの響きが好きでおじゃるっ。
何気に貫禄も感じられるしのっ」
「くっくっ……。
別に……、別にいいけど……。
しかも、ござるじゃなくて、
おじゃるて……。
くくくっ」
なんちゃって麻呂かっ。なりきり公家かっ。おじゃるの時点でグッバイサムライだ。面白すぎて、ある意味『昇天』だ……。
笑いの波に呑まれたボクと、恐怖と怒りの波が収まったようなポムポムとの間に、『冷静さ』という妙な間が差し込んだ。ボクは自分の現状を忘れ純粋に楽しめている。いや……、強制的に楽しまされている? おふくろさま遺伝子の成せる業か、はたまた、ただ単に現実逃避してるだけなのか……。いずれにせよ楽しめている。
「道端に人間様が転がっておるのに……、
(しかも裸で……)
見て見ぬ振りはできぬでおじゃるっ……。
まったく、人間様がこんな所で
何してけチュかっとんのじゃっ
(しかも素っ裸で……)
フヒッ」
改めて、冷静に話し始めたポムポム。今、ぼそっと小声で『裸で』って……。しかも2回。
「道端に転がって?
しかも何してって?
そうだ……、何……してたんだボク?
それに、どこだ? ここ……」
ここで『今の自分』に意識を引き戻された。
「何処って……。
今頃、正気になったでおじゃるかっ。
ここは魂魄界でおじゃる。
もちっと細かく言えば、
魂魄界の第三管理棟にある
拙者の屋敷におじゃるっ。
屋敷なれど、
部屋はみっチュしかないでおじゃるっ。
今、笑ったでおじゃるか?
笑ったら腹切りさせるでおじゃるじょっ」
「わ……笑ってないよ……。
しかもなんで切腹……」
「人間様のおどれが、どうやって
この魂魄界に来たでおじゃるっ?」
「こんぱくかい?
なんだそれ……。
んっ?……
えっ?……
こんぱく???
こんぱくって……、
『魂』の魂魄?
どっ、ど~ゆうこと?
もしかして……、ボク、死んだ?
ボク、今……幽霊ってこと?」
「んな訳なかろ~が~~~。
落ちチュかんかっ。
このくされ外道がっ」
「おどれとか、くされ外道とか……。
口悪いなぁ~。
しかもそれ日本語?
いろんな時代と地域の方言が
でたらめに交ざってるみたいだけど……」
「日本語ではおじゃらんっ。
魂で話しているでおじゃるっ。
どこのどちら様であろうが、
人間様であろうがなかろ~がっ
無条件にチュうじるでおじゃるっ……。
って、くされ外道ってなんか?」
「いやっ、自分で言ってたしっ」
相手が化け猫じゃないと分かると、自信満々、威風堂々に豹変する。今気付いたが、得意げに話す時は髷がちょいちょい揺れてる。うわぁ気付かなきゃ良かった。次からは気になってしょうがなくなる。また余計なツボが増えた。それにしても……、魂で会話してるって、
今いちピンッとこない。口が普通に会話してるだけに……。
「魂で……、か……」
「実際は、今もお互いに自分の世界の言葉で
話しているでおじゃる」
「やっぱそうなんだ……」
なんとも都合の良い話だ。それにしても、このポムポム、基本、口調は明らかに高圧的で上から目線。ところにより卑屈目線。所々にかわいい舌ッ足らずが憎めない。ボクらは一体どういう位置関係にいるんだ? 独学によるオリジナルだろうか? このでたらめな日本語は。ん? 待てよ……。お互いに自分の世界の言葉で話してるということは、この変な日本語はボクがそう置き換えているのか?
ボクがそうしてるとすると、やはりボクの現実逃避なのだろうか?……。おっと、また自分会議に没頭するとこだった。と言うより、何だか面倒くさくなってきた。
「にしても……、どうして……。
確か……、エリとのデートの帰り、
送る途中でいきなり光に包まれて、
気づいたらエリが倒れてて……。
エリを抱きあげようとして、
それから……、どうしたんだっけ?」
「おどれは管理棟にチュうじる道端に、
転がっておったでおじゃるっ。
(フルチン素っ裸でのっ……)
フヒッ」
「ふ……フルチ……ン?
裸?」
寒くもないのに急に寒気を感じてシーツをめくると、生まれたままの姿の見慣れた肢体が目に入った。
「うわっ」
「それだけではないっ。
心して聞くが良い。
おもいっきり、
仰向けで大の字だったでおじゃるっ。
フヒッ」
「なっ……」
なんだかどっと疲れた……。しかも、先ほどと立場が逆転してる気がする。
「しょうがないから、
仰向けのまま引きずって、
通りすがりの者どもの手チュだいを
片っ端から断りまくって、
ゆっくりゆっくり時間を掛けて、
拙者の屋敷まで運んだでおじゃるよっ。
感謝するでおじゃるっ……。
ふひっ」
「ひきずってって……。
しかも、わざとでしょ、時間かけたの」
そう言われてみると、後頭部と右の肩甲骨辺りが何気に痛いような……いやっ『ような』ではない、確実に痛い。
「もしかして足持った?」
「頭持って引きずるバカがおるかっ」
「いやいやいやいやっ。
普通、後ろからわきの下をこう……。
……ってか、
……もういいや。
何はともあれ、ありがとう」
もし、うつ伏せに倒れてたら……。想像するのも恐ろしい……。
「ん?
急に素直になったでおじゃるな」
いろんな意味でもっと疲れそうだったから一息できそうな言葉を選んだに過ぎない。魂魄界に、管理棟……、道端にボク? も~、何が何だか……。
「ボクがここにいる理由は
ポムポムにもわからないんだぁ……」
「うむっ。
だからっ、ポムポムってナンかっ」
「いや……、だからキミさっ。
ポムポムじゃなければなんなのさ?」
「勝手に変な名をチュけるでないっ。
拙者達は愉快で温厚なノア族。
拙者はパンダミオというでおじゃるっ」
「なんだ、やっぱパンダなんじゃんっ」
「うをいっ!
変なとこで勝手に切るでないっ、こわっぱ。
パンダミオでおじゃるっ。
パッンッダッミッオッ!」
「ノア族か……。
今更だけど、
ちょっとまぬけな質問していい?」
「おいっこわっぱ、
人の話し聞いておるか?
それとも無視かっ。
パンダミオじょっ。
そこをスルーするでないっ」
「わかってるよパンダミオ」
「今度は呼び捨てかっ、
このこわっぱがっ。
拙者はおどれより
遥かに遥か~~~に、
長生きしておじゃるぞっ」
一瞬、ハッとした。見た目と第一印象だけで瞬時に下に見ていたことに気付いた。その薄っぺらで浅はかな判断能力に、反省すると同時に、恥ずかしさが込み上げてきたが、今いち受け入れられない自分も居た。
「じゃ~、気をつけます」
「『じゃ~』は余計でおじゃろ~がっ」
「すいませんっ。
……でも、
こわっぱ、こわっぱって……。
ボクにもちゃんと名前があるんですけどっ」
「そ……そうかっ。
これはあいすまんっ。
して、名をなんと申す?」
高圧的な口調、ところにより曖昧な丁寧語。天気予報かっ。しかも、意外と素直な性格のようだ。
「ボクは……。
ボクは……。
あれ……?
名前……?」
「ん?
どうしたでおじゃる?」
「名前が……、
思い出せない……」
「頭でも打ったでおじゃるか?」
「わからない……。
なんで……」
「きっと一時的なものでおじゃろう」
「なま……え……。
思い……出せない……」
「まぁまぁ、
焦ることはないでおじゃるよ……」
「…………」
自分の名前を思い出せないのが、こんなにも不安だとは思ってもみなかった。
「うぉ~いっ。
大丈夫でおじゃるかぁ~。
大丈夫でおじゃるのかぁ~。
瞳孔が開いておじゃるぞ~」
「…………」
聞こえてはいるが、聞こえてるだけだった。
「む~。
そんなに気になるのでおじゃれば、
名を進ぜよう……。
ん~。
あ~~~。
ん~~~。
よしっ、では。
金色たまごろう殿と名付けよう。
略してっ」
「却下っ。
しかも略された呼び名は、
大体想像付くっ」
「冗談じょ……。
ふひっ。
そんなに喰い気味に言わんでも……。
そうゆう記憶はあるんでおじゃるな~。
それだけの元気があれば良いでおじゃる。
そうよのぉ……、
人間様ゆえ……。
拙者の好きなカムイ殿とかどうじょ?」
「カムイ……確かアイヌ語で、
神的なものじゃなかったっけ……。
何かおこがましく感じちゃうな~」
「そうでおじゃるか?
