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母親とマリーに協力してもらったが、帰る準備が夜中までかかった。母親のお土産は買ったがマリーのお土産は買えなかったからマリーはご機嫌ななめだ。それでも帰り支度を手伝ってもらったよ。男爵家に戻ったら埋め合わせをしないとな。レオナルド様に言って伯爵家の食材を貰ったり、伯爵家の料理人達に挨拶をしたり大変だった。
それから朝食はお好み焼きモドキ。やはりお好み焼きソースとマヨネーズが必要だな。男爵家に戻ったら作ってみるか。
「トルク、お代わり」
「私も」
「僕も」
お子様達は相変わらずお代わりを所望する。オレ的にはあまり美味しくない料理なんだけどな。
「ふむ、この料理は戦場でも食べられる料理だな」
「確かにそうですね」
「そんな無粋な事を言わないの。でも外で食べれる料理よね」
大人はこの料理を戦場で食べる気か。オレは作りには行かないぞ。
食事が終わってオレは母親とマリーと一緒に荷物を持って部屋を出た。伯爵家の滞在は大変だったな。料理を作ったり、殴られたり、賊に襲われたり、賊から逃げたり、勘違いをされたり、牢に入れられたり散々な目に遭ったな。玄関に着くとイーズとエリーさんに会った。
「よう、イーズ。調子はどうだい?おはようございますエリーさん」
「なんの調子だよ。昨日は男爵領に行くための荷造りのせいでほとんど寝てないんだよ」
「私も急に決まったから、引継ぎや荷造りであまり寝てないわ」
エリーさんも睡眠不足のようだ。目の下にクマが出来ている。
「エリーさん、イーズさんおはようございます」
「エリーさん、イーズさんおはよう」
挨拶をして荷物を馬車に乗せ、オレ達は男爵一家が来るのを待つ。オレ達や使用人や兵士が馬車の前で整列をして、少ししたら伯爵様夫婦と男爵様達が来た。
「クレインよ、娘と孫を頼むぞ」
「はい、義父殿もお気をつけ下さい」
「お父様、お母様。健康には気を付けてね」
「お爺様、また傭兵ギルドに行くので許可をお願いします」
「僕も傭兵ギルドに行ってランクを上げるんだ」
「私もランクを上げようかな」
ポアラ様、変な事を言わないで下さい。一瞬アンジェ様の雰囲気が変わったよ。母親も困った顔をしているし、マリーも「ランク上げた方が良いのかな?」って変な事言ってるし。あ、伯爵様がこっちの方に来た。
「リリア殿、娘や孫の事を頼む。トルクもエイルド達を守ってくれ。それからこちらでも伯爵の件は調べておく」
「かしこまりました。宜しくお願い致します」
「かしこまりました。宜しくお願い致します」
オレも母親の真似をして同じことを言った。
そして伯爵夫人がエリーさんと挨拶をしている。
「エリー。本当に爵位持ちの人と結婚しなくていいの?平民のイーズと結婚するの?」
「はい、男爵領に行ったらクレイン様が婚約の儀をしてくれるそうなので、伯爵領に戻った時に結婚しようと思います。奥様には色々とお世話になりました」
「騎士爵が駄目なら男爵ならどうかしら。爵位持ちよ」
「私はイーズと結婚して幸せになります」
まだ諦めてなかったのか伯爵夫人は。子供の頃の夢を大切にするのは良いが今幸せなら良いと思うけどね。そういえばポアラ様やマリーは伯爵夫人に変な事を言ってないだろうな。本気にしたら大変な事になるぞ。
「ねえ、母さん。ポアラ様やマリーはネージュ様に変な事を言ってないよね。主に将来の夢とか」
「・・・大丈夫だと思うわ」
少し考えて心配そうに言った。本当に大丈夫だろうか。
「では出発するぞ」
男爵様の声で移動を始めた。いつの間にか挨拶は終わったようだな。男爵様が馬に乗って先頭に着き移動する。護衛の兵と馬車がその後ろを進む。いつの間にか母親とマリーはアンジェ様の馬車に乗っている。あれ、オレは歩き?イーズもエリーさんと別れて歩いて行動するようだ。男の使用人は歩きで女性は馬車か。せめて子供も馬車にしてくれたら良いのに。そんな感じで歩いているとレオナルド様が馬に乗って近づいてきた。
「トルク。お前は先頭のクレイン様の所に行ってくれ。話がある様だ」
「分かりました」
オレは走って先頭のクレイン様の所に向かった。何か用事があるのかな?
