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台所の片づけを終えて、食堂で昼食を食べようと準備をしている時、イーズとイーズの父親が食堂に入って来た。
「おーい、イーズ。こっちで昼食を食べようぜ」
オレが声をかけたとき、固まった顔をしたイーズ。固い表情で笑って手を振ったイーズ父。オレを見て固まるなんてなんて奴らだ。
「やあ、どうしたんだい?」
「こっちで一緒に昼食を食べよう。おじさんも座りなよ」
「ありがとう、トルク殿」
「敬語はいいよ、オレは子供なんだから」
「そうかい」
「イーズも敬語は使ってないよ。イーズも使ってないのにおじさんが使うのは変だしね」
「わかったよ。では昼食を食べるか。イーズも座ったらどうだ」
「わかったよ」
ため息をつきながら席に座るイーズ。
「ため息ばかりしていると幸せが逃げるぞ、イーズ」
「誰のせいだよ。君に出会ってからため息しか出ないよ」
「オレのせいにするなよ。ため息が出るのはイーズの日頃の行いの結果だ」
「君のせいだよ。男爵領に行って新しい料理を習ってくる。どうして僕達が男爵家に行く事になるんだよ」
そうなの?
「なんで男爵領に行かなければならないんだよ。新しい料理なんて此処で作れば良いじゃないか。この街から出て男爵領に行くなんてどうかしているよ。だいたいなんで僕達親子なんだよ。父さんは伯爵家とは関係は無いじゃないか。僕も料理人見習いだよ。なんでこんな事になるんだよ」
また、愚痴っているよ。やっぱりこいつうぜぇな。
「お宅のお子さんは結構もろいね」
「私は楽しみにしているんだが、生まれてこの方、街を出た事が無くてね。伯爵領の食料庫と言われている男爵領には興味が有るんだよ」
「採れたての野菜は美味しいですよ。私も農園で働いていたから少しは融通が利くかもしれないよ」
「そうか、美味い野菜を貰えるかな?」
「交渉次第だろうね。農園責任者のゴランさんに聞いてみないと分からない」
「これは夢ではないかな。僕は今ベットで寝ているんだ。そして朝起きたらいつもの日常が待っているはず」
殴って夢か現実か確かめてやろうか、このヘタレめ。
「おお、昼食がきたようだ。これがピザか。赤と黄色と緑と色合いが良いな」
「赤はトマトのソース、黄色はチーズ、緑は野菜だね。ではいただきます」
ピザを食べるがやはり何かが足りないな。オレが作る料理は何かが足りない。どうしてだろう。イーズとおじさんはとても美味しそうに食べている。
「そう言えば男爵領に来るって言っていたけど家の料理店はどうするの?」
「料理人は私だけではないからな。他の料理人でも大丈夫だ。それに妻の両親もいるから大丈夫だろう」
聞いた話ではもともとは奥さんの両親がやっていた料理店だったらしい。奥さんの両親が歳を取ったので伯爵家の料理人を辞めてから家の料理店で働いているそうだ。
「昨日、レオナルド様が料理店に行ったみたいだけど、どうしたの?」
「君が昨日うちの料理店でハンバーグを作っただろう?私も作ってね。試作品を客に食べさせたら凄く気に入ってくれたからハンバーグを作っていたら、レオナルド様から伯爵命令でハンバーグを作るのを禁止されていると聞いたときはビックリしたよ。作った罪で料理店が無くなるかもしれなかったからね。でも新しい料理を習い伯爵家で作るのなら罪にはしないと言われたから伯爵家の料理人になったんだよ。何年かしたら新しい料理を家の料理店で作って良いそうだし。帰って来たら副料理長に任命される予定だよ。これで給金も増えるし妻も喜ぶよ」
「どうすれば男爵領に行かなくて済むだろう。仮病でもしてみるか。怪我でも良いかな。でも怪我は後遺症が怖いな。一ヶ月位、謎の病気になってみようかな。そうすれば男爵領に行かなくていいかもしれない」
親子でも温度差が酷いな。イーズは本当に大丈夫なのか?何でこんなに行きたくないんだよ?
「なんでそんなに男爵領に行きたくないんだよ。料理を覚えれば伯爵領に戻れるだろう。その後は見習いが取れて料理人になるんじゃないか?それとも料理長補佐代理かな?」
「だって男爵領に行くんだよ。旅の途中で賊に会ったらどうするんだ。殺されるよ」
賊に会っても死なないよ。目の前に賊に会っても生きている人間がいるよ。死にかけたらしいけど。ヘタレだねこいつは。
このヘタレが男爵家に行くのを拒んでいる理由は何だろう?
