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魔法ギルドのギルド長と一緒に馬車に乗り二人で傭兵ギルドに行くが、どうして馬車で行くのだろうか?近いなら徒歩でいいような気がするが。
「どうして馬車に乗って行くんですか?此処から近いって聞きましたが」
「ギルドの長が徒歩で行くなんて馬鹿げている。それにお前は追われていたのだろう。そんな奴が堂々とギルドに行ったら敵に見つかるだろう」
そうか、オレの事を心配してくれたんだ。ありがたい。
「バルム伯爵からウィール男爵は伯爵家に来る途中でも狙われた事は私達も知っている。賊がどんな目的かは分からんがな」
「賊の情報は聞いてないんですか?クレイン様からは尋問中と聞いたんですが」
「どうして、その事を知っている?そもそもお前は何者だ」
そういえば自己紹介をしてなかったね。
「ウィール男爵家の使用人のトルクです。今回、クレイン様達と一緒に伯爵領についてきました」
「……男爵家の使用人だったのか。どうしてその使用人が敵に追われていたんだ」
「オレは休暇で街を散策していたら、伯爵家から逃げ出した元料理長が知り合いを拉致したのを目撃したので後をついていったんですよ。ちなみに拉致された知り合いは伯爵家の料理人見習いと伯爵夫人の専属侍女です。なんとか助け出してオレは囮として逃げ回っていました」
「それでどうしてギルドにその二人が居ると思う」
「街からはギルドが近いですからね。応援を呼んでもらう為にギルドか伯爵家に行けって言ったけど大丈夫かな?あいつはヘタレだからな」
「まあ良い。そろそろ傭兵ギルドに着くぞ」
ホントに近いな。これなら頭からマントを被って走った方が早かったかもしれない。傭兵ギルドに着いてギルド長と二人で中に入る。そしたら傭兵ギルド長とイーズとエリーさんがいた。良かった、二人とも無事だったか。
「お願いですから、トルクを助けて下さい」
「お願いします」
「大丈夫だ。後ろを見ろ、トルクがいるぞ」
オレと魔法ギルド長が来たのが分かったのか傭兵ギルド長が二人に言った。二人が振り向きオレに向かってきた。
「二人とも無事だったか。良かった」
「良かったじゃないよ。どうしてあんな無茶をしたんだ」
イーズよ、怒るなよ。
「エリーさんが居るんだぞ。エリーさんの安全が第一だ」
「でも、どうして君が囮になったんだよ」
「仕方ないだろう。イーズじゃあっけなく元料理長や賊に捕まってしまうからな。お前の運動神経じゃ賊から逃げるのは無理だろう」
イーズが何とも言えないように黙る。エリーさんもイーズを見てからなんか納得をしている。
「でも、子供がする事ではないわ。私達のせいで貴方が怪我したらリリアさんが悲しむわ」
エリーさんがオレにたしなめる様に言う。
「確かにその通りですが、貴方が怪我をしたら伯爵夫人や伯爵家で働く人たち、イーズが悲しみます。今後は気を付けますので許してください」
「どうして、僕とエリーでは言葉使いが違うんだ?」
「……さて、ギルド長、少しいいですか」
「どうした?」
「なんだ?」
「無視しないでくれよ」
傭兵ギルドの長と魔法ギルドの長、ついでにイーズが返事をした。
「賊と元料理長はどうなりました?」
「とりあえず、ワシの部屋に行こう。ギルドの入り口で話す事ではないからな」
オレ達は傭兵ギルドの長の案内で部屋に入り話をした。
「もともと泳がせていた賊だ。じきに捕まるだろう。それから元料理長は捕まって今は牢屋の中だ。それでどうしてお前はもやしギルドの長と一緒に居る」
もやしギルド=魔法ギルドの事だろう。仲が悪いのかな?
