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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
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11 ショッピング

サブタイトルを変更した方が良いと思いました。少しずつ変更する予定です。

季節が寒い時期になり、本日はレオナルド様と一緒に事務仕事をして男爵領の書類整理を手伝っています。


「……レオナルド様、人を雇いましょうよ。二人でする仕事量ではないと思います」

「確かに二人でする量ではないな。前は部下が居たから問題なかったのだが……」

「その人を呼んで一緒に書類仕事をさせましょう」

「残念だがもうこの世にはいない。戦死した」


書類を見ながら淡々と答えるレオナルド様。


「確かにこの量を二人でするのは難しいか。誰か手伝ってくれる人はいるかな?」


悩む上司を見て俺も考える。マリーやイーズは無理だし、エリーさんは侍女の仕事で忙しいだろう。母親はどうだ?


「リリア殿を手伝わせるくらいなら徹夜する」


オレは手伝わせていいの?オレはその人の子供だよ。

良い人材を募集する方法を考えよう。給料と仕事時間を書いた広告を出して募集してみるか?最後に詳しい内容は面接にて、と書いていれば大丈夫だろう。この程度ならブラック臭はしないだろう。

考えながらレオナルド様の手伝いを終える。この後は久しぶりの休みだ。町で母親とマリーと買い物をする予定だ。オレ的には部屋で寝ておきたいが母親とマリーに買い物に誘われたのでオレも行く事にした。


「トルク、誰か書類整理が出来る人材を探してみてくれ。読み書きが出来て、数字に強く、教養のある人材でいい。私も探してみるが頼んだぞ」


そんな人材がこの男爵領に居るのか疑問だが探してみよう。そしたら楽になるはずだ。

部屋に戻ったら母親とマリーが待っていた。


「お兄ちゃん!遅いよ!遅刻だよ」


段々とオレへの当たり方が厳しくなっている妹分を見て笑った。親が亡くなって寂しい顔をするよりもマシだしな。


「ゴメンゴメン、すぐに着替えるから待ってくれ」


急いで着替えて三人で部屋を出る。するとクララさんが話しかけてきた。


「リリア様、申し訳ありませんがお願いがあります。私達も一緒に町に連れて行ってくれませんか?」


クララさんと三人。盗賊に攫われて男性不信になった女性達だ。赤い髪のカミーラさん、金髪姉妹のマーナさんとミーナさん。

三人はクララさんと同じ部屋で生活しておりクララさんの甲斐甲斐しい介護もあって笑顔が増えている。男爵家の仕事も頑張って男性陣にも少し距離を置くなら話せるようになった。

ちなみに夫のデカルさんはダミアンさんのところで寝泊まりしている。男性恐怖症の女性を守る為にクララさんに部屋から追い出されて悲しんでいたところをダミアンさんに拾われたそうだ。


「皆さんが町に行くなら連れて行ってくれませんか?町までは馬車を使っても良いとアンジェ様には許可をもらいました。町の案内も出来ますし三人にも服を買おうと思っているのです」


……馬車が使えるのは有難い。しかし男性1人に女性六人か。男女比が半端ねえな。

それから用意している馬車に乗って町に出かけた。町は男爵家や農園から少し離れたところにある。農園から町に通じる道でみんなと会話する。


「この間はごめんなさいね。今日はキチンと男の子に見えるわよ」


カミーラさんが笑いながらオレに向かって言う。……帰ってから母親に髪を切ってもらいましたから、そんな事を言わないで下さい。


「何の話なの?」

「私達が初めてトルク君と会った時は髪が長くて女の子に見えたの」

「?お兄ちゃんが女の子に見えたの?」

「可愛かったから女の子に見えたの」


マリーがオレを見てカミーラさんを見ながら言った。


「お兄ちゃんは叔母さんに余り似てないけど可愛いかな」


オレは年下のマリーにも可愛いと評価されるのか。何気に酷くない?これでも男なんだよ。可愛いって言われて嬉しい男はいなんだぞ!


「トルクが可愛いくて綺麗なのはわかりますよ。侍女達も着飾ったら女の子に見えるかもって言ってましたからね」


マジですかクララさん。オレの尊厳の為に侍女達の暴挙は止めて下さい。そして綺麗ってなに?


