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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
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13 使用人トルクの一日②

お茶に合うお菓子を考えながら台所に向かう。……何があるかな?

プリンの材料は卵と砂糖と……、あと材料は何だ?砂糖水か?

ソフトクリームは?……この世界に冷凍庫は無いだろう。

ケーキは?……スポンジの作り方を知らない。

ゼリーはどうだ?どこかの店にゼリーの元ってあるのか?

おはぎはどうだ?豆を砂糖で煮て……もち米を……。米が食べたいな。

そうだ!スコーンはどうだ?お茶に合うお菓子だ!これなら出来るかもしれない!

そうと決まれば作ってみよう。


「イーズ!すまんが手を貸してくれ」


オレは台所で仕事をしているイーズに声をかける。イーズに手伝ってもらおう。


「いきなりどうしたの?」

「詳しい事は後だ!今からお茶会に出すお菓子を作るから手伝ってくれ」


急げ!まずは生地だ!イーズに教えながら手伝ってもらう。ついでにエリーさんにも作ってやれ。きっと喜ぶぞ。

生地はこの位で良いだろう。型もこんな感じで良いかな?一口サイズにして食べやすくしよう。パンを焼くようにかまどに入れる。……焼き時間はどのくらいだ?仕方がないから見た目とカンで判断しよう。

焼けたが見た目は不格好だ。味の方はどうだ?……美味くない。分厚いクッキーの様だ。どうして?


「お、美味しい!こんなお菓子初めて食べたよ!」


イーズは美味いと言っているがこれのどこが美味いんだよ!失敗したな。こんな完成度のお菓子ではポアラ様に出せない。オレはスコーンを諦めて次の案を考えるが、お茶会の時間が迫っている。他にオレが作れるお菓子はあるか?


「トルク!ポアラ様たちの為にお茶会の料理を作っているんだって?完成した?私達の分もある?そろそろ時間だから用意して行くわよ」


……クララさんがタイムリミットを伝える。この失敗作はポアラ様に食べさせるのは料理人として負けを意味する。

ちょっと待って!クララさん。スコーンモドキを持っていかないで。それは失敗作だから!


「何言っているの?こんな美味しそうなお菓子をアンジェ様やポアラ様達に出さない訳ないでしょう。貴方も来なさい。エイルド様もドイル様も待っているわよ」

「……今日のお茶会はポアラ様だけですよね」

「貴方がポアラ様の為にお菓子を用意するって話になって、アンジェ様とエイルド様とドイル様も参加するのよ。さあ!行くわよ」


だからスコーンモドキを持って行かないで!美味しくないから、失敗作だから。イーズも何か言ってくれ!スコーンモドキを作ってないで助けてくれよ。


「イーズはエリーや私達の分のお菓子を作ってくれるのよ。イーズ、お願いね」

「エリーの為に頑張ります」


クララさん、待ってくれ!腕を引っ張らないで下さい。


「失礼します。お茶のお菓子とトルクを連れてきました」


クララさんに引っ張られてお茶会に着いたオレが見たのは明るいエイルド様とドイル様。この二人はお菓子を食べたくてお茶会に参加したようだ。

ニコニコ笑うアンジェ様とクレイン様。アンジェ様がお茶会に参加するのはわかるが、どうしてクレイン様が参加している?貴方は仕事中でしょう?そんなに食べたかったですか?お菓子に釘付けですよ。

そしてオレの婚約者?のポアラ様。お茶を飲みながらこっちの方を見ている。お菓子に釘付け……ではないな。多分オレのせいでお茶会に参加する人数が増えて魔法の勉強が出来ないから怒っているのかな?

オレとポアラ様の二人だけならお茶を飲みながら医療ギルドの話や魔法の勉強が出来るが、今回は家族全員でお茶会だからな。魔法の勉強が出来なくて怒っているのか。このお菓子で機嫌が直ればいいが。

オレはポアラ様の正面のテーブルに座る。隣はエイルド様とクレイン様だ。ポアラ様の隣はアンジェ様とドイル様。侍女さんがお茶を用意して、クララさんがスコーンをテーブルに置く。


