13
朝日と共に目覚める。隣を見るとまたマリーがオレを抱き枕にして眠っている。オレは抱き枕ではないぞ。マリーは寝相が悪いから何度も夜に起きたぞ。将来、マリーの寝相の悪さを言ってからかってやる。
「おはよう、母さん」
「おはよう、トルク。マリーはぐっすりのようね」
「早くマリーを起こして、オレが起きれない」
母親は起きて身だしなみを整えている。本当に体の調子が良くなったみたいだ。
「どうしたの、こっちを見て」
「母さんの体が良くなってよかったと思って」
「貴方が村を出て行ったあと、マリーちゃんには助けてもらったわ。弟やお父様、お母様にもね」
叔父さんや村長のお爺さんとお婆さんは元気かな。みんな男爵家に来るって言っているしそのうちに会えるだろう。
「ほら、マリーちゃん。朝よ、起きなさい」
母親が昨日と同じくマリーをゆすって起こす。
「おはようございます、叔母さん」
早く起きてくれよ、オレが起きれない。
「頼むから母さんの所で寝てくれよ。オレを睡眠不足で倒れさせる気か」
「大丈夫だよ。今度は気を付けるから」
「気を付けて寝相が治るか。早く起きてくれ」
ベットから起きだしてオレも身だしなみを整える。そうしているうちに医師が来る時間になった。その後ろからレオナルド様も部屋に入ってくる。朝からとは珍しい。何かあったのかな?昨日借りた金の催促か?
医師がオレの顔の傷を調べ、薬を塗って終わる。今回は大分治療が早いね、手を抜いてない?
「若いからでしょう。だいぶ治っているようです。寝る前にこの塗り薬を塗ってください」
医師が母親に薬を渡して部屋を出る。今日はあっさりしているな。
「トルク、すまんが伯爵家の朝食を作ってくれないか?」
いきなりレオナルド様が言った。昨日の料理長との言い争いの事件があったのに何故にして?あと金の催促ではなかったようだ。
「伯爵家の料理長が逃げ出して、行方不明だ」
「……もう一回、言ってください」
「伯爵家の料理長が逃げ出して、行方不明だ」
「それでオレが、私が朝食を作るんですか?」
やべ、混乱して喋り方がおかしくなった。
「伯爵様夫婦とクレイン様達家族にだけでも作ってくれ。クレイン様達もこれ以上まずい料理は食べたくないそうだ」
「いや、まずい料理って。普通でしょう」
「何を言っている。男爵家で食べている料理よりもまずいぞ。トルクは舌が少しおかしいのではないか」
おやオレの舌は正常ですよ。母親とマリーを見るが母親は苦笑い、マリーは良く分からないのかキョトンとしている。
「とにかく朝食を頼んだ」
「しかし、私だけでは昨日のようなことになりませんか?」
「安心しろ、私もついていく。私が責任をもって台所で仕事をさせてやる」
「……レオナルド様の仕事では無いと思いますが」
「これも旨い食事の為だ」
レオナルド様って食いしん坊だったんだな。あと苦労人の様だ。仕方がないので朝食を作る用意をするか。母親とマリーに手伝いを頼もうと思ったが止めた。厨房の料理人が何かしてくるかもしれない。伯爵家の厨房は敵の拠点、敵陣だ。そんな所に二人を連れていけない。二人も手伝いを買って出てくれたが止めておいた。
オレとレオナルド様は部屋を出て台所に向かう。その間に質問をした。
「伯爵家の食材は使えるのですか?」
「大丈夫だ、執事長から食糧庫のカギを貰っている」
「厨房を使っていいのですか?」
「私が使わせる」
「手伝いはどうなりますか?」
「料理人に手伝わせる」
「伯爵家の朝食の時間は?」
「もう少し時間がある」
「リクエストは有りますか?」
「……ピザが良いな」
「朝からピザはダメです。キチンとした物を食べないと。サンドイッチにするかな」
レオナルド様のリクエストを却下してパンにはさむ具を考える。何が良いかな。
「待て、では昼食にピザはどうだ」
「……食糧庫に食材が有るなら昼飯で作りましょう」
レオナルド様はピザが好きなのか。とりあえず覚えておこう。
伯爵家の台所の入り口の前に執事長がいた。
「今回は私も手伝います」
「仕事は良いのか?執事長だろう」
執事長が料理の手伝いをしてくれるそうだがレオナルド様は不満顔だ。なんでだろう?
