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精霊の友として  作者: 北杜
三章 伯爵家滞在編
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閑話 男爵家家族旅行1

閑話が多い様な気がするが気にしない。だから皆様も気にしないで下さい。

私はクレイン・ルウ・ウィール。男爵の爵位を持っている。

父は戦で亡くなり、母は私が子供の頃に病で亡くなっている。若くして男爵家を継ぎ、部下達に助けられて家と領地を守っている。

王国の学校時代にバルム伯爵家の令嬢と恋仲になり、戦で武勲を立て伯爵令嬢のアンジェと結婚をした。バルム伯爵が出した結婚の条件は伯爵家を孫に継がせる事、娘を幸せにすること。

後日、レオナルドに聞いたがバルム伯爵と私の父は身分を超えた友人だったらしい。その友人の息子が義理の息子になる事になって喜んでいたそうだが一人娘を嫁に出す事に葛藤していたと聞いている。私もポアラが嫁に行くと思うとあまり良い気がしない。

男爵領の農園は伯爵領の食材庫と、私の祖父の代から言われているほど農業が盛んだ。小麦だけではなく野菜も育てていて、伯爵領の町や国境の砦にも届けている。



今日から家族みんなでアンジェの実家のバルム伯爵領に向かう。年に一度の義父や義母と会う機会だ。アンジェも子供達も楽しみにしている。エイルドは伯爵領の街で傭兵ギルドのランクを上げると言っているし、ポアラも伯爵領の教師に新しい魔法を教えてもらうと言っている。ドイルも祖父や祖母に会えると楽しみにしている。メイドと男爵家の兵隊を連れて一週間くらい伯爵家に泊まる予定だ。

今回はトルクも連れて行く。男爵領を出たことが無い子供だ。きっと良い勉強になるだろう。トルクを見ると兵隊に交じりながら上の空で歩いている。ボーと空を見たり何か考え事をしている様だ。やはり子供だから馬車に乗せた方がいいかな?いや騎士を目指すものとして体力づくりのために歩かせよう。それがいい。このところポアラと一緒にいる時間が私よりも多い。ポアラは貴族でトルクは平民だ。立場はキチンとした方が良い。男爵家は貴族と平民の距離が近いが本来、平民は身分が低く貴族の命令には絶対に従わなければならない。貴族は平民を守る。しかしそれは貴族の命令を聞く平民だけだ。平民の命と安全を守るために貴族は平民を手や足としてつかう。しかし平民を一人殺して平民を百人救う。貴族を一人救うために平民を百人殺すなど矛盾する事を貴族は学校で教えられている。逆に平民も「貴族に逆らうな、逆らったら殺される」と教えられているらしい。男爵領ではそんな事を教えられていても平民との距離が近かったから気にしなかったかもしれないが、伯爵領では男爵領と違って平民は身分が低い。男爵領の護衛やメイドは慣れているから大丈夫だがトルクには注意しておこう。

しかしトルクは良い子供だ。レオナルドが辺境の村から連れてきた子供だが勉強も魔法も出来る。剣や馬の練習も頑張っているし、礼儀をわきまえているし、子供達にも懐かれている。レオナルドはよく見つけてきたな。おまけに料理も出来て新しい料理はとても美味しい。トルクが男爵領に来てくれてから良い事が多い気がする。



毎年泊まるいつもの野営場所につき此処で一夜を明かす。部下たちに野営の準備をさせて侍女たちに妻や息子たちの対応をさせる。トルクには食事の用意をさせる。


「トルク、夕食の支度を頼むぞ」

トルクは土魔法で器用にテーブルとかまどのようなものを作りテーブルの上で材料を切っている。

「今日の夕食はなんだ?」

「今日はバーベキューですよ、このかまどの上で肉や野菜を焼いたりして食べます」

「ほう、旨そうだな。今回の野営は旨い夕食が食べれそうだ。期待しているぞ」


去年は、侍女達が簡単な食事を作っていたが今年からは旨い料理が食べれそうだ。トルクが家で料理を始めてから食事が楽しみになった。新しい料理や見たことが無い料理を作り、我々を驚かせる。義父や義母にも食べさせるために連れてきたが目的はそれだけではない。トルクの母に内緒で会わせる為だ。トルクの驚く顔が目に浮かぶ。

