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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
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18 うるさい精霊達

オレはエイルド様達に言われて中庭に行く最中、ポアラ様のご機嫌を損ねない様な言い訳を考える。

いきなり魔法を使って的にしないよね。言い訳くらい言う時間は有ると信じたい。

中庭に着くと前に精霊と話した時の木の近くにポアラ様が居る。


「ポアラ様」


中庭に来てポアラ様に話しかけたが……言い訳は考えつかなかった。なにを話せば良いのだろうか?とりあえず部屋に戻す方がいいかな。


「ポアラ様、部屋に戻りましょう。みんなが心配しています」


木の方を向いているポアラ様を後ろから話しかける。いきなり魔法の的になる事は避けられたようだ。ただポアラ様の両手が見えないのが不安だ。魔法を使っているかもしれないからな。振り向きざまに魔法を使ってきたらどうしよう。


「回復魔法が使えるのを黙っていて申し訳ありませんでした。他の人に使える事を言わないと母親と約束して」


ずっと木の方を向いているポアラ様。中庭は静かだな。木の枝が風で掠れる音しか聞こえない。


「回復魔法の使い手は王都にしかいないし、バレたら心無い者達から何をされるかわかりませんし、最悪の場合は誘拐されるかもしれないので」


……静かな中庭にはオレが喋る声しか聞こえない。ポアラ様もこっちを向いて喋ってくれたらいいのに。まさか魔法の準備をしているから喋らないのか?


「本当はみんなには回復魔法を使ってましたよ。バレない様に注意しながらエイルド様やドイル様、ポアラ様に魔法をかけて治癒してました」


一人でずっと喋るのは苦労する。言葉のキャッチボールをしようよ。そして魔法の的当ては勘弁してください。


「去年、雪が積もった日にエイルド様達と雪遊びで遊んだ時に雪を払いならが回復魔法を掛けていたんですよ。皆さんが風邪を引かないように」


いい加減に一人で喋るのが辛くなってきた。そろそろ話のネタも尽きるぞ。次はどんな会話が良いかな?


「……ポアラ様。こちらを向いてくれませんか?」


ゆっくりとした仕草でオレの方を向いたポアラ様。顔には涙の跡が残っていて、目をこすったのか目が赤く、涙で濡れた両手には魔法を使った形跡は無い。


「……ねえ、トルク。本当に砦に行くの?」

「はい、サムデイル様のご命令ですので」

「私が「行かないで」って言っても行くの?」

「……行きます」


再度泣きそうになるポアラ様。ポアラ様が近づいて頭をオレの胸に預けて泣いた。……これは抱きしめるのが正解なのか?

泣きながら何か言っている。小さい声で「ごめん」「行かないで」と聞こえる。

それから男の怒り声も。

……なんで男の怒り声?耳を澄ますと聞こえてきた。


「……ここは僕の縄張りだぞ。何しに来たんだ」


何処かで聞いた事ある声だ。……確か伯爵家中庭の木の精霊だ。


「精霊だ!」

「オレ達以外の精霊だ!」

「めずらしいな!」


ついでに精霊三人衆の声もする。周りを見渡すが声しか聞こえない。今回姿は見えない様だ。


「砦になんて行かないで!トルク」

「だから何しに来たんだ?」

「オレの名前は其の一!」

「オレは其の二!」

「そしてオレは其の三!」

「三人そろって精霊三人衆!」

「名前を聞いているんじゃなくて何しに来たんだ!」

「トルク、私達と王都に行こう?お爺様には私から言うから!」

「オレ達は友達と行動しているんだ!」

「いま女を抱きしめている子だよ!」


……この状況じゃなきゃ反論したい。それ以前にこの馬鹿共を潰したい。ポアラ様を振り払ってぶん殴りたい!


「……この子供か。お前達が印を付けたのか?」

「そうだぞ!三人で一生懸命考えた印だ」

「トルク!王都に行こう!……説得すればお爺様も考え直すかもしれない。それに……」

「どうだ!凄いだろう」


……精霊の話の方が良く聞こえてポアラ様の言葉が上手く聞き取れない。


「確かに良く出来た印だった。僕も腹を抱えて笑ったよ」

「やったぞ!」

「オレ達のやってきた事は報われた!」

「オレ達の勝利だ!」

「……ルク……、……助ける……砦……」


この精霊共。ポアラ様がここに居なければ捌いてやったのに。オレの顔に付いているだろう印を変更する事は出来ないのだろうか?


「それでどうしてトルクは女と抱き合っているんだ?」

「痴情のもつれか?」

「その年で女を泣かせるなんて罪深い奴だ」

「いや、僕が思うに発情期に入ったのだろう」


……こいつらオレがお前達に喋れないからって変な事言ってんじゃねーぞ!


