2 従者の砦案内
「お断りします。どうして私が子供の従者にならないといけないのですか!」
声が高い。女の子の様だ……。友達にはなれそうにないかも……。
アルって名前だからてっきり男だと思っていたが……。なんだか嫌われてない?
「アルーネ!私の腕を治してくれた騎士トルクになんて事を言うのだ!」
「父上の傷を治した騎士が子供とは聞いてません!」
「お前とトルク殿は歳が近い。お前が適任だ!」
「私と同年代の子供は他にもいます!私じゃなくてもいいでしょう!」
「手の空いている従者はお前だけだ!他の者はいない!それに前から言っているだろう!お前はデンキンス子爵家の次女だぞ!お前は何をされたか分かっているのか!」
「あの犯罪者の事なら自分で対処しました。ほっといてください!」
……二人の口喧嘩を聞きながらアーノルド様に話してみる。
「アーノルド様、アルさんが私の従者候補ですか?」
「うむ、ヴィッツの子供でアルーネと言う。前は他の騎士の従者をしていたが、襲われそうになったが自分で撃退した子だ」
それは凄いな。子供が大の大人に勝つなんて。
「襲われそうになった時に男の急所を蹴り上げ、倒れたところを踏みつけ悶絶させて後に鈍器で殴り、半殺しにした子だ」
……壮絶に凄い子だ。
「お陰で他の騎士からは敬遠されておる。従者仲間からも距離を置かれている様だ」
……オレも距離を置いていいかな?
「命令が聞けないなら領地に帰るか?それとも騎士トルクの従者になるか?どっちだ!」
「……わかりました。騎士トルクの従者になります」
うわー、嫌々頷いてるよ。そんなに嫌なら従者にならなくても良いよ。
「よろしくお願いします。騎士トルク」
「……こちらこそよろしくお願いします。アルさんでいいのかな?」
「アルと呼び捨てでいいです」
「よし話が纏まったところでアルはトルクに城壁と町の案内をしてくれ」
「わかりました。行きますよ、騎士トルク」
オレの腕を掴んで部屋から出るといきなり大声で言った。
「貴方なんかの従者になるなんて!迷惑この上ないわ!早くいなくなって頂戴!そしたらまた父上の所の従者になれるわ!」
アーノルド様とヴィッツ様に聞こえるぞ。良いのかそんな事を言って?
「行くわよ!まずは城壁よ」
一人でスタスタと歩くアルさん。案内って意味知ってる?オレ置いて行っているよ。
建物を出て広場を横切っての高く横長い城壁が見える。
「ここが城壁よ。今は帝国兵が来てないから人は少ないけど。攻めてきたら数千人の人達が城壁で戦うわ」
確かに高くて攻め辛いそうだ。周りにある建物も大きいな。
「周りの建物は兵達の宿舎よ。近くに武器庫や病院や厨房もあるわ」
あれが病院か……。オレの職場だな。
それよりも城壁の方に行ってみたいな。
城壁に上ると見晴らしが良い。この先が帝国領か……。
左右は崖に囲まれて正面は戦死者が残って戦争の傷跡が生々しく残っている。死体は処理していないのか?
「次は町の方に行くわよ。早くしなさい!」
分かったよ。
城壁を降りて広場を突っ切って町の方に向かう。
町の方は人が多く賑わっている。戦争の近くの町とは思えないほどだ。
「町には兵の家族や商品を売っている商店・鍛冶屋・病院・ギルド・娯楽施設があるわ。間違っても娯楽施設には行かないように。子供が行く所じゃないわ」
「わかっているよ。おや、屋台もあるのか?こっちは服も売ってる。この建物はなんだ?」
「まったく、田舎者みたいにはウロチョロしない!」
男爵領の町くらい、いやそれ以上だな。砦だからそんなに大きな町ではないと思っていたが……。
「町の住人はこの砦は絶対に負けないって信じているからね。町の人達も安心して暮らせるのよ」
「すごいんだな。砦も凄いけど、それを守ってきた騎士や兵隊が信頼されているんだな……」
「そうよ!この砦は凄いんだから!」
胸を張って威張るアルさん。胸は少しあるみたいだ。本当に女性だったんだな。後この子は褒めたら調子に乗るタイプかな?今度試してみよう。
おお!旨そうな屋台があるな!食べてみるか?と思ったら城壁の方から鐘の音が聞こえる。何の音だろう?時間を伝える鐘かな?
「帝国が攻めて来たわ!私達も行くわよ!」
と言ってオレを置いて走り出す。
……屋台の食べ物はまた今度だな。オレもアルさんが向かった方へ走り出す。するとアーノルド様と話した建物の近くでケビンさんを見つける。
「トルク隊長!敵襲です。アーノルド様に指示を仰ぎましょう」
砦に来て初日で敵襲とは……。敵さんも少しはオレの事を考えてくれよ。
「ケビンさん、付いて来てくれ。アーノルド様の所に行こう。それから情報が欲しいから他の隊員達は砦にいる古参の者達から話を聞いていてくれ」
「わかりました」
ケビンさんが他の隊員と目を合わせて頷く。以心伝心以心伝心。
オレとケビンさんはアーノルド様の所に向かう。
「アーノルド様!敵襲と聞きました」
「トルク!よく来た。敵は二千人程度だ。この程度の敵は数日に一回くらいのペースでよく来る。言うなれば挨拶みたいなものだ。適当に相手をすれば敵は退却する」
二千人が攻めてきているがアーノルド様は落ち着いているな。慣れているからか?
「こちらは二千人で対応する。城壁があるから心配はいらぬ。どうせ矢合戦だ。たまに城壁に上って白兵戦になるくらいだ」
それで良いのか?城壁に上がって白兵戦だよ。それで心配ないの?
「それに城壁の前の広場に兵達を待機させているから問題ない」
……そんなに心配しなくても良いのかな?
「トルクには城壁近くの病院で待機してもらう。戦闘が始まれば怪我人が来るから対処してくれ」
「わかりました。では病院に参ります」
「うむ、兵達を頼んだぞ!」
「了解しました!」
よし!ケビンさんを連れて建物を出る。広場には何千人もの兵が集まり城壁に向かっている。
オレも病院に行こう。後ろからケビンさんも付いてくる。
「来て早々敵襲とは。運が悪いですな」
「誰の運が悪いと思う?今日、砦に来た人間の誰かだと思うよ」
ケビンさんの軽口に軽口で返す。
「うちの隊員の誰かでしょうな?今日怪我をした者が運の悪い者にしましょう」
「では私の初陣の祝いには酒は飲む事を禁じるか。怪我人だしね」
「ハハハ、それでは怪我一つなく戦闘を乗り切りますか」
「まあ、オレ達は後方の病院だ。怪我する事はないよ」
「確かに」
話ながら病院に向かい、責任者の人に会いに行く。
中年の男が出てきた。この人がこの病院の偉い人かな?
「失礼します、騎士トルクです。この度アーノルド様のご命令で怪我人の治療に来ました。よろしくお願いします」
初対面の挨拶はこんな感じで良いかな?第一印象は悪くないよね。
「何が怪我人の治療だ!子供なんかの手などいらん!」
怒鳴られた。
オレってこの砦に来てから嫌われてない?何かした?
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