「伯爵家の料理長が逃げ出したなんて私も面目が丸潰れです。旦那様になんてお詫びをすれば良いのか」
「それ以前に何故、あれが料理長になったのだ?お前も料理長の悪評は知っているはずだ」
「料理人の縄張りには使用人は入れません」
「その結果がこの様だ。今度からその縄張りを無くすことを勧めるぞ」
レオナルド様が台所に入るのでオレもその後ろに付いていく。その後ろに執事長がついてくる。どうやら本当に手伝ってくれるようだ。戦力になるかは分からないが。
台所に入ると料理人が仕事をしているみたいだが朝食は出来ていない様だ。周りを見ていると皿を拭いたり洗ったり。かまどに火を入れたりテーブルを拭いたり何をしているんだ?
おや、皿を拭いているイーズを見つけた。
「おーい、イーズ。何をしているんだ?」
オレはイーズの所に向かった。オレが近づいてくるにつれて絶望的な顔をする。昨日のハンバーグのお代わりが出来なかったエイルド様と同じ顔をしている。
「なんで、君が朝から厨房にくるんだ」
「料理を作る為に決まっているだろう。とりあえず手伝ってくれ。朝食を作らないといけないから」
「まだ料理長が来てないから無理だよ」
あれ?料理長がいなくなった事を知らないのか?オレは執事長を見るが苦々しい顔つきでオレを見た。料理長がいなくなった事を言っていいのか?あと執事長さんよ、そんな顔をしないでくれオレの責任ではないぞ。
「料理長は辞任しました。次の料理長はまだ未定です。副料理長は朝食の準備をしてください」
台所で働く人達が動きを止めて騒ぎ出す。いきなりの料理長の辞任に戸惑っている様だ。いきなり一番上の料理長が辞任したらそうなるよね。
「食糧庫のカギは料理長が持っているはずです」
「予備のカギは此処にあります」
「料理長が去年、食糧庫のカギを替えていたのですが、それで開きますか?」
「……なんですかそれは、私は聞いてませんよ。副料理長」
「料理長が「料理人の縄張りに使用人は入らせない」と言ってカギを替えたのです」
「食糧庫に行きます。ついてきてください。他のみんなは朝食の用意を。急ぎなさい」
食糧庫に行く人達は執事長と副料理人、レオナルド様とオレとおまけでイーズ。レオナルド様から受け取ったカギを食糧庫のドアに差し込む執事長。だけど鍵が合わない。どうしようかな、ドアが開かないと食糧庫に入れないよ。どうするべさ。
「皆、ドアから離れてくれ」
レオナルド様が執事長達をドアから離す。腰に下げていた剣を抜いて上段に構える。一閃、ドアを切った。後はドアを蹴り壊して。
「後で直しておけ」
執事長に言って食糧庫の中に入った。レオナルド様、いきなり剣を抜いてドアを切らないで下さいよ。ちょっと怖かった。
「トルク、早く中に入って準備しろ」
「は、はい。今入ります」
皆さんも中に入りましょう。食糧庫の中に入り食材を見る。サンドイッチの具として、ハム、ベーコン、レタス、バター、チーズ、トマト、ミルク、卵等このくらいかな。入り口に置いてあったカゴに材料を入れてイーズに持たせる。後はスープか……。何が良いかな?まてよ、バターが有るって事はクリームも有るのか?