意味はともかくとして、
響きがよいでおじゃろう?」
「いや……、全然嫌じゃないんだけど、
ただ、名前負け感がハンパないというか」
「ここでは意味より、
響き重視で良いではおじゃらんか」
「はぁ……。
じゃあ……、それで……」
「よしっ。
決まりじょ」
改めて名前を思い出そうとしたが、頭の中には、手がかりらしきものが、全く見当たらない。気晴らしに他の記憶を辿ろうとした次の瞬間。ぎょっとした。顔が無い。記憶の中に居るおふくろさまやエリは勿論、知り合いの顔が無い……正確には、思い出せないというだけだろうが、記憶の中の彼らはのっぺらぼうそのものだった。
「だめだ……。
思い出せない……」
「カムイ殿、
あまり考えると体に毒でおじゃるよ。
いずれ、必ず思い出すでおじゃる。
今は考えるのを止めて、
ゆったりと構えるでおじゃるよ」
一瞬、パニックになりかけたが、パンダミオさんが気を散らしてくれた。ボクは、それを維持出来る様、努力することにした。
「ね~パンダ……ミオさん」
「微妙に切るのは止めるでおじゃるっ。
カムイ殿、今のわざとでおじゃろ~がっ。
ってか立ち直りが早いでおじゃるなぁ~」
「あっ……。
わかりました?
ふふっ……
すいません。
立ち直りじゃなくて現実逃避です。
得意なんで……。
ちょっと聞いてもいいですか?」
「おどれも何気に素直でおじゃるな~
質問は構わんが、拙者も立場上、
言えることと言えぬことがあるゆえ、
全部を語ることは出来ぬが、
一応言ってみるがよいっ」
「簡単に言うと……、
ここは、魂魄界ってとこで、
アナタはパンダミオという名の
ノア族という種族。
ボクがこの世界に迷い込んでしまったのか
若しくは放り込まれたのか……、
はたまた、引きずり込まれたのか。
いずれにしても、
ボクの存在はここでは異質……。
そういうことですよね」
「ほんとに簡単でおじゃるなっ。
フヒッ」
「まぁ、実感全く湧かないですけど……。
それより、
その笑い方面白いですね……。
ってか……、
笑ったんですよね?」
「やはり面白いでおじゃるか?
たまにチュっこまれるでおじゃるよっ」
「独特ですもんね……」
「それ褒め言葉ではおじゃらんなっ」
「まぁ。
でも、馬鹿にはしてないですよ」
「そうでおじゃるかっ?
それより今のとこカムイ殿の見解は
おこちゃま満点におじゃるっ」
「おこちゃま満点……?」
「感じたまま聞いたままを、
復唱しただけと言うか、
経験や知識から答えを導き出さずに、
まんま答えただけ。
という意味でおじゃるっ。
フヒッ」
「容赦ないなぁ……。
しょうがないですよぉ~。
こんな現実離れした状況なんですから……。
理解できるまで時間がかかるんですっ」
「しょうがないでおじゃるが……。
もちっと何かあっても……。
フヒッ」
「さっきからその笑い方、
癇に障るなぁ~。
『フヒッ』ってそれ……」
「しょうがなかろ~。
癖でおじゃるゆえ。」
「絶対、
馬鹿にしてるときの笑い方だっ」
「そっそっそっ
そんなことはおじゃらんっ」
「わっ……、
分かりやすいな……」
気持ちが少しだけ落ち着いてきた中、部屋を見渡すと、見慣れないものが多々あるせいか自分の存在にかなりの違和感を覚えた。広さもかなりある……。学校の教室位の大きさがある……。
「おどれには、
目新しいものばかりでおじゃろう?」
「うん。
なんだかわくわくする」
「うん?……」
「運?」
「うんじゃと?
おどれは目上に返事する時、
『うん』と言うでおじゃるのか?」
「あっ、そっち。
『はいっ』か……」
「よろしいでおじゃる。
それにしてもわくわくとは、
冷静でおじゃるなぁ~。
相当の大物かパーチクリンかの
どちらかでおじゃるなぁ~。
フヒッ」
「ぱーちくりんて……。
しかもまたフヒッて……」
ぱーの後にちくりんが付いてるせいでマイルド仕様になってはいるが、誹謗中傷の類に違いはない。
「それより、
何か口にするでおじゃるかっ?」
「え?
この世界にもボクが口に出来るものが
あるんですか?」
「ふチュうにあるでおじゃるよっ」
「じゃ~飲み物が欲しいです……」
「飲み物でおじゃるか……。
ではまチュでおじゃるっ」
「うんっ……」
「うん?」
「あっ……、はいっ」
「よろしいでおじゃるっ」
うわぁ~めんどくさっ
「聞こえたでおじゃるよっ」
「えっ」
思わず口に出したのか……気をつけよう。それにしても、言葉遣いには厳しい。自分の事は遥か超高層ビルの上だが。程なくして、パンさんが水らしきものを持ってきてくれた。何かの角のようなものに入れて……以前、テレビの特番で、男性がこんなのを大切な部分に被せてる部族のドキュメンタリーを観た記憶が過ぎった。
「あ……。
ありがとぉパンさん」
「ウムッ」
おっ『パンさん』の呼び名はОKのようだ。
「ん?
飲まんのでおじゃるか?」
「あっ……、
ありがとうございます。
いただきます」
「ご遠慮なされよっ」
「はいっ……。
……えっ?」
どっちじゃっ。
「ご遠慮めさるな、ですよね、たぶん……」
「そう言ったでおじゃろ~がっ」
あれ? 聞き間違えたか? まぁいいか。
「なっ、なんで切れ気味なんですかっ」
「切れてはおじゃらんしっ」
だから『気味』って言ってるじゃん……。と言うのは止めた。
「じゃ~、いただきます」
「うむっ」
幸いにして想像してたような臭いはない。手渡された容器の記憶をかき消して見る限りごく普通の水に口をつけた。とは言え、本当に飲めるかどうか怪しかった為、ほんの少しだけ口に含んだ。
「水……ですか?
これ……」
「そうでおじゃるよ。
ここにも水くらいはあるでおじゃる。
ここの水は飲める故、
そのような心配いらぬでおじゃるよ」
『そのような』という言葉が若干気になったが、先程の一口の水の続きを体が異様に欲していたため、そこを聞く余裕は無かった。
「ありがとうございます」
「うむ」
「んぐっんぐっんぐっんぐっ……。
ぷはぁ~美味っしい~」
「そうでおじゃるかっ。
良かったでおじゃる」
その水は、今までのどんな水よりも比べようもなく美味しかった。この状況がそう思わせているのか、それとも、この世界の水は特別なのか……。細胞一つ一つに行き渡り、浸透しているのが体感として伝わってきた。
「パンさんありがとうございます。
凄く美味しかったです」
「うむっ。
水は拙者達も
たま~には飲むでおじゃるからのっ。
まぁ~美味しかったなら
良かったでおじゃるっ」
「えっ?
たまにしか飲まないの?」
「カムイ殿、気を抜くと、ところどころ
言葉遣いが友達になるでおじゃるなっ」
「あっ……すいません」
「言葉遣いはたいせチュゆえ、
気をチュけるでおじゃるよ。
たまにしか飲まないのが
そんなに不思議でおじゃるか?」
「体中潤ってるから、
てっきり毎日の必需品かと……」
「ノア族は保水できるでおじゃるゆえ」
「保水?
だからそんなに潤ってるんですね。
便利だなぁ」
「便利?
便利と言うより体質ゆえ、
深く考えたことはないでおじゃるよ」
聞きたいことがありすぎるが頭の整理が追いつかない為、今はスルーすることにした。
「これから……どうしよう……」
「人間様がこちらの世界に来るなど、
拙者の記憶では2回目でおじゃる……」
「2回目?
じゃあ、1回目の人は?」
「無事、帰ったでおじゃるよっ」
「そっかぁ。
どんな人だったんですか?」
「それは言えぬのでおじゃる……」
「えっ?