「今度、侍女服で仕事してみる?カミーラ達の先輩として仕事を教えてくれたら私の仕事量も減るのだけど」

「謹んでご遠慮いたします。そんな事になるのなら農園の開拓地で仕事します」

「可愛いから似合うと思うのよね。今度着てみない?今日はお洋服も買いに行くのだもの。どんな服が似合うかしら?」

「はーい!マリーとお揃いの服」

「明るい色の服が似合っているかも」

「リリア様の様な落ち着いた色の服も良いですね」


マリーとカミーラさんとマーナさんがオレの着る服に付いて色々相談している。ミーナさんも参加したいのか三人を見ているよ。

良いさ、そのくらいの話題くらい提供してやるよ。それで彼女達が明るくなるなら安いもんだ。


「今度アンジェ様に相談してみましょうか?」

「それだけは勘弁してください」


マジでそれは止めてクララさん。アンジェ様の耳に入ったら絶対に女装させられる。




男爵領の町は伯爵領の街と比べればそんなに大きくない。しかし町には人も多く住んでいて、明るい顔で皆は仕事をしている。道端の露店も賑わいを見せている。この町にはこんなに人が住んでいたのかと思うほどだ。


「まずは此処の露店通りで買い物をしましょう。次にお昼を取ってそれから服を買って帰りましょう」


クララさんが仕切っている。今日は皆で行動する事。オレとマリーには迷子にならない様に母親と一緒に居る事。マーナさんとミーナさんも人が多いけど怖がらないで毅然とした態度を取るように。カミーラさんにもオレとマリーを見ているようにと指示を出す。


「それから裏道には入らない様に。危険ですからね。トルクも気を付けるように」


どうしてオレだけに言うか分からないが承諾しておく。

クララさんを先頭にみんなで露店を見て回る。食べ物から日用品まで色々有るな。


「このリボン可愛い」

「マリーちゃんの髪に合う色ね」

「ミーナはこの色が似合うわね」

「この櫛は……、良さそうね。買って行こうかしら」

「それよりもこっちの櫛の方が良くない?」

「あら、あっちには木のコップが有るわね」

「皿も有るわね。買った方が良いかしら」

「クララさん、これは何かしら?」

「あら珍しい物が有るわね。買っていこうかしら?デカルにこれを使って……」


女性は買い物が好きだな。オレも初めて露店通りを見て回る。あの屋台の食べ物は美味そうだな。あれは布?布巾?ハンカチ?まあ布だな。おや包丁がある。やっぱり刃物は高いな。おや隣は角材?こんな短い角材なんてどうするんだ?


「いらっしゃい」


暗い声の女性だな。もう少し明るい声で接客しようよ。暗い声じゃ客が引くよ。……あれ?この人って確か。


「ファルラさんですよね」

「貴方はトルク君」


この人は盗賊に攫われて男爵家で保護した人だ。確か男爵領の町に親族が居るからそっちを頼ったんだよね。親族がいないカミーラさん達とは別でこの人だけは男爵家に頼らず親族を頼った女性だ。


「お久しぶりです。元気でしたか?」


声を聞く限り元気とは思えないが。


「ええ、親族を頼って生活をしていたけど、賊に攫われたときの恐怖でまだ男は怖いし、頼った親族からは白い目で見られて居場所がないわ。親族の店で働こうと思っていたけど働かせてくれないし。今は生活費を稼げと言われて露店でこれを売っているの」

「角材なんて売れるんですか?それも短いし」

「こんなの売れる訳ないわ。嫌がらせよ。でも売れないと親族達から責められるの。私も最初は頑張ったわ。でもこんな物売れる訳ないわ」

「なら男爵家で働かない?カミーラさん達と一緒の職場なら安心して生活できると思うわ」


クララさんいつの間に来たの?いや、全員来てるし。


「ファルラさん、辛かったのね。私達と一緒に仕事しましょう」


ファルラさんが泣き出しクララさんが慰める。辛かったんだね、ファルラさん。母親やマリーやカミーラさん達も慰めている。


「トルク、ファルラさんを慰めるから少しここに居て頂戴。みんな落ち着ける場所に行きましょう」


クララさんがオレに言って女性陣は全員どこかに行った。ファルラさんの露店はどうするんだよ。


「……えー、いらっしゃいませ。角材はいかがでしょうか」


角材なんて売れる訳ない。仕方がないから隣の刃物を売っている店でノコギリを買う。少し高かったから値切ってやった。ノコギリと持っていたナイフで積み木を作る。正方形や長方形や三角の簡単な積み木を作る。作った積み木で家っぽい様に組み立てる。