家族みんながかまどの近くで料理を見学するが、


「皆さんはここに座っていてください。かまどの近くは危ないので座って見てください。出来上がったらテーブルに持って行きますので」


トルクがテーブルと椅子を魔法で作った特等席で見物する。ここまで魔法を使える子供は王都にもいないだろう。トルクに魔法を教えた母親は男爵家の養女だったが男爵家が潰れたから生まれ育った辺境の村に戻りトルクを育てたらしい。さぞかし幼い時から厳しい教育をしたのだろう。トルクは魔法・勉強・礼儀作法など子供達よりも優れている。トルクの母親が教育係になったら子供達も賢くなるはずだ。

お、夕食が出来た様だな。皿の上の綺麗に並べている肉の上にトルクが言う「特製ソース」が掛けてある。侍女たちがパンやスープを持ってきて家族全員で食べるが、目の前でトルクが侍女や兵たちの食事を作っている。料理を見学するときは良かったが、我々が食べている最中でも急いで料理を作るトルクが目に入る。少し離れた場所にテーブルを設置した方が良かったかもしれない。

食事に満足した私はゆっくりとお茶を飲む。部下たちの料理を作り終わったトルクは我々達とは違う料理を作っているみたいだ。


「お、なんだ?その丸いやつは」

「私の夕食分ですよ、小麦粉や卵を水で練って中に野菜と肉を入れて焼いています。初めて作る料理ですから味は解りませんよ」


初めて作る料理、新しい料理だな。みんな一斉にその料理を見る。トルクが作る料理はみんな美味しい。これは食べてみないとな。


「トルク、オレにも食べさせてくれ」

「オレもだ」

「私も食べてみたい」

「私達にもください」

「まだ、出来上がってないし、味見もしていないので味見だけはさせて下さい」


トルクの料理を全員で催促する。肉を焼いていたコテで丸くして器用に裏返し最後に特製ソースをかけて食べやすいように切る。


「一味足りない料理です。あまり旨くありませんよ。これを味見してみますか?」


私は知っている、トルクの旨くないは、旨いという事を。ダミアンから聞いたがハンバーグも旨くないと言ったそうだ。トルクは味覚音痴なのだろう。その味覚音痴がどうしてこんな旨い料理を作るのか。まてよ、トルクが旨い料理と言ったらとてもうまい料理ではないのか?是非とも作ってもらいたい。


「トルク、オレの夕食はこれで頼む」

「トルク、私もこれをお願いするわ」

「あまり旨くはないと思いますけど、いいんですか?」

「オレ達の分はこれを作ってくれ、頼む」

「私たちもこれを二枚作って。みんなで分けて食べるから」

「なら私も一枚作ってくれ」

「オレも一枚作ってくれ」

「私とポアラとドイルで一枚を食べましょう」


やはりこの料理は旨かったな。帰りもこの料理をリクエストしよう。



食事が終わってアンジェが話しかけてきた。


「貴方、トルクの料理をお父様やお母様に食べさせるのでしょう?」

「新しく旨い料理だ。出来れば広めたいと思うが、男爵家から広めるのは他の貴族から嫌がらせを受けるだろう。しかし伯爵家から広めたら他の貴族からの嫌がらせも減るはずだ」

「私もそう思うわ。それで最初はお父様の派閥の人達に広めたらどうかしら」


確かに私もその事を考えていた。義父の派閥に料理のレシピを教えて味方を多く作る。残念ながら義父の派閥はそこまで多くない。バルム伯爵家はどちらかといえば中立の立場が多い。バルム領地は帝国に隣接をしている地域で砦では小競り合いも起きているが義父は好んで戦をしているのではない。領地を守るために戦いをしている。王国の上層部では「帝国領を占領して我が王国の領地に」が主流だ。先年、他の領地では戦争があったが負けたらしい。確かアイローン伯爵領の領地だったな。あの戦いに負けて六年前に戦争で奪った領地を奪い返された。飛ぶ鳥を落とす勢いで武勲を立てたアイローン伯爵も今では落ち目になっている。あの領地の貴族は質が悪いから、あまり関わりたくない。