なんで……」
「いろいろあっての……」
「そうなんですか……」
「それはそうと、カムイ殿。
こちらに来る前に何か変わったことは
無かったでおじゃるか?」
「変わった事……
あっそう言えば、ポムポムを見ました」
「またポムポムでおじゃるか」
「いやっ、パンさんのことじゃなくて。
人間界で見たんです。
パンさん達ノア族をぎゅ~っと小さくして
もっとつるぷりんにしたような
シンプルな生き物というか……」
「あぁ~、それを見たでおじゃるか。
確かにそれはノア族でおじゃるよ。
チュるぷりんとは……
なんともかわいい響きでおじゃるなぁ」
「うん……。
あっ……、はいっ。
やっぱりノア族なんですね……」
「どこで見たでおじゃる?」
「どこというより、ある日、急に
人の頭の上に数字が見えるようになって、
その数字が消えるときに
その人の胸の辺りから出てきたんです。
んでっ、その出てき方が
ポムって感じだったんでポムポム」
「ポムポムの由来はそれだけでおじゃるか。
なんとも……。
フヒッ」
「またっ……」
「すまん、すまんっ……。
フヒッ」
「もうっ……」
「すまん、すまん。
そうでおじゃったか。
カムイ殿はかいりチュの刻印も
見たでおじゃるか……」
「かいりちゅ?……。
かいりつ?
戒律の……刻印?」
「そうでおじゃる……。
かいりチュの刻印でおじゃる……」
「戒律の刻印って何ですか?」
「話せば長いでおじゃるが、簡単に言うと
『運』のバロメーターにおじゃる。
己の根底にあるかいりチュに従い
数値として表示されるでおじゃる。
『幸運』の刻印アテナと
『不運』の刻印パラスが……、
そ……その顔……。
既に全く分かっておじゃらんなっ」
「うん……全く」
「うん?……」
「えっ?
運?
運が……何です?」
「そうではおじゃらんっ。
返事は『うん』では
おじゃらんやろがぁ~」
「あ~、だった……。
ごめんなさい。
はいっ……ですね……」
「全く、最近の人間様のこわっぱは、
言葉のチュかいかたを
知らんのでおじゃるかっ」
「すいません……」
とは口で言いつつも、内心そっちの言葉遣いの方がよほど変だと思った。
「変かどうかではおじゃらんっ。
言葉は『言霊』と言って、
力をもちゅでおじゃる。
ちゅかう時は気をチュけよと
申しておるでおじゃるよ。
言霊は自分にも相手にも
影響を及ぼすでおじゃるゆえ、
軽んずるではないでおじゃるぞっ。
まぁ以後、気をチュけるでおじゃるよっ」
変かどうか……?
また口走ったのか……。
「言霊か……、分かりました。
気をつけます」
「うむっ。
自分の為じょ。
気をチュけるでおじゃるよ」
「はいっ」
「それはそうと、拙者達ノア族は、
成長の過程で人間界を覗き見たり、
経験する機会が与えられるでおじゃる。
カムイ殿が見たのがその『経験する機会』
そのものでおじゃるよ。
人間様と違って拙者達は、
『人間界が在ること』を知っておるゆえ、
そういうことが可能なのでおじゃるが
魂魄界の存在を知らぬ人間様が
こちらに来るなどと言うことは
あるはず無いのでおじゃる。
それが、遥か昔に一度だけ、
人間様が迷い込んだ事があったでおじゃる。
そして今回で二度目。流石に二度もあると
『ひチュぜんせい』を感じるでおじゃる。
その人間様の存在を感じて、
探しに出ようとした矢先に、
たまたま、拙者の庭に
カムイ殿が転がっておったでおじゃるよ」
「そう……なんだ……」
「何にせよこちらの環境も
人間様の環境とほぼ同じゆえ、
カムイ殿の体調が悪くなることはなかろ~」
「そう……ですか……」
ボクが居た世界と同じ環境……。そのことがわずかにホームシックを呼び起こした。
「まずはカムイ殿の帰る方法を
聞いてこねばならぬでおじゃるな~」
「方法を聞く?……」
「そうでおじゃる。
今から拙者がマモ~ルンに聞いてくるゆえ、
暫くゆるりとしておじゃれ」
「マモ~ルン?」
「んっ。
木霊神と言っての、
樹の精霊神でおじゃるよ。
大抵のことは、
拙者より詳しいでおじゃるゆえ」
「樹の精霊神?」
「そうでおじゃる」
「精霊とかいるんですか……」
「ふチュうにいるでおじゃるよっ」
「ボクも逢ってみたいな……」
「それは難しいでおじゃるなぁ。
訳は言えぬがのっ」
「そうですか……」
「大人しくここで待っているでおじゃるよっ」
「わかりました……」
少しだけほっとしたら、急にエリのシルエットが浮かんだ。あの瞬間、エリは倒れていた……。どうしてるだろうか……。無事だといいんだけど……。そう考えた瞬間、ふと、おふくろさまのことも頭をよぎった……。心配してるよなきっと。一刻も早く帰らないと……。それにしても、名前や顔を思い出せないというのは、精神的にかなりくる。これも気にしないようにしないといけない。そう思うと、相当の精神力を要する気がして、気が重くなった。
「では、行って来るでおじゃる。
ゆっくりしておじゃれっ」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします」
「良く、周りを見てみるでおじゃるよっ。
少しは気が晴れるやもしれぬゆえ」
「そうしてみます……」
何気に言葉遣いに気を遣う。おふくろさまも、言葉遣いには厳しかったこともあり、今まで、他人に注意されたことも無かったし、さほど意識したことも無かったが、意外とちゃんと出来ていないことに気付かされた。早く使い慣れないと、ストレス貯金が貯まる一方だ。
「うむっ」
満足げにそう言うと、パンさんはボクを残して一人部屋を出た。よくよく考えるとパンさんはお人好しだ。もし、ボクが泥棒だったらとか、そういう可能性を考えなかったんだろうか。ま~ボクにはありがたいことだが……。
今はパンさんが頼みの綱だ。大人しく待つことにしよう。と考えたが、パンさんの助言でいろんなとこが目に付いて気になってしょうがない。屋敷内を徘徊するのはさすがに気が引ける為、この部屋を観察することにした。知らないことを知りたくなる『好奇心』と言いたいところだが実際はこの状況にじっとしてられないだけだった。それを見透かしてのパンさんからの助言だったようだ。
「お言葉に甘えて……」
かぶせてもらってたシーツを、想像のなかの古代ギリシャ人風に見よう見まねで巻いてみると、それなりに隠せるところは隠せつつ、動きやすさも確保できた。ただ、古代ギリシャ人風と言うよりは、石器時代の原始人と言った感じだ。まぁ自分的には全然ОKな仕上がりとなった。改めて部屋全体をゆっくりと見渡すと、手作りっぽい装飾品が所狭しと飾ってある。なんとも完成度の高い美品ばかりだ。木彫り、石造り、ガラス細工……。いずれも素材がはっきりしないため『っぽい』としか表現できない。そんな芸術品の数々が法則性もなく整然としかし躍動感溢れる感じで飾ってある。しかも、ひとつとして同じものは勿論、似たものも無い。面白いのは引き立て役がいないと言うより、互いに引き立て合ってるのにそのどれもがでしゃばってないとこだ。造り物なのに、息吹を感じた。そんな楽しい感覚に暫く見惚れていたが、風が窓を撫でる音でふと我に返った。ふと外に目を向けると窓の外には、人間界にもありそうな風景が広がっていた。その光景の懐かしさに、外に出たくなった。人間界でなら、知らない土地には決して独りでは踏み入らないし、出歩かない。引きこもってなんぼだ。今は、好奇心だろうか……。それともこの現実離れしてるのかしてないのかの微妙な空気感のせいだろうか……出歩きたくてしょうがなかった。
