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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
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閑話 伯爵領襲撃事件とその後②

ドアの方からノックが聞こえリリア殿とトルクが部屋に入ってきた。


「遅くなり申し訳ありません」


リリア殿が頭を下げる。私は二人を席に座らせる。使用人達が部屋を出たのでトルクに礼を言う。


「今回の騒動はクレインとレオナルドから聞いた。トルクよ!よくぞアンジェを助けてくれた。礼を言う」


本当に良く助けてくれた。アンジェが死んでしまったら私は気が狂うだろう。


「アンジェ様を危険な目にあわせてしまい申し訳ありませんでした」

「何を言う!まさか伯爵家の兵達が襲ってきたのをエイルドと二人で馬車を守ったのだろう。良くやった!そして洗脳された兵達を光魔法で洗脳を解いたではないか!トルクのおかげで兵達を処分せずに済む」

「兵達の罰ですが砦に行って戦争に参加させますか?それとも辺境の村の巡回ですか?」

「戦争に参加させる事にする。砦の方も兵の補充をしないといけないからな。クレインの方からも少し兵を出してくれ」


洗脳されたが罪を償うと言っている兵達だ。その恨みを帝国兵にぶつけてやろう。死に逃げるなど許さん。私の兵を玩具にした帝国めが!後悔させてやる。


「しかし兵達が洗脳されていたとは……。いつ洗脳されていたのか。誰が洗脳したのか」

「義父上、私も洗脳された兵達を尋問しましたがわかりませんでした」


前に伯爵家の者にいつ洗脳したのか調べてもなにも分からなかった。

傭兵ギルドや魔法ギルドにも手伝ってもらったが、洗脳を解く事が出来ず、発狂して死んだ。

薬で洗脳を解こうとした魔法ギルド、洗脳された者を調べて親族に会わせて意識を取り戻そうとした傭兵ギルド。どちらも失敗した。

やはり光魔法で洗脳を解くしかなかったが光魔法の使い手は王都にしかいない。

トルクに光魔法と回復魔法を誰かに教えてもらわないと駄目だな。魔法ギルドの人間に……いや駄目だ。光魔法を覚えたら伯爵領を去る可能性がある。伯爵家に忠誠を誓っている者に指導させるか。誰にするかが問題だな……。


「それでトルクが回復魔法を使える件ですが……」


洗脳された兵の事よりも重要な話をする。どうしてトルクが回復魔法と光魔法を使えるのか?


「はい、私が辺境の村に住んでいたときの事です。いつもの様に森でサウルを取っていたら森で人が倒れていました。老人のようで声をかけると老人は空腹で倒れているようだったので、狩りで取ったサウルを焼いて老人に食べさせました。老人はお礼に魔法を教えてやると言ったので光魔法と回復魔法を教えてほしいと老人に言ったら、コツを教えてもらい老人と別れました」


老人にコツを教えてもらった?それだけで回復魔法が使えるのか?それ以前に何故老人が森にいるのだ。空腹で倒れている?トルクは怪しいと思わなかったのか?

その老人に食べ物を食べさせるなんて……。どんな老人なのだ?男か?女か?

皆がトルクに問いかける。


「その老人の顔はわかるか?」

「いえ、ローブで顔が隠れていたので詳しくはわかりません。男性で長いあごひげを生やしていました。サムデイル様」

「その老人の名前は?」

「名前は聞いていません。老人は世捨て人だと言っていました。クレイン様」

「その老人は何のために辺境の森に居たのだ?」

「それも知りません。別れる際に老人から会った事を内緒にしてくれと頼まれました。レオナルド様」

「その人に回復魔法を教わったのはわかったけど、どのくらいの時間を教わったの?」

「えーと、確か昼から夕方くらいですね。アンジェ様」

「魔法のコツは私達に教えてもらう事は出来る?」

「大丈夫だと思うよ、母さん。回復魔法は光魔法と別系統の魔法で、本人の魔力を生命力に変換する魔法で、他人を回復させる場合は自分の魔力を操作して怪我人の魔力を生命力に変換させて回復させるのがコツらしい」

「ちょっと待って頂戴!それは本当なの!」


リリア殿が回復魔法のコツを聞いたが私を含め全員が驚愕した。私も魔法は使えないが多少の知識は有る。

まず光魔法と回復魔法は別系統の魔法?光魔法が使えないと回復魔法は使えないぞ。トルクよ!何を言っている!

