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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
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15 回復魔法

アンジェ様の体に矢が刺さっている。クソッ!全然気づかなかった。エイルド様を守ろうとしたときに矢が当たったんだ。


「アンジェ!」

「お母様」


クレイン様がアンジェ様の所に向かう。オレや母親もアンジェ様の怪我の状態を見る。体に矢が刺さって血で服が赤くなっている。急いで治療しないといけない。


「エイルド、怪我はない?」

「大丈夫です」

「良かったわ。貴方に当たりそうだったけど大丈夫みたいね」

「……アンジェ」

「貴方、私の怪我はどう?」


クレイン様は暗い顔で何も言わない。矢を抜けば出血多量で死んでしまう可能性があるからだ。矢をそのままにしても死んでしまうだろう。


「ごめんなさい」


アンジェ様も怪我の様子を察知したようだ。ここでは治療できないと。……そして死ぬと。

アンジェ様を助ける為にオレは母親との約束を破る決意をして母親を見て謝った。


「母さん!ごめん。約束を破る」


母親はオレの言葉の意味を察知して黙認した。それからアンジェ様の前に行きクレイン様に言う。


「クレイン様!今からアンジェ様に回復魔法を使います」

「トルク!お前は回復魔法が使えるのか?」

「使えます。ですがこんな重体の人を回復させた事はありません。だから手伝ってください」


オレの言葉にクレイン様は表情を明るくした。アンジェ様を治せるかもしれないのだ。


「まずは準備を。血を拭う布をいいですか?それからアンジェ様の矢を抜いて傷が見えるようにしてください」

「分かった!直ぐに準備をする。誰か布を持ってきてくれ」

「母さんはこのナイフでアンジェ様の傷口付近の服を切って」

「分かったわ」

「……トルク、貴方は本当に回復魔法が使えるのね」


アンジェ様がオレに言う。オレは頷いてアンジェ様の手を握る。オレの魔力を使ってアンジェ様の魔力を操作する練習をする為だ。アンジェ様の周りにポアラ様やドイル様やマリーが近づく。怪我を見て顔色を悪くするが、アンジェ様に泣きながら近づく。


「お母様」

「大丈夫よ、ポアラ、ドイル。トルクが治してくれるから心配しないで」

「はい」

「布を持ってきました」


エリーさんが布を持ってきた。その後ろにレオナルド様もいる。数枚だけ布をクレイン様が受け取ってアンジェ様の側に座る。


「トルク!いつ回復魔法を使うのだ」


エイルド様が急かすが準備はまだ出来ていない。レオナルド様とクレイン様が来てくれたのでオレは二人に言った。


「レオナルド様は周辺の警備をお願いします。矢を放った賊は後方に逃げています。クレイン様はアンジェ様の矢を取ってください。その直後に回復魔法を使います」


オレの魔力でアンジェ様の魔力を操作する事は出来た。後は魔力を生命力に変えて回復させるだけだ。これだけ重症の人を回復するのは初めてだ。

緊張で気分が悪くなる。胃が痛い。心臓がバクバクいっている。


「トルク、緊張しないで。大丈夫よ、貴方なら出来るわ」

「私を治してくれたのよ。貴方になら出来るわ」


アンジェ様と母親が応援してくれる。怪我人のアンジェ様に気を使ってもらうなんて情けない。深呼吸をしてクレイン様にお願いした。


「矢を抜いてください」


クレイン様は頷いてアンジェ様の矢を引き抜いた。アンジェ様が悲鳴をあげて体を動かそうとするが母親が体を抑える。

オレは傷口近くに手を当てて自分の魔力を操作してアンジェ様の魔力を生命力に転換して回復魔法を使う。傷が治るように魔力を生命力に変える為にオレは意識を集中した。傷口が光り、血が止まり、傷口が時間が戻るように治ってゆく。大丈夫か?きちんと治っているのか?


