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精霊の友として  作者: 北杜
三章 伯爵家滞在編
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11

夕暮れ時、オレ達は伯爵家の台所の裏の小屋にたどり着いた。

台所を見たイーズが言った。


「もう食事が始まっているみたいだね」

「分かった。急いで準備するぞ」


これからハンバーグを焼く作業に入る。しかし材料が二人分しかないので、エイルド様とドイル様の分だけ作る。ハンバーグの中にチーズを入れて少しでも量を多くしておこう。

土魔法でかまどを作って薪の準備をする。

……あ、薪がないよ。仕方がない、椅子を壊して薪にしよう。そうだ、今のうちにイーズにフライパンを洗ってもらって皿を二人分用意してもらおう。


「イーズ、フランパンを洗ってから皿を用意してくれ」


その間に椅子を壊して薪にする。椅子の残骸をかまどに入れて火魔法で火を付ける。


「フライパン洗ってきたよ」

「よっしゃ、今から肉を焼くぞ。皿の準備だ」


フライパンを熱してバターを引いてから肉を焼く。おお、いい匂いだ。

チーズハンバーグの出来上がり。


「よし、出来上がりだ。持って行くぞ」

「待ってくれ、毒見をしないといけないだろう」

「アホか、そんな時間はない。温かいうちに食べて頂くんだ」


オレはワゴンに皿をのせて食堂に向かうが。


「イーズ、食堂に案内しろ。急げ」

「分かったよ、こっちだ」


オレ達は台所から出て食堂に向かった。



イーズの案内で食堂にたどり着いたが、食堂の入り口には若い使用人の人がいる。


「すいません、エイルド様とドイル様の食事をお持ちしましたので入らせてください」

「そんな話は聞いていない」


少し大きな声で言った。


「ですがクレイン様の命令で作ってきましたので、クレイン様に確認してください」

「だが、私は許可が無いとドアを開けれない」


だったら何のために食堂の入り口の前にいるんだよ。さっきよりも大きな声で。


「誰の許可が必要なんですか?急がないと食事が冷えます」

「執事長もしくはご家族の許可が必要だ」

「クレイン様の許可はありますよ」

「しかし私は聞いていない」


あー、こいつうぜえ。


「ねえ、諦めて帰ろうよ。みんなの食事の邪魔をしてはダメだよ。罰されるよ」


イーズもうぜえな。さらにデカい声で。


「やかましい、早く許可取ってこい。ドアぶち壊すぞ、こっちとら忙しいんだボケ」


あ、ドアが開いた。


「トルク、やけに遅かったな」


クレイン様がドアを開けてくれたよ。でも顔が引きつっているな?


「遅くなり申し訳ありません。ハンバーグの準備に手間取りまして。では失礼します」


イーズに「一緒に来い」とつぶやいてから二人で食堂に入る。なんかイーズが絶望的な顔をしているな?体調でも悪いのかな?

伯爵夫婦と男爵家一家と執事長と使用人の方々がいる。オレはエイルド様とドイル様の所に行きハンバーグが乗っている皿を置いた。


「お待たせしました、チーズハンバーグです」


今回はハンバーグの中にチーズが入っている一品ですよ。エイルド様とドイル様が目を輝かせて食べようとするが。


「お待ちください」


と執事長が止めようとする。二人は無視してハンバーグを食べる。


「うん、やっぱりトルクのハンバーグはうまいな」

「あ、中にチーズが入っている」


二人はハンバーグに夢中なのか執事長の声が聞こえなかったようだ。


「トルク、私の分は?」


やっぱり言うよね。ポアラ様の分が無いからな。お金と食材の都合上仕方がなかったんだよ。


「申し訳ありません。食材が無かったので二人分しか出来ませんでした」


オレの言葉を聞いていつもよりも表情が暗くなり二人が食べているハンバーグを見ている。


「お待ちください、まだその食べ物の毒見が済んでません。食べないで下さい」


執事は二人が食べるのを止めようとするが止まらない。


「中に入っているチーズは旨いな」

「家で食べている時よりもおいしいかも」

「二人だけずるい」


ポアラ様が泣きそうです。ちょっと困ったな。


「トルク、何故ハンバーグを二人分しか作らなかったんだ?」

「そうよ、私も楽しみにしてたのに、お父様とお母様にも食べて頂きたかったのよ」


二人から責められるが仕方がないのです。


「すみません、お金が足りなくて二人分しか用意できませんでした」

「トルクお代わり」

「僕もハンバーグお代わり」

「お代わりはありません」


オレは二人にお代わりが無い事をつげたら。この世の終わりのような顔をした。


「なぜだ。オレは大盛りを頼んだはずだ」

「お金と材料が無かったのです。申し訳ありません」

「待て、お金?材料?どういう事だ」


クレイン様が作れなかった訳を聞いてくる。アンジェ様も伯爵夫婦も疑問に思っている様だ。


「レオナルド様から銀貨二枚を借りて、それから街で食材を買ってイーズの実家の台所を借りて仕込みをしました。銀貨一枚分で材料と調理道具を買い、残り一枚は台所の使用料として渡しました」

