14 伯爵領へ
今年も伯爵領のアンジェ様の実家に行く季節になりました。今回はエイルド様とポアラ様が王都の学校に通うので人員も荷物も多い。
去年は賊の襲撃にあった為、道中を護衛の兵達も増えている。
伯爵家に寄って数日泊まり、伯爵夫婦と共に王都に行く予定だ。だから王都に行くメンツは男爵家族と伯爵夫婦とオレと母親とマリー、それから護衛の人達と使用人達と一緒に王都の伯爵様の別宅に行く。
レオナルド様は伯爵領で用事を済ませて男爵領に帰る予定で王都には行かない。男爵様の代わりに仕事をする為に用事がすんだら男爵家に戻るらしい。その間はファルラさんが男爵家の事務仕事をする。大変だからカミーラさんにも手伝いを頼んだが……大丈夫かな?
イーズとエリーさんとモータルさんも伯爵家に戻り、イーズとモータルさんは伯爵家料理長補佐に、エリーさんも伯爵家侍女の仕事に戻る。カシムさんは王都でオレの料理を覚えて伯爵家の料理長に教える為に伯爵領と王都を行ったり来たりする予定だ。大変だと思うがカシムさんは旅好きでそんなに苦にはならないと言っている。
伯爵領に知り合いが居るマーナさんとミーナさんも伯爵家で侍女として仕事をする予定だ。両親の知り合いという事だけど二人はその人の事を知らないらしい。だけど二人は伯爵家に行く事を決めた。その知り合いが良い人物だと良いのだけど。
王都で学校が始まるとエイルド様とポアラ様は伯爵様の別宅から学校に通い、オレは二人の護衛兼使用人として学校について行く。マリーは別宅の使用人見習いで母親はオレ達の保護者として王都の別宅で生活する。
クレイン様とアンジェ様とドイル様は入学を見届けた後に男爵領に戻り、伯爵夫婦も王都の用事がすんだら伯爵領に戻る予定だ。ドイル様は兄弟と別れたくなかったようだかアンジェ様が見事に説得した。どんな事を言ったが知らないが、説得後、何故かドイル様がオレを見ている。ドイル様に何を言ったんですか?アンジェ様。
王都の学校は十歳から十五歳までの六年間だ。その期間はオレ達も王都で生活をする。来年は妹が王都の学校に来る予定だから伯爵様が保護をしてオレも一緒に王都の学校に通う予定になる。……卒業するまで王都に住む予定になるな。
卒業までだからオレも十六歳に、妹は十五歳になるのか……。
卒業までにもめ事等が無ければ良いのだが。王都では悪質な貴族や悪徳商人が多いらしいからな。気を付けてみんなを守れる事が出来れば良いのだけど。
今回の旅行は馬車が五台、兵隊さんの人数は五十人の大所帯だ。
男爵様一家と母親とマリーが馬車に乗って、残りの馬車は使用人さんと荷物の為だ。クレイン様やレオナルド様は馬に乗ってオレは今回も徒歩で伯爵領まで兵隊さん達と歩いていく。
……子供なんだからオレも馬車に乗せてくれないかな。
旅の初日は何事もなく野営所に着いた。だけど食事の用意が大変だった。イーズやモータルさんがいるけど去年と同じく男爵様一家の目の前で料理を作る。ドイル様が楽しそうに見ていたので火魔法を使ってダイナミックな炎の演出で盛り上げたら、アンコールが出たのでテンションアップで料理をしていたら、いつの間にか他の人達の料理にもやっている。食べた人達が「こっちの方が美味いぞ」言ったのでいつの間にか魔法を使った派手な料理を作る羽目になった。全員分を作り終わったときにはフライパンの持ちすぎで腕がプルプル震えて痛くなった。明日は筋肉痛だ。
二日目の旅も順調に進む。今回はトランプを用意していたから暇つぶしも問題なかった。途中でオレもエイルド様達とトランプをする。
相変わらず一位を独占しているドイル様。最下位はエイルド様かオレ。
なんとかエイルド様に一位を上げたいのだがドイル様の札運が強すぎる。これでもかってほど引きが強い。ドイル様は将来、凄腕のギャンブラーになるだろう。
エイルド様も札運は悪くはないがドイル様にはかなわない。ポアラ様やマリーもオレやエイルド様には勝っているのだけどドイル様には勝てないのだ。マジでパネェ子だ。
そろそろエイルド様が怒りそうだからトランプ遊びを止めてトランプ手品を披露した。宴会芸の為に手品本を買って覚えていて良かった。
ただ腕の筋肉痛の為、ネタがバレそうだった。
事件は旅行から三日目に起こった。
オレ達が伯爵領に入ってオレ達が襲われた川を渡り終えて今回は何事もなく伯爵家に行けると思った矢先に正面から複数の声がした。
見てみると伯爵領側の道から何十人もの人間が武器を持ってこちらに向かってくる。何事かと思ったがオレは男爵様家族が乗っている馬車の近くに向かった。
「ウィール男爵!武器を持った賊と思われる者が襲ってきています。数はおよそ二十人くらいです」
二十人も武器を持った賊が来ているのか!こちらの兵士はたしか五十人くらいいたはずだから数の上では有利だが……、どうしてオレ達を襲うんだ?
