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精霊の友として  作者: 北杜
三章 伯爵家滞在編
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26

目が覚めたらオレを抱き枕にしているマリーを起こしてベッドから出る。今日の予定を考えながら身だしなみを整えて母親とマリーと一緒に食堂に向かった。食事を終えて男爵家の使用人達と宿屋を出る準備をしていると、オレを呼ぶ声が聞こえた。振り向くとエイルド様がムスッとした顔でオレの後ろに立っていた。

あー、きっと昨日の事だな。男爵様に怒られたから謝りにきたのか?いや待てよ。男爵家のご子息がただの平民の使用人に謝るのか?エイルド様はムスッとしてずっと立っているだけだ。貴族が平民に謝ることが出来ないなら平民のオレが頭を下げるのが正解だろう。やっぱり階級社会は嫌だな。貴族が上で平民が下。貴族の言う事が絶対。平民は貴族の言う事を我慢して聞くのか。まあ昨日の事は子供の癇癪だ。精神年齢が大人のオレが謝ってエイルド様の関係を良くしておかなければ周りに迷惑がかかるし。


「昨日は申し訳ありませんでした」


オレは跪いて頭を下げた。


「あれから馬車で出来る遊具を作ったので後でお持ちします」

「・・・分かった。後で持ってこいよ」

「分かりました」


エイルド様の足音が遠くなる。顔を上げて立ち上がり仕事に戻ろうとしたらレオナルド様が近づいてきた。


「エイルド様はムスッとしているな。キチンと謝ったのか?」

「はい、跪いて謝りました」

「・・・トルクが謝ったのか?」

「勿論です。貴族が使用人に謝るなんて出来ないでしょう。後でトランプを持って行きますから今度は馬車でも暇を潰せますよ」

「・・・少し話さないといけないな」

「どうしました?」

「いやなんでもない。もうすぐ出発だ。今日は野営だが夕食の献立は大丈夫か?」

「やっぱり私が作るのですか?」


他にも料理人は居るだろう。イーズとかイーズ父とか。


「今回は料理人が居るからな。料理が作るのが楽になるぞ」

「でも行きよりも人数が増えましたよね」


伯爵家から使用人や兵隊さんが増えてその分も作る量も多い。ざっと二倍から三倍くらい人数が増えているんだけど。


「・・・食材は大丈夫だ。料理人もいる。だから美味い料理をたのむぞ」

「・・・わかりました」


騎士爵持ちのレオナルド様の御命令だ。料理人も増えたし頑張ろう。

しかし子供にこんなに働かせるなんて絶対にブラックだよね、貴族社会じゃなく世界が。この世界は厳しいブラック社会だ。いやまて、この世界が会社として平民が残業代・休みなし平社員もしくは派遣。残業代なし・休み有り係長・課長・部長が裕福な平民や騎士爵。残業代有り・休み有の役員・社長が王侯貴族だ。オレは平社員の平民だ。休みがとれる係長まで頑張って出世しなければ。その為に男爵様の所に居るのが一番いいだろう。せめて休み有り残業代少し有りの社員になろう。そして嫁さんを貰って幸せに暮らそう。子供は嫁さんと相談をして頑張るとして、子供の教育の為に住む場所は自然がある所がいいかな?それとも都会がいいかな?うーん、迷うな。やはりこれも嫁さんと相談だな。それから母親も一緒に住むんだったら家は大きい方が良いよな。今からお金を貯めてマイホームを建てる準備をしないとな。この世界は銀行とか住宅ローンとかはないと思うからお金はどこかに隠していた方が良いのかな?おっと子供の名前もどうしようかな?やっぱり男と女と両々考えるべきだ。そうだ双子だったらどうしようか?名前の候補を十個くらい考えて嫁さんと一緒に決めよう。


「トルク、もうすぐ出発よ」


母親の声でオレは現実に戻った。どうも変な事を考えていたようだ。結婚だの子供の名前だのどうして変な事を考えたんだ?頭のネジが少しゆるんだようだ。ネジを締め直して気合を入れよう。