「なぜ、そんな事をする?伯爵家の台所を借りたら良かっただろう。食材もあったはずだ」


その疑問はごもっとも。でもね。


「厨房を使おうとしたら料理長からかまどが壊れている厨房の裏の小屋に案内をされました。食材を見せてもらおうと思ったら料理長に殴られてしまって使えませんでした。「オレの視界に入るな」と言われて」


クレイン様が執事長を見る。アンジェ様は伯爵夫婦を見ている。というか睨んでいるかな?しかしまだオレの話は続くぞ。


「なので伯爵家の台所は使えず、レオナルド様からお金を借りて食材を買い、ここにいるイーズの家が料理店だったのでそこの厨房を使って仕込みをしてから伯爵家に帰りました。帰った後はかまどが壊れているので魔法でかまどをつくり料理を仕上げました」


クレイン様がいきなり使用人に「レオナルドを此処に呼ぶように。大至急だ」と怒鳴る。アンジェ様も「料理長をすぐに呼びなさい」と使用人に命令をする。二人が怒っているのを見るのは初めてのような気がする。


「なあ、トルク。ハンバーグは本当に無いのか」


エイルド様の情けない顔を見るのも初めてだな。


「申し訳ありません」


エイルド様、ドイル様も泣きそうな顔になる。楽しい食事がいきなり暗くなりました。やっぱりオレのせいでしょうか。


「お呼びと伺いました」


あ、レオナルド様が来たよ。クレイン様の顔を見て少し驚いている。


「トルクがハンバーグのレシピをここにいるイーズの料理店に教えた様だ。今すぐに口止めをするんだ」

「わかりました、すぐに行きます。イーズとやらも一緒に来い」


空気だったイーズがクレイン様、レオナルド様に呼ばれて泣きそうになる。


「あ、あの、僕は今から台所の後片付けが……」

「黙れ、こっちの方が重大だ。レオナルド、急げ」

「わかりました。執事長、馬を使うぞ。イーズ、早く来い。お前の案内が必要だ」

「は、はい」


レオナルド様とイーズが出て行くと今度は料理長が入って来た。


「お呼びと伺いました」


料理長が食堂を見渡す。怒っている男爵夫婦、悲しい顔をしている子供達、無表情の伯爵様、我関せずの伯爵夫人。困っている執事長、怯えている使用人。ボーとしているオレ。

オレの顔を見ると「なぜ此処に、このガキがいる?」と思っているような顔だ。案外「変な料理を出して怒られているクソガキ」とでも思っていたりして。

まず、クレイン様が執事長に言った。


「執事長、私はお前にトルクに料理を作ってもらうために頼んだが覚えているか?」

「はい、料理長に紹介をしました。しかし料理長はクレイン様の言葉を聞かなかったようです」

「だが私は頼んだはずだ。なぜトルクは台所で料理が出来なかった」

「私にもわかりません。しかし私は料理長に頼みました」


執事長は確かに料理長に頼んだ。しかし強くは言っていない。言ったのは貴族の命令だからいう事を聞くようにとしか言っていない。


「料理長に聞く。なぜトルクに料理をさせなかった。執事長から聞いたはずだ」


今度は料理長に聞く。


「私はこの伯爵家の料理長です。ここに住んでいる人間を食べさせる責任があります。いきなり入って来た子供に料理などさせません。もしも毒が入っていたらどうするのですか?第一、子供が料理など出来るはずがありません」

「毒を入らせないようにするのはお前の仕事だろう。それに男爵家でも料理をしている。聞いていなかったのか?」

「聞いていましたが、子供の料理などたかが知れています」

「お前はトルクの料理は見たことないだろう」

「見なくても分かります。子供の料理なんてたかが知れてます」


ただいまオレはディスられてます。ガキに料理はさせませんか。まあ普通はそうだよね。


「お父様、料理人の質が落ちたようですね。先代の料理長はどうしたのですか?」


今度はアンジェ様が喋る。凄い雰囲気を出しているよ。しかし腹減ったな。まだ夕食食べてないんだよ、オレは。


「今日の料理も美味しいとは思わなかったわ。伯爵家の食べ物とは思えませんよ。私が居た頃はまだ美味しかったと思ったけど、ここまで質が悪いと食材の方が可哀そうだわ」


アンジェ様は攻めるね~。料理長がこぶしを握っているよ。怒ってる怒ってる。


「お父様やお母様にトルクの料理を見てほしかったのに残念だわ。あのハンバーグはとても美味しいのよ。ハンバーグだけではなくピザやホットケーキ、パンプキンスープやサンドイッチ。いろいろ食べてほしかったわ。伯爵家の料理長、いえ王都で誰もが知らない料理よ。作り方を知っているのは男爵家の料理人とトルクだけなの。今回はこの伯爵領でこの料理法を広めてもらおうと思っていたけど、この料理長に教えるのは止めておくわ。料理人の質が悪いからね」

「子供に料理なんて出来ません。男爵家の誰かが手伝っているのでしょう」


確かにオレの料理は男爵家の料理人デカルさんに助けてもらっているし他の使用人達にも手伝ってもらっている。


「なら新しい料理を作ってみたらどうですか?トルクが料理を出来るかわかりますから」


伯爵夫人がゆっくりとした言葉で言った。まあその通りなんだけどね。

しかしオレは。


「申し訳ありません。無理です」


オレは無理な事は無理と言える子供だ。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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