「三十人くらいを正面に出して対応しろ!残りは家族や使用人を守れ。アンジェ、私も前に出るからエイルド達と一緒に此処にいるんだ。トルクもリリア殿もここで皆を守ってくれ。エイルドも家族を守るように」
クレイン様はみんなに言い、レオナルド様に「行くぞ!」と言って兵隊さんと一緒に先頭に行った。
少ししたら先頭の方から鉄と鉄が打ち合う音や気合の入った声や悲鳴が聞こえてくる。かなり激しい戦闘の様だ。悲鳴を聞くたびドイル様やポアラ様やマリーが驚き、アンジェ様や母親が慰めている。エイルド様は馬車の外に出て先頭の方を向いて難しい顔をしている。オレも先頭の方を向いて男爵様やレオナルド様や兵隊達を心の中で応援をした。
「……お父様は大丈夫だろうか」
エイルド様の心配も解るがクレイン様やレオナルド様や兵達は強いから大丈夫だと思う。でも何があるか分からないのが戦争だ。オレ達が出来る事は。
「大丈夫ですよ。クレイン様は強いし男爵家の兵達も強いのですから。それよりもクレイン様に言われた事を守りましょう。ここでみんなを守ってクレイン様達の負担を減らしましょう」
「そうだな!ここでみんなを守ろう。敵は正面だけなのか?」
オレも敵は正面だけだと思うが後方には敵の気配はない。オレ達のいる中央部分に来るには先頭を突破するか後方を突破するしかない。周りは見晴らしの良い草原になっているから敵が来ると直ぐにわかるはず。
正面には戦っている三十人の兵隊さん達とクレイン様とレオナルド様。後方は兵隊さんが十人くらい、中央の十人くらいの兵隊達はアンジェ様達が乗っている馬車を囲んで守っているので大丈夫だろう。
あれ?後方の方から争っている音が聞こえる?敵か?
後方を見てみると兵隊達が争っている。どうして?同士討ち?何があった?
「エイルド様!後方で兵達が争っています。指示を出しましょう。クレイン様に連絡と後方の備えを。アンジェ様達にも伝えないと」
「わかった!お母様には私が伝える。トルクはお父様に伝えてくれ」
オレが先頭に行くの?守っている兵隊さんに伝えてもらおう。それよりもどうして後方で争っているんだ。それを調べないといけない。後方にも兵隊を出して調べてもらおう。
ヤバい!後方の兵達がこっちに向かってきた。血で汚れた剣を掲げて走ってくる。数は五人、こっちは伝令とか出して現在は八人だから何とかなると思うが魔法を使って援護しよう。
待て!エイルド様。どうして木刀を持ってオレの隣に立つ。危険だからアンジェ様の所に行ってくれ。
「トルク!どうなっているんだ?何が起きているんだ」
「詳しい内容は解りません。後方に兵を出して調べてもらっています。それよりも馬車の方に避難してください。ここは危険です」
後方の兵隊さんと中央の兵隊さんが戦闘を開始した。数はこちらの方が上けど後方の向かってくる兵は伯爵家から来た兵隊さんだ。男爵家で模擬戦をした事が有りかなり強い人達だ。中央の兵は二人掛かりで戦っているか一人余る。その一人が馬車の方に向かってきた。
どうして二人掛かりで対応する。こっちに敵が来るじゃないか!