①賊や魔物が怖いから。
②男爵領が辺境だと思っているから。
③この街を離れたくないのは女性がいるから。
・・・このヘタレに③はないだろう。片思いで離れたくないとかかな?でもね。
「女か」
オレのつぶやきにイーズがビクッと驚く。やっぱり女性問題か。青年が抱える問題のほとんどは女性の事だよね。
「気になる女性がこの街にいるから離れたくないのか」
「そ、そんな、そんな事ないよ」
顔が引きつって声が裏返って言葉を噛んでいるぞ。おじさんも驚いている。
「なんだ、好きな子がいるからこの街を離れたくないのか」
「ち、ち、違うよ。そうじゃないから」
「で、誰だ。父さんに教えてもいいじゃないか」
「ち、違うから、そうじゃないから」
「伯爵家の使用人か?それとも街の子か?」
「違うから、違うから」
「おじさん、大丈夫だ。オレがこれからイーズの好きな子を探してみるよ。なに簡単だよ。この男爵家使用人にかかれば簡単さ。アンジェ様はこんな話が好きだからな。アンジェ様に教えたら簡単に好きな子が分かるよ」
「ちょっと待て、君は何をする気だ」
「お前の好きな子を探して、一緒に男爵領に来させる。そうすればお前も男爵領に行くだろう」
「関係ない人を巻き込むなよ」
「関係なくないぞ。お前の好きな子だろう?一緒に行けば楽しいだろう」
「そんな事をさせるか。エリーを巻き込むな」
名前はエリーか。
「安心しろよ。アンジェ様に頼んだらすぐに許可を貰えるぞ」
「彼女は伯爵夫人の侍女だ。そう簡単には配置替えは出来ないぞ」
伯爵家の侍女か。それも伯爵夫人の専用の侍女みたいだな。
「おじさん、エリーさんってどんな子か知ってる?」
「確か、子供の頃からここに居た子だと思う。今は知らないが昔は可愛くて明るい子だったぞ」
「よし、後で見に行こうかな」
「私も行こう。将来の娘になるかもしれないからな」
「待ってくれ、頼むからなにもしないでくれ。お願いだから。なんでもするから」
「お前が男爵領に行きたがらない理由は彼女か?」
「・・・そうだよ」
「両思いなの?」
「・・・そうだよ」
「おじさん良かったね。義理の娘だよ。結婚式は何時する?結婚資金は大丈夫か?」
「なんてめでたい日だ。早速、妻に言わないと。義父達も喜ぶだろう」
「だから待ってくれ。彼女とは両思いだけど無理だよ。彼女の死んだ父は騎士爵位だったそうだ。ただの料理人の息子と騎士爵位の娘じゃ結婚は無理だよ」
なるほど、ここでも身分差が出るのか。おじさんが悲しそうにイーズを見ている。やっぱり結婚は難しいのかな。あれ、いつの間にかイーズの後ろにレオナルド様がいる。口に人差し指を当てている。静かにって意味だよね。まさか・・・。
「でもお前達は両思いなんだろう?伯爵夫人の専属侍女のエリーと」
「伯爵夫人がエリーに良い縁談を考えているそうだ。オレはただの料理人見習いだ。何のコネもない」
「好きなら駆け落ちでもすればいいじゃないか」
「そんな事はだめだ。恩ある伯爵家に申し訳ないだろう。僕達も考えたよ。でもダメだ。彼女は幼いころに父を亡くして伯爵夫人に助けてもらったんだ。そんな恩人を裏切る訳にはいかないだろう」
「でも、どうしてお前は男爵領に行きたくないんだよ。戻って来たら料理長補佐代理くらいにはなれるかもしれないじゃないか」
「・・・近いうちに伯爵夫人が勧める縁談が有るらしい。だから僕は行きたくないんだよ。何も出来ないけどエリーの近くに居たいんだよ」
何て事だ。イーズも大変だな。イーズの後ろにいるレオナルド様を見ると頷いて食堂から静かに出て行った。
「分かったよ、イーズ。すまないな。オレ達は何もしないよ」
オレ達は何もしないぞ。他の人が動くかもしれないが。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。
 