「お待たせして申し訳ございません。御用とお聞きしました」
「おう、トルクか。今回の褒美を聞こうと思ってな。賊からドイルを助け出し、伯爵家で料理を作り、使用人を賊から助け出したのだ。お前が欲しい物を聞いておこうと思ってな。何が欲しい?」
「それでは鍛冶職人に私の希望する物を作って貰うのはどうでしょうか?実を言うと料理の幅を広げる為に料理道具が欲しかったのです」
「分かった。帰ったら言っておこう。他にも欲しい物はあるか?」
まだ良いのか?うーん思いつかないな。無難に金でも貰っておくか。それよりも休みを増やしてもらうか?
「まだ決まっていないなら、後日でも良いぞ。しかし新しい精霊の料理か。家に着くのが楽しみだな。料理の材料は足りるかな。農園をまた増やしてみるか」
大嘘ついたら変な事になった。精霊の料理なんて言ってて恥ずかしいと思うのはオレだけのようだ。他の皆は恥ずかしがらずに言っている。
「それなら他の野菜も育ててみませんか?」
「それも良いな」
「牛を増やすのも良いかと思います」
「検討してみよう」
「鳥の卵も増やしてください」
「新しい料理に使うのか」
「卵焼きやオムレツが出来そうですね」
「採用しよう。帰ったら忙しくなりそうだな」
そんな感じでオレと男爵様は先頭で話を続けた。男爵家で良き食生活が出来そうだな。他にも男爵家の設備を整えてみるのも良いかもしれない。
男爵様といろんな話をしていたら、いつの間にか最初の宿泊場に着いた。兵隊の皆さんは、馬車や宿屋に泊まる男爵様達や使用人の護衛だ。イーズやエリーさん、イーズ父も宿屋に泊まる。食事は宿屋で出されたものを食べ、食堂で母親やマリーと寛いでいたらエリーさんがオレ達を呼び出した。どうやら男爵様達が呼んでいるそうだ。オレ達は男爵様達がいる部屋に向かった。
「失礼します。リリア様達をお連れしました」
「ご苦労様、エリー。リリアさん達も急に呼んで申し訳ないわね。食後のお茶でも如何と思ってね」
「ありがとうございます。喜んでお付き合いします。今日は星が綺麗なのでバルコニーでお茶を楽しみませんか?」
「あら、いいわね。そうしましょう。急いで準備しますね」
部屋に居る使用人やエリーさんが準備をする。オレも動いて準備をした。椅子やテーブルを持って行ったり、お茶の準備をしたりしていると腕を掴まれた。振り向くとエイルド様がオレの腕を掴んでいる。
「なあ、トルク。暇だから何かないか?」
オレは現在進行形で仕事をしていて暇じゃないんだけど。
「すみません、もうすぐお茶の準備が出来ますのでしばらくお待ちください」
「そんな事よりもこっちに来いよ。母上、オレ達はトルクと遊ぶから」
エイルド様がオレの腕を引いてドイル様達の所に行く。オレに何をさせる気だよ。
「トルク、何か面白い事ない?」
ドイル様、もっと具体的に言って下さい。あれポアラ様は?周りを見渡したらアンジェ様達とお茶会に参加するようだ。なぜかポアラ様とマリーはこちらを睨んでいる。どうしてかな?
