3 村と精霊
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二年くらい住んだ村が壊されている。家が壊され畑が焼かれ死体が放置してある。死体の近くには農具が転がっている。農具で賊と戦ったのだろうか?
村が壊されたのに悲しくはない。この村にはあまり良い思い出がないからだ。村八分されてほとんどの人と話した事が無いからだ。自分が育った村と言ってもピンとこない。死体も知り合いだと思うが覚えがない。オレは情に薄い人間なのかな?
「ここがトルクの育った村か?」
エイルド様が近づいて話しかけてきた。その声にはいつもの明るい声ではない。今まで破壊された村を見て回り何かを思ったのか、ここ数日、エイルド様はオレ達に迷惑をかけず兵達からも逃げていない。それどころか死体の埋葬を手伝ってくれた。この旅でだいぶ変わった様だ。
「そうですね。母さんやマリーが生まれ育った村です。私も二年くらい暮らしていました」
「知り合いはいないのか?」
「村人から無視されていましたからね。村の人達とはほとんど喋っていないし顔も思い出せません。叔父と祖父くらいしか覚えていませんよ」
「無視されていた?どうして」
「私が他の領地の出身だからです。その為に母さんは苦労をしました。私を生んだせいで私と母さんは村人からは居ない者とされたのです。村ではよそ者は嫌われ者や無視の対象になります。しかし叔父とマリーだけは私達を助けてくれました。二人が居なかったら私と母さんはこの村で死んでいたでしょう」
そうだ叔父さんがこの村にいる。お爺さんもいるだろう。母親やマリー、祖母の為に二人を供養して形見の品を見つけて渡そう。
オレとエイルド様と護衛の兵達は村長の家に向かった。村の中央の広場の近くの家だが広場には死体が何体も放置されている。その中に叔父さんと爺さんの遺体があった。エイルド様達に手伝ってもらってオレは広場に土魔法で穴を掘って村にある死体を穴の中に入れる。叔父さんと爺さんの髪を遺髪とした。叔父さんの家は奇跡的に原型を留めておりレオナルド様の許可を取って叔父さんとマリーの品物、コップや服など品物を回収した。
火事場泥棒じゃないよ。キチンとレオナルド様には許可を取ったし家から取った品物はマリーに渡すからね。ただ祖父の家は原形が無く燃やされて何も残っていなかった。お婆さんに渡す品物がない。どうしよう。
それからこの村で一泊する為に他の兵達が野営の準備をする。丁度手が空いたオレはレオナルド様に許可を取ってオレと母親が住んでいた家に行った。あそこは村から離れているから大丈夫と思ったが家は破壊されていた。
破壊された家を見ると悲しくなり涙が出てきた。嫌な思い出しかない村なのに母親やマリー、叔父さんの思い出が蘇る。
初めてサウルを捕って叔父さんに褒められたり、マリーと一緒にいじめっ子から逃げたり、母親の看病をしながら料理を作ったり、祖父や祖母にサウルを渡したり。そういえば精霊もいたよな。確かくま〇んモドキが。確か名前が。
「其の一、其の二、其の三。だったな」
あいつらが精霊の印というやつを顔に付けたせいで他の精霊から笑いの対象になったんだよね。今思えば懐かしい。どうしてあいつらだけ姿が見えたんだろう?
