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ようやく伯爵家にたどり着いた。今日はとても疲れたよ。休みのはずなのに知り合いが拉致に遭うし、賊から逃げ回るし、魔法ギルド長からは変な腕輪を付けられるし、腕輪をして走って帰ったら街の人から変な目で見られるし。とても疲れた。それにお土産を買っていないし。とりあえず部屋に戻ろう。戻って寝よう。伯爵家に帰ってようやく安心をした。
しかし。
オレは今、伯爵家の地下牢に居ます。腕輪をはめたまま門番さんに挨拶をしたら犯罪者と間違えられて地下牢に連れていかれました。
「私は男爵家の使用人のトルクです」
「うるさい、この腕輪をしている奴がウィール男爵様の使用人であるはずではない」
「本当です」
「嘘をつくな、犯罪者しかつけない腕輪をしている奴が何を言っている」
こんなやり取りが続いてオレは地下牢に連れていかれました。朝に居た門番さんだったら顔が解っていて大丈夫だったのに。
この腕輪のせいで魔法が使えず、地下牢に座っている。それにしても暇だな。そして隣の奴はうるさいし。
「ざまみろ、平民め。お前は地下牢がお似合いだ。この私をコケにした報いだ」
料理長、いや元料理長がオレの隣でわめいている。さっきからうるさい。
「どうせ料理が出来ずに地下牢に来たのだろう。オレや伯爵に嘘をついた罰だ」
そういえばこの腕輪は手から魔法を使えなくする道具だよね。だったら足から魔法を使ったらどうかな?
「お前のような薄汚いガキのせいでオレは料理長の職を辞めなければならなかったが、きっと伯爵もオレにもう一度、料理長の座を与えるだろう」
足に魔力を流す。……手ほどじゃないけど魔力が使えるが結構難しいな。訓練が必要だな。
「そして、オレは伯爵家の料理長に返り咲きお前を死刑にしてやる。オレのいう事を聞かなかった奴もだ」
足から魔法が使えるなら目や口からも出来るかもね。ピッ〇ロ大魔王みたいに。
「これでオレは伯爵家の料理長だ。いや伯爵ではオレの料理の腕は狭すぎる。オレは王都の宮廷の料理長こそふさわしい」
火魔法は目や口から出すのは痛そうだが、水魔法ならどうかな?風魔法を口から使ったらブレスや超音波が放てるかな?足から土魔法を使うのもロマンかもしれない。
「オレの料理は王都にこそふさわしい。そしてオレの料理を真似してオレの料理がこの世界に広まるのだ」
その為にはまずは足から魔法を使える様に訓練してみようかな。なんだか楽しくなってきた。
「ガハハハハハハ」
そろそろ五月蠅くなってきたな。しかしこれからどうしようかな?クレイン様やレオナルド様の助けを待つかな。傭兵ギルド長はオレが魔法ギルド長と一緒に伯爵家に帰る事は解っているから、大丈夫だろう。魔法ギルド長も伯爵家に来るって言っていたし。訓練をしながら考えていたら少し眠くなってきたな。あまり良い空間じゃないけど少し寝るかな。と思っていたら外が騒がしくなってきた。何人か地下牢に降りて来る。あいつらはオレを捕まえようとした奴等だ。リーダー格の男もいる。
「ついてないぜ。これもあの変なガキのせいだ」
変なガキってオレの事だよね。
「あのガキのせいで全部ダメになった。くそったれめ」
「お前達は後で尋問をする。それまで大人しくしてろ」
「くそったれめ」
声に聞き憶えがある。伯爵家の兵隊さんだろう。助けてもらえるかな。
「すいません、男爵家使用人のトルクです。助けて下さい」
オレの声が地下牢に響き渡る。そしたら兵隊さんとクレイン様、レオナルド様が、オレが入っている牢屋の前に来た。
「……トルク、どうして地下牢にいる?お前は魔法ギルドのギルド長と一緒だったと聞いていたが」
クレイン様の問いに簡単に答えた。
「魔法ギルド長に腕輪をはめられて犯罪者扱いされ魔法ギルドから逃げ出しました。しかし伯爵家の門番さんに犯罪者と間違われてこの地下牢に連れていかれました」
「……とりあえず地下牢から出ろ」
「……お前は伯爵領に来てから何をしている」
クレイン様とレオナルド様から呆れられる。オレは兵隊さんに入り口のカギを開けてもらい牢屋から出る。シャバの空気がうまい。まだ地下室だけど。
「ご迷惑を掛けてすいません、あと腕輪はどうしましょうか?」
「その腕輪ははめた奴がカギを持っているはずだ。魔法ギルド長が腕輪を掛けたのか?」
「はい、なんでも闇魔法の使い手と勘違いされて」
「……どうして、お前が闇魔法の使い手と勘違いをされる?」
あれ、クレイン様が怒っている様だ。レオナルド様も怒っているみたい。
「詳しくは解りませんが、傭兵ギルド長と一緒に来たイーズとエリーさん達から話を聞いてないのですか?」
「どうして、傭兵ギルド長が出て来る?話とはなんだ?」
まだ知らなかったのか。それともまだ傭兵ギルド長が話していないのか?
