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そんな訳でオレは一生懸命逃げている。イーズ達が大通りに逃げているためオレは大通りの反対を逃げ回っているが、細くて迷路みたいな裏路地を逃げるのはキツイ。行き止まりで捕まったらアウトだ。それも方角も分からなくなった。どっちが大通りなのか判らないし、伯爵家の方角も分からない。一旦、高い所に上って方角を調べた方が良いかな。
「ガキはいたか」
「こっちにはいないぞ」
「どこに行きやがった」
それにしてもオレを探している人間が増えている気がする。早くこの状況を打破しよう。高い所に行こうにも家のドアにはカギが掛かっているし、木も見当たらない。窓を割って入ろうにも窓が高くて背が届かない。流石に外壁からよじ登る事は無理だ。
そうだ。オレの足の下に土壁を出して高くしたらどうかな。そしたら窓に届くはずだ。オレは窓の前で土壁を足の下に出す。バランスが取りづらいけど何とか窓に入れる高さになったので窓を割って部屋の中に入る。
「こっちにいるぞ」
見つかりました。急いで部屋に入って玄関のドアに物を置いてバリケードを作り上の階に昇る。外がうるさくなってきたな。玄関から打撃音が聞こえる。急いで逃げないと本気でヤバいな。この建物は三階建ての建物で三階の窓から景色を見るが他の建物が邪魔をして方角が判らない。仕方がないから窓から屋根によじ登る。
どうしてこうなったのかな。休暇がリアル鬼ごっこに変わったよ。
屋根によじ登ってようやく方角が分かった。大通りの方角に急いで逃げようとするが下には戻れないから屋根から逃げる事にした。隣の屋根に飛び移り大通りの方角に逃げる。後ろから追手が来たので土魔法の石礫で応戦。着地する所を狙って当てる。バランスを崩して転落、見事に屋根から落ちました。
屋根から屋根を飛び越えやっと大通りの近くの建物に着いたけど、どうやって降りよう。
下の通りは何軒も露店が出ており人も多い。流石に飛び降りる事は出来ないし、ロープも無い。窓に入って階段で降りたいが周りに窓は無い。変わりに煙突が有る。サンタクロースのように煙突から入らないとダメかな?考えていると後ろから声が聞こえてきた。
「ガキがいたぞ。こっちだ」
しつこい大人だ。覚悟を決めて煙突から部屋に入るか。煙突の中を調べると煙も出てないし熱くもない。煤と灰で真っ黒になる覚悟を決めて煙突に入る。煤と灰で体を黒くしながら落ちて尻から着地。灰を巻き上げて目を瞑って口をゴホゴホ言いながら部屋に入った。
「お邪魔しまーす」
誰もいない様だな。急いで家を出て伯爵家かギルドに行こう。
「おい、勝手に出て行くな。小僧」
誰かいたよ。どこにいる。周りを見ても部屋には誰もいない。気のせいかな。
「こっちだ。上を見ろ」
上?天井を見るとオジサンが棚の上にいた。棚の上で何をしているんだ?
「棚の上で何をしているんですか?」
「それはこっちのセリフだ。いきなり煙突から入ってきて何しに来た。泥棒か?」
「こんな時間に泥棒なんてしないよ。悪い大人に追われていて逃げている最中です。オジサンこそなんで棚の上に居るんですか?趣味ですか?」
「戯け、お前が煙突から落ちてきた衝撃で梯子が落ちたんだ。悪いと思うなら梯子を掛け直せ」
確かに棚の近くに梯子がある。オレは梯子を棚に掛けた。
「すいませんでした。それからギルドはここから近いですか?」
オジサンが棚から降りる。中年のオールバックのオジサンだな。服に付いた埃をパタパタと手で取りながら近づいて来る。
「ギルドとは魔法ギルドの事か?それとも傭兵ギルドか?」
魔法ギルド?初めて聞きました。そんなギルドが有ったなんて知らなかったよ。
「えーと、傭兵ギルドです。そこのギルド長に会いたいのですが」
「それならこの建物を出て右に進んで二つ目の十字路を左に行ったら傭兵ギルドだ。大通りに出るからすぐに分かるだろう」
「ありがとうございます。ではまた」
「待て、なに平然と行こうとする。あと何しに傭兵ギルドに行くんだ?」
チッ、部屋から出れなかったか。オレの肩をガシっと捕まえる。これじゃ、逃げれないよ。
「部屋を灰塗れにしてくれたな。掃除をして帰るくらいは出来ないのか?」
「緊急事態なんですよ。敵に追われている最中ですから」
「敵とは誰だ?父親か?母親か?それとも近所の悪ガキか?」
「ウィール男爵の命を狙っている悪党です。伯爵家の使用人を人質にして毒殺を考えている敵からです」
「……どうしてお前がそれを知っているんだ?」
「現場に居ました。伯爵家の使用人を助けてここまで逃げてきました」
「その証拠は?」
「証拠は有りません。その使用人さん達はギルドか伯爵家に逃げているはずです。オレが囮になって敵の目を向けたから」
「……今から傭兵ギルドに行くぞ。その人質になった使用人に会って確認をする」
「傭兵ギルドに居なければ伯爵家だと思います」
「分かった、では行くぞ。ついてこい」
「別に貴方は傭兵ギルドに行かなくてもいいですよ。関係ないでしょう」
「関係は有る。魔法ギルドの長として現状が知りたい」
