1 バルム砦へ
本日二話目です!
こんにちは騎士トルクです。
現在、バルム領内の砦の城壁にいます。
伯爵様から言われた任務は怪我人の治療です。
怪我人というのは後方の病院のベッドにいる動けない人達だと思っていました。
私はその人達がいる病院で回復魔法をかけて怪我を治す事と思っていたのですが。
「騎士トルク!矢に撃たれた!治療をお願いします!」
「こっちもだ!」
「グッ!肩に矢が!」
「矢を抜くぞ!手伝え!矢じりを折らないように気を付けろ!治療を開始する!……回復終了!」
「ありがとうございます!帝国兵め!この恨み晴らしてやる!」
「こっちは切り傷の治療をお願いします」
「この程度ならすぐ治る。待っていろ!」
「大変です。重体患者です!」
「すぐに来い!治療を開始する!」
最前線の城壁で治療する事になるなんて。普通は安全な所で治療するものだ……。
周りには部下のケビン達が大きい盾を持ってオレと患者を矢から守っている。
矢が飛び交い怒声と悲鳴がする場所で怪我人を治す。
この様な場所で治療をしている訳を説明しよう。
バルム領内にある帝国領に接している最前線の砦。
通称バルム砦。
数万もの兵を収容でき、城壁の内側には住民が暮らせるようにも出来ている。
商店・病院・宿屋・ギルド・酒場等があり有事の際は砦の中に居る住民全体で砦を守っている。
周辺の領地からは物資や食料を調達でき長期間の防衛戦が可能な要塞都市である。
その砦で伯爵様とオレはバルム砦で責任者の上級騎士、アーノルド ルウ バルム様と面会するべく向かっている。
伯爵様の年の離れた弟で元々は王宮騎士として王都に居たのだが左遷されてバルム砦に赴任したそうだ。
「久しぶりだ。アーノルド ルウ バルム。我が弟よ。良く砦を守ってくれた」
案内された部屋にいる人が伯爵様の弟か。確かに伯爵様に似ている。
「ありがとうございます。しかし次に同じような規模の戦が起こった場合、勝つのは難しくなるでしょう」
「兵の補充だが数は少ないが質は良いぞ。後から我が領地からも騎士を派遣する予定だ」
伯爵様の弟がオレを見た。どうも不可解な面持ちでオレを見ている。
「この子供が回復魔法の使い手なのですか?」
やっぱりこんな子供が数少ない回復魔法を使えるなんて思ってなかったようだ。普通は信じないよ。
「うむ、騎士トルクだ。回復魔法の使い手でもある」
「初めまして、バルム伯爵家の騎士トルクと申します」
「そ、そうかよろしく頼むぞ!」
やっぱりビックリするよね。伯爵様!説得お願いします。
「トルクを先に部屋に案内してくれ」
「わ、わかりました」
伯爵様の弟が人を呼ぶ。オレより少し年上の子供だな。この子はアーノルド様の従者なのかな?
「ではご案内をします」
オレの前を歩く子供。いったん建物を出てその隣の建物に入る。
「こちらが騎士様専用の宿舎です。一階には食堂があります。食事は食堂か部屋で食べる事も出来ます」
「ありがとうございます」
「従者に敬語は不要です。貴方は騎爵位を持っているのですから」
「あー、努力するよ」
「それから浴槽と洗濯場も一階にあります」
「分かった」
二階に行ってドアの前に立つ。
「こちらの部屋になります。では失礼します」
言うだけ言ってサッサと戻った。年下の子供が騎爵位を持っていることが気に入らないのかな?
良い関係を結ぶには少し苦労しそうだ。
部屋に入ると六畳くらいの部屋にベッドと机と棚が置いてある。布団と枕は無いな。後で用意をしてもらうか。
オレの荷物はケビンさん達が後で運ぶって言っていたからな。一階に降りるとケビンさん達がオレの荷物を持ってきてくれていた。
「トルク殿、部屋はどこですか?」
「階段を上って二階の右側から三番目です」
「では荷物を運びます」
ケビンさんの命令で荷物を運ぶ。
さてオレは食堂に行ってみるか。食堂に向かうとケビンさんも一緒についてくる。
結構広い食堂だな。
「ここでは爵位を持っている者以外は食事をできません」
なるほど……。
「ケビンさん達はどこで食事をするのですか?」
「私達の宿舎にも食堂がありますのでそちらで食べます。そして敬語は不要です」
すいません。以後気を付けます。
「失礼します。バルム伯爵が騎士トルクをお呼びです」
部下の一人が伝言役の人から聞いたようだ。
何の用だ?建物から出ると伯爵様と弟さんがいる。
「トルク、私は王都に向かう。後の事は弟に頼んだ。勤めを果たして無事に王都にくるように」
「はい、お任せください」
「それからポアラ達を悲しませないようにな。キチンと手紙を書いておくように!」
「わかりました」
「リリア殿を悲しませないように手紙を書くのだぞ!必ずだ!」
「はい」
やけに母親にだけ念を押すな。何か言われたのか?