今回はオレも男爵様一家の馬車に乗るが人数が結構多いな。アンジェ様、エイルド様、ポアラ様、ドイル様、母親にマリーとオレ。本来、六人位しか入れない馬車だからマリーは母親の膝の上に座っている。

オレが昨日作ったトランプの遊び方を説明して、ゲームスタート。みんなでババ抜きをして楽しんだ。でも馬車が揺れるから一人はカードを管理しなければならず、それはオレ。途中からビリで負けた人がカードを管理する事になり、エイルド様が三回に一回くらいのペースで負けてカードを管理する仕事をしている。大丈夫かな?負けたからってまた癇癪を起さないよね。ちなみに一番勝っているのがドイル様だ。この子運が良すぎないか?

休憩兼昼食後はエイルド様が「話を聞かせろ」と言ってきたのでまた物語を語る。

ここではない国の先代王がお供をつれて諸国漫遊する物語。王位を子供に譲り自分は昔からの夢であった諸国漫遊をする。お供には軟派な二枚目の剣の達人スーケ。真面目で実直、体術が得意なカーク。それから明るくドジで食べる事が好きなハーチ。旅先でトラブルに頭を突っ込み解決する老人と三人のお供の物語だ。


ここからはダイジェストでお送りします。


「ご隠居、ここの街の名物はとても美味しいのですよ。寄っていきましょう」

「さすがはハーチ。食い物に目が無いな」

「カークさん、旅の醍醐味は食べ物でしょう」

「まあハーチの言う通り休憩がてらに食べようかの」

「流石はご隠居様。話が分かる。おや、前の方でなにかあったのかな?」


トラブルに突っ込んだご隠居一同。

「なるほど、ライバル店が嫌がらせをしてくるのですか」

「はい、この街の名物品を自分の店だけで売ろうとしているのです。私の家族や従業員にまで手を出してきまして」

「なるほどのう」

「先祖代々語り継がれた技術を手に入れる為に、あいつらは恐喝してくるのです」

「店長、大変です。娘さんがライバル店の奴らに攫われました」

「それは、一大事。スーケさん、カークさん、娘さんを助けましょう」


スーケがライバル店の悪漢から娘さんを助ける。

「お嬢さん、怪我はないか?」キラ

「はい、危ない所を助けて頂いてありがとうございます」ポッ

「顔が赤いが大丈夫ですか?」

「だだだ大丈夫です」


ライバル店の奥の部屋。

「なんだと、娘を攫うのに失敗したのか」

「すみません。男が邪魔をしたらしいです」

「ふん、使えない奴だ。まあ良い。後ろには私がいる。早くあの店を潰すのだ」

「ありがとうございます。領主様。これはお礼の黄金の果実です。どうぞよろしくお願いいたします」

「ふふふ。お主も悪よのう」

「此度の件が上手くいきましたら、御贔屓をお願いします」


強行に出るライバル店と領主。

「そんな、私達は何もしておりません」

「嘘をつくな。お前達の店が盗んだのだろう。盗みは大罪だ。連れていけ」

「お待ちください。何の証拠が有って罪を着せるのですか?」

「邪魔するな、じじい。領主様の命令だ」

「しかし、罪の無い者を連れて行くのはいけません」

「やかましい、ぐわっ」バタン

「ぐわっ」バタン

「ぐわっ」バタン

「ちくしょう、覚えてやがれ」


ライバル店にて。

「領主様、罪の無いものに罪を着せ、悪徳商人と手を結び、金銀を着服するとは領主のする事か」

「黙れ田舎ジジイ。この街は私のモノだ。者ども出会え、この無礼者達を殺せ」

「スーケさん、カークさん懲らしめてあげなさい」


ラスト。

「静まれ」

「静まれ、この紋章が目に入らぬか」

カークさんが王家の紋章を見せる。

「此処に御座す方をどなたと心得る」

「恐れ多くも先の国王なるぞ」

「一同、先王の御前である。頭が高い。控えろ」

「ハハー」全員が膝をつく。

「領主よ。商人と悪事を働き私腹を肥やし、罪なき者を陥れるそなた等の罪はしかと明白である。大人しく裁きを受けよ」

「申し訳ありません」土下座して謝る。


