5 囚われた女性達
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「こいつらを殺すのか?レオナルド」
エイルド様がおそるおそる聞いた。
「はい、こいつらは貴族に敵対した賊です。貴族のエイルド様を攫い、私達が使っている馬車を盗もうとしました。罪は明白です。まだ残りの盗賊が居る様なのでここで半分は殺して残りの半分は賊のアジトで殺して何人かは男爵家で尋問してから強制収容所で死ぬまで働かせます」
レオナルド様はオレが用意した濡れた布で顔を拭きながら言った。確かに十人もいや一人死んだから九人か。動ける賊が多いと警備が大変だからここで少し減らすのかな?
ふと思った。どうしてオレは冷静に物事を判断しているんだ?エイルド様は今から人が死ぬ所を見るのか顔が青白い。しかしオレはいつも通りだ。今から人が死ぬのにどうしてオレは何も感じないんだ?虫や動物が死ぬのではじゃなく人が死ぬ。それなのにどうしてオレは冷静に物事を考えている?
おかしい。前世なら人を殺すことは道徳的・倫理的にダメな事だ。どうしてオレはそれを受け入れている?おかしいだろう。どうしてダメだと考えない?人を今から殺すんだぞ。それなのにダメと思わない。どうしてだ?
「トルク、お前も良く見ていろ。将来騎士になったら領主様と一緒に戦争にも行くだろう。その為によく見ておけ。人が死ぬ瞬間を」
考え事がレオナルド様の声によって中断した。すぐにレオナルド様が盗賊達を一列に並べるように指示する。盗賊達は命乞いをしているが兵達は無視して盗賊達を並べた。後ろには兵達が剣を構えている。そして合図とともに首を切られて死んだ。
レオナルド様は生き残った盗賊達にアジトを聞き出して残りの盗賊達を殲滅する為に全員でアジトに向かう準備をして出発した。
オレはレオナルド様が乗る馬の横で考えながら歩いている。後ろの馬車の中でエイルド様は静かにしている。オレもエイルド様に付き添った方が良いと思ったがレオナルド様に呼ばれていた。
「先ほどのうるさかった盗賊だがトルクが住んでいた村の村人みたいだな」
「私は覚えていませんがそのようです」
あの盗賊はうるさかったしムカついた。母親のせいで村が壊されたと言っていたし、あいつのせいで母親は貴族に目を付けられたんだ。
「あいつはお前達を不幸にした奴だ。それなのに気づいたら殺していた。お前の仇の様な奴なのに私が殺してしまった。すまなかった」
「いえ、私の剣の腕では奴を殺すにしても時間が掛かります。それにあいつの口から母さんの事が出るのも不愉快でした。お礼を言わせてください。殺してくれてありがとうございます」
確かに母親を不幸にした奴を殺したかった。でもあの状況ではそんな考えはしていなかった。その後レオナルド様に殺されて嬉しかった部分が多い。レオナルド様の雰囲気に飲まれて怖かったけど。そして盗賊達を死刑にしたときも何も思わなかった。自分の価値観や倫理観・道徳心がおかしくなっている事が解った。そしてどうしてこんな事になっているか考えている。
「レオナルド様、この世界はこのような事が頻繁に起こっているのでしょうか?」
「このような事とは?」
「盗賊が物を壊して人を殺す。そして騎士の皆様がそれを阻止して賊を殺す。戦争で領地が奪われ人が死んで平民達が不幸になる。私の母親の様に貴族に攫われる。このような事がこの世界にはよくある事なのでしょうか?」
レオナルド様はオレを見てよく有ると即答した。
「戦争が長引いて税を払えない平民が盗賊に落ちる事はよくある話だ。盗賊が領内の物や金を奪ったり、人を攫って売って奴隷にしたり。それを阻止するために領地内の見回りをする。平民が暮らしていけるかを調べる為だ。戦争が長引いているがウィール男爵領地は問題無いが他の領地は大変だと聞く。しかし帝国に負けたら王国の民は帝国の奴隷になってしまう。平民達もさらに重い税をかけられて苦しむだろう。今が苦しくても王国が帝国に勝利する為だ」