「そうだな、相談をしてみよう。義父達に食べさせてからだな。きっと驚くぞ」

「驚いた顔が楽しみね」


そんな事を話しながら今日は家族で眠りについた。



次の日の朝、トルクの作った朝食を食べて、野営の片づけを終えて出発する。相変わらず旨い料理だ。男爵家でもよく食べたホットケーキだ。これは家族全員が好きで週に三回位のペースで食べている。旅行中にこんな旨いモノを食べれるなんてトルクは本当に出来る奴だな。

出発をして少ししたらエイルドがトルクを呼んだようだ。おそらく暇潰しに呼んだのだろう。トルクは子供達に物語を語った様だ。私も馬を馬車に寄せてその話を聞く。国王が悪い貴族を倒す物語の様だ。なかなかうまい設定だな。身分を隠して平民を助ける王様。そして悪役の貴族と商人、最後の戦闘シーンでは国王が悪い貴族と手下を倒し続ける場面は手に汗を握って聞いたものだ。そして最後の落ちも良かった。これは面白いな、本にすれば売れるのではないか?それに次回も有るのか?次の話を聞こうとしたら部下が話しかけてきた。


「申し訳ありません。どうも天気が崩れるかもしれません。早めに町に行った方が良いでしょう」


確かに天気が悪くなっているな。この時期にしては珍しい。


「レオナルド様からの情報ですが、この辺りではありませんが賊が出没するらしいです。運が悪ければこの辺に来るかもしれないと」

「その時は私自ら賊を成敗してくれる」


その後、平民に感謝をされるだろう。

移動速度を速める命令を部下にしてから私も暴れん坊国王の次の話を聞く。すこし最初の話を聞き逃したが仕方がない。話が終わった頃には町に着いた。良い暇潰しになった。



町の宿屋で私達家族の部屋、侍女達の部屋、部下が泊まれる部屋と三つ取って私達は部屋でゆっくりとする。兵の一部は私達の部屋と馬車の護衛として交代で守らせる。トルクも最初に部屋の護衛をさせて眠らせた。トルクも初めての旅だからな。旅の疲れを癒させよう。子供達も食事を取ったらすぐに眠った。やはり疲れているのだろう。アンジェは宿屋の料理に不満を持っている様だ。私にお茶を飲みながら不満をぶつける。確かに美味しくなかった。トルクの料理で私達の舌が肥えた様だ。


「本当に美味しくなかったわ」

「トルクの料理で舌が肥えた様だな。これでは伯爵家の料理でも不満が出そうだ」

「昔は美味しく感じたけど、今思うとダメね。新鮮さが感じられないわ」

「やれやれ」


侍女にお茶を頼み、子供達を見る。三人ともベットで寝ている様だ。


「トルクがきて男爵家も明るくなったな」

「トルクが色々としてますから。剣術に魔法に料理にお茶会と」

「そういえば、ポアラのお茶会にトルクが参加したようだが。ポアラはトルクに気があるのか?」

「大丈夫よ。トルクはお茶会の意味が分からなかったから。ただのお茶会の練習と思っているわ。ポアラはまだ子供だからその辺の機微は分からない様ね」

「ポアラにお茶会に異性を呼ぶ意味を教えたのか?」


基本的に親族以外の異性をお茶会に誘うのは恋人・許嫁・婚約者のはずだ。ポアラはトルクの事を思っているのか?