回復魔法は本人の魔力を生命力に変換する魔法?なんだそれは?本当なのか?

他人の魔力を操作する?そんな事が出来るのか?私は聞いた事ないぞ?

トルクが嘘を言っているのか?そんなはずはない。嘘をつく理由は……その老人のためなのか?


「貴方が言った事は回復魔法を使うコツだと思うけど、普通の回復魔法ではないわ。私も回復魔法は使えないけど他人の魔力を操作して生命力に変えるなんて出来るはずがありません」

「え?」

トルクは自分が何を言ったのが理解したようだ。自分が言った内容が嘘だとしても私は怒らない。恩人の為の嘘だろう。トルクは義理堅いのだな。

しかし、リリア殿の話を聞いて驚愕する。


「貴方が覚えた魔法は王都の人が使う回復魔法ではなく、一般的な回復魔法ではない可能性があります」

「すまない、リリア殿。どういう意味なのだ?」

「私も詳しく事は分かりませんが、もしかするとこの子が覚えた回復魔法は失われた魔法ではないのでしょうか?」

「失われた魔法!ま、まさか数百年前に滅んだという魔法帝国の幻の魔法か?」


数百年前に滅んだ魔法帝国。この大陸を統べた伝説の帝国だ。現在の魔法よりも発展しており空を飛んだり、天気を操る事もでき、大地を浮かせて城を築いたとも云われている。回復魔法も優れていて死人を生き返させると云われている。

トルクも死人を生き返させることが出来るのか?現在の回復魔法の使い手はそんな事は出来ないぞ!


「これは少し困ったな。トルクに回復魔法を他の者に教えてもらおうと思ったのだが……」


クレインが私と同じ考えをしていたようだ。トルクに回復魔法を教えてもらい失われた魔法を他の者が覚えて王都に行ったら……。王都が混乱するだろう。

滅んだ魔法帝国の失われた魔法を使える人間。その人間の取り合いが始まり王族が、貴族が、最悪は帝国が手を出してくる。私の力など無力に等しい。……どうすれば良いのか。

しかしトルクの回復魔法は我が領地には必要だ。領地の為、砦の為にトルクの力が必要だ!

それから老人の情報が必要だな。その者が何者であれ、魔法を教わる事が出来れば!

やはりトルクに砦に行ってもらおう。リリア殿には悪いがこれも領地を守るためだ。トルクの情報が王都に伝わるが、リリア殿の娘を助けるまでは何としてもトルクの情報を守る為に手を打たないといけない。その事を相談しなければいけないな。


「実を言うと頼みがある、トルクを少し貸してほしい」

「どういう意味ですか?トルクは王都に行く予定ですよ?」

「王国と帝国の境界線にある我が領地の砦があるだろう。現在、砦では帝国との戦争で人手が足りないのだ。今までも帝国兵が砦を攻めてきたが、地の利も有り撃退していたが、怪我人が多い。王都で回復魔法が使える者を砦に派遣してもらっているが、いつも断られてばかり。今回、王都に行くのも回復魔法が使える者を砦に派遣する為だった。そうしないと砦の兵が少なくなり負けるかもしれない。怪我人を治療できる回復魔法が使えるトルクを砦に送りたいのだ」


トルクが回復魔法を使い怪我人を治療してもらう。それだけで良い。怪我人が減れば人手が増える。砦を守れるのだ。


「王都からも増援が来たが、ただの徴兵された平民で魔法使いは一人もいない。これでは砦が守れないかもしれない」


農民で武器を使った事がない連中が増援に来ることになった。この者達が出来る事は後方支援か囮部隊の捨て石にしかならない。魔法を使える者もいない。これで砦を守れと言う王都の貴族達に殺意を抱く。


