閑話 頑張れイーズ君4
馬車の中でギルド長が僕達に言った。
「今回は災難だったな。本当はトルクが捕まる予定だったのだが、お前達が捕まるとは」
ギルド長がため息をついて少しずつ話した。
「トルクの休みを利用して賊を誘き出す作戦だったのだ。トルクが賊に襲われても助け出せるように陰から伯爵家の護衛が付いていたがトルクではなくお前達が賊にさらわれるとは思わなかった。幸いトルクが近くに居たからすぐに対応が出来たが、トルクがお前達を助けて別々に逃げたから賊を捕まえるのに時間が掛かった」
あの子を囮として賊を誘き出す?
「どういう事ですか?」
「元々、伯爵家の元料理長が賊と密かに連絡を取っている事は前もって知っていた。バルム伯爵は元料理長がトルクのせいで信用を無くしたから賊を頼って動くと予測して反乱分子を捕まえようと考えたのじゃ。トルクは魔法も使えるし剣の腕も良い。ランクで表すならFの上位ランクもしくは下位のEランク位はある」
Eランクといえば騎士の人達と同等だよ。子供なのにそんなにすごいの?
「ですが子供を囮に使うなんてあんまりです」
エリーがギルド長を責める。でも悪魔の様な子供を擁護しなくても良いと思う。
「その為に護衛の騎士が陰ながら見守っていたのだ。まあ、狙われたのはトルクではなくお前達だったがな」
⋯⋯やっぱりあの子に近づくのは止めた方が良いと思う。あの子のせいで今回のデートが潰れたんだから。
「ですが」
「部屋で話したように近いうちに帝国と戦争が起きるだろう。いや水面下では始まっている。お主達も気を付ける事だ」
馬車の中が静かになり、外の馬車の車輪の音だけが聞こえる。気を付けるっていっても僕は男爵家に行く事になっているけど身の安全はどうなっているの?恐る恐る僕はギルド長に聞いた。
「すいません、僕は男爵家に行くのですけど大丈夫なのですか?」
「え、どういう事なの?イーズ!」
⋯⋯しまった。まだエリーに伝えていなかった。僕はエリーに説明をする。
「先日、サムデイル様に言われて半年くらい男爵家に料理を習いに行かないといけないんだ。ごめん、エリーと別れたくないし、辞退しようと頑張ってみたけど行かないといけないみたいなんだよ」
「そ、そんな、半年もいなくなるなんて。私はどうすればいいの?」
「エリー、僕は絶対に半年で戻るから待っていて」
「イーズ」
「エリー」
「⋯⋯お主等、ワシの居らぬところでしないか」
あ、ギルド長もいたんだ。僕はアハハと笑い、エリーは顔を赤くして下を向いている。
「まあ、イーズが男爵領には悪くないと思う。賊を捕まえたが全員ではない。ほとぼりが冷めるまで男爵領に行くのは悪くない」
「でもエリーは伯爵家に残るんですよ。どうするんですか?」
「エリーは伯爵家で働いているんだろう。問題はあるまい」
「しかし」
「まあ、詳しい事は伯爵家に着いてからだ」
それで会話が終わり、僕達は伯爵家に着いた。ギルド長がサムデイル様とクレイン様達に今回の事を話した。
「うむ、話は分かった。エリーよ、今回は災難だったな。とりあえず今日は少し休め」
「ありがとうございます」
「イーズは少し聞きたい事があるから、ここで少し待て」
「はい」
それからサムデイル様達は部屋を出て僕はギルド長と二人と部屋で待機した。しかし沈黙が辛い。なにか会話がないかな。どうしてギルド長と一緒に部屋に居るんだろう。ギルド長は目を瞑って何か考えているから邪魔したら悪いよね。話しかけたら悪いと思う。
どの位、部屋で待っていただろうか。ドアが開きサムデイル様とクレイン様、レオナルド様が入って来た。
「残りの賊が捕まった。二人とも今から行くぞ」
僕はサムデイル様達の後について行き途中で魔法ギルド長と合流して地下牢に向かった。地下牢の入り口には捕まった賊がいた。サムデイル様が賊を牢屋に入れる指示をして僕達も一緒に地下牢に下りた。
地下牢に行くのは久しぶりだ。何回かは地下室の待機室までは食事を持って来た事があるが地下牢の奥は初めてだ。階段を下りる足音が響くが地下牢から聞いた事がある声が聞こえた。料理長、ではなく元料理長の声だ。
「ガハハハハハハ」
笑っているな。元料理長は何を考えているんだろう?地下牢で笑っているなんて。元料理長がいる牢屋の前に行くがその前の牢屋にあの子がいた。
「すいません、男爵家使用人のトルクです。助けて下さい」
「・・・トルク、どうして地下牢にいる?お前は魔法ギルドのギルド長と一緒だったと聞いていたが」
そういえば魔法ギルド長と一緒だったと思っていたのにどうして地下牢にいるんだよ?