……魔法ギルドの長?一番偉い人ですか?オレってヤバい事を喋ったかもしれない。
「とりあえず、部屋を移動するぞ」
オレは魔法ギルドの長と一緒に部屋を出て下の階に向かう。途中で男の人に馬車の準備をさせてから一階の部屋に入った。
「その汚い恰好をどうにかしろ」
確かに裏道を逃げ続けて汚れているね。一番の汚れは煤と灰だが。
「拭く物を下さい」
「待っていろ。すぐに準備をさせる」
テーブルに置いてある鈴を鳴らして人を呼ぶ。すぐに拭く物と飲み物が準備された。
「今馬車の用意をしている。その間に体を拭け」
布を投げられて顔で受け取った。まったく乱暴な。水で濡れていない布を渡されたのでオレは水魔法で水を出して布を濡らして顔を拭く。あーサッパリした。
「お前は、魔法が使えるのか?」
服を脱いで水魔法で洗っていると魔法ギルドの長が言った。
「使えますよ。生活に便利ですから。ちなみに此処は魔法ギルドっていう所なんですか?」
「そうだ、お前は魔法ギルド長の部屋に無断で入って来た愚か者だ。煙突から入って来る奴は初めて見たぞ」
「オレも初めて煙突から部屋にお邪魔しましたよ。それしか方法が無かったので仕方なくですよ。あと魔法ギルドってなんですか?傭兵ギルドみたいなものですか?」
「魔法ギルドは傭兵ギルドと一緒でランクの管理もしている。傭兵ギルドが騎士や傭兵たちのランクの管理や依頼等が主だが、魔法ギルドは魔法使いのランクの管理、魔法の開発や魔道具の開発や管理に修理、災害時には魔法で防いだりしている。」
「傭兵ギルドと同じような仕事をしてるんですね」
「その考えで間違っていないが我々の方が仕事量が多いし、傭兵ギルドとは違い管理も良い。脳筋ギルドも貴族や平民の為に役に立っているが」
脳筋ギルドって酷い言われ様だな。間違ってないと思うのはオレだけじゃないはずだけど?
「魔法の開発ってどんなことをしているんですか?」
「主に魔法による生活の向上や戦争用の魔法の開発だな」
「ちなみに生活向上の魔法ってどんな魔法ですか?」
「何故そんな事を聞く」
「オレも火魔法でかまどに火を付けたり、水魔法で生活水を出したりしてるから。他にどんな魔法があるのかなって思ったんですよ」
「夜の街に街灯を付けたり、広場の噴水の管理、他にもいろいろやっている」
なんか魔法ギルド長の機嫌が悪くなってる気がする。どうしたんだろう?
「お前も下らないと思っているのだろう」
「領民を暗闇から守っているし、広場の噴水も領民の心を守っていると思いますよ」
「ふん、口では何とでも言えるな。でだ、お前はどうして服を脱いでいる」
「服の洗濯をしようと思って。それから魔道具って何ですか?」
オレはギルド長の話を聞きながら煤でよごれた服を脱いでいた。まずは水魔法で三十cm位の水玉を出す。次に水玉に服を入れて水玉を回転させる。順回転・逆回転で水を回転させて汚れが取れたら水玉から服を取って搾って洗濯終了。時間が無いからあまり汚れは取れないが、後は乾燥させるために風魔法で風を当てる。
「その魔法はなんだ?水魔法を回転させて汚れを落とすのか」
「簡単に言えばそうです」
「初めて見るぞ。魔法で洗濯をするなんて。原理を教えろ」
「後にしてください。早く傭兵ギルドに行きましょうよ。それか魔道具の説明を」
「いいから教えるんだ。水玉を回転させるみたいだが、どうやってやるんだ?」
え、回転出来ないの?石礫を回転させた要領でやったんだけど。
「土魔法の石礫が有りますよね。その石礫を回転させる要領でやったんですけど」
「……そんな回転はさせない。なぜそんな事をする」
「回転させた方が、威力が上がるのでやってます」
ギルド長が石礫を出して回転させる。その後オレに向かって石礫を放った。どうしてオレに向けて放つ。壁に向けろよ。ギリギリで避けて難を逃れる。後ろの壁に石礫がめり込んだ。
「確かに威力が上がっているな。素晴らしいぞ。良くやった小僧」
「どうしてオレに当てようとするんですか?当たったら怪我どころじゃないよ。壁を見ろよ、穴が開いているじゃないか」
「魔法とは動くモノに当てる事により上手くなる」
ポアラ様といいこいつらはどうしてオレに魔法を当てようとする。オレも魔法を当ててやるぞ。魔法を使ってギルド長に当てようと考えていたらノックが聞こえた。
「失礼します。馬車の用意が出来ました。それから先程の音は何でしょうか?」
先程の音はギルド長がオレに向かって魔法を使った音です。
「分かった。今から傭兵ギルドに行くから後の事は頼む。それからあの穴を修理してくれ」
「行ってらっしゃいませ」
「行くぞ、小僧」
部屋を出て行くギルド長。オレも服を着て後を追う。やっぱり時間が無かったな。服が乾いてない。それから部屋を出て行くときに馬車を用意してくれた人に聞いた。
「魔法が上手くなるコツって何ですか?」
「動く的に当てる事が上達のコツです」
絶対に違う。誰だよ、こんな事を最初に言った奴は。
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