「とりあえず、双六でもしますか?」
「それは馬車の中でした。揺れて大変だったぞ。それ以外が良いぞ」
確かに揺れる馬車で双六は出来ないだろう。今日はずっと男爵様と話していたから他のみんなが何をしていたか知らなかったし。
「暴れん坊な王様の話はどうですか?」
「その話は明日馬車の中で聞くからそれ以外だ」
我儘な若様だよ、全く。
うーん、他に遊べる奴はあったかな?トランプやオセロは手軽に暇つぶしになるが作ってないし。
「トルクはお父様とずっと話していたからね。僕達は馬車でずっと暇をしてたんだよ。お兄様もトルクと遊びたかったみたいだし」
ドイル様、解説ありがとうございます。さぞかし暇をしていたんだろう。オレを呼ぼうとしても男爵様と話していたから呼べなかったんだな。でも何をしようかな?
・・・思いつかない。どうしようか?
「どうした?トルク」
「・・・暇つぶしの遊びが思いつきません。今日は新しい物語はどうですか?」
「何を馬鹿な事を言っている。それで何か思いついたか?」
「申し訳ありません。暇つぶしの遊びが思いつきません」
いやー、トランプやオセロゲームは材料が無いから作れない。他に簡単に出来る遊びってなかったかな。あ、指を使った遊びとかはどうかな?
「だったらもういい。お前なんて出て行け」
大声でエイルド様から怒られた。大声を出したからドイル様はビックリしているし、男爵様も驚いている。バルコニーまで声が聞こえたからアンジェ様達もこっちを見ているみたいだ。子供の癇癪か、仕方がない。機嫌が直るまで部屋から出るか。
「申し訳ありません。それでは失礼します」
怒られたか。というよりも子供の癇癪だな。明日の暇つぶしの為にもオレは部屋から出て食堂に向かい、トランプを作るべく紙を宿屋の人から買い取った。お土産を買おうとした時のお金が余っていて良かった。黙々とトランプを作っているとオレが座っているテーブルに誰かが座った。レオナルド様だ。
「すみません、気づきませんでした」
「どうした?アンジェ様に呼ばれたと思っていたが」
「ははは、エイルド様の機嫌を損ねてしまって部屋から追い出されました」
「・・・そうか。それで今は何をしているんだ?」
「暇つぶしのゲームを作っています。もうすぐ出来上がりますから遊んでみますか?」
「そうだな。この数字と模様でどんなゲームが出来るか見てみたい」
少し不格好なトランプが出来上がり、ババ抜きのルールを教えて二人でやった。
「む、これでカードが無くなったから私の勝ちだな」
「私の負けですね」
「なかなか面白いな。心理戦も出来るし楽しいなこのゲームは」
初めてやったゲームで心理戦を考えないで下さい。それに相手は子供ですよ。
「もう一回やってみよう、今度は人数を増やしたらどうだ?」
「そうですね、丁度、イーズ達が来たから誘いますか」
レオナルド様がイーズとイーズ父を誘って四人でババ抜きを始める。今回のビリはイーズだ。こいつは顔に出るからな。ポーカーも絶対負けるタイプだな。
四人でトランプをして遊んでいたら、母親とマリーとエリーさんが食堂に降りて来た。オレ達が笑って遊んでいるのを見て何か言いたそうだった。
「母さん、暇つぶしのゲームを作ったから明日みんなでやってみて。ルールを説明するね」
何回かみんなでババ抜きをして遊んだがやっぱりビリはイーズだった。負け続きでイーズはいじけて部屋に戻った。イーズ父もやる事があるらしくゲームを止めて食堂を出た。イーズ達が抜けて五人でババ抜きをしている最中に母親がオレに向かって言った。
「貴方が部屋から出て行ってから大変だったのよ。エイルド様はクレイン様に叱られてドイル様も泣きだすし、お茶会は中断でね」
あら、そうなんだ。レオナルド様がオレの手札を取りながら聞いた。
「何があったのだ?トルク」
「エイルド様から暇つぶしの遊びを出せと言われたんですが、思いつかなくて怒られました」