そろそろ村の広場に帰ろうとして壊れた家に背を向けたらくま〇んモドキが居た。
「ギョワッ」
びっくりして尻もちをついた。
「どうして後ろにいるんだよ。居るなら居るって言えよ」
くま〇んモドキは後ろを向いたり、周りを見渡している。
「オメーだよ、三頭身のくまモドキ三人衆」
今度は三人とも自分達を指さす。そうだよお前達だよ。
「そうだよ。久しぶりだな」
久しぶりだな三人とも。オレの初めての友達。相変わらず手のひらサイズで小さいな。
「……誰?この馬鹿面?」
「知らないよ、こんなアホ面」
「どうして僕達を見ているの?」
くまモドキの言葉にオレはブチ切れた。ガシっと三人共掴んで力を込めた。
「久しぶりだな。其の一、其の二、其の三。思い出せないのなら思い出させてやろう。どんな方法がいい?出会った時の様に握り潰すか、頭ねじ切るか?それとも薪を口の中に突っ込んで三兄弟にする?どれがいい?早く決めろ。オレのリセイガトバナイウチニ……」
「冗談だ冗談」
「友人を忘れるか」
「お前が居なくなってオレ達も寂しかったんだぞ」
「ホントウニ、オレノコトオボエテル?」
「覚えている、覚えている」
「印を付けてるだろう」
「だから早く手を放してくれ、中身が出る」
手を放して三人を解放する。三人共地面に座りゼイゼイ言っている。オレも地面に座った。
「全く、変な冗談を言うなよ。危うく友人を殺すところだった。久しぶりだな、三人共」
「冗談が通じない友人だ」
「全くだ」
「相変わらず変な子供だよ」
「お前達も相変わらずだな、其の一、其の二、其の三。元気だったか?」
「勿論元気だ」
三人とも声を揃えて言った。
「それでどうしてオレ達の事が見えるんだ?」
「普通の人間にはオレ達は見えないぞ」
「また、頭に衝撃を受けたのか?」
そういえばどうして精霊が見えたんだ?今までは声しか聞こえなかったのにこいつらは見えている。
「そういえばそうだな。どうして見えるんだ?他の精霊達の声は聞こえたけど姿は見えなかったからな。印のせいなのか?精霊の友の印が顔に付いているからお前達が見えるのか?」
「それは関係ない」
「じゃあ、どうして見えているんだ?」
「知らない」
「わからない」
「それよりお前は何処に行っていたんだ?探したけど村には居なかっただろう?」
「遠くの男爵家で働いていたよ。此処から一週間くらい離れている土地で暮らしている。色々あったんだよ」
妖精達に今までの事を話した。男爵家に着いてから農園で働き始めて男爵家でクレイン様達に会った事。エイルド様と剣術を習ったり、ポアラ様と魔法の勉強をしたり、雪が積もった日は雪合戦をして遊んだり。伯爵家に行って母親に会って嬉しかった事。賊に追われて大変だった事。川で溺れて精霊に助けて貰ったり、伯爵家の木の精霊に頼まれ事をされたり。おっと精霊と言えば。
「他の精霊から変な印だって言われたぞ」
なんでも精霊にとっては爆笑モンの印だ。こいつらの感性を疑う。それよりも勝手に印を付けやがって。
「そ、そんな」
「僕達が頑張った印が変?」
「印おかしい?」
……真面目に作ったのか?ぐちゃぐちゃな模様って言っていたぞ。
三人で集まって何か相談しているぞ。どれ、どんな内容だ?
「笑いは取れなかったようだ」
「仕方がない。今回の事を教訓にして次を頑張ろう」
「せっかく長い間、考えた印なのに」
「やはり、もう少し色を増やさないとダメではないか?」
「三色じゃ少ないのか。やはり三人じゃむずかしいか」
「だからデザインを考えろと言ったんだ」
「なにを言っている。みんな納得したデザインだぞ」
「だが、無理だった。今度は他の精霊の印を見てデザインを考えたらどうだ?」
「なるほど、傾向と対策が取れるな」
「そして今の印がどのような形が主流なのかが解る」
「確かにいい考えだ」
「後は他の精霊に聞くのはどうだ?オレの顔の印の感想を直に聞いた方がお前達も色々と対策がとれるだろう?」
「そうだな。その通りだ」
「オレ達はまだいける」
「よし、そうと決まれば」
「そうと決まれば、なんだ?」
ガシっと三人を捕まえて力を入れよう。大丈夫だ、こいつらは死にはしない。
「どうだ?護身用に持って来たナイフの切れ味を試してみないか?オレが印を付けてやろう。顔が良いよな。皆の笑いが取れるような印を付けてやろう。遠慮はするな。オレにも顔に印が付いてるからな。四人仲良く印を付けて仲良くしよう。オレタチトモダチダカラナ」
「ま、待てー」
「早まるな」
「両手でオレ達を掴んでいたらナイフが取れないだろう。手を放してナイフを取ったらどうだ?」
「ナイフイラナイ。ニギリツブス」
「仲良く印が出来ないじゃないか。そろそろ力を緩めてくれ。中身が出そう」
「そろそろ限界。出そう」
「た、頼むー。アレ?この辺にお前以外に子供が居るのか」
コドモ?エイルドサマカナ?
