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オレが回復魔法を覚えて季節がめぐり冬が近づいている。村では収穫祭が終わり冬を迎える為に食料・薪・他もろもろを備えて冬の準備をする。
叔父さんは怪我の後遺症もなく元気に過ごしてる。回復魔法ってすごいな。
マリーも回復魔法が使えればお父さんの怪我も治せるからと言い、独学で回復魔法の勉強をしている様だ。頑張れマリー。
母親の体調も治ってきた。オレが毎日、母親に回復魔法を使っているから体調も良くなっている。
回復魔法を使った事を知った母親は「光魔法と回復魔法が使える事は秘密にしなさい」と言った。王国に100人位しかいない回復魔法の使い手が子供だからな。見つかれば厄介な事が来るだろう。だから極力、回復魔法が使えるのを隠すつもりだ。
そして、「回復魔法の使い方を誰から習ったの」と聞いてきた。精霊の事は内緒にした方がいいと思って「頑張って練習した」とどや顔で言った。
だからオレが回復魔法を使えるのを知っているのはオレと母親だけだ。
マリーが回復魔法を覚えたいって知っているのに教えない。これも母親との約束でマリーにはまだ回復魔法を教えない様にしている。
母親はベッドで寝たきりだった状態から良くなっているが、体力が落ちているので元に戻すために体を崩さない程度に少しずつ体を動かしながら生活している。
今年の冬は越せないと精霊達が言っていたがこれなら大丈夫だろう。
冬になり雪が積もり何も出来ない時は家の中でゆっくり過ごす。魔法の勉強をしたり、回復魔法を上手く使えるように考えたりしている。
冬は寒くなるので薪を多く使う。だが魔法を使えるオレは違う。
火魔法で室内の温度を上げたり、水魔法で水を桶に貯めて湿度を上げたりしている。薪は限りがあるから魔力を使ってこの冬を乗り切るぞ。
魔力は寝れば回復するはずだ。ゲームではそうだった。
そんなこんなで寒い冬が終わり春を迎える。そういえばこの世界には春夏秋冬が有るみたいだな。当たり前すぎて疑問に思わなかった。
春の種まきの時期に近づき村が忙しくなる。オレは参加できないからサウル(ウサギもどき)を捕まえて村人に渡そう。
おや、マリーが向こうから歩いて来てるな。この前塩が無くなりかけたのを叔父さんに言ったから塩を届けに来てくれたかな?
「おう、マリー。お疲れ」
「トルクお兄ちゃん、お疲れ様」
「今日はどうした?」
「お塩を届けに来たよ」
叔父さんに感謝を。
「ありがと、叔父さんによろしく言っておいてくれ。塩は母さんに渡してくれたら大丈夫だから。オレはサウルが捕まっているか罠を見てくるから」
「ありがとー、トルクお兄ちゃん」
「おう、じゃあな」
おばさーんと言いながらマリーは家に入っていった。
さてと、罠を仕掛けた所にサウルはいるかな?罠を仕掛けた場所に向かいながら薬草を採取する。
良し、サウルが三匹も罠に掛かってる。
一匹は家で母親と食べて、一匹は叔父さん達に渡して最後の一匹はどうしようかな?
などとサウルの事を考えながら歩いていると家に帰り着いたようだ。
「ただいまー、サウルを三匹捕まえたよー」
「あら、お帰りなさい」
「トルクお兄ちゃん、お帰りなさい」
「マリー、一匹は叔父さんに渡してくれ、塩のお礼だ」
「ありがとう。トルクおにいちゃん」
「伯母さんからもお礼を言ってね、マリーちゃん」
「はーい、伯母さん」
「ところでマリー、村の様子はどんな感じ?」
「村では種まきをやっているよ。あ、あと他のお馬さんがおじいちゃんの家にあった」
「他の馬?誰かが来ているのかな?」
「ご領主の文官様が来ているのかもね」
「母さん、この時期には珍しくないかな?」
「珍しいかもしれないけど偶には来るみたいよ、去年は豊作だったらしいからその下見かしら」
「あ、伯母さんそろそろお暇します」
「マリーちゃん、お塩ありがとうね。トルク、家まで送ってきなさい」
「了解と。マリー、行くぞー」
「伯母ちゃん、お邪魔しました」
「またね、マリーちゃん」
「はーい」
元気なもんだな、マリーはかなり母親に懐いているな。マリーの母親はマリーを生んで直に亡くなったって聞いたからそのせいかな。
帰りもマリーと話しながら帰るが途中で珍しく村長にばったり会った。一礼して帰ろうとするが村長が話しかけてきた。
「マリー、トルクと話をするからお前は一人で帰りなさい」
「分かりました、おじいちゃん。トルクお兄ちゃんまたねー」
「ばいばい、マリー」
マリーを帰しオレと村長と二人きりになる。そういえば村長と二人きりになるのは初めてだな、それ以前に話しかけられるのも初めてだ。
「今日、ご領主様の文官様が来ているのは知っているか?」
「いえ、知りませんでした」
知らない振りをする。いやな予感がするよ。
「文官様がこの村から下人を探しているから、お前が行ってくれないか?」
へ?オレが下人に。
待て、何故オレが下人にならないといけない?この二年間オレは村人から無視され続けているんだぞ、何故オレが行かなければいけないんだ。
オレ達親子はこの二年間村八分され、母親は家族から縁を切られて体調を崩し、今年の冬を越せないと言われたんだぞ。
それなのになぜオレに下人になれと言うんだ。
「お前が下人になればお前達親子の無視を止めよう、家もワシの家の近くに住んでも良い」
この糞爺、村八分を解除してやるから下人に行けだと。これで断ったらマジで母親は村から追放だな、村長も貴族からの要請は断れないから一番立場が低いオレを選んだのか。断っても村八分が続く、いやそれ以上の事になるだろうな。そうなったら母親もひどい目に合うかもしれない。詰んだな。オレは下人確定かよ。
「わかったよ、いつこの村から出発をするんだよ」
「明日の朝だ」
早えーよ、くそったれ。
「わかったよ、でも本当にオレが下人になれば母親は村の一員になれるか?」
「もちろんだ」
「叔父さんはこの事を知っているのか?」
「知っている」
「わかった、叔父さんに会いたいが良いか?」
「許可しよう」
「叔父さんは何処にいる?」
「ワシの家だ。文官様に紹介をするから一緒に来い」
鬱な気分になりながら村長の家に向かう。村長の家に行くと小奇麗な服をきた貴族の文官っぽい人がいた。
「ほう、この子が魔法を使える子供か」
「はい、そうです。名前はトルクといいます」
「トルクと言ったな。明日の朝にこの村を出るから準備をしておけ」
貴族っぽい人は「散歩をしてくる」と言って村長と一緒に家を出た。叔父さんがオレの前に来た。どうも表情が暗い。
「叔父さん……」
叔父さんの所に行くと泣きそうな顔で
「すまない……トルク、本当にすまない」
あ、わかった。下人の第一候補は叔父さんの娘のマリーだったか。だからマリーは今日、オレの家に行き叔父さんは貴族に会わせないようにしていたのか。さすがにマリーには下人は無理だよな。
「叔父さん、オレは大丈夫だよ。だから母さんをお願い」
「トルク……、すまない」
「大丈夫、オレは魔法も使えるし体も丈夫だ。だから母さんをお願いするよ」
「トルク・・・、出発の準備はオレにさせてくれ。必要なものは何かあるか?」
「叔父さんに任せるよ」
「わかった・・・」
「じゃ、明日の朝にここに来るから」
オレは明日の事を母親に説明する言葉を考えながら帰宅した。
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