「魔法ギルド長に腕輪をはめられて犯罪者扱いされたので魔法ギルドから逃げ出しました。しかし伯爵家の門番さんに犯罪者と間違われてこの地下牢に連れていかれました」
僕達は魔法ギルド長を向いたがその通りと言った表情で頷いた。クレイン様が「後で詳しく教えろ」と魔法ギルド長に言って、あの子を牢屋から出した。あの子は呆れているクレイン様やレオナルド様と話しているが君は囮にされたんだよ。知っている?きっと知らないよね。どうしてそんなに平気なんだよ。囮にされて賊に狙われて地下牢に入れられてどうしてそんなに平気なんだよ。やっぱりこの子はおかしいよ。親の顔が見てみたいよ。あ、母親ではなくて父親の方だよ。父親は絶対に変人だ。しかし、そんな変人がリリアさんと結婚したのが不思議だ。きっと脅して誘拐同然にさらって無理やり結婚したに違いない。そんな外道な父を持つあの子は絶対に良い大人になる筈がない。これは誰かに頼んで教育をしてもらわないといけないな。
「ではイーズよ。元料理長がお前とエリーを脅して賊のアジトに連れていかれたで間違いはないな」
「はい、そうです」
あ、反射的に言ったけど大丈夫みたい。いけない、キチンと聞いていないとあの子の様な人間になる。
「そして賊の男からこの瓶を貰ったで間違いないな」
「はい、瓶の中身を料理に入れろと脅されました」
「そしてトルクが入ってきてお前達を助けて傭兵ギルドに逃げ込んだのだな」
「ギルドか伯爵家に行って応援を呼んでくれと言われて僕達は街から近い傭兵ギルドに逃げ込みました」
「そして、傭兵ギルド長に訳を話していたら魔法ギルド長とトルクが一緒に居たのか」
僕への質問は終わったみたいだな。えーと何を考えていたっけ?そうだ、エリーと結婚して子供が出来たら子供の教育に力を入れよう。やさしくて思いやりがある料理が好きな子に育てようかな。あれ?ふと思ったが僕達が狙われたのはこの子のせいじゃないか?この子が囮として外出をしたけど近くに僕達がいたからこの子の代わりに僕達が狙われたんじゃないだろうか?僕達の方が伯爵家に詳しいし、信用がある。エリーは奥様の侍女だし僕は料理人だ。ただの男爵家の使用人見習いよりも僕達の方が伯爵家の当主に近づける。だから僕達を狙ったんじゃないのか?だったら賊はあの子よりも僕達を標的にしたんだ。利用価値はあの子よりも僕達の方がある。それなのに僕達を護衛しないであの子を護衛するなんておかしいよ。あの子よりも僕達の方が優れているのに。
「イーズもご苦労だった。トルクと戻って良いぞ」
あれからサムデイル様から退室の許可を貰ってこの子は僕と一緒に地下牢を出た。あれから僕はこの子のせいで賊に命を狙われて、伯爵家の当主が僕達の護衛をしてくれないのを恨んだ。この子よりも僕達の方が優れているのに。
「全く、大変な一日だったな」
「そうだね」
半分以上は君がやらかしたからだと僕は思うよ。普通は地下牢に入ったりしないよ。まあ、この子だからしょうがないか。
「お前はどうする?オレ的にはお土産を買ってきてもらいたいが、大丈夫か?」
この子は賊に追われた恐怖がもうない様だ。忘れているのか?あ、馬鹿だから忘れたんだ。
「無理だよ。僕も外出禁止だよ。賊に狙われているからね」
君の代わりに賊に狙われたんだ。僕も外出禁止だよ。
「仕方がないか。そういえばエリーさんは大丈夫か?」
「大丈夫だよ。君のお陰で助かったよ」
まあ、助けて貰った事は礼を言うよ。原因の八割は君のせいだけどね。