「街を探索中にイーズとエリーさん達が元料理長に拉致されて、二人はそこの賊に言われて伯爵家の料理に毒を入れろと脅されたんですよ。その毒らしき小瓶を受け取った時になんとか二人を助けてイーズとエリーさんは傭兵ギルドに逃げ込みました。私は魔法ギルドに逃げ込んで、ギルド長に訳を話して二人で傭兵ギルドに行きました。その時、毒が入っている小瓶が毒以上の物、闇魔法の呪いらしいと気づいた私が闇魔法の使い手と勘違いをされました。腕輪をはめられて魔法ギルドに監禁されそうになったので窓から逃げ出しました。伯爵家に帰りましたが、腕輪のせいで地下牢に連れていかれました」
「今度からトルクの休みには誰か見張りを付けた方が良いようです」
「その見張りはレオナルドがするか?」
「……私だけでは荷が重いです」
「そのようだな」
「今回は不幸な出来事が重なった結果ですから、見張りまではちょっと」
休みにまで見張りは勘弁してください。ただでさえ自由時間が少ないのに見張りまで居たらプライバシーが無くなるよ。そんな話をしていたらまだ声が聞こえた。地下牢に来たのは伯爵様と傭兵ギルド長と魔法ギルド長とイーズだ。
「おお、伯爵様。私を出してくれるのですね」
牢屋から元料理長が伯爵様に向かって話しかける。
「私の罪が無罪だと信じてくれたのですね。私はあのガキに騙されたのです。私は無実です」
「お前をだましたガキと言うのはトルクの事か?」
クレイン様が元料理長に話しかける。
「そうです。そのガキが私を騙したのです」
「お前を騙したとしてどうして伯爵家から逃げ出したのだ」
「私は逃げてません。料理の材料を取りに街に出ただけです」
「義父の命令、伯爵の命令で外出を禁じたはずだ。どうして外出をしたのだ?」
「しかし、それでは料理がつくれません」
「それでどんな材料を街に取り行くのだ。そこの奴から料理の材料を取りに行くのか?」
男爵様は牢屋に入れられたリーダー格の奴を見て行った。
「ち、違います。私は彼らなんて知りません」
「嘘はいけないぜ。オレ達はお前から伯爵家の情報を教えてもらっていたからな」
リーダー格の奴が元料理長に言った。元料理長は否定をするがそんな事を信じる人間はこの場にいない。しかし元料理長はお構いなしに自分の主張を述べる。主に「自分は悪くない、悪いのはガキだ」とか「騙されたのだ、助けてくれ」と言い伯爵様に助けを求める。いい加減にうるさくなってきたからみんな無視してきた。
「ではイーズよ。元料理長がお前とエリーを脅して賊のアジトに連れていかれたで間違いはないな」
伯爵様がイーズに聞いた。
「はい、そうです」
「そして賊の男からこの瓶を貰ったで間違いないな」
「はい、瓶の中身を料理に入れろと脅されました」
「そしてトルクが入ってきてお前達を助けて傭兵ギルドに逃げ込んだのだな」
「トルクからギルドか伯爵家に行って応援を呼んでくれと言われて、僕達は街から近い傭兵ギルドに逃げ込みました」
「そして、傭兵ギルド長に訳を話していたら魔法ギルド長とトルクが一緒に来たのか」
今度は魔法ギルド長に聞いた。
「私が魔法ギルドの部屋で作業をしていたら煙突から部屋に入ってきて、訳を聞いたら男爵様の命を狙っている賊から逃げてきたと言いました。私はその事を証明してもらう為にトルクと一緒に傭兵ギルドに行きました。そしてその瓶を見て賊の狙いが男爵様の命だけではなく伯爵家全員の命だと分かりました」
「この瓶は闇魔法の呪いが入っていて、開けたらその場に居る全員が呪われる魔法だという事だな」
「その通りです。私にはこの呪いの魔法を消去する力はありません。しかしこの魔法を見つけたトルクなら呪いの消去が出来るかもしれません」
「それでトルクよ。どうしてお前は腕輪を付けて地下牢に居るのだ?」
伯爵様はオレを見て言った。