「男爵領の農園で物資は何とかなっているが人員が減っている。怪我人も多くて治療されなくて死ぬ人間も多い」


特に前線に出ている騎士や兵の死亡率が多い。腕を怪我して剣を振れない騎士は現場で指揮をしており、足を怪我して歩けない兵は弓を使い敵を倒している状況だ。本当に危険な状況なのだ。


「騎士や魔法使い等の増援はもう一つの砦の方だ。王国側から帝国に攻める為に人員が必要だからと言ってもう一つの砦に行った」


王国側の砦は二つあり一つは王都から遠い難攻不落のバルム領の砦。もう一つは帝国から奪ったアイローン領の砦だ。アイローン領の砦は帝国側にあり、それを数年前に王国が戦争で奪った砦だ。


「その砦はアイローン伯爵領の砦でしょうか?」

「……そうだリリア殿。アイローン伯爵領の砦だ。アイローン伯爵は帝国を攻める為に増援を出した。そしてその増援には王族が一人いる。なんでも武勲を上げる為に帝国を滅ぼして王国中に自分の名を知らしめる為らしい。その為に王国中から増援が決まり、私にも声が掛かっている。バルム領地の砦よりもアイローン伯爵領の砦に来いと」

「義父上、それは……」


本来は私がバルム領内の砦に行くべきなのだが王命に背く事は出来ない。そしてクレインの疑念も解る。

王命だが多分、敵対している貴族が仕向けたのだろう。バルム砦が落ちたら私の責任になり処罰を受けるだろう。そして他の者がこの領地を治める。

そんな事態にならない様に私は動かないといけない。その為にはトルクの回復魔法が必要なのだ!

残念ながら王からの要請だ。ワシも行かなければならない。だからトルクに頼みたいのだ!回復魔法が使えるトルクに砦に行ってほしい。

反対するアンジェを説得し、リリア殿に頭を下げ、トルクに承諾させた。

その後、クレインとレオナルドに伯爵領を守ってもらい、トルクの為に出来る事をする。

トルクの身分や下に付ける兵達、リリア殿とトルクは諦めた表情で私の命令を聞き、アンジェは最後まで反対していたが最後は口を噤んだ。

一旦、話を終えアンジェとリリア殿とトルクは部屋を出る。

三人が出ると私は深いため息をした。恩人の息子を戦地へ向かわせる。クレインが戦地へ向かった時も辛かったが、今回はそれ以上に辛い。


「義父上……」

「サムデイル様……」


誰も喋らない。部屋の外からリリア殿とアンジェの声が聞こえる。少しすると声が聞こえなくなり部屋の外が静かになる。

誰も喋らずゆっくりと時間が過ぎる。今はこれからの事を考えないといけない。


「……クレインはトルクの爵位授与の準備を、レオナルドはトルクの下に付ける兵の準備を頼む」

「分かりました。それからエイルド様とポアラ様の従者の件ですが」


クレインは頷き、レオナルドがエイルド達に付ける従者を言ってくる。候補は何人かいる。私に孫の従者にと他の貴族達が言ってきている。男爵家の三男坊や、騎士の子供を紹介されている。

トルクを筆頭従者にして他に二・三人従者にすれば良いと思っていたが如何すれば良いか……。

とはいえ、トルクは次の年には学校に入る予定だからな。トルクを二人の従者にするのは貴族の子弟を覚えてもらう為とエイルドとポアラのフォローの為だ。

トルクを従者にしないでも問題はないだろう。


「何人かエイルド達の従者にと紹介された子供達がいる。その者に頼むとしよう」

「ちなみに誰でしょうか?」


クレインが聞いてくる。そう言えばクレインには従者は一人だけだったな。同じ領地の騎士の子供だったかな?