「ポアラにもトルクにも教えていないわ」

「何故だ」

「だって面白そうだもの。ダミアンやレオナルド、クララにも口止めをしているわ」


そうだった。アンジェは学生の頃からいたずらが好きな子だった。私も若い時にいたずらされたものだ。


「大丈夫よ。そろそろ教えるわ。二人ともどんな顔をするかしら」


トルクには感謝をした方が良いかもしれない、アンジェのいたずらがこっちに向かないから。


「あまりトルクで遊ぶなよ」


私はお茶を飲みながらトルクに同情をした。



朝、雨の音で目覚める。カーテンを開けて窓の外を見ると大雨だ。これでは伯爵家には行けないな。部下たちに雨がやむまでこの宿屋に泊まることを告げてこの部屋で朝食をとる事にした。侍女に告げて私は窓の外を見る。少し伯爵家に行くのが遅れるな。義父や義母に会うのが遅れるが今日はゆっくりするか。

宿屋の朝食を食べて家族全員でお茶を飲みながらゆっくりするが子供達はどうやら暇を持て余している様だ。


「お父様、トルクを呼んでいいですか?」


やはり暇潰しにトルクを呼ぶ様だ。


「そうだな、トルクを呼んできてくれ」


侍女に命じてトルクを呼ばせる。少ししたらトルクが侍女と一緒に入って来た。


「トルク、暇だ。何かないか?」

「分かりました、勉強をしましょう」

「勉強以外を何かないか?」

「勉強以外の暇つぶし希望」

「何して遊ぶの?」


子供達は勉強以外の暇つぶしを希望だな。確かに旅行中に勉強はやりたくないだろう。子供達に言われて考え込むトルク。少し考えたら周りを見渡して私に言った。


「クレイン様、机の紙を使っていいですか?あとお金の銅貨を六枚ほど貸してもらっていいですか」

「紙は使っていいぞ。後、銅貨は何に使う?」

「遊びで使います」


トルクは机に置いてある紙を使って何かを書いてる。銅貨を出してトルクの側に行って書いている物を見る。なになに四角の中に一回休みや三マス進む等、いろいろ書いているな。あとスタートとゴール?何を作っているんだ?

机で何かを書き終わったトルクはテーブルに座っている子供達の所に向かう。


「では、双六ゲームをはじめます。ルールはスタートから出発です。六枚の銅貨をお皿に投げて表の数だけ進みます。お皿から出た銅貨は無効です。仮に銅貨の表か三枚だったら三マス進みます。そしてそのマスに書いてある所に止まるとその通りにします。一回休みなら順番が来ても一回休み。三マス進むなら銅貨の出と関係なく三マス進む。一番早くゴールに着いた人が勝ちです。まずはやってみましょう」


トルクに銅貨を渡して私もアンジェもお茶を飲みながら見る。

勝敗が決まった様だ。


「やったー、一位だ」

「おめでとうございます、ドイル様」

「残念、三位。でもだいたい分かった」

「もう一回だ、今度こそ一番最初にゴールをするぞ」


子供達が興奮して遊んでいる。私達も側に行って参加する事にした。


「それでは、双六のマスを作り直します。そうだ、みんなで作ったマスでゲームをしませんか?」


三人に紙を渡して子供達は一生懸命。紙にいろいろ書いている。私は子供達の様子を見ていたらアンジェとトルクが話している。


「トルク、これは貴方が考えたの?」

「いえ、どこかの書物に載ってました」


相変わらずトルクの知識は良く分からない。書物で読んだか自分で考えてとしか言わないからな。本当に八歳、もう九歳か。こんな事を考える子供はいないぞ。後日、トルクの知識についてじっくり聞いてみるか


「出来たぞ」


子供達の双六のマス?作りが終わった様だ。では家族全員で遊ぶ。

結果はドイルが一位を独占した。


「ドイル様、パネェ」


トルクのつぶやきが聞こえた。パネェとはなんだ?