「これが回復魔法」

「凄い!」


誰かが言っているがオレの耳には聞こえない。アンジェ様の傷が治ってきている。これで大丈夫だろう。


「回復できたと思います。アンジェ様、気分はどうですか?」

「……少しふらつくけど怪我は大丈夫よ」


血が足りないのだろう。後でエリーさんに飲み物を持ってきてもらおう。


「アンジェ!良かった。本当に良かった」


無事に回復できたクレイン様はアンジェ様を抱きしめている。オレは気疲れその場に座り込んだ。無事に治って良かった。


「トルク、大変だったわね。ご苦労様」


母親がねぎらいの言葉をかける。本当に疲れたよ。オレは座り込んだままクレイン様から抱きしめられているアンジェ様の容態を聞く。


「アンジェ様、傷口は大丈夫ですか?」


クレイン様からの抱擁から解放したアンジェ様は傷口を触って確かめる。あ、アンジェ様の手が血で汚れている。手を洗う水も用意しないと。


「大丈夫だわ。傷口も無くなって痛くないわ」


大丈夫みたいだな。良かった良かった。


「トルク!アンジェを助けてくれて有難う」


クレイン様がオレの手を取って頭を下げてオレに礼を言った。


「頭を上げて下さい。当然の事をしたまでです」

「しかし、トルクが回復魔法を使えるとは……。一体いつから使えるようになったのだ?」


やっぱり質問されるよね。誰に教わったとかも。


「村に居たときに覚えました」

「誰から習ったのだ」


……流石に精霊から教わったとは言えない。クレイン様達なら信じてくれそうだけど、精霊に教わったと言って良いのだろうか?オレには判断できないな。どうしようか?


「リリア殿は回復魔法は使えない。村では魔法が使える人間は居ないはずだ。誰がお前に回復魔法を教えたのだ」


クレイン様からの威圧が少し強くなっている。なんて答えれば良いのか。この際、正直に白状するか。正し、教えるのはクレイン様とアンジェ様とレオナルド様と母親にだけだ。


「すいません。白状しますので母親とクレイン様とアンジェ様とレオナルド様だけにしてもらっても良いでしょうか?」


白状する。という言葉に母親が何を思ったかクレイン様に言う。


「トルクの言う通りにお願いします」


クレイン様は少し考えて。


「それなら義父上の参加も良いだろうか」


伯爵家に着いてから魔法が使えるようになった調査をするのですね。大人五人に囲まれて質問を受けるのですね。分かりました。四人も五人も変わらないでしょう。


「そうですね。バルム伯爵様も参加した方が良いでしょう」

「では、詳しい事は伯爵家に着いてからだ」

「それから襲ってきた兵達ですけど、何か暗い気配を感じます」

「暗い気配?」


伯爵家までの猶予を貰ったけど、母親が襲ってきた兵達の事を話している。暗い気配ってなんだ?


「まさか!闇魔法の洗脳か!」


洗脳?そう言えば闇魔法には洗脳や呪いや精神攻撃とかの陰険で悪質な魔法だったけ。後方に居たレオナルド様もこっちに向かってくる。


「クレイン様、襲ってきた兵達ですが、意識がハッキリしません。去年、襲ってきた賊達も同じ症状でした。闇魔法で洗脳されている可能性があります」

「……闇魔法か。洗脳を解除する方法は」

「光魔法で治す事が出来ます」


クレイン様、レオナルド様、母親とオレを見る。確かに光魔法は使えるよ。でも初級レベルのだよ。


「トルク!洗脳は解けるか?」


やっぱりそうだよね……。難しい顔のクレイン様やレオナルド様に言う。


「やった事がないので分かりません。光魔法は明かりを出す魔法しか使えませんから」


手を出して手の平から光魔法の光る玉を出す。久しぶりに使ったが大丈夫だな。光る玉でどうやって洗脳を解くんだ?この魔法は夜のロウソク代わり魔法だぞ。


「光魔法の回復魔法で洗脳は解けないのか?」


回復魔法を使うのか。光魔法が使えるからって回復魔法は使えないって精霊が言っていたから別物だと思っていたからな。

よし!回復魔法を使ってみるか。囚われている兵の前にオレとクレイン様とレオナルド様と一緒に行く。母親はアンジェ様の所に戻る。

オレとエイルド様が捕らえた気絶している兵の前に行き頭に回復魔法を使った。


「賊め!死ね!死ね」


……洗脳が解けない。回復魔法を使ったので気絶から回復してエイルド様から受けたダメージも回復している。


「……洗脳が解けていないな」

「トルクの光魔法なら洗脳が解けると思ったのですが」


回復魔法では洗脳は解けないんじゃないかな。次は光魔法の光球を頭に当ててみた。死ね!死ね!五月蠅かった兵が少しずつ理性を取り戻す。洗脳が解けたかな?