「発情期?」

「トルク……私達……知って……」

「皆がこの木の下で出会い。愛を語り合ってこの場で子作りをしたものだ」

「さすがは発情期だな」


……外で子作りをしたのか。この場所って伯爵家から丸見えだぞ。その人達頑張っているな。


「この中庭には子作りをする者が多くてな。私も見物したものだ」

「……お願い。……。私を……」

「いいのか?覗きなんかして?」

「何を言う!僕はずっとここに居たんだ。ここで子作りするのが悪い」


精霊って人には見えないからな。……駄目だ。ポアラ様の声が聞き取れない。精霊達の声が五月蠅すぎる。それにしても興味深いな。誰が此処で子作りしたんだろう?


「ここで子作りして、その後無事に生まれたぞ!新しい生命が四つ誕生したんだ。この場所で直に見て嬉しかった」

「四つ子か。母親頑張ったんだな」


……この世界で四つ子とは凄いな。双子でも大変なのに四つ子とは。伯爵家で生まれたのか?しかし伯爵家に四つ子が生まれたという話は聞いた事が無いな。他の使用人さんかな?


「可愛い子だった。成長するのが楽しみでこの場所で見守っていたんだ」

「オレ達と同じだな。トルクの成長を見守っているんだぞ!」

「オレはトルクで遊んだ事を記録しているぞ!」

「オレはトルク日記を書いているぞ!」


トルク日記ってなんだよ!中身見せろ!この精霊共め!もう少し静かにしろ!


「私…………で、トルク」

「はい、ポアラ様」


やべぇ!全くポアラ様の言葉が記憶に残っていない。どうしよう。


「待っているから、絶対に帰ってきて」

「はい」


……ポアラ様は自己完結したのかな?いったい何を話していたんだろう。それよりも精霊達の会話の方が気になる。


「僕も日記をつけておけば良かったよ。あ、そのトルク日記って後で見せて?」

「この場所に居ても良いなら日記を見せてあげる」

「分かった。許可しよう」

「それで四ツ子はどうなったんだ?」

「また中庭で子作りして新しい生命を誕生させたよ。あの可愛いかった子が子供を産むなんて凄いよね。母親似で綺麗な毛をしていたよ」

「そろそろお母様達の所に戻ろう。トルク」


ポアラ様がオレの手を取って二人で家の方に行く。……あれ?綺麗な毛?髪の毛の事かな?


「白い毛皮の綺麗な犬でね。僕も印を付けようか迷ったくらいだよ」


……犬かよ!中庭で子作りしたのは犬か!思わずツッコミが入る所だった。

この変な会話のせいでポアラ様の話が聞き取れなかった。どうしよう。精霊の奴め今度会ったら絞めてやる。




ポアラ様と一緒に部屋に戻るとアンジェ様と母親が出迎えてくれた。エイルド様とドイル様が居ないな?どこに行ったのやら?


「子供達はトルクを王都に連れて行くために直談判しに行ったわ」


直談判か……。逆に説得されて帰ってくるのがオチだ。

アンジェ様がオレ達をテーブルに座らせ、母親が入れてくれたお茶を飲む。お茶が美味しい。

しかし伯爵家で犬を飼っていたのか……。でも精霊は長生きだから何十年前の犬かもしれないしな。


「それでポアラ。二人で話をしたのでしょう?解決した?」

「解決した。私はトルクを信じる」


……そんな話だったのか?信じる?何を?精霊の会話の方が気になってポアラ様の話が頭の中に入ってない。


「……分かったわ」


アンジェ様は何を納得したのか頷いてお茶を飲む。


「ポアラ様。ありがとうございます」


母親はポアラ様に礼を言う。二人はそれで分かったのか?女性の以心伝心は凄いな!この瞬間だけそのツーカーがほしい。


「トルク、貴方を信じます。無事にお勤めを果たしてきてください。砦の怪我人を助け伯爵領を守ってください」

「はい、アンジェ様」

「トルク、王都の心配はしなくて良いから。私が貴方の代わりにみんなを守るわ。だから無事に帰ってきて」

「勿論、無事に帰ります。砦とはいえ後方で怪我人の回復をするだけですから」


二人を心配させない様に明るく言う。でも回復するだけとはいえ準備が必要だよな。何が必要かな?


「砦に行くための準備は……」

「それならレオナルドに任せれば良いわ。今は私達とゆっくりお茶を楽しみましょう。ほら!ポアラも婚約者に言う事はないの?」

「中庭で全部話した。私は言う事がない」


出来ればもう一回言ってほしい。中庭で何を話したんだ?