「これがトルクの作った新作のお菓子です。名前は……、なんて言うの?」


自信満々にお菓子の説明をしようとしたクララさんが名前でつまずく。仕方がないからオレが説明をする。


「名前はスコーンです。焼き菓子の一種でお茶に合うと思います。時間が無くて上手く作れませんでした。誠に申し訳ありません」

「ふふふ、トルク!オレは知っているぞ!お前の舌がおかしい事を。お前がイマイチって事は美味いって意味だ」


エイルド様!なんですか、その意味は?オレの舌がおかしい?酷くね。


「トルクが作るものは美味いのは知っている。だがトルクの美味しさの基準が高すぎるのだ」


クレイン様、完成度が高いっていうか、本当に美味しくないんだよ。キチンとしたお店のスコーンの方が美味しいんだよ。


「トルクに美味い、良い出来と言われるようにデカルやモータルが頑張っているからね」


アンジェ様、本当にイマイチなんですよ。オレが作る料理よりもファミリーレストランの方が美味いからしょうがないでしょう。オレが作る料理は男料理の延長ですよ。


「トルク!早く食べようよ。こんな美味しそうなものを作るなんて、トルクは天才だよ」


ドイル様、持ち上げないで下さい。尊敬する眼差しで見ないで下さい。オレは天才じゃなくて愚者です。

皆が話している中、一人だけスコーンを食べているポアラ様。一口食べて味わっている。味はどうですか?


「トルクの作る料理はいつも美味しい」


合格点は貰えたようだ。明るい声でお菓子を褒めてくれた。仮の婚約者に料理を褒めてもらい少し嬉しい。


「ありがとうございます。ポアラ様」

「美味しいぞ!トルク」

「美味しい!」


皆から美味しいと言われてオレも一口食べるが、……やっぱりイマイチだ。なにが足りないんだ?生地の卵と砂糖の比率が違うのかな?そう言えばドライフルーツを入れたスコーンがあったような気がする。今度はドライフルーツを入れてみるか。


「……トルク!」


あ!クレイン様に呼ばれている。考え事をして返事が遅れた。


「すいません、少し考え事をしてました」

「今回のお菓子はポアラの為に作ったのだろう?二人の仲も順調のようだな」


……順調なのか?今回はエイルド様とドイル様に言われてプレゼントの代わりにお菓子を作ってみました。


「本当にトルクはポアラの事を大切に思っているのね」


……エイルド様とドイル様に言われて作ったんです。ごめんなさいアンジェ様。


「それで二人はいつもどんな会話をしているの?」


二人のときの会話か……。主に魔法の事や医療ギルドの事について話し合っています。本部をバルム伯爵領に置いて支部を男爵領に置く。医療方法をマニュアル化して誰でも治療を出来るようにする。薬の常備や保存法を考えたり、回復魔法の使い手を本部に置いて回復魔法の使い手を増やすなど二人で話し合っています。ポアラ様はギルド長として君臨してオレはポアラ様の補佐と雑務全般を担当することになっている。

そんな事をアンジェ様やクレイン様に言える訳がない。正直に言ったらポアラ様が怒られるだろう。オレも怒られるかな?


「魔法の事や医療ギルドの事を話している。私がギルド長でトルクが補佐をする事になっている」


……正直に言わないでください。フォローが大変なんですよ。ほらクレイン様とアンジェ様が呆れているじゃないですか。


「他にもポアラ様の料理の好みとか、王都に行ってしたい事とかも話していますよ」


ポアラ様の事なんて皆でお茶会をした時と最初のお茶会のときに話したきりだ。ほとんどギルド設立と魔法の会話しかしていない。他に何か会話をしたっけ?……マジで思い出せない。


「ポアラはトルクの事は聞いている?トルクが将来の事や好みとか?」


オレの好み?アンジェ様の疑問で少し考える。

オレが将来したい事……。まずは家族が幸せに生活する事だ。母親と妹と幸せに暮らすことが将来の夢だ。

それ以外は?オレがしたい事?……思いつかないな。前世で出来なかった事と今世でしてみるか。知らない場所に旅行とか良いな。他には登山とかはどうだろう?山に登ってコーヒーでも飲むのも良いかもしれない。それから食い倒れツアーをしてみるか。


「……ルクはどうかしら?」

「トルク、トルク!」


エイルド様の声で考え事を中断する。皆がオレを見ている。どうしたんだ?