「誰がもやしだ、脳筋ギルドの長よ。こいつが私の部屋に入って来たから此処に連れてきたのだ。感謝してもらいたいものだ。全く、魔法ギルドに煙突から入って来る来客は初めてだったぞ」
「……お前は何しているんだ」
傭兵ギルド長がオレを見る。確かに普通じゃない訪問だからな。
「賊に追われていたから、屋根に上って逃げていたら、運よく煙突があったからそこから逃げました」
「相変わらずおかしな事をする小僧だ。しかし伯爵様にはなんて言おうかのう」
「そのまま言ったらいいでしょう。伯爵家の使用人を拉致した人達ですよ」
「それはそうじゃが、今回の獲物は小物じゃ。本当はもっと大物を捕まえる予定じゃったが……」
傭兵ギルド長は今回の騒動に不満げだ。しかし当事者からしたら災難だぞ。拉致されて脅されて賊に追われる。前世ではカウンセラーがついて治療するくらいの事件だぞ。全くもって理不尽だ。
「あの、賊からもらった毒薬があります。これはどうしましょうか?」
そういえばイーズが男爵に毒を盛る為に賊から小瓶を貰っていたな。しかしこんな証拠になるような物をどうして渡したんだろう? ……まさか、いや考えすぎかな?でも最悪の場合の事を考えたら背筋がゾッとした。
「そうか、こちらで預かっておこう。中身を確認しよう」
傭兵ギルド長が小瓶を貰って開けようとするがオレが待ったをかけた。
「待ってください。小瓶を開けないで下さい」
「待て、開けるな」
オレのほかに大声で止める声がする。魔法ギルド長だ。みんな驚いてオレ達の方を向く。そして、魔法ギルド長が傭兵ギルド長から小瓶を奪った。そしてオレはみんなに説明をした。
「小瓶を開けないでください。少しおかしいと思いませんか?どうして証拠の毒をイーズに渡したのか」
「それは男爵様達を害する為だろう」
「傭兵ギルドの長の言う通りですが、あまりにもずさん過ぎませんか?イーズが伯爵に相談をしたらバレて、アジトにいる賊を速攻で倒して人質を解放できるはずです。人質をとって脅しているイーズに毒を渡したけど計画性が無くありませんか?それなのにどうして毒を渡したのでしょうか?それ以前にそれは本当に毒ですか?オレが聞いた話では遅効性で一ヶ月後に熱が発生して高熱で死ぬらしいですが、そんな毒が本当にあるのですか?」
「……確かに計画性は無いな。どちらかと言うと行き当たりばったりだ。そしてこの毒も本物かどうかも判らない。それに遅効性で一ヶ月後に熱が発生して高熱で死ぬなんて毒は聞いた事がない」
傭兵ギルド長がオレの説明に考え込んでいる。
魔法ギルド長は小瓶を耳に近づけ振ってみる。
「ふむ、液体でも粉のような固体でもない様だ。中身は何も入っていない様だが、これは毒より危険なものだな」
というと気体か。そして毒より危険な物って事は病原菌か?空気感染の病原菌なのか?
病原菌のようなやつなら最悪、伯爵家のみんなが死ぬような事になったかもしれない。イーズが伯爵家の厨房で開けるとして、その中身を見たら空だった。しかし瓶の中は病原菌が入っていてそれが周りに拡散、伯爵家や男爵家家族に感染をして全滅って事になったかもしれないのか。ずさんで計画性が無いじゃなくて無差別殺人かよ。本当に男爵様の敵は怖いな。
「瓶の中身は空だろう?なんで毒より危険なのだ?もやしよ」
「もやしと言うな、脳筋殿め。この瓶は魔法ギルドに戻って調べる。安心しろ、後で報告をする」
魔法ギルド長は瓶の中身が分かっている様だ。それなら危険な事はしないだろう。
「なあ、ギルド長達。これって誰の仕業なんだよ。ハッキリ言ってこんなこと考える敵は計画性が無いなんて話じゃないぞ。下手すれば伯爵領が壊滅的危機の状況じゃないか」
「現在、王国は帝国と戦っている。敵は帝国しかおらん」
「確かに敵は帝国だか、こんなからめ手を使うとは。向こうの指揮官が変わったのか?」
帝国の仕業の様だがあまりにも酷い計画をするな。
「急いで、伯爵家に行って今回の事を話そう。傭兵ギルドの長はこいつらと一緒に伯爵家に行ってくれ。私はこの瓶の中身を解析する。他の領地でこの毒が使われていたら大変な事になる。それにこの毒がこれだけとは考えられない」
「そうじゃな、お前達もワシと一緒に伯爵家に行くぞ。その方が安全じゃ」
「だが、小僧は私と一緒に魔法ギルドに戻る。少し詳しい話がしたい」
え、オレに何の用だ?
「では私はこの瓶の解析をするので魔法ギルドに戻る。脳筋殿は伯爵様に説明と二人を伯爵家に連れて行ってくれ」
オレの手を掴んで部屋を出る。待ってくれよ、オレも一緒に帰りたいのだけど。
「何が聞きたいんですか?今でも良いですよ」
「……私の部屋に着いたら話そう」
「わかりました」
なにを聞かれるかはわからないがメンドクサイ事になる様だな。
オレ達は魔法ギルドのギルド長の部屋に戻った。ギルド長は席に座ってオレを呼ぶ。
「こっちに来てくれ」
オレがギルド長に近づくと、いきなりオレに鎖に繋がれた白い腕輪をはめた。なにこれ?
「それを知らないのか?その腕輪は罪人等がはめる腕輪だ。魔法を封じる魔法具でもある。改めて聞こう。お前は何者だ」
え、魔法が使えないの?