「なあ、坊主?その角材を組み立てている物はなんだ?」


隣の刃物を売っていたおっちゃんがオレに聞いてきた。


「普通の角材なんて売れる訳ないだろう。だから売れるように工夫してみた」

「その組み立てているのは面白いな。その角材はいくらだ?」

「露店の主がいないから分からん。おっちゃんならいくらで買う?」

「そうだな。銅貨五枚でどうだ?」


銅貨五枚。露店で売っている食べ物が銅貨五枚。食べ物と同じ値段か。


「安い。却下する」


……角材を積み木に変えて組み立てる。家っぽくなってきたな。


「なら銅貨十枚でどうだ?」


倍になったな。でも露店の食事二回分か。


「安い。却下する」

「なら銅貨二十枚ならどうだ?」


おや?隣のおっちゃんではなくて客か?声の方を見ると何人もの人が積み木の家?を見ている。


「オレは銅貨二十五枚だ」

「なら銅貨三十枚だ」

「銅貨三十五枚」

「銅貨四十枚だ」

「銅貨五十枚だ。最初の十倍だぞ」


十倍まで跳ね上がったな。しかし角材の値段がわからないからな。簡単には売れないな。……どうしようか?


「私は銀貨二枚で買おう。これ以上は出せないだろう」

「なら銀貨二枚と銅貨十枚だ」

「銀貨二枚と銅貨二十枚」

「オレは銀貨二枚と銅貨五十枚」

「私は……」


いつまで続くのだろうか?それ以前にいつになったら女性陣は来るのだろうか?


「銀貨四枚と銅貨二十五枚」

「銀貨四枚と銅貨四十枚」


現在、二人が争っている。一体いつまでやっているんだ?周りの人達もだいぶ増えたな。あ、母親やマリーが野次馬の中に居る。クララさん達もいるよ。ファルラさんを呼んで角材の元値を聞かないと。


「トルク!一体何しているの?」


クララさんに怒られた。何故に?


「角材を売っているんですけど」

「どうしてこんな騒ぎになっているの?」

「貴方はデカルの妻のクララだな。この木を購入したい。銀貨五枚だ。これで頼む」

「私は銀貨五枚に銅貨十枚だ。クララさん、これで頼む」


二人に責められたクララさんは訳が分からず戸惑っている。その間にオレはファルラさんを呼んで角材の元値を聞いた。


「角材一本で銅貨一枚よ」


角材を十本くらい切って作ったから元値は銅貨十枚か。


「銀貨六枚だ」

「はい!貴方に売ります。ありがとうございました」


元値の六十倍になりました。裕福な男性から銀貨六枚受け取ってファルラさんに渡す。


「はい、売り上げです」

「なんで普通の角材が銀貨に変わるの?おかしいでしょう」

「普通の角材では売れないから売れるように頑張りました」

「頑張りました、じゃないでしょう!普通あり得ないでしょう」


ファルラさんも良い具合で混乱しているな。オレの肩を掴んで揺らしている。あんまり揺らさないでよ。気持ち悪くなる。


「ファルラさん落ち着いて。トルクが喋れないわ」


母親がファルラさんを止めた。ありがとう、助かった。


「もう、売る物が無いからここから離れましょう。皆さんも片付けを手伝って。少し遅くなったけど次は服を買いに行きましょう。その後はファルラさんの家に行って引越しの手伝いよ」


露店の片付けをしてオレ達は露店通りを後にした。それからオレとファルラさん以外は服を買いに行きオレ達は店の外で待つ。


「ねえ、一体どうやって角材を売ったの?」

「普通の角材は売れないから角材を切って積み木にして売ったんです」

「積み木って、何なの?」


……そこからか。この世界には積み木は無いのか。ファルラさんに積み木の説明をする。


「貴方は何て事をしたの?新しい物をこんな露店の店で出すなんて。キチンとした店で出したら大儲けできるわよ」

「いやー、オレもあそこまで値段で売れるとは思わなかったんで。運が良かったですね」

「運が良い悪いの問題じゃないわ。私ならもっと儲ける事が出来たのに」

「商売は出来るの?」

「亡くなった彼と一緒に商売をする事が私達の夢だったわ。彼が仕入れたり売ったりして、私が帳簿を預かる。両親と彼と一緒に店を大きくして頑張ろうとしたのに私以外は亡くなったわ。盗賊に捕まった時はどうして私は生きているのだろう。皆と一緒に死んだらこんなに悲しむ事はなかったのに。彼も両親も亡くなり、親族は私も除者にして、嫌がらせで露店では角材を売らせる。何度死のうと思った事か。死んで彼と両親のもとに行けるなら怖くないって思っていたのに死ねなかったわ」