「えーと、魔法ギルド長から腕輪をはめられて何故か闇魔法の使い手と勘違いをされました。私は闇魔法の使い手では無いと言っても信じてくれないので、私は魔法ギルドから逃げました。なんとか伯爵家にたどり着いたら、門番の人達からこの腕輪をしているから犯罪者と間違われて地下牢に入れられました。そして元料理長から「伯爵ではオレの料理の腕は狭すぎる。オレは王都の料理長こそふさわしい」とか「オレの料理は王都の宮廷にこそふさわしい。オレの料理を真似してオレの料理がこの世界に広まるのだ」という声を聴きながらここでゆっくりしてたら、クレイン様達に助けてもらいました」
「……それでお前は闇魔法を使えるのか?」
「私は使えません。瓶の中身は病原菌と思っていました。病原菌とは流行り病等です。瓶を開けたら病原菌が発生して伯爵家に蔓延、そして病にかかって死んでしまう。その事を言ったら魔法ギルド長は闇魔法の使い手と勘違いをしたようです」
どうやったら信じてくれるのかな?最後は光魔法の使い手と告白して回復魔法を使った方が良いかもしれない。でも母親から喋るなと口止めをされているからな。
「腕輪を解いてやれ」
伯爵様が魔法ギルド長に言った。
「しかし」
「トルクなら大丈夫だろう。それにこんな子供が闇魔法の使い手とは信じられん。本当に呪いではなく病原菌とやらと勘違いをしたのだろう」
「ですが、病原菌なんて聞いた事がありません」
「ワシも聞いた事はないが流行り病をこの瓶に入れておく。これは呪いと同じではないか。流行り病で死滅した村はいくらでもある。トルクが腕輪をはめられて逃げた様だが腕輪はやりすぎだ。そのせいでトルクは地下牢に入り、お前も闇魔法の使い手と知る人間が増えた。もう少し冷静に考えて物事を進めよ」
「……わかりました」
魔法ギルド長がオレに近づき、懐からカギを出して腕輪を外した。やっと腕が楽になったけど。
「どうも、ご迷惑をかけました」
「いい迷惑だ」
とっても怒っている様だ。まあそうだろうな。勘違いして、逃げられて、領内で一番偉い人から怒られたからな。当分は近寄らないでおこう。
「それでは失礼しました。私はお土産を買いに街に戻ります」
ガシっとクレイン様に腕を掴まれた。
「どこに行く気だ。街に戻れる訳がないだろう。お前は賊に狙われていたのだぞ。腕輪をして伯爵家に戻った時に賊に会わなかったのは運がよかったからだ。お前は狙われているのだぞ。自覚は有るのか?」
……自覚は無かったです。
「ですが此処に賊がいますよね。そこのリーダー格の奴も捕まえていますし」
「確かに捕まえているが、他にも賊はいる。今日から外出禁止だ。部屋でゆっくり休め」
外出が禁止になりましたが、お土産はどうしよう。そうだ、イーズに頼もう。それが良い。
「では部屋に戻ります。失礼します」
またもやガシっと腕を掴まれた。今度はレオナルド様だ。
「いいな、くれぐれも勝手に出歩くなよ。ちゃんと部屋に戻っていろよ。それから護衛を用意するからな」
「わかりました」
腕が痛いから放してくれよ。
「イーズもご苦労だった。トルクと戻ってよいぞ」
伯爵様がイーズに労いの言葉をかける。イーズは緊張しながら礼をしてオレと一緒に地下牢を出た。
「全く、大変な一日だったな」
「そうだね」
「お前はどうする?オレ的にはお土産を買ってきてもらいたいが、大丈夫か?」
「無理だよ。僕も外出禁止だよ。賊に狙われているからね」
「仕方がないか。そういえばエリーさんは大丈夫か?」
「大丈夫だよ。君のお陰で助かったよ」
「だけど、後で慰めておけよ。危険な目に遭ったんだからお前が癒してやれ」
「そうだね、そうするよ。本当にエリーを助けてくれてありがとう」
「別に良いよ。じゃあ、オレは部屋に戻るからな」
手を振ってオレは部屋に戻る。気づけばもうすぐ夕食の時間か。今日は散々な一日だったな。
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