パンさんの自信作に名残惜しく、後ろ髪をひかれつつも木製の立派な装飾があしらわれた扉をゆっくりと押し開くと、目の前に大きなエントランス状の広いのにかなり落ち着く空間が広がった。機械的な冷たさは無く、温かみに満ちている。木で出来ているから、という理由だけではない気がした。その先に、恐らく玄関のような扉がある。エントランスの中央に差し掛かったとき振り返ると今出てきた扉を挟むように、外国の映画に出てきそうな左右から弧を描くように伸びる2階への階段が目に飛び込んできた。なんとも存在感抜群でバッファローを彷彿とする造りだ。和の技巧で洋風に造られた意図を感じる。その上、天井は吹き抜けになっており、かなり高い。お陰で明かりがなくても心地よく柔らかい光が降り注いでいる。ここにずっといたい気分にもなったがやはり外の世界の興味には勝てなかった。
玄関らしき扉までたどり着きゆっくりと押し開いた。その扉は重厚な音を響かせながらも、軽快に開いた。その瞬間、外の空気が薄っすらと流れ込んできた。明らかに五感とは違う感覚が何かを感じ取った気がした。これにさらに好奇心を掻き立てられ一呼吸置いて屋敷から出ると、あまりにも広大な世界に思わず圧倒された。
「…………」
声も出なかった。息を呑むとはよく言ったものだ。景色自体は、恐らく人間界を探せばどこかしらにありそうな広大な自然といった感じだ。ただ、空だけは明らかに違った。そのとてつもない高さの空に目を奪われた。異常なまでの奥行きと立体感を兼ね備えた空。勿論、人工ではなく自然だ。人間界の空も高いは高いが常識内で、高さの限界をなんとなく知っているため無意識に高さに際限をつけている為か、こちらの空との違いをまざまざと見せ付けられてる気がした。
「うわぁ~~~」
見上げると
青…蒼……藍……
それが幾層にも重なっている。どこまでも透明感と深みを帯びた微妙に色合いの異なる瑠璃色が幾重にも折り重なって広がる蒼の世界。綺麗な蒼のグラデーションが深く高く広く、ボクの頭上に無尽蔵に聳え立っている。まるで空の超高層ビルだ。
……何とも残念な表現力だ。
空を見上げると、立ちくらみしてしまうほど
とてつもなく広い空間だと認識させられた。
「…………!」
その時、ふと気付いた。太陽らしきものがないのにも拘わらず明るい。辺りを見渡したがやはり光源らしきものすらどこにも見当たらない。
「何で明るいんだ……」
自分でも笑えるくらいキョロキョロと周りを見回したが酔っただけだった。ブラックアウトした視神経が回復するのを待っていると生活音は勿論、雑音が全くないことにも気付いた。静寂ではない。音はする。ただし、人工的な音ではない。全て『自然』の音だ。そのまま目を瞑っていると『全てに意味があることすら無意味に思える』そんな感覚に包まれるような温かい気持ちになった……。目を開けると、異世界に居ながら違和感の無い感覚に、安堵と好奇心が入り乱れた。
ふと我に返り、玄関前の10段程ある階段を途中まで下りたとき悪寒が走った。
『まさか、ここもひきずられたのか』
そんな悪夢のような想像をかき消した瞬間、急に一面が紫色に翳った。
「ん?」
ちょっとした威圧感と圧倒的な気配に頭上を見上げると、想像の域を脱しきれない不可思議な光景が広がっていた。
「うわぁ……金……魚?」
どう見ても金魚だ。
ただ、人間界のそれと違うところといえば、宙を泳いでいるということと、鯨並みの大きさ、そしてここ魂魄界らしく、体が透けていてあまりにも美しい事くらいで、ボクの知識と想像力を総動員しても『金魚』という結論にしか至らない。大きかろうが、宙に浮いていようが、さして気にならないくらい脳が麻痺している。慣れなのか現実逃避なのかすら気にならない。現実味のあるこの非現実的な世界に、未だ馴染めていないからだろう。そんな心理状態で見る金魚は、背びれ、胸びれ、尾ひれそれぞれがあまりに長くまるで柔らかいローブを軽く纏った美しい貴婦人といった感じだ。それがまさに、音もなく、大気の淀みもなく、頭上を通り過ぎる瞬間だった。これだけの存在感と風体にも拘わらず違和感のある音がしない。優雅に威風堂々と泳ぐように通過している。体長はゆうに10m以上あろうか、ただ、尾ひれはその倍以上はある。身体全体が綺麗な流曲線で模られ柔らかそうにうねっている。体の色は赤紫や青紫を帯びた水晶のように、深い透明感が迸っている。この両立し得なさそうなものが自然とそこにあると理解するのに少々右脳だけでは荷が重かったので左脳と二人して頑張った。結果、頑張ったからといって、必ずしも良い結果に結びつくとは限らないということを学んだ。それぞれのヒレは体から尾先に向け、紫から真紅へと色変わりしている。肢体はなんともしなやかに流れるようにゆっくりと躍動していて、圧倒的な神々しさを放っていた。今までの心地よい蒼の世界が、一瞬で蒼い紫へ染まった後、ゆっくりと深い紫から赤い紫へと変化していった。
「すっげ~~~……ん?」
流れ動くその光り輝く魚影に見とれていると微妙に体型が変化することに気付いた。目を凝らすと、その金魚は一匹ではないことが分かった。貫禄ある金魚を筆頭に無数の金魚達が群を成して一匹の大きな金魚の魚影を模っている。大きさも体の色もまばらで、およそ統率はとれていない感じだが、本能なのか、実は統率力があるのか、ちゃんと一匹の立体的な金魚に見える。偶然にしては出来過ぎているその魚影を形作っているのも金魚そのもののようだ。その金魚達もそれぞれが個性的な色と模様を纏っており、その群れは宙を舞いながら、すらすらと頭上を泳ぐかのように流れている。およそ1000体位だろうか……。揺れ動く肢体に絶え間なく光の乱舞が巻き起こり、さらに、上に下にと複数に重なる事で無限を思わせるほどの乱反射が起きている。辺りの景色が規則性を帯びない万華鏡のように華やぎボクはトキメクという感覚に胸の奥が躍った。改めて気付くと、頭上10m程の上空が群れた一匹で覆い尽くされていた。あまりにも壮大過ぎて感動という意識を鷲掴みにされたまま花魁道中を思わせるその集合体に釘付けになった。
その神々しい群れからゆっくりと右に左に揺れながら何気にこちらに向かって滑り泳いで来る小さな金魚がいる。頼りなくも一生懸命なその子金魚は、ゆらゆらふらふらとボクの目の前まで来ると首を傾げるかのように身体ごと傾げている。右にころころ、左にころころ……。自分の身体の倍近くある尾ひれは
垂れる事なくゆったりと靡いている。絶え間なく煌めくその金魚はあまりにも美しく微笑ましかった。
「ん?……
どしたの?」
「…………」
ほんの少しだけ期待したが、返事はやはり還ってこなかった。10秒程くりくりとかしげていたが、急に納得したのかニコッと微笑んでボクのおでこに軽くキスをして長い胸びれで頭を撫でてくれた。少しのむずがゆさがおでこと心に宿ってゆっくりと広がった。
「なんだか……、
ありがとっ」
訳がわからなかったが、無性にお礼を言いたくなった。ボクが礼を言うとまた、くりっと傾げてニコッと笑った後、群れへと翻していった。
「あれ……、子供だよな……。