次の日、雨が上がって私達は宿屋を出て伯爵領に向かう。

この先の橋を渡ったら伯爵領に着く。地面が雨水で歩き辛いが今日中には伯爵家に着くだろう。雨のせいで川の水量が増しているがこの程度なら大丈夫だ。

橋に差し掛かり渡ろうとすると後ろから声が聞こえた。


「盗賊が来たぞ、急いで橋を渡るんだ、急げ」


一人の旅人風の男が我々に知らせながら橋を渡る。その後ろには五人位の男たちが走ってくる。こいつらが賊か。


「先に馬車を橋の向こう側に行かせろ、兵の半分は此処で賊を倒すぞ。残りの兵は馬車と一緒に先に行け」


私は兵と一緒に賊を倒そうと向かうが、兵の一人が言った。


「クレイン様、向こう岸の橋の前に土壁が出来てます。これは罠です。向こうが主力です」

「くそ、お前たちはこいつらを無力化しろ。私達は向こうに行くぞ。続け」

「どうしますか。あの土壁はかなり厚いようです」

「行ってから考える」


急がないとアンジェや子供達が賊に捕まってしまう。あの土壁をどうにかしないと。私が橋を渡り土壁の前に着くまえにいきなり土壁が崩れた。なんで崩れたかは分からないが土壁を飛び越えて家族の元に向かう。騙された怒りを賊にぶつける様に剣を振り回した。賊が半分になり、立っている賊が少なくなったので降伏勧告をする。


「降伏をしろ、命だけは助けてやる」


こいつらがなんでこんな所にいるか聞きださないといけない。伯爵領で賊の真似事などを仕出かした奴等だ。何か事情があるだろう。それを聞きださなくては。そう思っていたが、後ろから叫び声が聞こえた。振り向くと賊がドイルを人質に捕っている。


「動くな、このガキを助けたかったらまずは武器を捨てて仲間を解放してもらおうか」


くそ、護衛の兵は何をやっている。馬車の中にいるドイルを人質に捕るとは。少しでも賊の意識をこちらに向けないと。


「お前達、賊を解放しろ」

「はい」

「後は武器を捨てるんだ」

「その前に子供を解放しろ」

「武器が先だ」


その時、人質を取っている賊に変化が起きた。いきなり背が縮んだ?いや足元を見ると落とし穴に落ちている。そして足の間に土壁がある。見事に土壁が男の急所に当たった様だ。変な声を出しながらナイフを落とした。股間に手をやる瞬間にトルクがドイルを持っている賊の腕に飛びつき、嚙みついた。痛みでドイルを落としトルクはドイルの手を取って逃げようとするが。


「このクソガキが」


賊がトルクを殴りドイルと一緒に川に落とした。


「この賊が」


怒りで人質を取っていた旅人風の賊を倒そうとするが、土魔法の土壁に阻まれた。こいつが土壁で橋を遮った魔法使いか。剣で土壁を切り刻み壁を壊すが賊が股間を触りながら逃げ出す。逃げる賊に向かおうとするがその前にここに居る賊を倒す事にした。


「賊を無力化せよ」


兵に命令をして賊を倒す。賊の何人かは死んだり怪我をして倒れている。少し逃げた様だが今は此処にいる賊を無力化する。兵にロープを使って賊の体の自由を奪う。


「半分は護衛で、此処で待機。賊が逃げない様にしろ。逃げようとする賊は殺しても構わん。残りの半分は私と一緒に下流に行ってドイル達を探す。行くぞ」

「貴方、ドイルをお願い」

「分かっている。あの運が良いトルクと一緒だ。大丈夫だ」


運が良いトルクと一緒だから大丈夫。そう信じて私は下流に向かう。



「いたか?」

「いえこの辺りにはいません」

「ではもっと下流に行くぞ」


ドイルとトルクを探して下流に進む。昨日の雨で川の水量が多くなっている。二人は無事なのか?諦めずに捜索するが二人は見つからない。もっと下流なのか?


「クレイン様、下流の方で煙が立ち上っています」

「ドイル達かもしれない。煙の方に向かうぞ」

「はい」


私達は急いで煙が立ち上っている場所に向かう。万が一違っていても二人の情報が分かるかもしれない。

煙の近くに行くとドイルとトルク、賊の二人がいる。トルクが賊に殴られている様だ。


「ドイル、トルク。無事か」


急いで二人の元に駆け付ける。賊の一人がドイルの側に行くがドイルが地面に落ち、その周りに土壁で覆った。おそらくトルクの土魔法だろう。ドイルを助けるためにトルクが怪我をしながらも魔法を使ったのだ。私は全速力で駆け付ける。今度はトルクを人質に捕ろうとするが、いきなり私の方に向かって火魔法の火の玉を発動して当てようとする。魔法の炎など切り刻んで賊を倒そうと考えたが、私の前にいきなり水の壁が発生して炎を相殺する。賊がトルクを見て何かを言おうとしたがその前に私の剣が賊を切った。