「ウィール男爵家の使用人ですよ」
得意の水魔法で水を出してみるが魔法が出せない。なんだろう?腕輪から変な力が邪魔をしているような感じだ。
「その使用人がどうしてこの瓶の事がわかる?」
腕輪が腕にはめられているから上手く手から出せないな。
「え、それは空気感染の病原菌でしょう?」
腕輪は取れないのかな?鍵が無いと開けれない様だ。
「……なんだそれは?空気感染?病原菌?」
「その瓶の中身は流行り病とかの病原菌が入っているんじゃないのですか?だから固体でも液体でも無く気体なんですよね。それをイーズが伯爵家で開けたら病原菌が蔓延して伯爵家のみんなが病気になるって事でしょう」
「……もう一度聞くがお前は何者だ?なんだ、その病原菌と言うのは?私は初めて聞いたぞ。お前は闇魔法の使い手ではないのか?」
しかしこの腕輪は重いな。腕が疲れてきたよ。そろそろこれを取ってくれないかな?
「そろそろ腕輪を取ってくれませんか?」
「いいから答えろ。お前は闇魔法を使えるのだろう?でなければこの瓶の呪いが解る筈がない。」
「……闇魔法は使えませんよ。闇魔法って確か呪いとか洗脳とか精神攻撃ですよね」
「そうだ。お前は闇魔法でこの瓶の呪いが解ったから周りに瓶の危険性を教えたんだろう」
「でもオレは使えませんよ。闇魔法は」
「闇魔法が使えなければこの瓶の呪いは解らないはずだ。正直に言え、闇魔法が使えると」
「……と言うとギルド長は闇魔法が使えるのですか?」
「……そうだ、私は闇魔法が使える。この事を知っているのはバルム伯爵だけだ」
と言うとこの瓶は病原菌ではなくて闇魔法の呪いが入っているのか。でもどっちも大して変わらないよね。問題はギルド長がオレが闇魔法の使い手と勘違いをしている事か。もしかしてオレってやらかしたかな?
「オレは闇魔法の使い手では有りませんよ。この瓶に呪いではなく病原菌が入っていると勘違いをしていたんですよ」
「嘘をつくな。第一、病原菌とはなんだ?」
「流行り病があるでしょう。あれをその瓶に詰めたと勘違いをしてたんですよ」
「だからそれが呪いだろう。それが解ったから闇魔法の使い手だ」
「だから違うって。どうしたら判ってくれるかな」
「確かに闇魔法の使い手は数が少なく、他の人間からは恐ろしい目で見られる。しかし闇魔法は色々と便利な事もある。安心しろ、私も闇魔法の使い手だ。お前も白状しろ」
あー、このオジサンはオレが闇魔法の使い手って信じているよ。どうすれば誤解を解いてくれるかな?それに腕輪がいい加減に重い。
「どうすれば闇魔法が使えないって信じてくれますか?それからこの腕輪が重いから外して下さい」
「腕輪は後で外す。お前が私に魔法を使うかもしれないからな。だからいい加減に白状しろ。白状したら外してやる」
……これって「はい」以外は受け付けない質問だよね。諦めて腕輪を付けたまま帰ろうかな?
「どうしても闇魔法が使えないなら光魔法でも使ってみればいい。闇魔法の使い手は光魔法を使えないからな」
腕輪で魔法を封じられているから光魔法が使えないよ。もういいや、このまま帰ろう。オレは席を立って部屋から出ようとするが鍵が掛かっている。
「無駄だ。部屋には鍵が掛かっている。さあ白状をするんだ」
仕方がないから他のドアを開けたらオレがこのギルドに入って来た暖炉の部屋だ。よしここから出るか。オレは暖炉に近づき煙突を覗き込んだ。大丈夫そうだな。問題がどうやって重い腕輪をしながら登るかだが・・・。無理だな。次の手を考えよう。
「いい加減に白状しろ、白状したら腕輪を外してやる」
隣の部屋からギルド長の声が聞こえる。仕方がないから窓を開けてみる。たしか此処は三階だよね。結構高いな。部屋の天井が高いからその分高くなるよね。そうだ、カーテンでロープを作って降りるか。オレはカーテンを破って即席ロープを作る。
「おい、何の音だ」
急げオレ。急いでロープを作るんだ。ギルド長が部屋に入って来ると同時にロープが出来上がる。良し準備完了。
「では失礼します」
オレはロープの端を持って窓から飛び降りる。飛び終えるときにギルド長がロープの端を持っている気がした。
……しまった。ロープの端を結んでいない。上から怒声が聞こえ二階と一階の間で少し止まって落ちた。何とか足から着地してオレは窓から怒っているギルド長に手を振って伯爵家に走って帰った。
しかし、危なかったな。魔法ギルド長がロープの端を持っていなかったら三階から落ちる所だった。
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