なんか今……、
よしよしってされなかったっけ……」
ボクが迷子にでも見えたんだろうか……。まぁ、今現在、立派な迷子だが……。その子金魚は、何の違和感も不具合も無くふよふよと群れに合流した。よくよく見ると、その群れの半分以上は恐らく、今しがたの子金魚くらいの大きさだ。法則性も無く思い思いの位置で一生懸命に、それでいて、優雅に泳いでいる。何とも微笑ましい光景だ。そのまま、空飛ぶ金魚の群れの金魚は回りに目もくれずにまっしぐらに、しかしゆったりと奥の森の方へと流れていった。
「空飛ぶ金魚……
何でもありだな……」
独り言にも慣れてきて、箔さえ付いてきた。と言うよりは、誰にも聞かれてないという根拠の無い確信と安心から生まれた油断と現実逃避の成せる技だ。色々考えながらも、その金魚達の金魚が森の奥深くに消えるまで目が離せなかった。見えなくなるまで見送ったあと、ふと頭上に微かな気配を感じて遥か上空に目を凝らすと何かが戯れるように舞っているのが見えた。
「……何だあれ……」
先ほどの金魚達とは比べ物にならないくらい
遥か上空にその群れは見てとれた。鳥のようにも、人のようにも見える。羽というより翼らしきものがあるのがなんとなくわかる。しなやかに優雅に戯れるかのように大空を舞っている。
「もしかして……天使?」
……、想像力無さ過ぎ……。無意識に出た言葉に自分でも苦笑した……。あんな遥か上空にいるものが視認できるのも精錬された空気のせいだろうか……。そんなことを考えながら神々しささえ感じるその生き物に見惚れていた。そのまま、ずっと眺めていたくなる光景だったが、流石にクラクラしてきて観覧を断念した。
それにしても、あまりにも広大な空間と心地よい澄んだ空気に、なんとも清清しい気持ちになれる。無条件に何かの愛に包まれてるかのような安心感とそれに反するかのような開放感が共存する何とも居心地のよい世界だ。
「これが……魂魄界……」
今まで味わったことのない感覚だ。神の懐に抱かれるってこんな感じなのだろうか……。安心感と幸福感、この場にいること自体に感謝したくなるそんな感じだ。物欲や色欲の類が必要ないと思えるような充足感に満たされた。足元に目を向けると、一見普通に茶褐色の地面だったが、しゃがんで良く見てみると、透明感のせいかガラスの絨毯みたいだ。踏みしめると霜柱を踏んだ時のような固柔らかい音がした。そのまま視線を正面の先に向けると透き通るような緑が一面に広がっている。こちらもガラスの様な輝きを放っているのに優しい風にしなやかに靡いている。その草むらに、人間界で言う手入れをされた芝のような人工的な精巧さはなく思い思いのまま、気ままに意思を持って群れているといった感じだ。何とも心地よくも不思議な光景だ。立ち上がると自然と足が散策を始めた。今まで立っていた茶褐色の地面から数歩、緑の草原に一歩踏み出した次の瞬間
「うわっ……。この草……、
避ける……」
ボクが踏みしめる場所を想定してかちょうど足の大きさより一回りか二回り大きくスペースを作ってくれる。というか、草が逃げてるのか?この人間界ではあり得ない現象にも、なんとなく免疫が出来てきたようで、驚きはするが驚愕する程ではなかった。
「そっか……。
生きてるんだもんね……。
逃げたんだとしたら、ごめんよ……」
そのままゆっくり大きく後ろに一歩下がって草原達から出た。すると、その子らは何事も無かったかのように、また元の場所に還って草原へと戻った。
「ボクらの世界の草花も、
本当はキミらみたいに
避けたいんだろうな……。
避けてくれて、ありがとうね」
なんだか、微笑ましい動きに切なさがこみ上げてきた。命があるのは人間だけじゃないと改めて痛感した。そんな中、風を感じて奥に視線を投げると森らしきものが見えた。かなりの距離があるであろうその森には、距離を感じさせない圧倒的な存在感があった。
「相当、大きいな、あれ……」
さっきから、似たようなことばかり感じてる気がする。行っては見たいが、今あそこに行くのは止めておこう。直感的にそう感じた。と、その刹那、一瞬にしてボクを含めた全ての時間が止まった。
静寂が音をかき消したかのように
高周波の鈴の音のような空震が走った。
それと同時に、
後ろの方から優しい視線と気配を感じた。
その気を許せる程の親近感と
懐かしさすら感じる気配に
ゆっくりと振り返ると、
そこにはパンさんではない
別のポムポムが立っていた。
その姿を認識した瞬間、
静寂に波紋が生まれ
ゆっくりと広がった。
パンさんよりも
明らかに若い雰囲気を纏っている。
やはり猫っぽいが、
サムライかぶれはしていない。
聡明そうな切れ長の目に
深い黄金色の瞳、
蒼紫の透明感のある全身に
落ち着いたワインレッドの
スカーフを首に巻き
洒落た真っ白いベストを羽織っている。
腰にはベルトが巻かれていて
左右に1個ずつのポーチが付いている。
容姿端麗を絵に描いたようなその青年は
ボクに優しく微笑みかけてきた。
「キミは……人間様だよね?」
想像通りの聡明な声に落ち着いた口調。一瞬にして全神経を奪われた。青年は青年だが、中性的な雰囲気を漂わせている。そういう意味でも、一目惚れにも似た好感が芽生えた。
「……うん……」
全身が脱力してるような感覚に、返事をするのが精一杯だった。それにしても、やっぱり『様』なんだ……と、いつもの癖で、思考が逃避した。何とも単純で、逃げ足の速い思考回路だ。自分でも失笑する。
「驚かせてしまったかな」
「いや……、そこまでは……」
「なら良かった……。
ボクはアルフ」
と彼のほうから興味深げに、しかし、落ち着いた口調で話しかけてきた。
「アルフ……。
いい響きだね」
「ありがとう」
「ボクは名前を覚えて無くて……。
パンさんが取りあえず
カムイってつけてくれたんだ……」
「パンさん?」
「あっ、パンダミオさんって人……。
いやっ人と言うか……」
『人』じゃないから何て言えばいいのか……。ノア族だから『ノア』だろうか……。
「あぁ~」
「知ってるの?」
「勿論。
この階層で、
彼を知らない者はいないよ」
「へぇ~。
そんなに有名なんだ、パンさん」
「有名と言うよりは常識かな」
「常識?」
「あぁ」
「なんだか良くわかんないけど
凄い人なんだ、パンさんて……」
「この階層の統治管理者だからね」
「階層?
統治管理?」
実は、何だか難しいところなのだろうか……。ここは。しかも、この青年の言葉で先程までのパンさんに対する猜疑心がまた小さくなった。パンさんの言葉よりこの青年の言葉を受け止めたということは、やはりボクは自分と言う小さな物差しでしか物事を判断できていないようだ。再認識させられたせいか、軽い自己嫌悪に包まれた。
「カムイか……。
なるほど……」
「なるほど……?」
「ボクらからしたら、
人間様はそんな感じかなと思って……」
「人間が?」
「あぁ」
「そうなんだ……。
キミはノア族……、だよね……」
「あぁ。
良く知っているね……」
そう言ってその青年は静かに微笑んだ。
「さっきパンさん……、
パンダミオさんに聞いて……」
「なるほど……」
心地の良い親近感と安心感が、改めてボクを温かく包んだ。まるで引き寄せられるかのように偶然を装われた必然であろう出会いを果たした気がした。
「で、何をしてるんだい?