「トルク、どうしたんだ?ボケーとしていたぞ」

「すいません、エイルド様。少し考え事をしてました。申し訳ありません」

「お父様とお母様の話を聞いていなかったな」

「申し訳ありません」

「全く。トルクは将来なんになるんだ?勿論、オレと一緒だよな」


エイルド様と一緒というと世界一の剣士の事か?待ってくれよ!オレは殺伐とした世界には居たくないぞ。


「違うよ!トルクは将来僕の右腕として領地を豊かにするんだよ」


ドイル様!次男だから領主経営は難しいでしょう。ウィール男爵家はエイルド様が継ぐから、他の領地の婿になって継ぐんですか?


「ハハハ、トルクはポアラと結婚をして伯爵家を継ぐかもしれないぞ」


バルム伯爵領の継承権は未定です。それにエイルド様かドイル様が継ぐかもしれないじゃないか。……そういえばエイルド様もドイル様も継承権は持っているからオレじゃなくても良いんだよな。ドイル様も婿養子にならなくて済むし。

エイルド様が世界一の剣士になった後に伯爵家を継いでドイル様が男爵家を継ぐ。オレは二人の補佐になるのか。二つの領地を補佐するなんてすごく大変じゃないか?


「それでトルクは将来何をしたいの?」


お茶を飲みながらアンジェ様が聞いてきたので答えた。


「将来はまだわかりませんが家族と幸せに暮らしたいですね」

「リリアさん達と幸せに暮らす事ね。そしてポアラと結婚して子供を産んで家族で幸せに暮らすのね!とても良い将来だわ」


なにがなんでもポアラ様と結びつける会話をするアンジェ様。この人も大変だな。そんな事を考えていたらドイル様がオレに聞いてきた。


「ねえトルク。子供ってどうやって産まれるの?」


……その答えをどうして子供のオレに聞くんだ!それ以前になんて答えようか?オレは見た目は子供だから、ここは常識ある大人に答えてもらおう。だから。


「私もよく知りません。クレイン様とアンジェ様に聞いてみてはどうでしょうか?」

「そうなの?トルクも知らない事があるんだね」


明るく言うドイル様。両親を見るエイルド様とポアラ様。そしてドイル様からの質問に何て答えるか知りたいオレ。

この世界の大人はどんな答えだ?コウノトリの代わりの鳥は何だ?キャベツ畑の代わり野菜は何だ?


「それはね、神様にお願いしたら子供を貰えるのよ。私達が神様に一生懸命、願ったからエイルドやポアラやドイルが私達の所に来てくれたの。神様にお願いしたとおり元気で明るく優しい子供達を私達に授けてくれたわ。だから皆も神様に感謝しないとね」


なるほど……。魔法がある世界だ。神様のせいにすれば問題ないのか。太陽が動くのも神様のせいにしたり、夜が来るのも神様のせいにした方が良いのかな

「結婚をしたエリーとイーズも教会でお願いをしたから子供を神様から授かるわ。その子供と仲良くしないとね」


子供達に言って子供の生まれ方の会話は終わった。オレも今度から神様のせいにしよう。

その後男爵様一家とお話をしてお茶会は終わった。マナーに気を付けたり話に参加したりお茶会はめんどくさい。




クララさんや侍女さん達とお茶会の後片付けをしてオレは次の仕事に向かった。次の仕事は……。


「トルク、ちょっと手伝ってくれ!」


次の仕事はダミアンさんの手伝いか。どんな用事だ?


「王都に行く用意を手伝ってくれ」

「わかりました」


伯爵家経由で王都に行くのは男爵様一家とレオナルド様とオレと母親とマリー、それから一部の侍女と兵隊さん。祖母は男爵家に残るそうだ。祖母は王都には行かずに男爵家に残って仕事をする。

他にイーズとモータルさんとエリーさんは伯爵家に戻る。カシムさんはオレが居る王都と男爵家と伯爵家を行き来して料理をデカルさん達に広めるそうだ。その他にマーナさんとミーナさんが伯爵家で働く。

伯爵家から来た兵隊さん達の半分は男爵家と伯爵家の見回りを続けるらしい。男爵家の料理が美味いから残ることを希望する人達が多かったらしい。伯爵家でも料理が向上しているかもしれないよ。

王都で生活をするエイルド様とポアラ様。それからオレと母親とマリー。男爵家の侍女さん達と兵隊さんだ。王都の伯爵家の別宅でも使用人はいるが家を維持するだけの最低限の人数しかいないらしい。


「トルク!その荷物は持って行くから箱に詰めてくれ。そっちの荷物はあっちの箱に。この箱は……なんだ?」


空の箱の中に布が敷いてあって布団の様になっている。小さい枕みたいなのが三つ。なんだこれ?