「怒ったエイルド様がトルク君を追い出して、その事でクレイン様がエイルド様を叱ったのです」
エリーさんがその後の説明をした。エイルド様が叱られてドイル様は泣き出したのでアンジェ様が慰め、ポアラ様やマリーも涙目だったから母親が慰めていたらしい。最後はエイルド様も泣きながら叱られたという事だ。明日みんなに会うのが少し怖いな。
「その暇潰しの遊びはこのトランプではダメなのか」
「これは今さっき作ったので無理ですよ。本当は伯爵家で作るつもりでしたが時間が無くて」
今度はマリーが一番最初に終わったか。
「それなら作ったあとすぐにこのトランプをもってくれば良かったのに、そしたらこれで遊べたよ」
「ダメだよ、マリー。使用人が勝手に主のいる部屋に入ったら怒られる。それに出て行けと言われたから、部屋には入れないよ」
怒られた手前、部屋には戻りたくなかったんだよね。二番手は母親が勝ったか。
「このトランプが馬車の暇つぶしになればいいんだけどね。そういえば母さんとマリーはみんなと同じ馬車だったんだよね」
「双六ってゲームをしてたけど馬車は揺れるから大変だったわ。貴方はクレイン様と話しているから呼ぼうにも呼べなかったしね」
「お兄ちゃん、馬車の中でもエイルド様が怒っていたよ。どうして呼ばれても来ないんだって」
そうか、今回の癇癪は昼に呼べなかったから積もり積もって怒ったのか。三番手がエリーさんか。後はオレとレオナルド様の一騎打ちだ。オレはババを持っていないから持っているのはレオナルド様だな。
「まあ、クレイン様と先頭で話していたからな、仕方がないよ」
男爵様と新しい作物を育てる事や養鶏場を拡張して卵の量を増やす事など有意義な話ができた。レオナルド様がオレから手札を取る。これでオレは残り一枚。レオナルド様が残り二枚。片方はババだ。
「まあ、トルクが来る前はエイルド様の癇癪は酷かったからな。他の使用人に八つ当たりをしたり、物を壊したりして昔は大変だったぞ」
え、初めて聞いたよその話。あ、ババを引いたか。
「そんな事があったんですか。初めて聞きました。私がエイルド様達と過ごしている時はそんな事はなかったですよ」
レオナルド様もオレの手札からババを引いた。うむ、なかなか激しい戦いだ。
「お前がエイルド様達と一緒になってからみんな変わられたのだ。エイルド様は暴力を振るわなくなったし勉強からあまり逃げ出さなくなった。ポアラ様も勉強からあまり逃げ出さず淑女の教育も受けている。ドイル様も昔はよく泣いていたが今では強くなりたいと言って勉強や剣術を始めると聞いている。トルクが来てから男爵家は良くなってきている」
また、レオナルド様の手札からババを引いた。しかしエイルド様もポアラ様も嫌な授業からは良く逃げていますよ。授業が終わる時間までに捕まえているから逃げて無い事になっているのかな?
「クレイン様もアンジェ様も他の使用人達もトルクが男爵家で働いていて喜んでいるぞ。料理も美味いし、掃除も丁寧だ。私の仕事も手伝ってくれている、エイルド様達の面倒も見てくれて助かっている。よし上がりだ」
レオナルド様がオレの手札を取った。最後に残ったオレの手札はババで今回のババ抜きは負けたか。
「今回はエイルド様の癇癪は間が悪かったみたいだが、気にしない様に。新しい遊戯道具も作ったから機嫌も悪くならないだろう。明日は子供達と一緒に馬車に入れるようにクレイン様に伝えておくからな」
「ありがとうございます」
「では、そろそろ休もうか、遊びすぎたな。ではリリア殿、マリー、トルク、お休み」
オレ達は自分たちの部屋に戻って横になった。その前に。
「マリー、何度も言っているがオレのベッドで寝るな。狭いだろう」
どうして、オレのベッドで寝るんだよ。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。
 