「中庭で話した事以外を話したらどう?」

「……トルク、回復魔法教えて?」

「ポアラ!そんな事よりもっと言う事があるでしょう!婚約者が戦争に行くのよ!」


……中庭での会話には魔法関係の話はしなかったようだ。じゃあどんな会話をしたんだ?ポアラ様が魔法以外の会話をするなんて、他の会話と言えば医療ギルドの話か?


「まあまあアンジェ様」

「リリアさんもトルクが戦争に行くのよ!もっと言うべきです。それに最悪の状況ってなんですか?トルクが私の治療をした後の最悪の状況って!戦争に利用されること以外にもあるのですか?」


……確かに言っていたな。オレが回復魔法を使った場合の最悪の状況はこの位ではないと。母親はお茶を飲みながらアンジェ様の方を向いた。


「ただいま戻りました」


ドイル様がノック後、部屋に入る。表情は暗い。サムデイル様の説得に失敗したようだ。


「お帰りなさい、ドイル。エイルドは一緒じゃないの?」

「兄様はお父様とお爺様とお話している」


エイルド様はクレイン様達と話しているのか……。どんな会話をしているのやら。


「ねえ、トルクは本当に戦争に行くの?危ないよ!危険なんだよ!」

「ドイル様、大丈夫ですよ。砦の後方で怪我人を治癒するだけですから」

「でも!」


年下のドイル様に心配させるなんてオレも駄目だな。手を握ってドイル様に微笑みながら言う。


「クレイン様も私の為に護衛を付けて下さります。サムデイル様も私と一緒に砦に行ってくれます。心配ありませんよ。私は日頃の行いが良いから戦争に行っても死にません」


オレが前に言った事は覚えているかな?確か二人で川に落ちた後だったな。あれからもう半年たったのか……。早いもんだな。


「……分かった。でも必ず無事に帰ってきてね」

「お約束します」


オレの手を握り返すドイル様。子供ながら力いっぱい握っている。……少し手が痛い。手加減してドイル様。

ノック音が聞こえてエイルド様がブスッとした顔で部屋に戻ってきた。オレがいる事に気づいて表情が明るくなる。


「トルク!ポアラと仲直りできたか?」

「仲直りというか、ちゃんとポアラ様と話しました」

「そうか!後はドイルと話し合ったか?」

「先程、話しましたよ。無事に帰る約束をしました」

「なら良い。オレはトルクを信じているからな。無事に帰ってくれば問題ない」


エイルド様はオレやポアラ様達を見て明るく笑い、テーブルに着いた。そう言えばドイル様からクレイン様と話をしていたらしいが何を話していたのだろうか?


「エイルド、お父様と何を話していたの?良くない話?」


オレが聞こうとした事を聞くアンジェ様。すると急に顔をしかめる。エイルド様は低い声で言った。


「……トルクの代わりの従者の件を言われました。出発前に紹介するそうです」

「そう……。でもトルクが長くて一年くらいで帰ってくるわよ。それまで我慢しなさい」

「分かっています」


あまり良い従者じゃないのかな?エイルド様は嫌っている様だ。そんな人をエイルド様の従者にするとは……。ブチ切れてその従者予定の人を殴らなければいいのだけど。


「エイルド様……」

「トルク、分かっている!お前の代わりの従者だ。どうせ半年もすればお前が帰ってくるからな。それまでの代わりだ!」


……なんか酷いこと言っているな。従者予定の人は大丈夫かな?


そういえばポアラ様の従者は誰だ?マリーかな?


「ポアラ様の従者は誰ですか?マリーですか?」


オレがエイルド様に言うとエイルド様は苦虫を嚙み潰したように言う。


「オレとポアラの従者は他の者だ。マリーではないようだ。お爺様が明日紹介してくれる」


二人の面倒を見る名も知らない従者予定者に同情する。この二人の我儘を聞く人を深く同情した。


「……エイルド様。あまり従者予定の人を……」

「それよりもトルク!」


イジメないで下さいという前に言葉を遮られた。


「来年はお前も学校に通うのだぞ!オレの従者なんて出来ないだろう。トルクはオレ達の事よりも自分の事を考えろ!それよりも爵位の授与式はオレも見物してもいいのか?」


爵位の授与式……。そう言えばレオナルド様と授与式の練習をしたっけ。ただ座って話を聞いて剣を受け取る作法を習っただけだ。

……作法はちゃんと覚えているかな?後で練習しておこう。


「授与式の件はクレイン様に聞かないと分かりません」

「そうか!父上に聞いてみよう」

「僕も参加したい!」

「私も参加する」


ドイル様とポアラ様も参加希望ですか?見物はいいんじゃない。とりあえず保護者の許可を得てね。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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