「これは中身の布は洗って使えるだろう。箱は使うからあっち側に置いてくれ」

「わかりました」

「他の荷物を持ってくるから整理を頼んだぞ」

「はい!」


ダミアンさんが部屋を出て行き、オレは箱を持って行こうとすると。


「こら!オレ達の住処を何処に移動させる気だ」

「折角の頑張って作った住処だぞ!」

「この枕を見ろ!良い出来だと思わないか」


……精霊三人衆の住処かよ。こんな所に寝床を作っていたのか。


「この場所は男爵家に所有権が有りますので精霊は使用できません。退去して頂きます」


勝手に箱を占拠するな!出て行け!情けで布と枕は置いてやる。


「オレ達の住処が権力者に壊される」

「横暴だぞ!それが人のやる事か!」

「精霊にも権利があるはずだ!」

「許可なく勝手に作って何を言っている。この布と枕はどっから持ってきたんだ?」


何処かで見たような布だな?布を広げてみると……服だな、それも着心地が良さそうな女性の服だ。思い出した!ポアラ様の服だ!枕はハンカチを畳んだ物だ。


「おい!この服はどっから盗んだ!」

「盗んだとは人聞き、いや精霊聞きが悪いな。ちゃんと許可は取ったぞ」

「服とハンカチを頂戴って言ってな」

「承諾は沈黙を以ってねって言ったぞ」

「本人に聞こえないなら、意味ないだろう!」


こいつらを男爵家に連れてきたのは間違いだった!頭を抱えるオレに精霊達は言う。


「すまん、どうしても寝床が欲しくてな」

「良い匂いの布団が欲しくてな」

「柔らかい枕が欲しくてな」


だからってどうしてポアラ様の服を取ってきたんだよ。


「他にも大人の服も使っていたぞ」

「布団と枕は三日に一回は変えているかな」

「使い終わった布団と枕は返しているぞ」


三日に一回は布団と枕を変えているって事は、色んな所から盗んでいたのか。使い終わったら持ち主にしれっと返しているのかよ。このクソ精霊共め!


「とりあえず箱は奥に置いておくからな」


こいつらと会話すると頭が痛くなる。この世界には頭痛薬がないのが欠点だよな。偏頭痛持ちの人間は大変だよ。


「全く、今度は見つからない様にしろよ。それから服ではなくてタオルとかシーツとかを布団にしろ」


箱を奥に置いて作業を再開する。


「なあ、オレの本体の壺はどうするんだ?」


いきなりだな。精霊其の二。黄金の壺は男爵様に預けているぞ。


「壺は男爵家に置いておくのは心もとないから、伯爵家に移動させるらしいぞ。伯爵家に保管する場所があるのかな」


この荷物はこっちだな。オレが見つけたらオレの物らしい。値打ち物だから保管する場所がない男爵家ではなくて伯爵家で保管する事を聞いて直ぐにお願いした。別に壺なんて男爵様に譲っても良かったのだけど、やんわり断られた。今度は伯爵様に譲るかな。


「また移動できるんだな。今度の場所はどんな所だろうな」

「楽しみだな。トルクと出会ってから色んな所に行けるぞ!」

「今度はどんな所かな?次の住処は大きくしないか?」

「良いな。今度は個室を作るか」

「あと食堂も作ろう」


……伯爵家に質の悪い精霊が住み着くようだ。阻止するべきなのかな?でもオレは王都に行くから被害はないよね。いっその事壺は伯爵家に封印してもらった方が良いな。


「待たせたな、追加の荷物だ」


ダミアンさんが戻ってきたので仕事を手伝う。精霊の事は無視して仕事をしよう。




夕食を終えてやっと仕事も終わった。後は部屋でダラリと過ごす。部屋にはオレと母親とマリーと祖母がいる。母親とマリーと祖母は三人で話しており、オレはベッドで横になりながらゆっくりしている。