「伯爵様を害する賊め!」
何故かオレ達を賊と勘違いをしている。襲ってくる兵は男爵家で一緒に剣の訓練をした人だ。伯爵家から来た人でランクはCランクでクレイン様達Bランクにはかなわないが他の兵達よりも強い。ちなみに普通の兵達のランクはDかEランクだ。
血で汚れた剣を掲げて叫びながら向かってくる兵士。周辺には兵隊さんは他の場所で戦闘中。男爵様家族と使用人しかいない。オレは武器になりそうな物は無い。
「トルク!オレ達で倒すぞ」
そう言うと思ったよ。エイルド様。母親にも手伝ってもらいたいがアンジェ様やポアラ様やマリーを守ってもらおう。
オレ達の行動に気づいた母親は敵が近づいてきたので魔法を使おうとするがマリーが母親に抱き着いて動けない。
木刀を構えるエイルド様。オレは無手なので魔法を使う。右手に水玉、左手に石礫で魔法の準備をした。相手の隙を付けば何とかなるはずだ。
「賊め!死ね」
怖い顔でオレ達に迫ってくる兵隊。オレ達が敵の前に立ちふさがるので相手は攻撃を仕掛けようとするが、オレは右手の水玉を相手の顔に当てる。一瞬でも視界を遮り敵の注意をそらす事には成功したようだ。
相手の視界を遮ったらエイルド様が相手の死角から木刀を横殴りで叩きつけようとしたが受け止められた。
兵はエイルド様に切りかかろうとするがオレは即座に左手に準備をしていた石礫を当てる。相手の鎧に当たり少しふらつく。
再度、エイルド様が木刀で相手の頭を強打しようとするが剣で受け止められた。
兵が受け止めた剣を力任せに払うがエイルド様はそれを見抜き、受け流して兵の頭を強打する。
頭に木刀と受けた兵は気絶する間際に「賊め」とか言って倒れこんだ。
兵を無力化して周りを見まわたす。
伯爵家の兵達がオレ達に襲ってくるなんて、どうなっているんだ?周辺をみると襲ってきた兵達の無力化には成功している様だが、こちら側も被害が出ている。クレイン様達は大丈夫なのか?
周りが静かになり、アンジェ様と母親がこちらに来た。
「二人共無事ですか?」
「私もトルクも大丈夫です。レオナルドに鍛えられているからこの程度なら楽勝です」
楽勝って、殺し合いに楽勝もクソもないだろう。オレは心臓バクバクだったよ。
「二人共、子供なんだからあんまり心配させないで頂戴。特にトルク!リリアさんに心配させない様に」
みんなを心配させた事は申し訳ないが、伯爵家の兵達が襲ってきたから仕方がないじゃないか。でも頭を下げて謝る。みんなを心配させたからね。でも、どうしてエイルド様には言わないのだろうか?
あ!クレイン様がこっちに向かってる。こっちに向かってなにか喋っているようだか聞こえない。え?なに?
その直後、アンジェ様がこちらの方に走ってエイルド様を押し倒した。母親が魔法を使い水壁で後ろから飛んできた矢を受け止める。
後ろを振り向くと飛んできた矢が水壁に受け止められている。まだ賊が居たのか?後方には矢を放った人間達が背を向けて逃げ出している。
クレイン様がオレ達の前に着く。
「アンジェ、エイルド!無事か?」
倒れたアンジェ様とエイルド様を心配するクレイン様。オレは母親が水魔法の水壁を作って矢から守ってくれたので被害はない。
しかし母親の水魔法は凄いな。オレが使う水魔法よりも水量が多い。感心しているとエイルド様が叫ぶように言った。
「お父様!お母様に矢が刺さってます」
エイルド様の声に振り向いて見るとアンジェ様の服が血で汚れて矢が刺さっていた。
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