「だけど、後で慰めておけよ。危険な目に遭ったんだからお前が癒してやれ」
「そうだね、そうするよ。本当にエリーを助けてくれてありがとう」
「別に良いよ。じゃあ、オレは部屋に戻るからな」
お礼は言ったが今回の災難は君のせいなんだよ。なんでそんなに平気な顔をしているんだ。どうして僕に謝罪をしない。僕が怒ろうと思ったらあの子は手を振って部屋に帰った。⋯⋯怒るタイミングを逃した。
その後、僕は仕事着に着替えて厨房で仕事をした。今日は休みだが仕事をして気分を変えようと思った。仕事をしていると副料理長、いや新料理長が僕に声をかけた。
「イーズ、今日は休みだろう。どうした?」
「気分転換に少し仕事をしようかと思って」
「良く分からないが、お前は男爵領に行くんだぞ。その準備は出来ているのか?」
「はい」
嘘だ。男爵領に行く準備は全く出来てない。行く気になれないんだ。エリーと別れたくないし、あの子がいる男爵領になんか行きたくない。僕は思い切って男爵領に行く人間を他の人に出来ないか料理長に頼んでみた。
「あ、あの料理長。お願いがあります」
「なんだ?」
「僕は男爵領に行きたくありません。他の人を推薦してください」
「・・・理由はなんだ?言ってみろ」
料理長は静かな声で僕に理由を聞いた。声からは怒っているような、呆れているような雰囲気の声だ。
「僕はエリーと付き合っているんです。エリーと離れたくありません」
「⋯⋯奥様の侍女だったな。そんな理由で仕事を辞めるのか?」
仕事を辞める?どういう事?
「お前が男爵領に行かないという事は伯爵家での仕事を辞めるしかない。それでも良いのか?」
⋯⋯仕事は辞めたくない。でも男爵領に行きたくない。伯爵家でエリーと一緒にいたい。
「今回の男爵領に行く事は旦那様が決めた事だ。それを拒否する事は仕事を辞めるかしかないだろう。それでも良いのか?」
嫌だ、仕事を辞めたらエリーと会えなくなる。でも男爵領には行きたくない。僕が迷っていると料理長が言った。
「⋯⋯分かった。他の誰かを旦那様に推薦をする。伯爵家の料理人は辞めなくて良い様にする。だから泣くな」
「料理長」
「任せろ。何とかしてやる」
目から涙が出ているのが気づかなかった。僕は料理長にお礼を言った。これで男爵領に行かなくてすむ。料理長は真剣な顔で「相談をしてくる」といって厨房から出て行った。心が軽くなり仕事をしていると館が騒がしくなった。戻ってきた料理長に理由を聞いたら賊がサムデイル様の命を狙ってきたらしい。詳しい事は解らないが賊は倒れて、旦那様は無事だという事だ。これもあの子がこの館にきたせいじゃないかと僕は思った。あの子はきっと厄災を持ってくる魔物じゃないか?
しばらくして、僕は伯爵様から呼ばれて執務室に行く。途中でエリーと会って一緒に向かった。
「旦那様が何かしら?」
「きっと賊の事じゃないかな?今日の事を詳しく聞きたいんだと思うよ」
二人で話しながら執務室の隣の部屋に入った。部屋の中にいるのは伯爵夫婦、男爵夫婦、男爵家のレオナルド様とリリア様、そしてあの子がいる。なんであの子がいるんだろう?
部屋に入り挨拶をしたらアンジェ様が言った。
「エリー、貴方を男爵家に連れて行こうと思うの。私の侍女との仕事と新しい使用人の教育係をしてほしいのだけど」
「待ちなさい、アンジェ。私はまだ許してませんよ」
「だから大丈夫よ、お母様。お父様にキチンと許可を取るわ」
「エリーは私の侍女よ。私の許可がいります」
⋯⋯エリーが男爵領に行く?どうして?