こんなとこで……」
「ボクにも良くわからなくて……。
パンさん……、
いやっパンダミオさんが
ボクを見つけて、
屋敷に連れて来てくれたらしくて……」
「ふっ。
そうなんだ……」
と、その青年は軽く微笑んだ。
「?」
「パンダミオさんの呼び名、
ボクにはパンさんでいいよっ。
ふっ」
ボクの訂正が可笑しかったようだ。
「わかった。
そうさせてもらうよ」
この青年の落ち着き払ったオーラが容赦ない安堵をボクに抱かせた。
「それにしても、その格好……。
ボクが知ってる人間様の格好とは、
ちょっと違うような……」
「あっ……。
実は、ボクはこの世界に
裸で倒れていたらしくて、
パンさんのとこからちょっと……。
ねっ……、ははっ」
「そうなんだ……」
「やっぱり可笑しいかな?」
「そんなことはないよ。
ちょっと珍しくて」
「たぶん……、
人間界でも珍しいかも……。
この格好……」
「そうなんだ……。
ふっ」
「うん……。
ははっ」
軽くお互いに笑みがこぼれた。
「ところで何を見ていたんだい?」
「あっ……。
何というか……、
ここの全てが……、
凄いな……って」
「そうかい?」
「うん。
ボクがいる世界とは明らかに違うから。
なんていうか……、
ここだと長生きできそう……。
いろんな意味で」
「そうなんだ……。
キミの世界はどんななんだい?」
「ボクの……」
と言いかけたとこでパンさんが帰ってきた。
「おぉ~。
アルフではおじゃらんかっ。
丁度良かったでおじゃる。
どうであった、ヒャッコイは?」
「なんとか治まりました。
ボクは何もできませんでしたけど。
その報告がてらだったんですが、
途中、違和感を感じて……」
「違和感でおじゃるか?」
「えぇ。
でも、わかりました。
彼が要因のようですね……」
「えっ。
ボク?」
「あぁ。
悪い意味じゃないから、
気を悪くしないでおくれ」
「う、うん」
ボクがこの世界に紛れ込んで不調和でも起きたのだろうか。気を悪くすることはなかったが、なんだか複雑な気分になった。
「カムイ殿のことで
丁度誰かに相談しようと
思っておったところじょ。
カムイ殿、こやチュもご一緒させて
良いでおじゃるか?」
「ボクは全然いいですよ。
むしろ、心強いかな」
「では、二人とも中に入るでおじゃるよ」
そう言うと、玄関を開け先に中へと入っていった。
「はい」
「はい」
アルフと返事がかぶって目が合った瞬間、アルフがボクに先を歩くよう促し、彼はボクの半歩左後ろを歩いて付いてきた。
「えっ?……」
「どうしたんだい?」
「いや……。
パンさんの屋敷って、
こんな外観だったんだ……」
「あぁ。
パンダミオさんは拘りが凄いから、
掛けた時間も桁違いだし、
その分想いも深いしね。
ノア族は基本、
みんな、住むとこは自分でこさえるんだ。
だから個性的なものが多いよ」
「そう……なんだ……。
って、じゃあこれ……、
パンさんが?」
「あぁ」
「うへぇ~~~。
凄っげ……」
「ふっ」
出てきた時は気付かなかったが、改めて見るとパンさんの屋敷はぱっと見、木が織り成す城だ。しかも純和風の。城じゃなく屋敷っぽいところが控え目なのか好みなのか。いずれにせよ、完成度はぴか一だ。
「とことん好きなんだ……」
「あぁ。
人間界の中でも日本ってとこが
お気に入りらしいよ」
「へぇ~。
ちょっと嬉しいかも……」
「どうしてだい?」
「ボクが住んでるとこ、日本なんだ」
「そうなんだ……。
奇遇だね」
「うん……」
びっくりしたのは、機械感が全く感じられないことだ。見る限り機械的な加工がされた形跡は無い。本当の手造りといった感じだ。パンさんもこの屋敷も互いを尊重しているオーラを感じた。相思相愛という言葉がぴったりなくらいのオーラを……。その城の玄関はそれに見合った大きさと装いを成していた。お金を掛けない代わりに、かなり時間を掛けて凝ったであろう感が出ている。手造り感抜群の装飾が施された木の扉は、2枚がそれぞれ左右に開く、いわゆる観音開きという造りだ。しかも、相当な年月が経っているのが分かるくらい使い込んだというか、大切に手入れされてきた為か何とも形容しがたい重く深い輝きを放っている。さっきは気付かなかったが、しっとりつるすべな手触りだ。中に入ると、先ほどのエントランスが出迎えた。外観を認識した後だと、ちょっと違和感を感じるがれは、あくまで人間界にある城の概念をボクが捨て切れてないからに他ならない。しかし、広いのにかなり落ち着く空間になっている。目の前には、先ほど出てきた扉がある。左右の階段も良く見ると若干色合いが違う。素材の木の違いだろう、これもこだわりのひとつなのだろうか。結局、今回も2階には上がらず、目の前の扉の方へと導かれた。3部屋しかないうちのひとつ、さっきの部屋のドアを開けた……。ん? 3部屋しかないということは1階か2階どちらかがワンフロアなんだ……。こんな大きい屋敷なのに……。
「えっ?
あれ?
デジャブ……」
「誰がデブじょ?」
「いや……。
デジャブですよ……。
ってか、そこ聞き間違います?」
「間違う訳なかろ~がっ。
フヒッ」
「ふっ」
「またっ」
パンさんとほぼ同じタイミングで、アルフも笑ったが、それは鼻に付かなかった。
「人間様はチュっこまれるのが
大好きなんでおじゃろうがっ」
「え~っ。
時と場合によるよ……。
よ……、ような、よらないような……」
「ふっ」
アルフにはバレバレのようだ。ちょっと恥ずかしくなった。
「それで誤魔化したチュもりでおじゃるかっ」
「やっぱりわかります?」
結局、パンさんにもバレバレだ……。完全に赤面だ……。いろんな意味で恥ずかしさ大爆発だ。
「まったく……。
まだ時間がかかりそうでおじゃるなっ」
「すいません……」
「ふっ」
そんなやり取りをしながらも記憶を探ったが思い出せない。さっき居た部屋に似てるだけ?いや、それもない。向こうの壁がありえないくらいに遠い。天井はかすかに見える。朧げに。さっきのエントランスの天窓より高い……、と言うか、明らかにこの屋敷より高く感じた。いや、絶対に高い。一体どんな造りをしてるのか不思議でならない。どんだけ広いんだ。分かってはいたが一応確認してみることにした。
「あの……。
ここはさっきの部屋じゃないですよね?」
「違うでおじゃるよ。
ここは来賓用で、
先ほどの部屋は来客用でおじゃる」
ノリでどこが違うんじゃと豪快に突っ込みたかったが、真に受けてバカにされそうな気がした為、聞くのをやめた。部屋もやはり同じ部屋ではなかった。ということは、さっきの感覚は、やはりデジャブだったのだろうか……。そう自己完結したタイミングで
「好きなとこに座るでおじゃる」
そう言って、椅子らしき物体をパンさんが連れてきた。
「えっ?」
その物体は、ふわふわとパンさんの後をついてきた。ジェル状のシャボン玉とでも表現すればいいのか……。柔らかそうな、儚そうなそれは、意思を持っているかの様にそれぞれの前に待機した。
「!」
これ、しっぽがある。
「あの……。
この子、生き物ですか?」
「違うでおじゃるよ。
拙者がこさえたでおじゃる」
「めっさしっぽ振って
待機してるんですけど……」
「何か変でおじゃるか?」
「いやっ……。
こんなにしっぽ振られたら、
座りにくいというか……。
生き物じゃないと思い込めるまで、
時間がかかりそうです……」
「座られることに喜びを感じてるように
思われるようにこさえ……んあっ
ややこしいでおじゃるなっ」
「ボクのせいですかっ」
「ふっ」
「兎に角、生き物ではごじゃらんゆえ、
座るでおじゃるよっ」
好きなとこに……。確かにこれは好きなとこに座れる。でも、ボクの想像力はこれを子犬として脳内変換して已まない。そんなボクのささやかな悩みを他所に二人とも慣れた手つきでひょいっとそれに飛び乗った。
「座りたいと思って、
手を掛ければいいんだよ」
とアルフが教えてくれた。違うんだ、親切なアルフ君。乗り方が分からないんじゃないんだ……。いやっ。確かにさっきは分からなかったが、今はそこじゃないんだっ。
「ふっ。
分かってるよ」
「ははっ」
まただ……。
「本当に生き物ではないよ」
「わかった」
二人がそこまで言うのならと、開き直って座ることにした。意を決して……という大袈裟な心の準備を必要とすることなく、意外に簡単に飛び乗れ座れた。
あくまで、行為としては……
しかし、むずがゆさとちょっとした罪悪感にも似た感情がこの今も振られているしっぽに揺さぶられる。
「そのうち、慣れるよ」
「カムイ殿は優しいでおじゃるなぁ~」
「そんなことは……」
「それはそうと、
どちらに行かれてたんですか
パンダミオさん?」
とアルフが切り出した。
「お~。
大神樹/オイシゲ~ルの
木霊神/マモ~ルンに
逢ってきたでおじゃるよ」
「拒まずの森/ジュカイ~ンの」
思い切り解説してくれている……。なんとも親切だ。
「そうでおじゃる」
「拒まずの森?」
「そう。
さっきキミが一生懸命見てたあの森」
「あ~、あのでっかい森……。
ってか一生懸命に見えたんだ……ははっ」
「カムイ殿が今後どすれば良いのか、
聞いてきたでおじゃるよ」
「で、わかったんですか?」
アルフが先に口を開いた。出逢ったばかりのアルフが、親身になってくれてる感じが嬉しかった。ボクはそれを傍目に、心地よく聞き入っていた。
「カムイ殿がの、
カムイ殿の中のたいせチュな何かを
この魂魄界の何処かに
落としてしまったらしいのでおじゃる。
それをみチュけるために
ジャッジメンタリアに向かうよう
言われたでおじゃるよ」
「ジャッジメンタリアですか……」
アルフも知ってそうな口ぶりだった。パンさんとアルフの会話に、傍観者状態だったボクは、いきなり当事者へと引き戻された。
「ど……ういう……こと?」
「何なのかは拙者にも判らぬでおじゃるが、
カムイ殿にとっては
たいせチュなものであるのは
間違いないでおじゃる。
カムイ殿がこの世界に飛ばされてきた際、
そのたいせチュな何かを
この魂魄界の何処かに
落としてしまったらしいのでおじゃるよ。
それさえみチュかれば、
すぐにでも帰れるらしいのでおじゃるが、
それが何なのか何処にあるのか、
全く見当がチュかないらしいのでおじゃる。
ただ、さいけチュの街/
ジャッジメンタリアに行けば、
何かが分かるらしいのでおじゃる。
カムイ殿が自分でみチュけださねば
ならぬでおじゃるよ。
残念ながら、
拙者はこの地を離れられぬゆえ、
チュいてゆけぬのでおじゃる……」
「裁決の街/ジャッジメンタリア……」
「まぁ~みチュかるべくして
みチュかるとのことゆえ、
思いチュめずに
ゆっくりと探すと良いでおじゃるよ」
「ありがとうございます。
でも、あんまり長居すると
向こうが心配するんで、
やっぱり急ぎます」
「そうでおじゃるな。
なら、善は急げでおじゃるっ」
「ありがとうございますパンさんっ。
きっと見つけて還ります」
「うむっ」
「ボクが付いて行ったら迷惑かい?」
暫く静観していたアルフが、いきなり同行してくれると言い出し、少々びっくりした。
「えっ?