エピローグ。

「私達が助かったのもご老公様のお陰です。ありがとうございました」

「名物品が守られて良かった」ご老公がホホホと笑う。

「スーケさん。悪漢から救っていただいてありがとうございました」娘が顔を赤らめて言う。

「では皆さん、旅を続けましょう」

「スーケさん、娘さんから随分と熱の籠った視線を受けてましたね」

「そうだな、私は良い仲になると思っていたぞ」

「カークさん、ハーチ、からかわないでくれ。私はみんなと旅をする事の方が大事だ。それに・・・」

「どうした、スーケさん」

「実を言うと彼女の名前が私の母親の名前と一緒でな」

「ホホホ、それでは呼びづらいでしょう。どうりで名前で呼ばなかった訳ですね。スーケさん」

「私なら大丈夫ですがね。母親と同じ名前くらいどうって事ないですよ」

「因みにお前の母親の名前は何だ?ハーチ」

「家の母親の名前なんて聞いてどうするんですか?流石にスーケさんを父親と呼ぶのは勘弁ですよ。因みに母親の名前はハナコです」

「お前の母親の両親はどうしてそんな名前にしたんだ?」

「なんでも、古い言葉で花のように美しいという意味らしいです。お陰様で母親は綺麗ですよ。今年で五十歳なのに四十代にしか見えませんから」



話し終えた後、馬車の外で聞いていた男爵様とレオナルド様は大笑い。アンジェ様や母親は苦笑いをしている。エイルド様は「カークさんスーケさんかっこいいな」と言っているし、ポアラ様とマリーは不思議そうな顔をしている。この二人には早かったかな?ドイル様は「静まれー、この紋章が目に入らぬか」とか言っている。


「トルク、次の物語は何だ?」


もう次の話をご所望か。エイルド様は相変わらずせっかちだな。


「次の話はご老公と女義賊ギーンの話です。旅を続けるご老公達、噂で女義賊ギーンの噂を聞く」


次の物語が終わった頃には行くときに使った野営所に着いた。オレは喋り続けて喉が渇いたので水を飲んで使用人のみんなと野営の準備をする。前に作ったかまどもテーブルも有るから掃除をして使えるようにする。今回はお好み焼きモドキと肉と野菜の串焼きとスープ。イーズとイーズ父、モータルさんと手分けをして料理をする。テーブルに座る男爵家一家と母親とマリーの視線の元、出来上がった料理を配った。使用人や兵隊さん達からうまいという声が聞こえる。オレ的にはイマイチなんだけどな。やはり塩胡椒やタレが欲しいが、胡椒は高いだろうしタレは作り方が分からない。どこかにコンビニかスーパーがないかな?

見張りの兵隊さん以外は決められた場所で休みをとる。オレや母親やマリーはエリーさん達女性の使用人達と一緒に寝る。どうして親の仇のように睨むんだよイーズ。オレは子供だぞ。

朝になり、朝食を取って出発をする。あと少しで男爵家だ。町や農園が懐かしいよ。男爵家に着いたら鍛冶職人の人に料理道具を作って貰って、マリーの使用人教育を手伝って、母親が仕事に慣れるように頑張らないとな。あと、男爵家の子供達の世話をしないといけないな。エイルド様とポアラ様は来年には王都の学校に行くからその準備をしないといけないだろうな。オレも王都の学校について行くみたいだからな。どんな事を学ぶかレオナルド様に聞いておこう。

町に着き、農園を越えて男爵領に着いた。男爵家に着くと留守番の使用人や兵隊さんが騒がしい。男爵様が理由を聞くと。


「大変です。辺境の村々が壊滅したそうです。生き残った村の住人がこの町に次々と来ています」


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[気になる点] 三章 26 「次の話はご老公と女義賊ギーンの話です。旅を続けるご老公達、噂で女義賊ギーンの噂を聞く」 ↓ 噂で女義賊ギーンの話を聞く かと思います。
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