「おいイーズ、クリーム有るのか?」
「え、クリーム?作れば有るけどどうして」
「すぐに作れるか」
「えーと多分、大丈夫だと思うよ?」
イーズが副料理長を見て言った。この人が作っているのか。
「副料理長、すみませんがクリームを作ってください」
「バターは良いのかい?」
そういえばバターを作る過程でクリームが出来るんだっけ。とりあえずはクリームだ。
「クリームだけで大丈夫です」
「分かった、作らせよう」
あとは果物を用意して、スープはかぼちゃのスープを作るか。しかし朝食の時間までに間に合うかな。
材料を持って台所に向かう。持っているのはイーズだけど。急いで作らないといけないな。どうすれば効率がいいか少し考える。
「副料理長、クリームをお願いします。レオナルド様は男爵家の使用人を二・三人くらい呼んできてください。他の人は野菜や果物を洗ってくれ、イーズはパンをここに持ってきてくれ。あとパンを切る包丁だ」
「急いで行動をしろ。時間が無いぞ」
副料理長の檄で料理人が行動を開始する。レオナルド様が台所から出て男爵家の使用人を呼んでくる。
「副料理長、かぼちゃを切って湯がいてから、身をペースト状にしてください」
「パンを持ってきたよ。あと包丁」
「ベーコンを軽く焼いてくれ、スクランブルエッグは出来るか?」
「何それ?」
「くそ、副料理長手伝ってくれ。作り方を見て覚えてくれ」
「野菜と果物を洗い終わりました」
「トルク、男爵家の使用人を連れてきたぞ」
「ありがとうございます。レオナルド様。皆さんはサンドイッチを料理人に教えながら作ってください」
「クリームが出来たぞ」
「クリームに砂糖を入れてかき混ぜてくれ。これがスクランブルエッグだ。チーズを入れても美味しいぞ」
「かぼちゃのペースト出来ました」
「次はかぼちゃのスープだ。ペーストにミルクを入れてのばしながら味付けをして煮込め」
「サンドイッチは出来ました」
「皿に盛り付けを頼む。クリームはどうだ」
「こんな感じになっているよ」
「果物を切ってフルーツサンドにします、手伝ってください」
「かぼちゃのスープの味見をお願いします」
「……なにか足りないな。レオナルド様と副料理長も味見をお願いします」
「スープは大丈夫だ。副料理長、配膳の用意を」
「もうすぐ時間です。配膳の進捗は」
「フルーツサンドがもう少しで終わります」
「飲み物の準備は出来ました」
「朝食の準備が終わりました」
「少し遅れた、急いで持って行くぞ」
……終わった。男爵家の料理の準備とは全く違う。レオナルド様や執事長も伯爵に説明をする為に朝食と一緒に厨房から出て行った。料理を使用人が持って行った後はみんな床に座って休んだ。こんなに疲れたのは久しぶりだよ。すると副料理長が言った。
「次に伯爵家で働いている者たちの食事を作るぞ。急いで準備しろ」
「オレは、料理をしなくていいですよね」
厨房から立ち去ろうとしたが副料理長に肩を掴まれた。オレが何をした。
「トルク殿も料理を手伝ってくれ。良いだろう」
「私は男爵家の使用人ですから無理です。料理人ではありません」
「大丈夫、私は気にしないぞ。今度はゆっくり新しい料理を教えてくれ」
掴まれている肩が痛いよ。子供に何を期待しているんだ。オレは何とか逃げる方法を考えた。
①男爵様に呼ばれているから無理。
②腹の調子が悪くなったら少し席を外す。
③諦めて料理を手伝う。
……よし決めた。
「腹の調子が悪くて体調がすぐれないので少し休憩します」
掴まれている手を外して逃げ出した。急げオレの足よ、早く動け。台所を出てオレは部屋に戻った。朝から仕事して疲れたからベットで横になろう。お休み~。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