ボクたち初対面だよ?」
「それがどうかしたかい?」
人間界でなら、こういうシチュエーションでの申し出の場合、マイナス面に身構えてしまうがアルフの表情を見る限り純粋な申し出だという風に感じ取れた。
「いや……」
「あっそうか、
ボクが信用できないってことだね?」
思いっきり直球で笑顔のまま、ボクの顔を覗きこんできた。
「いや、そういうことより、
初対面のボクにどうしてそこまで……」
「カムイ殿、アルフは大丈夫でおじゃるよ。
拙者が保障するでおじゃる」
「人間界でも、
こういうこと無いことも無いけど、
あるとしても時間や行動に
制約があるというか……。
今回は、時間も労力もかかりそうなのは
ボクでも容易に想像できるし、
それなのに同行してくれるって、
容易に喜べないというか……
悪いというか……」
「本音言っていいんだよ。
信用できないって。ふっ」
「さっきからキミと一緒にいて、
良いイメージしかないから
そう信じてるんだけど……。
用心深くでごめん。
でも、凄く心強いってのも本音なんだよね」
「ふっ。ボクたちノア族は、
自分がそう感じればそう行動するんだ。
完全に自己責任でね。
今回、ボクがそうしたいと思ったんだ。
キミが迷惑でなければの話だから、
決めるのはキミだよ。
ボクはそうしたいからそのままを伝えた。
だからキミも感じたまま
答えてくれていいんだよ。
気を遣う必要はないよ……」
「うん。
頭ではわかってるんだけどね……。
本音をそのまま言うのは
勇気がいるというか、
こんな状況でも嫌われたくないという
八方美人な小心者の癖が
抜けないというか……。
ははっ、ごめん……」
「そうなんだ。人間様はやっぱり、
そういう気遣いをするんだね……。
聞いてはいたけど、
ある意味凄いと思うよ……。
でも、苦しくないかい?」
「苦しいか……。
深く考えたこと無かったけど、
改めて言われると
何だか考えさせられるね……」
「カムイ殿、この世界は大丈夫じょ。
人間様には人間様の美学もあろうが
ここでは、そういう心配は
ひチュようおじゃらん。
相手が不快に感じるとか考える前に、
自分がどうしたいかを
チュたえれば良いでおじゃるよ」
人間しか知らないことと、人間を知っているせいで、正直、信用できない気持ちも勿論ある。二人してボクを………、とも考えるし。でも今までの彼らを見る限り、信じたい気持ちもかなりある。なにより、知らない世界だ。藁にもすがりたい気持ちは絶大だ。短い自分会議で『臆病で孤独』な自分が出す答えはおのずと見えてくる。
「そういう心配というか不安を除けば、
ボクに断る理由はないよ。
むしろ心強い」
都合の良い本音が出た。アルフはボクの為に行動を共にしてくれようとしているのに、ボクはどうだ。今、ボクは自分の都合だけで返事をした。人間がそうなのか、ボクがそうなのか、いずれにせよノア族との違いを痛感させられた。
「ボクが行きたいんだからね」
とアルフがボクの顔色を見てか言ってくれたお陰で、幾分気分が軽くなったが、自己嫌悪にも似た感情が消えることはなかった。
「カムイ殿?」
「あっ、何でもないです」
「良し決まったでおじゃる。
ではカムイ殿、深呼吸するでおじゃる」
「深呼吸? なんで?」
「あ~面倒臭いでおじゃるなっ。
だまって深呼吸するでおじゃるっ」
「もぉ~、強引だな~」
「なんかっ。
なんか言ったでおじゃるかっ?」
「い~えっ何でもありません。
深呼吸ですね……。
ス~ッハ~ッ
はいっ……しまし……っ」
「ドゥ~ンッ!!!」
「うわっ」
と、深呼吸が終わるや否や、言葉も言い終わらないうちにパンさんがいきなりボクの胸に両手を突っ込んだ。しかも、口で擬音を……。ド~ンッじゃなくてドゥ~ンッ? 拘りなのか? いやいやいやいやっ、それどころじゃない。胸に手を突っ込まれてるんですけど……。
「シ~ッ! 大丈夫っ。
落ちチュくでおじゃる」
大丈夫って……。このパニックってもいい状況で、『シ~ッ』と言われて黙ってしまうのは、胸に手を突っ込まれてるという恐怖からだろうか……。ってか、『シ~ッ』って人間界のそれと同じ意味だったんだろうか……。何だかそっちの方が不安になってきて、パンさんに目をやると
「…………」
パンさんが何やら小声で呟いてる。呪文?
聞き取れない程の小さな声で唱え続けている。
「大丈夫だよ……」
普通の動揺と変な冷静さが混在してる中、アルフが安らかな笑顔で静かに小さく囁いてくれたお陰で、動揺がス~ッと消えた。冷静になれば、別に痛くもこそばゆくもない。ていうか、突っ込まれてる感覚すらない。が、確実にパンさんの両手がボクの胸に入ってる。突っ込まれてる感覚すらないのはパンさんの手が半透明だからなのか、それとも、パンさんのチカラの成せる業なのか……。っていうか、そもそも何してんだこれ?呪文の詠唱らしきものが終わった次の瞬間、例の聞き慣れた金属音が聞こえた。気がつくと今まで突き刺さってたパンさんの両手はそこには無く、その代わりに見た事のあるツインのあの数字が現れていた。
「えっ?