「気になるか?クレイン」

「そうですね。トルクの代わりに従者する者がエイルドとポアラの相手を出来るがどうか」


……確かにそうだな。トルクが来る前は、エイルドは癇癪が酷くて使用人や兵達に怪我を負わせる。

ポアラは魔法を使って人や物に当てていたからな。

トルクが使用人になってからはその様な事は無くなったと聞くが新しい従者に怪我を負わせたり魔法を当てたりしないか心配ではある。

それなら候補は……。


「お父様!お爺様」


エイルドとドイルがノックをしないで部屋に入ってきた。トルクの事だろう。


「トルクの件ですが」

「トルクは砦に行く。これは決定事項だ。トルクを守る為に護衛を付けるから心配ない!」

「ですが!」

「エイルド!王国を守る為、領地を守る為に必要なのだ!トルクはそれを理解して承諾したのだ。お前達も理解しろ!」


子供には難しいかもしれないが王国を守る貴族として理解してもらわないといけない。クレインが二人を説得する。

子供達はクレインに説得されおとなしくなった。しかし表情は不満気だ。トルクと別れる事が嫌なのだろう。


「ドイルは部屋に戻りなさい。エイルドには話がある」


私はドイルを部屋に戻し、エイルドを席に座らせる。さてと従者の件を伝えるか。エイルドは不満気な表情で私の方を見る。


「エイルド。まずはその顔を止めなさい。不満気な表情が顔に出ているぞ」

「……はい」


ふむ、感情を抑える事はまだ出来ないか。


「トルクが砦に行くから代わりの者をエイルドとポアラの従者に付ける。後日紹介するからな」

「私はトルクがいいです!トルクと一緒に王宮騎士になるのです」


そう言えばエイルドは王宮騎士になる為にクレインやレオナルドに鍛えられていたな。

トルクもエイルドと一緒に戦術を習ったりしていると聞いている。

トルクは騎爵位を授与されるが王宮騎士になるには男爵位以上ではないと無理だ。

来年はリリア殿が養女になるからトルクも伯爵位を授かるから王宮騎士になる事は可能だが……。トルクの場合は回復魔法を使えるからな。

王都にしかいない回復魔法の使い手が砦にいる事は王都に居る貴族達に知られるだろうな。貴族達が五月蠅くなりそうだな。

待てよ、トルクの出生がバレないか?トルクはアイローン伯爵の子供だ。それを手に取られてアイローン伯爵が何か言ってこないか?


「義父上、どうしましたか?」

「すまん、少し考え事をしていた」


今はエイルドの事を考えよう。従者には前に考えていた者を付けよう。

伯爵領の騎士の子供達をエイルドとポアラの従者に付けよう。

出発前に紹介するとして王都の学校に行く前に準備をさせて二人を王都に行かせなければならないな。


「エイルド!お前はトルクと王宮騎士になるのだろう。トルクをいつまでも従者に出来る訳がないだろう。来年はトルクも王都の学校に入る予定だ。そのときはトルクにも従者に付ける。二人で王宮騎士になるのだろう」

「はい!私はトルクと二人で王宮騎士になります」

「ならトルクを従者にする事は出来ない事は分かるだろう。エイルドはトルクを騎士にさせないつもりか?」

「そんな事はしません!トルクは私と一緒に騎士になるのです!」

「ならばエイルドとポアラにはトルク以外の者を従者に付ける」

「分かりました」


これでエイルドは良いだろう。エイルドを退出させて私はクレインとレオナルドに質問した。


「将来、トルクが回復魔法を使える事を王都の貴族達が知るだろう。トルクはアイローン伯爵の子供だ。リリア殿の娘を助けるまで王都には知られたくない。二人はどうすれば良いと思う?」


リリア殿の娘を保護したら私が後ろ盾になりトルク達は伯爵家の者になる。それまで王都の貴族やアイローン伯爵に知られない方が良い。


「……偽名を使いますか」


「トルクの名前を偽るのか?それなら情報が洩れても簡単には分からないだろう。良い考えだと思うぞ」


レオナルドの考えにクレインが賛同する。確かに良い案だと思う。


「しかしトルクは子供ですから。回復魔法を使う子供と言うのは王都でも直ぐに噂になるでしょう」


トルクに偽名を使わせるのは良いとしても、希少な回復魔法の使い手が子供だと知ったら直ぐに噂になるな。


「やはり爵位授与をした後にリリア殿を養女にした方が良いのではないか?私の孫になれば貴族から守れるだろう」

「いきなり養子にするのは難しいでしょう。先に貴族院に申請しないと」


全く、相談する事が多すぎる。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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