「二人とも落ち着け」
旦那様が二人を落ち着かせて僕達に言った。
「さて、二人を呼んだのは今後の事だ。イーズには男爵領で料理を習う、エリーも男爵家に行って娘の侍女をしてもらう事になった。二人とも準備をしておいてくれ。期限は半年位だな。エイルドとポアラが王都の学校に行く前にまた伯爵領に来るからその時までになる。短い時間だが二人とも男爵家を支えるように」
⋯⋯エリーも男爵領に行くの?だったら僕も安心して男爵領に行ける。そうか、エリーも男爵領に行けたら問題なかったんだ。
「旦那様。私も男爵家に行くのですか?」
「エリーは侍女の仕事と見習いの教育係をしてもらう。イーズは男爵家で料理を習う。期間は半年位だ。エリーの見合いはその後で良いだろう。イーズも半年したら帰って伯爵家の料理長達に料理を教えるように」
見合い、そうだ。見合いは先延ばししても半年後に伯爵家に帰って来るんだ。どうにかして阻止をしないと。しかしネーファ様が言ったお見合い相手は全員ダメだった。
「では、トルクはどうです?彼は将来騎爵位を貰うのでしょう。そしたら条件は合うわ」
僕はトルクを睨む。やはりあの子は敵だ。どうにかして亡き者にしよう。賊に売り渡すのも良い。
「すいません、ネーファ様。さすがに私とは無理だと思います。それにエリーさんには好きな相手がいるのでその人と結ばれた方が良いと思います」
「エリーは騎爵位持ちの人と結婚するのが夢なのです。私はその夢をかなえたいだけなのです」
「すいません、奥様。私は爵位持ちの方と結婚するのが夢とは思っていませんが、どうしてそのように思われているのでしょうか」
「エリーが子供の頃でしたね。貴方がどんな人と結婚したいかと聞いたときにお父様のような騎爵位の人と結婚したいと言っていましたよ」
「⋯⋯申し訳ありませんが記憶にありません。私が何歳の頃ですか?」
「エリーの母親が居た頃でしたから確か三歳か四歳くらいでしょうか?」
⋯⋯エリーの子供の頃の夢を叶える為にネーファ様は騎爵位持ちの人とお見合いを勧めたのか?
「⋯⋯奥様、今の私の幸せはイーズと結婚をして幸せになる事です。どうか私の夢をかなえてもらえませんか」
「奥様、エリーを必ず幸せにしますから私との仲を認めて下さい」
僕とエリーはネーファ様に願い出る。ネーファ様を説得できなければエリーと結婚は出来ないかもしれない。僕達の誠意が通じたのかネーファ様の許可が下りた。その後、男爵様やレオナルド様からは男爵領で僕達の結婚をする用意をすると言われて、エリーもアンジェ様やリリア様から祝福された。ネーファ様は結婚の許可は出しても納得はされていないが、あの子が僕達の事を言ってフォローしている。あの子が僕達の事をフォローなんて何が変な物でも食べた?
話し合いが終わり、僕とエリーは荷造りの為に部屋に戻る。別れるときにエリーが言った。
「私達、一緒に男爵領に行けるのね」
「僕達、二人とも行けるね」
「クレイン様やアンジェ様が男爵領で結婚をしても良いと言っているわ」
「男爵様達には感謝しないとね」
「これもトルク君が皆に言ったお陰ね」
⋯⋯それは違うと思う。あの子が僕達の為に何かをする事は無い。エリーの勘違いだよ。
「イーズ」
「エリー」
やっと僕達は結婚できる。幸せになれる。
「ゴホン」
後ろに料理長が居た。僕達は慌てて料理長の方を向く。
「どうしました?料理長」
「⋯⋯お前達、時と場所を考えてイチャイチャしろ。旦那様に会いたいが今は大丈夫そうか?」
「はい、話し合いが終わってますから問題ないと思います」
「それでは、私は男爵領に行く準備をしてきます」
エリーは料理長に見られたのが恥ずかしかったのか早歩きで行った。そして料理長が僕に向かって言った。
「イーズ、今から男爵領に行く奴を推薦してくるから安心をしろ。お前は男爵家に行かなくていいぞ」
あ、他の人に男爵領に行ってもらおうと料理長に頼んでいたんだ。ヤバい、どうしよう。今から僕が男爵領に行くって言わないと。
「料理長、僕が男爵領に行きます。他の人を推薦しないで下さい」
「なぜだ?男爵領に行きたくないのだろう」
「エリーが男爵領に行くので僕も行きます」
「⋯⋯いや、他の奴を推薦する。自分が言った言葉には責任を持て」
あれ、料理長怒ってない?
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