戒律の刻印?」
「ふ~っ……。
そうでおじゃるよっ。
ジャッジメンタリアに行くには
これがいるでおじゃるよ」
「そう……なんだ……。
50と……50……」
「これがカムイ殿のここ魂魄界での
かいりチュの刻印でおじゃる」
「ここ専用? どうりで数字が……
でもなんで? どんな意味が?」
「いくチュでも良いのでおじゃるが、
きりがよかろう。
気にするとこはないでおじゃる。
意味もそのうち分かるゆえ……」
「そのうち……?」
「そうでおじゃる。楽しむでおじゃるよ」
「楽しむって……?」
「ひみチュでおじゃるっ。フヒッ」
「確かに……。
考え方によっては楽しめるでしょうね……
ふっ」
「何だよ~二人して……。
しかも、『考え方によっては』って……」
「まぁ人間界で言う、
チュう信簿みたいなものにおじゃれば」
「通信簿? うわっ、なんか重っ……」
「ふっ。そんなに構えなくても大丈夫だよ」
「そうでおじゃる。
多かったからとか少なかったからとかで
どうこうなるではおじゃらぬゆえ、
あくまで目安におじゃるよ」
「目安……」
なんか軽く釈然としなかったが今は気にしないことにした。でないとメビウス会議に陥りそうだ……。パンさんがその刻印を軽く押すと、その刻印は、ボクのおでこより少し上斜め前の視界にぎりぎり入るところでゆっくりと回り始めた。
「凄いけど……。
なんだかうっとうしいな……」
「暫くは目障りでおじゃろ~が、
直、慣れるでおじゃるよ……。
それにどのみち、
それには触れられぬゆえ」
「直に……か……」
「それと……、かいりチュの刻印は
拙者とカムイ殿にしか見えないでおじゃる。
因みに、拙者達ノア族は
見ないでも感じることが出来る故、
数字を具現化するひチュようは
ないのでおじゃる」
「はぁ……」
「ま~楽しむでおじゃるよ。
カムイ殿」
「楽しむ……」
と何もかも、もやもや感に包まれていると
「気楽に、気楽にっ」
とアルフが促してくれた。
「うん」
「カムイって名前で呼んでもいいかな……」
「もちろんっ。
まぁ本名じゃないけどねっ
ここでは、と言うより、今はカムイって
呼んでくれていいよっ。
ボクもキミをアルフって呼んでも
いいかなっ」
「もちろんっ。
じゃ~行こうかっ、カムイっ」
「あぁ、アルフっ」
「じゃ~行ってきます。
パンダミオさん」
「行ってきます。
パンさん」
「うむ。
気をチュけるでおじゃるよ。
早くみチュかると良いのっ……」
「はいっ。
きっと見つけます。
アルフも居てくれるし……」
「少しはボクのことを
頼りにしてくれてるんだね……。
頑張るよっ」
「あったりまえじゃんっ。
がっつり信頼してるよっ」
アルフとの会話は心地いい。気心が知れてるというか……、人間界では、こんな友達……、とでも言えばいいのか、居なかったし、必要以上に作らなかった。本能で非常事態と認識して利用しようとしてるだけなんだろうか……。だとしたら、ボクは嫌なやつだ……。
「改めて……、
行ってきます」
「行ってきます。
パンさん」
「気をチュけるでおじゃるよ……。
おぉ~~~。
大事なことを忘れるとこでおじゃった。
これを身にチュけておくでおじゃる」
「あぁそうか……。
このままじゃアレですね……」
「アレ?
あれって何?」
「おどれの出で立ちでおじゃるよっ。
この世界に人間様がいたら、
何か問題が起きぬとも言えぬゆえ……。
これを身にチュけておれば、
この世界に溶け込めるでおじゃる」
そう言うと、パンさんが両手を宙にかざした。すると、どこからともなく1枚の透き通ったローブが舞い降りてきて、ボクにふぁさっと優しくまとわり包み込むように溶け込んで消えた。
「これで良いでおじゃるっ」
「えっ……。
何か変わったアルフ?」
とっさのことに、安易に答えを求めた。
「ふっ。
自分の手を見てごらん」
アルフがまっすぐ、ボクの目を見て促してくれた。
「えっ……。
うわっ……、
肉球……」
にぎにぎする手が我が手ながらかわいい。肉球がぷっくらと薄紅色してなんともかわいい手だ……。ん……、我が手……?
「と……、
言うことは……」
と窓に目を移すと、そこに映ってたのは明るく重厚な赤紫を帯びた美しいノア族のボクだった。
「うわ~~~。
すご……い」
ちゃんと馴染めてる……。と言うより、違和感は微塵も無い。ノア族そのものだ。自画自賛じゃないが、これは美しすぎて逆に目立つのではと心配になるくらい美しい目の前のノア族にしばし見とれた。この出で立ちのお陰で、人間の容姿に対する未練は全く感じられなかった……。とまではいかなかったが、少なくともこのことで、この先の不安より期待が膨れ上がったのは認識できた。
「あくまで見た目と、
体の機能が順応してるだけで、
良くも悪くも、
おどれの人間様の感性や記憶も
そのままでおじゃるゆえ、
時折、混乱が起きるかもしれぬ。
拙者にも、それがどういう感覚かは
想像もできぬゆえ、
大丈夫と太鼓判を押すことは
できぬでおじゃるが、
人間様の姿のまんまでいるよりは
ずっといいでおじゃろう」
「人間の姿のままじゃ
やっぱりまずいんですか?」
「まずくはおじゃらんが、
何かと面倒くさいことになることも
あるでおじゃるよ」
「十分まずいって聞こえますけど……」
「…………」
「何でノーコメントなんですか?
余計気になるじゃないですか」
ガラス窓ごしにパンさんにつっこんだ。
「百聞は一見に如かずでおじゃるっ。
成るようになるでおじゃるよ」
「なるように……なる。のかなぁ?」
「成ると思うよ」
猜疑心いっぱいのボクにアルフがすっと声を掛けてきた。
「確かに……考えてもしょうがないか」
「あぁ」
それにしても、この刻印は目障りだが、慣れるしかないようだ。
「もう、
どこに出歩いても大丈夫でおじゃるよ」
「うん。
……あっ、
はいっ……。
ありがとうパンさんっ。
でも、ちょっと綺麗すぎやしないかな?
アルフ……」
「心配かい?
ならほらっ、
直接ボクやパンダミオさんを見てごらん」
そう言われて振り返り、改めて二人を意識的に見ると、ボクは唖然とした……。今までの二人が今までと明らかに違って僕の目には映った。
「あ……れ?
……何かした?
何で……そんなに……」
あまりにも美しい二人に、自分の容姿のことを忘れ見とれた。
「拙者達ノア族は、
そういう見え方をしてるでおじゃるよ。
人間様の感覚とは違うでおじゃろう?」
「うん……。
あっ……
はい……」
「因みに、周りも見てみるでおじゃるよ」
そう言われるがまま辺りを見渡すと、まるでさらなる別世界が広がっていた。
「うわっ……。
なんだ、これ……」
「景色もしかり……。
そこに存在するもの全てが
輝いて見えるでおじゃるよ」
「すご……い……」
「これから、もっと素晴らしいものを
目にすることになるでおじゃるよ。
ちゃんとその心の目で
感じてくるでおじゃる。
頑張るでおじゃるよっ……」
「はいっ……」
「では、行ってきます。
パンダミオさん」
とアルフがボクの肩に手を添えて、優しく外の世界へと導いてくれた。
「行ってきます。パンさんっ」
何回目の『行ってきます』だと独りでつっこまずにはおれなかったがおふくろさまの遺伝子だと思い出し、少し安心した。
「ウムッ……。
心の目を忘れるでないでおじゃるよ……。
あと、3度目でおじゃるよっ」
「はいっ……。
えっ?」
「ふっ」
やっぱり口走ってるのか? それともボクの考えが読めるのだろうか……。
「あの……」
「なんとなくわかるだけだよ」
どうやら、パンさんだけではないらしい。アフルにも、と言うより、ノア族にはそういう能力があるのか? それとも、ボクの思考がだだ漏れなのか……
「…………」
「あれっ?
ここは読めないの?
それとも無視?」
「毎回、わかるわけではおじゃらんよっ。
心がリンクした瞬間や、相性が良いと
直感的に感じるでおじゃるよっ。
拙者達に相手の心を読むなんて
出来ぬでおじゃる。
そんなことが出来たら、
口がひチュようなくなるでおじゃるしのっ」
「なるほど~。
……なのか?」
納得できたような出来ないような……。
「ふっ」
「ははっ」
笑って誤魔化してみた。
「それと、カムイ殿『うざい』という言葉を
簡単にチュかうのはやめるでおじゃるっ。
おチュむがおこちゃまに
見られるでおじゃるよっ」
「おこちゃま……ですか?」
「うむっ」
ってか、言ったっけ? 覚えてない……。無意識で言ってるのか? それとも、リンクしただけだろうか……。
「わかりましたっ。
気をつけます」
「うむっ。
おどれは、何気に素直でおじゃるなっ。
さ~もう行くでおじゃるよっ」
「だった……。
いい加減行ってきますっ」
「行ってきます」
「二人とも、くれぐれも、
気をちゅけるでおじゃるよっ」
「わかりました」
「はいっ」
なんだか、親離れをするかのような感覚に、少しだけ寂しさを覚えたが、肩に添えられたアルフの手の温もりがボクに勇気をくれた。ドアを開けると、そこには先程と変わらない景色が広がっていたが、心なしか明るく輝いて見えた。
「さぁ行こう、カムイ」
「うん。
よろしくっ、アルフ」
こうしてボクとアルフの二人旅が始まった。