「ケビン、トルクを頼んだぞ!」
「命に代えても!」
「アーノルド!砦を頼んだ!」
「お任せを!」
皆に声をかけて伯爵様は王都に発った。
そして現在、アーノルド様と話をしている。
「あらためて紹介しよう。この砦の責任者のアーノルド ルウ バルムだ。サムデイル ルウ バルムの弟でもある」
だいぶ歳が離れている兄弟なんだな。
「バルム砦に着任しました、バルム伯爵家の騎士トルクと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「うむ、良い返事だ。騎士トルクよ、兄から聞いたがお前は回復魔法の使い手で間違いはないな」
「回復魔法の使い手で間違いありません」
「でだ、すまぬが回復してほしい者がいる」
部屋に入ってきたのは三十代くらいの男性だ。頭と腕を怪我しているのか包帯を巻いている。
「わかりました。ではこちらに座ってください」
男性を椅子に座らせて回復魔法を使う。
相手の魔力を感じて生命力に転換する。
……よし回復した。
「怪我を治療しました。どうですか?」
男性が腕の包帯を外して目を丸くする。腕を触り確かめてから頭の包帯を取り頭の怪我も触って確認した。
「アーノルド様!怪我が治っています!医者からはもう動かないと言われた腕も動かせます!」
「本当に回復魔法が使えるのか!凄いぞ!これで戦死者を減らせる!」
やっぱり信じてなかったんだね。まあ子供だからしょうがないか。
「騎士トルク!ありがとう!本当にありがとう!」
「私からも礼を言う。騎士トルクよ。私の部下を良く治してくれた」
男性がオレの手を取り握手をしてくる。問題ないようだな。
「私はヴィッツ ルウ デンキンスという。怪我を治してくれてありがとう!」
ルウ?この人は騎士ではなくて貴族なのか?
「デンキンス子爵家の次期当主だ。伯爵領の隣の領地の者だ」
そういえば地理の授業でデンキンス領地の事を勉強したっけ。たしか畜産が盛んな所だったかな?
「畜産が盛んな領地でしたね」
「そうだ!牛や豚などを育てている。馬も良い駿馬が数多くいるぞ!」
「なかでも今はやりのハンバーグという料理の材料はデンキンス領地の肉を使っているのだ!」
……ハンバーグの材料に使っている肉はデンキンス領からの輸入品だったのか。
「まえに伯爵家の料理人がハンバーグを作ってくれてな。この美味しさといったら口では説明できない。肉汁がジューシーで柔らかく何個でも食べられるとても美味い肉料理でな」
……口では説明できないって説明しているじゃないか。
「そしてその上にかかっているソースといったら……」
「ヴィッツ、その辺りでハンバーグの話はいいだろう」
「おっとすいません。アーノルド様。ではトルク殿、ハンバーグの話は後日語り合おう」
語り合いたくないです。
「ヴィッツよ。騎士トルクに従者をつけるのだがアルはどうだろうか」
ヴィッツさんが驚いて考える。
「……よろしいのですか?」
「他に人が居ない」
「……呼んできましょう」
「従者の待機室にいるので連れてきてくれ」
「……わかりました」
部屋を出るヴィッツさん。従者予定のアルさんって何者?
「トルクに付ける従者なのだが元気が良くて良い子だ。ヴィッツの子供でもある。歳も近いから仲良く出来るだろう」
「ヴィッツ様のお子さんですか。いきなり怪我も治っているから驚いているかもしれませんね」
「そうだな。きっと驚いているだろう」
優しい顔になる。きっと二人のやり取りを考えているのだろう。それはそうとオレの事を聞かないと。
「アーノルド様、今後の私の行動の事ですけど。怪我人の回復でよろしいのですか?」
「そうだな。城壁の近くにある病院と、兵達の家族が住んでいる町の病院の二つある。トルクには城壁近くの病院の怪我人を治してもらう予定だ」
城壁近くの病院が勤務地か……。
「城壁に近い病院は戦闘で怪我をした兵達が多い。トルクが居れば怪我人も直ぐに治るだろう。頼んだぞ!」
「わかりました。ですが私は砦に詳しくありません。案内人を付けてもらえますか?」
「そのための従者だ。」
従者か~。歳が近いって言っていたから子供だろうな。友達になれると良いのだけど。
ドアの方からノック音が聞こえてヴィッツさんと子供が入ってくる。
「失礼します。従者を連れてきました」
子供は長い髪を後ろで結んで背はオレよりも高い。年上の様だ。
「アルよ。今日からお前の主になる騎士トルクだ。挨拶をしなさい」
アルさんという子がオレを見て言った。
「お断りします。どうして私が子供の従者にならないといけないのですか!」
声が高い。女の子の様だ……。友達にはなれそうにないかも……。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