「……わ、私は、今まで何を?」

「意識が戻ったか?」

「記憶はあるか?」


……本当に洗脳が解けたのか?光球を当てるだけで洗脳が解けるのか?ただの光球だぞ。夜、暗いからロウソクの代わりに作った魔法だぞ。そんなお手軽魔法で洗脳が解けるのか?光魔法の光球で洗脳が解ける闇魔法の洗脳魔法は大した魔法じゃないんじゃないか?


「レオナルド!トルクと一緒に洗脳されている他の兵を回復させろ」

「わかりました!行くぞ!トルク」


レオナルド様に連れられて後方の兵達の洗脳を解いていく。ついでに怪我をしている兵達に回復魔法を使って回復させた。


「……全く、トルクは回復魔法まで使えるとは。お前を男爵家に連れてきたのは正しかったな」

「ありがとうございます。そして黙っていて申し訳ありません。母さんとの約束で秘密にするように言われていたので」

「リリア殿の言う通りだな。回復魔法の使い手は数が少ない上にほとんどは王都にいる。光魔法を使える人間は王族に仕えるか上級貴族に仕える。それに使い手が少ないから上級貴族が回復魔法を使える人間の親族を脅迫して仕えさせる事もある。リリア殿の言う通り喋らなくて正解だ」


親族を脅迫して仕えさせるって酷いな。いや、これが王都の貴族達には普通なのだろう。平民や下の人間を見下す貴族が多いらしいからな。見下すじゃなくて道具かな?使い勝手の良い道具だろう。

……本当に王都に行って大丈夫だろうか?

オレが回復魔法を使えるからマリーや母親や男爵家の人達に迷惑がかからないだろうか?

バックにはバルム伯爵が付いているけど大丈夫かな?伯爵様と相談した方が良いかもしれない。

怪我人を治して洗脳を解いてオレ達はクレイン様達の所に戻った。


「レオナルド、トルク、ご苦労だった。少し話したいからレオナルドは残ってくれ。トルクはアンジェ達の所に戻っていいぞ」

「では失礼します」


クレイン様に挨拶をしてオレはアンジェ様達がいる馬車に向う。兵隊さん達が警護する男爵家族が乗っている馬車にノックをして入る。


「トルク!お母様を助けてくれてありがとう」


ドイル様にいきなり抱き着かれた。びっくりした。思わず手が出そうだったよ。あぶねー。


「トルク!お母様を助けてくれて感謝する」


エイルド様が手を出す。握手かな?ドイル様に抱きしめられながら手を出して握手した。


「お母様を助けてくれてありがとう、トルク」


ポアラ様からも感謝された。しかし何故か不満顔で機嫌が悪い気がする。


「どうして回復魔法が使えるって言わなかったの?医療ギルドには回復魔法が使える人を探していたのに」

「申し訳ありません。回復魔法が使えることを言わないと母と約束をしていたので」

「私にだけでも言ってくれても良いのに」


やっぱり回復魔法が使えるのを黙っていたから怒っているのか。黙っていてゴメンね。


「良いじゃないの、ポアラ。貴方の婚約者は回復魔法が使えるのよ。絶対に逃がしちゃ駄目よ。トルク、怪我を治してくれて本当にありがとう。貴方のおかげで助かったわ」


着替えをしたアンジェ様から礼を言われた。顔色も悪くない。オレとポアラ様を引っ付ける会話は相変わらずだ。


「怪我の具合はどうですか?」

「大丈夫よ。なんともないわ」


怪我も問題ないか。オレ自身の簡単な怪我とかは良く治しているが、他の人に回復魔法を使うのは久しぶりだったが大丈夫みたいだ。


「アンジェ様、結構血を流したので水分の補給をしてください。それから体調が悪くなったら言ってください」

「分かったわ。ありがとう。でも回復魔法なんて何処で覚えたの?」

「その件は、伯爵家で言います」


あんまり言いたくないんだよね。何か良い考えはないかな?