「助かった」


トルクがつぶやいて気絶をする。


「クレイン様、賊を無力化しました」

「殺すな、アジトを聞いて賊を殲滅する。ドイルを助けるから手を貸せ。あとトルクは大丈夫か?」


私は兵たちとトルクが作った土壁を壊して落とし穴に落ちたドイルを助ける。固い土壁だな。壊すのに苦労したぞ。


「お父様」


ドイルが泣きながら抱き着いてくる。怖かったのだろう。頭を撫ぜて安心をさせる。


「トルクが僕を助けてくれたんだ。僕は何も出来なかった」

「今度はお前がトルクを助ければいい。良く二人で頑張った」


泣きながら私にしがみつくので私はドイルを抱き上げてトルクの状態を見る。顔を殴られて鼻や口から血が出て、体も殴られた跡がある。


「トルクの怪我はどうだ?」

「殴られた箇所が多いです。骨にも異常が有るかもしれません。急いで医者に見せましょう」

「分かった。急いで馬車の所に戻るぞ。お前はトルクを頼むぞ。私達は先に戻る。賊達を連れてこい。あの死体も一緒だ」

「わかりました。お気をつけて」


急いで馬車に戻りトルクをアンジェ達のいる馬車に寝かせる。


「お前たちは賊と一緒に来い。私達は先に伯爵家に向かう。急ぐぞ」


兵の半分を賊の護送に当てて残りの半分で伯爵家に向かう。急いでトルクの治療をさせないと。荷物の中の打撲や擦り傷の薬で侍女に治療をさせるが焼け石に水だ。早く専門の医者に見せるために伯爵領に向かう。

アンジェはドイルの無事を確認し抱きしめた後、川に落ちた後を聞いている。川に落ちて気絶したドイルが目覚めたのは、川から出て、トルクにおんぶされていたところだそうだ。トルクは気絶したドイルを川から助けて岸に上りドイルをおんぶして上流に向かったことになる。あの濁流の中でよく無事だったな。そしてトルクの状態を見ていたエイルドがトルクを叩く。


「こらトルク、起きろ」

「何をしている。怪我人を殴るな」

「こんなの怪我に入らない。起きろよトルク」


泣きながらトルクを再度、叩いて呼びかける。ポアラもトルクを見て泣きながら抱き着く。


「トルク、お願いだから目を開けてよ」


二人とも泣きながらトルクに呼びかける。


「大丈夫だ。もうすぐ伯爵家に着く。そしたらすぐに治る。エイルド、これ以上叩くな。ポアラも泣くな」


伯爵家に急がなければ、馬に乗っている護衛を先に行かせて伯爵家に医者の準備をさせよう。


「お前は先に伯爵家に行け。義父に賊の話と医者を準備させるんだ」

「わかりました」


馬に乗っている護衛が先に伯爵家に向かう。

この速度なら昼過ぎには着くだろう。速度が速いので馬車の乗り心地は最悪だが誰も文句は言わない。


「アンジェ、伯爵領には回復魔法の使い手はいるか?」

「いえ、そのような話は聞いてません」

「回復魔法の使い手は王都くらいにしかいないからな。伯爵家には居なくても辺境の砦には居るかもしれない。後で聞いてみよう」

「……回復魔法の使い手」

「どうした?」

「思い当る人物がいるのです」

「誰だ」

「トルクですよ。この子はもしかしたら回復魔法を使えるかもしれないのです」

「トルクが使ったのか?」

「いえ、見たことは無いです。ですがドイルが川に落ちたのに傷一つ無いのは不自然ですから。ドイルに回復魔法を使ったのかもしれません」


私はドイルを見た。確かに川に落ちたのに傷一つ無いのは不自然だ。気絶しているドイルをトルクが回復魔法を使って傷を癒したのかもしれない。だがその回復魔法の使い手が気絶をしている。トルクを見てため息が出る。


「なんにせよ、気絶しているトルクに回復魔法は出来ないか。この事は後で考えよう」

「そうですね」


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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