戦争のせいで税が払えなくなる。生きるために盗賊になる。捕まり処罰される。その結果その村では働き手が減り税を払えなくなる。税が減り続け戦争に負ける。このままじゃ王国の滅亡ルート一直線だな。
「そして残念ながらリリア殿の事もよくある事だ。立場が低い美しい女性は心無い権力者の目に叶ったら攫われて道具の様に捨てられる。……よくある事だ」
この世界の価値観・倫理観・道徳観は酷いな。日本が懐かしいよ。
「そして、盗賊や犯罪者を殺すことも重要だ。盗賊を殺さなければまた他の場所で村や人を襲うだろう。盗賊や犯罪者も殺すか強制収容所に入れて死ぬまで働かせる。その結果、盗賊や犯罪者が減る」
「貴族や権力者が罪を犯したらどうするのですか?」
「その場合は貴族院で裁く。貴族の場合は罰金を払うから領地を減らす、もしくは没収して平民に落とす。最悪は死罪もある」
なるほど、貴族も罪を犯したら最悪死罪になるのか。でも王様や権力者が貴族院に圧力を掛けたら罪にならないとか犯罪自体をもみ消すとかありそうだな。
「そして傭兵ギルドや魔法ギルドもそうだ。伯爵家以上の領地にはギルドが置ける。そいつらに犯罪者を摘発させたり戦争に参加させたりさせる。ギルドが罪を犯したら王国もしくはその領地の者が裁く。逆に領主達が犯罪をした確実な証拠が有るならギルドは王国に伝えてその領主達を捕まえる事が出来る。ただし生け捕りで殺すことは禁止されている。尤もギルドが領主を捕まえるなんて事はほとんど無い」
どうせ領主が犯罪をもみ消すんだろう。
「王国に伝える過程で貴族院にも情報が入る。そして貴族院がギルド達の功績を横取りして罪を犯した領主を罰する。そして貴族院の功績になり権力を得る」
罪をもみ消すどころか利用するか。貴族って酷くて怖い。本当にこの世界は貴族主義社会だな。民主主義が懐かしい。そんな事を考えていたらオレが考えていた事は頭の隅に行っていた。
盗賊から聞いたアジトに着いた。アジトは森の中にある昔に滅んだ村の家だ。畑は草がぼうぼうで家も壊れている。その中の大きい家が盗賊達のアジトらしい。
レオナルド様はオレとエイルド様に護衛を付けて。賊の家に押し入り盗賊達を無力化していった。男達の悲鳴が聞こえている。それから少ししたらレオナルド様達が家から出てきた。女性も数人いる様だ。盗賊達の慰み者になっていたのだろう。顔や体が汚れているのでオレは桶に水と体を拭く布を用意していいか護衛の人達に聞いた。承諾を得てオレは桶に水魔法で水を入れて布を持ってレオナルド様の所に向かった。レオナルド様達も血が付いているので布を渡して女性達にも濡れた布を渡した。意識がある女性は泣きながら布を取って体を拭いている。オレは兵達に服の代わりになるような物を用意してもらった。女性の人数分の大きい布、カーテンを女性達に掛けて水を飲ませたり、怪我をしている女性に傷薬を使ったりした。こんな時に回復魔法を使えないのはつらい。
「なあ、トルク。どうしてこんな事が出来るんだ」
なんですか?エイルド様、突然?
「どうしてこんな事が起きているんだ。ここは父上の領地なのにこんな犯罪が起きているなんて」
エイルド様が泣きながら言っている。今まで酷い事が有ったからそのうっぷんが今起きたか。
「こんな事が起きるなんて。どうして父上の領地が帝国に襲われて村を破壊されるんだ。賊が罪もない人を殺したり傷つけたりする。どうしてこんな事が起きたんだ」
それは帝国と戦争をしているからでしょう。
「それは帝国と戦争をしているからです」
あ、護衛の兵の人が言っちゃった。
「帝国と戦争をして王国が勝てばこのような事は無くなります」
「そうです。帝国に勝たなければ王国に未来はありません」
「今回の村々が襲われたのも帝国兵らしいです。これは帝国が王国を滅ぼそうとしているからです」
「帝国を倒せば領地も平和になります」
いや~それだけじゃないと思うけど。帝国を悪にするのは子供のエイルド様にとっては害にならない?ていうか洗脳?