偶々村に来た魔法使いに教えてもらったってのはどうだ?村人達に見つからない様にオレにだけ会えるか?村人の大半が死んでいるから大丈夫かな?

魔法使いの人は老人の男で腹をすかしていたから、サウルを渡した見返りに回復魔法を教えてもらったってのはどうだ?コツを教えてもらってそれを練習して母親を治せるようになったで良いか。元々母親には「頑張って練習した」ってしか言っていたからな。回復魔法を教えてもらった事は老人に口止めされたと言っておこう。

他に矛盾はないかな。顔はローブで見えなかった事にして。教えてもらった後は何処かに行った事にしよう。魔法のコツは精霊から教えてもらったコツで良いか。


「……ルク、トルク!」


おっとエイルド様から呼ばれている。考え事に夢中で気づかなかった。


「なんですか?」

「疲れているのか?」


疲れ?確かに今日は大変だったがサバイバルや子守よりも楽だ。ポアラ様の魔法を男爵家の壁や置物に当てないようにする方がキツイ。


「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました」

「全く、声をかけても返事をしないからな。別に心配なんてしていないぞ」


……これがツンデレというやつなのか。不機嫌な顔でそっぽを向くエイルド様。残念ながらオレにはツンデレ属性はない。微笑ましいだけだ。でも機嫌だけは取っておこう。


「エイルド様もお疲れさまでした。私だけでは兵を無力化する事が出来ませんから」

「トルクも良くやった。トルクが隙を作ってくれたから兵を倒す事が出来たんだ」

「でも子供がする事じゃないわ。貴方達にもしもの事が有ったらどうするの!」


アンジェ様から怒られる。十歳の子供が大人を相手にしたからな。それは心配するさ。それも最後は矢を撃ってくるし。アンジェ様が庇っていなかったらエイルド様が矢を受けていたかもしれないからな。

……それでもオレは回復魔法を使うけど。


「お父様に家族を守れと言われたので実行したまでです」


エイルド様。多分それは火に油だよ。


「貴方達が出るのは最後の手段です!貴族として兵をまとめて指示をするのです。兵が居なくても大人を頼りなさい。貴方達はまだ子供なのですよ。二人が兵に向かって行くのを見てどんなに驚いた事か!少しは考えて行動しなさい」

「ですが、魔獣や熊よりも楽勝でしたよ」


……それも火に油だ。謝ってくれよ、エイルド様。


「熊って、貴方達は何をしているのですか。トルク!どういう意味ですか!」


こっちに矛先がきた。でもサバイバルで熊を相手した事は知らないのかな?


「前にエイルド様と一緒に森の訓練をしたときに魔獣と熊に出くわして……」

「何ですか!それは!聞いてませんよ。リリアさんは知っているのですか?トルクも何をしているの!貴方達は今年から学校に行くのに心配ばかりさせて!貴方達が学校でトラブルを起こしても親が居ないから自分達で責任を取らないといけないのよ。王族に迷惑をかけない様、貴族達とも仲良くしないといけないのに、そんな考えなしの行動をする事は私達や貴方のお爺様にも迷惑をかけるかもしれないの」


この説教は長引きそうだ。いったいいつになったら終わるのか。ポアラ様は我関せずで外を向いている。ドイル様はオレ達とアンジェ様を見ておろおろ。


「ポアラ!貴方もちゃんと聞きなさい。学校での生活では友人を作って貴族としての付き合いをしないといけないのよ。貴方は……」


ポアラ様にも飛び火。三人で説教を受ける事になった。ポアラ様、オレを見ないで下さい。原因はオレじゃないと思います。

……オレがエイルド様の言葉に反応していたら説教はなかったかもしれないが諦めてください。人生とは理不尽と戦う事です。

オレ達は事後処理を終えて出発する事を伝えに来たクレイン様が馬車に来るまで説教を受けた。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
一般の貴族が理不尽100だとすると 男爵家は理不尽70くらいですね トルク側を少しは忖度してくれますが 肝心な所では強権を振りかざしてくる
[気になる点] 「リリア殿は回復魔法は使えない。村では魔法が使える人間は居ないはずだ。誰がお前に回復魔法を教えたのだ」 助けて貰っても、問い詰めるのですね。使用人の給料上げて貰わないとね。
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