ファルラさんは男爵家を出てから大変な目に遭ったんだな。


「夢を見たの。彼と一緒に将来の夢を語った夢よ。彼と一緒に店を構えて幸せに暮らす夢。あの頃が一番楽しかった。彼って帳簿を付けるのが苦手で私と一緒に勉強して覚えたんだけど私の方が先に覚えてしまってね。拗ねて帳簿は任せるって言って彼って数日いじけたわ。全く子供なんだから。私が帳簿を付けて彼が仕入れをしたり売ったりして二人で店を大きくしましょうって言って機嫌が治ったわ。もうすぐ彼と結婚をして幸せになると思ったのに……」


やべぇ、ファルラさんが泣き出しそう。どうしよう?どうしよう?


「え、えっとファルラさん。彼や両親が亡くなって悲しいと思いますが、貴方を心配してくれている人もいます。その人達も貴方が亡くなったら悲しみます。だから……えーと、えーと」


駄目だ。何て言えば良いのかわからなくなってきた。


「ウフフ、貴方も心配してくれるかしら?」

「勿論、心配しますよ。綺麗な人が亡くなるのは世の中の損失ですから」

「あら、ありがとう。でも私は亡くなった彼を愛しているから好きになったらダメよ」

「子供をからかわないで下さい。そんな真似はしません」

「私は魅力がないかしら?」

「愛する人が亡くなった女性の心に入り込む真似はしません」

「あら残念ね」


少しは持ち直してくれたようだ。泣かれている所をクララさんに見られたら、何故かオレのせいになって大変な目に遭うからな。


「そういえばファルラさんは帳簿を付けるのが得意なんですよね」

「彼よりは得意よ」

「では男爵家の事務仕事をしませんか?レオナルド様の下で働く仕事です。今はオレとレオナルド様の二人しかいなくて人手不足なんです」

「貴方が決めても良いの?」

「人材を探してくれと頼まれました」

「……あなた本当に子供なの?同年代と話しているみたい」


外見は子供ですが中の人は大人です。


「とりあえずレオナルド様に会いましょう。承諾してくれますよ。お金を貯めて店を出しても良いと思うし。男しかいない仕事場だけどオレとレオナルド様しかいないから安全だと思うよ」

「そうね、侍女の仕事よりも充実した仕事が出来そうね。分かったわ。よろしくね」


よし、人材確保。これで仕事が楽になるかな。


「それでどんな仕事内容なの?」

「詳しい内容はレオナルド様に聞いてください。書類の整理や計算、農園拡張計画とか色々あります」

「……私に出来るかしら」

「大丈夫です」


仕事内容はレオナルド様と一緒に話そう。仕事時間とか給料とか話す事は多いはずだ。おや?マリーがこっちに来る。なんか嫌な予感がする。


「お兄ちゃん。服買うから来て」

「マリーちゃんが呼んでいるわよ、お兄ちゃん。行かなくていいの?」

「行きたくないんです。嫌な予感がします」


女子服は嫌だ。オレの尊厳の為にここから離れない。


「仕方がないわね。行くわよ」


ファルラさん、引っ張らないでくれ。オレを連れて行かないでくれ。ファルラさんって力強いな。引きずられながら店に着く。


「ファルラさん、トルクを捕まえてくれてありがとう。さあお着替えの時間よ。準備はいい?」


クララさんが持っている女子服が目に付く。逃げたくてもファルラさんが右腕を掴んでいるから逃げられない。いつの間にか左腕をカミーラさんが捕まえる。母親に助けを求めようとしてもニッコリ笑っている。なんか怒っている?オレは何もしてないよ。

待ってくれ、マーナさんもミーナさんも笑ってないで助けてよ。

マリー、兄が困っているよ。リボンなんて持たないで助けてくれ。


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