「どうすれば帝国を滅ぼせるんだ?」
エイルド様の思考が少し悪い方向に向かっているな。この護衛の人達の言葉を鵜吞みにしている。少しではなくて結構ヤバい?
「もちろん戦争をして帝国に勝つ事です」
「帝国に勝てば平和になるのか?」
「なります」
マジでヤバい。どうにかしよう。
「しかし、帝国に戦争で勝つとなるとこちらの被害もすごい事になります。王国も帝国も大勢の人が戦死してしまうでしょう。そして今回の帝国兵が辺境の村を襲ったって言いましたが。王国も同じ事をしています。帝国領の辺境の村を王国兵が蹂躙しました。本当に帝国に勝てれば王国は平和になると思いますか?」
「何を言っている。帝国に勝つ事が王国や民の為だ」
「その通りだ。私達の友人や親族は王国の為に戦い帝国兵に殺された」
「親族や友人の仇を取る為にオレは帝国と戦う事を選んだ」
「そんな考えでは帝国に勝てないぞ」
ヤバい。オレの方がヤバくなった。帝国に親族達を殺されて王国兵の感情を考慮するのを忘れていた。みんな殺気立ってオレを責める。どうしたらいいんだ。
「トルク、来てくれ」
「はい。すいませんが呼ばれたので失礼をします」
殺気立った護衛兵達から逃げるようにオレはレオナルド様達の所に向かった。あ~失敗した。帝国との戦争でオレの周りで仲の良い知り合いが死んでないからな。他の兵達は殺された事が有るみたいだから危うくまた村八分にされそうだったよ。
「どうしました?レオナルド様」
「賊達は五人ほど残して後は始末する。その後は我々も男爵家に帰還する予定だ。今回の見回りの事を手紙に書いて先にクレイン様に送るので、手紙を書いてくれ」
え?オレが書くの?それってオレの仕事?
「安心しろ。私もクレイン様に手紙を送るが、別の視点で書いてほしいからな。今回はトルクが書いてくれ」
うーす、わかりました。とりあえず手紙を書きます。
さて、なんて書こうかな?
「それから今日はここで一夜を過ごす。明日までに手紙を書くように」
「わかりました。頑張ります」
「あと、女性達の世話をお前に任せたい。兵達が女性達に近づこうとしたら混乱して近づけない。子供のお前なら大丈夫だろう」
まあ、水をやったし服の代わりに布を渡したときも何も無かったから大丈夫と思いたい。兵達に女性用のテントを作って貰おう。
「エイルド様と話していた様だが何かあったのか?」
「実は護衛の兵達に叱られました。帝国との戦争の事で少し間違った事を言ったので」
「間違った事?」
「帝国と戦争をしても死人が増えるだけ。本当にそれで良いのかと思って」
「トルクの言い分は正しい。だが帝国が王国に戦争を仕掛けているんだ。向こうが折れないとどうしようもない」
「そして、エイルド様が護衛兵の言葉を鵜呑みにしていたので、すこし大変な事になると思います」
「大変な事?」
「戦争で帝国に勝つ事。帝国が滅んだら平和になるって信じた事」
「どうしてそれが大変な事なんだ?」
レオナルド様も帝国殲滅派の人か。このご時世、親族や友人を戦争で亡くした人が多いから帝国を恨んでいるのか。本当にどっちかが滅ぶまで戦争が終わらないかもしれない。
「えーと、エイルド様は帝国と戦争をしているから人が死に村が壊滅した事を護衛兵から学びました。その結果、帝国を恨むようになりました」
「どこに問題が有る?」
「自分で出した答えではなく、護衛兵の答えです。今回の件でショックを受けて護衛兵の事が正しいと思っています」
洗脳って本人の価値観とかを壊してその隙に入り込む事をする。エイルド様は平和だった領地が襲われて死んだ領民たちにショックを受けて帝国が攻めてきたからと信じた。戦争で勝たないと領地は平和にならない。それを信じたんだ。問題は護衛の人達が過激なんだよね。戦争で友人を亡くしたりして帝国に強い恨みを持っている。それを聞いたエイルド様は帝国が悪いと信じた。その結果、エイルド様の様々な価値観が変わるのではないか?