「お祖母ちゃんは王都には行かないよね」


「歳だし、長距離の旅は体にキツイわ。領主様から縫い物の仕事を貰っているから大丈夫よ。それにマリーも男爵家には戻ってくるんでしょう。私は大丈夫よ」

「でも……」

「長期の休みには男爵家に帰ってくるんでしょう。王都での出来事を楽しみに待っているわ」

「わかった。お土産も買ってくるからね」

「楽しみにしているわ。トルクもお話を聞かせてね」


オレに会話が来たか。起きて祖母に話しかけた。


「お祖母さんは、お土産は何が良いですか?食べ物?それとも置物?」

「トルク、食べ物のお土産は腐るわよ」


母親からダメ出しを食らった。そうだよね、この世界の食べ物は賞味期限が短かったよ。


「だったら王都の食べ物をオレが再現してみようか」

「それは美味しそうね。楽しみに待っているわ」


祖母も明るくなった。祖父と叔父さんが死んでからしばらくは寝込んでいたからな。回復してよかった。


「そう言えばルーシェは王都に居るみたいだから、私達の事を伝えてきてね」


ルーシェって誰?


「そうなの?村を出たって聞いてたけど、あの子は王都に居るの?知らなかったわ」

「数年前に手紙が来てね。今は王都の店で働いているって書いてたわ」

「店の名前は?」

「……それが忘れて覚えていないの。手紙もないし」


母親や祖母の知り合いなのかな?マリーを見るが二人の会話を頷きながら黙って聞いている。マリーはルーシェって人を知っているのかな?


「ねえ、母さん。ルーシェさんって誰?」

「……言ってなかったかしら。私の妹で貴方の叔母よ」


初めて聞いたよ。


「私が村を出て行ってからルーシェも村を出て行ったみたいで、今は王都に住んでいるそうよ」

「私、ルーシェ叔母さんに会った事ないから楽しみ」

「あの子は変わっていてね。数年前に手紙が届いただけだけど、あの子の事だから大丈夫でしょうね」

「ルーシェは相変わらずのようね。安心した方が良いのかしら」

ルーシェ叔母さんは変わっているらしい。常識人の母親にそんな事を言われているなんてどんな人なんだ?すごく気になる。

「ねえ、変わっているって、どんな風に変わっているの?」


マリーが祖母と母親に聞く。二人は思い出して苦笑いをしている。


「あの子は子供の時から変わっていてね。リリアから勉強を教わっていたときに急に立ち上がって「これからは商人の時代よ」と言って家を出て偶々村に居た行商人の人からナイフを買ったわ。お金を持っていなかったから自分の髪を売ってナイフを売ってもらったの。ボサボサの髪で家に戻ってきたときにはリリアが気絶しそうだったわ」

「本当に気絶しそうだったわ。その後が大変だったわ。お父様や兄さんからは怒られてもものともせず、村の子供達から馬鹿にされたら殴るし、私が謝っていたのよ」

「ナイフで木を削って皿やコップを作って行商人に売っていたけど、そんなに売れなかったみたいね」

「皿やコップが歪だったからね。それを指摘した子供達はまた殴られたわ」


……結構、凄い叔母さんの様だ。それも行動的で手が早い人だな。


「成人したら他の街に行くって言って、家を飛び出したときも大変だったわ。その年は凶作で食料が少なくてね。あの子は食い扶持を減らすために家を出たのね。その後、ルーシェからの手紙と少しだけどお金を送ってくれて助かったのは良いのだけど。手紙に「貴族を殴って仕事を首になりました」って書いてあったから気絶しそうになったけど、裏面に「嘘です」って書いているの。私はあの子の育て方を間違ったかしらって思ったわ」


それもユーモアセンスに溢れているジョークが好きな人だな。


「私も育て方を間違ったみたいね。ルーシェは大丈夫なのかしら?」

「王都で会ったら詳しいことを聞いて頂戴」

「私もルーシェ叔母さんを探すね。お祖母ちゃん」

「お願いね」


王都に住んでいると思われる叔母さん。かなり変わった性格の様だ。


「そろそろ寝ましょう。明日も早いからね」


母親の言葉にオレ達は寝る準備をする。今日も仕事を頑張った!明日に備えてゆっくり寝よう。


「そう言えば、私も服が数日間なくなっていたの。トルクは服がそんな事はなかった?」

「私も服がなくなってと思ったら、いつの間にか出てきた」

「私の方はリリアのタオルがなくなったと思ったら出てきたわ」

「……知らないよ。母さん、マリー、お祖母さん」


知らん!オレは何も知らない。精霊の馬鹿どもが布団代わりにしているなんて言える訳がない。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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