「コドモイル。オマエタチニハ、カンケイナイ」
「その子供がこの村から離れているぞ」
「何かあったのかもしれないぞ」
「そろそろ正気に戻ってくれ。敵かもしれないぞ」
敵?エイルド様は兵隊さんに囲まれているんだぞ。敵じゃなくて、エイルド様の散策だろう。
「子供が一人担がれているぞ。見せてやるから手を離せ」
ち、仕方がない。一人だけ開放した。そして精霊がオレの頭に乗る。すると大人にエイルド様が担がれているイメージが脳に浮かんだ。意識がないのかエイルド様は動いていない。大人は小汚い恰好をしていてエイルド様を担いで走っている。
「なんだよ、この光景は?エイルド様は攫われているのか?お守りの兵達は何処だよ」
「他の大人は他の所を探している」
「クソ、オレ達も行くぞ。どっちの方角だ」
「こっちだよ。だから他の奴等も手を放してくれ」
おっと、無意識に手に力が入っていた。気絶一歩手前だな。頭に乗っていた精霊は道案内をしてくれるようだ。二人の精霊は右手で軽く握って指示された方向に走り出した。
「どのくらいエイルド様から離れている?」
「オレ達ならすぐの距離だ」
「人間の子供ならどのくらいでエイルド様の所に着く?」
「大人の方が早いから無理だな。一生かかっても追いつけない」
ぶち殺すぞ。クソ精霊。
「仕方がないから手伝おう。だから手を放してくれ」
握っている精霊の一人が言ったから手を放すと飛んで行った。すぐに向かっている方向から大きな光が発生して悲鳴が聞こえたので急いで悲鳴が聞こえた方に向かった。現地に着くと倒れていた大人がエイルド様を背負って逃げ出す所だった。急いで助けようとしたが大人の方が早い。
「おい、オレを奴に向かって投げろ」
右手で握っていた精霊がオレに言う。分かった。お前の犠牲は無駄にはしない。オレはおおきく振りかぶって精霊を投げました。投げた精霊は敵の頭上だ。悪送球だ。しかし、精霊が敵の頭めがけて一直線に落ちた。敵の頭に精霊が当たった。これはいい当たりだ。敵がリングじゃなく地面に沈んだ。見事なノックアウト。精霊の攻撃に敵は成す術も無く崩れ去った。精霊の勝利だ。
おっと、エイルド様は無事か?大丈夫だ、息もしているし脈も正常だと思う。ただの気絶だな。みんなの首が繋がったな。
「しかし精霊は凄いな。あっという間に敵を倒したし」
オレは精霊達を見た。
「だろう。この辺の事は何でも解るぞ。オレは風の精霊、其の二だ」
「光を浴びせて敵を無力化。オレは光の精霊、其の三だ。あと回復魔法も得意だぞ」
「どんな敵もオレにかかればイチコロさ。オレはツボの精霊、其の一だ」
……風とか光の精霊は解る。川に落ちた時は水の精霊に会ったし、伯爵家の所では木の精霊っぽい奴に会ったが。ツボの精霊?
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