「エイルド様の考え方が変わるか」
「はい」
「良い方に向かえば良いのだが」
「こればかりは解りません。今回の旅でいろいろと思う所があったようですがどんな答えが出るかは」
「……私もエイルド様の所に行って話を聞いてみるか。そしてクレイン様に伝えておこう。ではトルクは手紙と女性達の事を頼んだぞ」
レオナルド様はエイルド様の所に行き話を聞きに行く。オレはテントが出来上がったのを見て女性達の所に向かった。
捕らわれていた女性は四人。大人が近づくと怯えるので子供のオレが世話する事になった。
彼女達は周りを護衛の人達に囲まれている。彼女たちに合う服が無いので大き目の布で頭まですっぽり布で隠している。
「改めて自己紹介をします。ウィール男爵家使用人のトルクです。この度は災難でした。明日から男爵家に帰りますので今日はテントで体の調子を整えて下さい。帝国に襲われて生き延びた村の住人は現在、男爵家の農園で働いています。知り合いが居るかもしれませんのでまずは男爵領に向かいます」
顔から赤い髪が見えた女性がオレに話しかけてきた。この人が女性達のまとめ役っぽい。
「助けてくれてありがとう。皆さんには感謝しているわ。でも男に見られるのが怖くて仕方がないの」
「それは私達も承知しております。兵達にはなるべく皆さんに近づかない様に言いますので、何かありましたら私に伝えて下さい。私はテントの入り口で待機していますので御用が有りましたら私が対応します」
赤髪の女性が生活していた村の名前を聞いて思い出したが帝国兵に襲われた村だ。でも逃げた避難民が農園で働いていたはずだ。逃げた村人達は男爵家にたどり着いて農園で働いている事を伝えた。
「あ、あの私達はこれからどうなるのでしょうか?私は男爵家の町の商人の娘です。家族を賊に襲われて」
茶髪の髪が長い人が話しかけてきた。結構若い女性だ。
「落ち着いてください。まずは男爵家に行きます。男爵家の農園に家族や親族、知り合いが居るかもしれません。その方達のことを聞いても良いですか?まずは落ち着いて身の振り方を考えて下さい」
彼女は男爵領出身の商人で賊に馬車を襲われて家族と恋人を殺されたそうだ。親族が男爵家の町に居るからそちらを頼ると言っている。
「私達姉妹は両親が殺されて。他に頼る親族も居ないのです」
金髪?より少し暗い髪の若い姉妹さん。こちらも村が襲われて両親を目の前で殺された。そしてオレや母親と同じ村八分に近い事をされていた様だ。この姉妹の身の振り方を考えないといけないな。妹の方は姉に抱き着いて泣いている。
「ではテントに案内するのでついて来て下さい」
他にもいろいろ聞くべき事が有ったが今は心を落ち着かせる事が優先した方が良いと思ってオレは女性達をテントに案内する。テントの中は四人がゆっくり出来る広さが有り男の視界も気にしないで済むので少しは安心してくれるだろう。とりあえず土魔法で壺を作りその中に水魔法の水を入れる。女性達が魔法を使えるのに驚いていた。
「私はテントの外の入り口にいますので用が有れば呼んでください。それから後で構いませんので賊に襲われた時の状況、賊達が話していた内容等をお願いします。思い出したくないと思いますが、どうかお願います」
そう言ってオレはテントを出た。護衛の人達を呼んで女性達が男性に見られたくないからテントに背を向けて警護する事をお願いしてた。入り口で警護する時間が少し勿体ないからテーブルと椅子を土魔法で作り男爵様に出す手紙を作成する。
おっともう少ししたら夕食を作らないといけないな。手紙の作成は夕食後で今は要点を考えておくか。
今日の夕食は何にしようかな?え、賊がため込んでいる財宝と食料がある?
食料を使っていいかな?腐らせるよりも使った方が良いよね。
少し豪華な食事を食べたい?じゃあ手伝ってくれ。え、レオナルド様の手伝い?
レオナルド様は向こうでエイルド様の所に行っているよ。話に参加する? そんな事より夕食の方が大事だと思うよ。あ、逃げられた。
仕方がない、一人で作るか。こうなったら一人で豪華な食事を作ってやる。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




