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精霊の友として  作者: 北杜
三章 伯爵家滞在編
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5


 重い話を聞いた。

 伯爵様は目を閉じている。伯爵夫人は母親を見ている。クレイン様は手を握り締めて怒っている様だ。アンジェ様はハンカチを手に取って目を抑えている。レオナルド様は頭を抱えていた。

 オレは母親の人生がこんなに重かったのかとショックを受けていた。オレは脳内撲殺ノートに父親のほかに正室、ヴォルグ男爵の名前を書いた。絶対に撲殺してやる。


「私は男爵家の魔法の教師になりましたが素性が判ったらアイローン伯爵家から嫌がらせを受けるかもしれません。その場合は私を男爵家から追放した方が良いと思います。出来ればトルクとマリーはそのまま男爵家に残しておいていただけたら幸いです」


 母親が淡々と喋る。本当に苦労したんだな。


「クレイン様、母さんを追放するならオレも追放した方が良いと思います。母さんの話を聞く限りでは、アイローン伯爵は私にも何かしらしてくる可能性があります。母さんを追放するなら私も追放してください」


 母親が追放されるならオレも追放されよう。そして、母親と一緒に行動をしたい。


「リリアさん、トルク。貴方達を追放なんてしません。トルクはドイルの命の恩人です。リリアさん、貴方も追放なんてしません。そんな事をしたら私達もアイローン伯爵と同類になってしまいます。貴族として人としてそんな事はしません」


 泣きながらアンジェ様がオレ達に言った。


「アンジェの言うとおりだ。私達は絶対に貴方達を追放などしない」


 クレイン様、ありがとうございます。


「大丈夫だ。我が伯爵家が貴方を保護しよう。落ち目のアイローン伯爵など取るに足らぬ」

「リリアさんの話を聞いて何もしないなんて者は伯爵家には居ませんよ」


 伯爵夫婦がオレ達を保護してくれると言った。嬉しいです。伯爵様ありがとうございます。


「しかし、そのような事情があったとは知らなかった。私が聞いた噂ではアイローン第二夫人は病で死亡した。そして第一夫人が「水の聖女」の名を継いだが、先年の川の氾濫を抑えられなかったことからその名は剥奪されたようだ」

「彼女の水魔法は上級ではありません。他の者にさせたのでしょう」

「それで、川の氾濫を抑えきれなかったのか。お陰で王都とその周辺の町は打撃を受けて伯爵はその負債を弁償している。それだけではない、伯爵領では不幸が続いている。川の氾濫で不作になり無茶な労役で平民の反乱、銀山から発掘される銀の横領の罪、帝国との交渉も失敗している」


 天災と人災で伯爵家は現在、ダメになっているらしい。なんかザマミロって感じだな。

 レオナルド様が言った。


「ヴォルグ男爵だが罪を犯して死罪になった。アイローン伯爵も罰としてヴォルグ男爵領地を没収された。先年に功績を上げたクレイン様がその領地の一部を頂いてトルクの住んでいた村はバルム領ウィール男爵の領地になったが、ヴォルグ男爵家にあった報告書を見たときは水の聖女の事は何一つ書いていなかった。リリア殿が住んでいた辺境の村の事は特に問題ないという内容だった。申し訳ない、私がもっと調べていたら良かった」


 レオナルド様が母親に謝っている。そういえば、ヴォルグ男爵は死罪だったな。抹殺リストから消しておこう。


「トルクが村を出たとき、私は驚きました。なにせ「下人になる」と置手紙を書いただけで、朝起きたら村を出て行っていたのです。あまりの衝撃で気絶をしてしまい、ヴォルグ男爵の嫌がらせかと思いました。しかし父から、領主がヴォルグ男爵ではなくクレイン・ルウ・ウィール男爵様に代わり、ヴォルグ男爵は死罪になったと聞きました。アイローン伯爵の新手の嫌がらせだと思いましたが、その後、父からこの村がバルム伯爵領になったと聞き、最初は信じられませんでした。その後、何事も無く時が過ぎ、レオナルド様から雇用の話が有った時に私はようやく安心しました」

 あ、みんなが一斉にオレを見た。やっぱり置手紙はダメだったみたい。

「今回の魔法の教師の件もアイローン伯爵から隠れる為に受けました。他領の事は調べにくいので私があの村に居なければ見つからないと思います。たとえ見つかってもアイローン伯爵が他領の村に何かをしたら罪になり裁かれます。ですから教師となる要請を受ける事にしました」


 母親は伯爵を利用する気なのかな?まあその方がいいかもしれない。


「リリアさん」


 アンジェ様が立ち上がり、母親のそばに行き手を握った。


「リリアさん、もう酷い事はありません、バルム伯爵の名誉にかけて貴方を守ります。もう大丈夫です」

「水の聖女よ、いや、リリア殿。バルム伯爵の名に懸けて貴方を守りましょう。アイローン伯爵が何と言おうと問題ない。必ず守ってみせる」


 伯爵様、アンジェ様、ありがとうございます。オレも守ってくれるんですよね。でもアンジェ様は伯爵令嬢ではなくて男爵夫人ですよ。


「そうだわ、リリアさん。私達、姉妹になりましょう。年も近いし、その方が貴方を守れるわ」

「アンジェ、リリア殿をバルム伯爵の養女にするのか?」

「リリアさんが養女になれば私達は姉妹になれるわ、アイローン伯爵からも守れるし」


 クレイン様、貴方の奥様が暴走をしていますよ。なんとかしてください。


「それにリリアさんが養女になったらトルクも貴族の子供になるわ。そしたら来年はみんなで王都の学校に通えるわ」

「アンジェ様、申し訳ありませんが辞退いたします」


 あ、母親が断った。アンジェ様がとても悲しそうな顔をしている。


「お気持ちはありがたいですが、今はアイローン伯爵に見つかるのはよくありません。それにアイローン伯爵の元には私の娘がいるはずです。娘を人質にされたらどうしようもありません」

「で、ですが」

「私は一日でも早くアイローン伯爵の所にいる娘を助けたい。でもアイローン伯爵の所には行けないのです。行けばアイローン伯爵は何かをしてきます。娘を人質にされれば娘が助けられません。しかし貴族は王都の学校に必ず通います。娘も学校に通うはずです。助けられるのはその時しかないのです。お願いです。二年後に娘が学校に入学してきます。その時に力を貸してください」


 母親がみんなに頭を下げる。妹を助けるために母親は頑張ってきたのだ。病気で寝込んでいた時も妹の名前を呼んでいた。だが平民にとって貴族は絶対だ。今までも妹を助けたかったに違いない。でもヴォルグ男爵のせいで村から出られない。アイローン伯爵が妹を人質にするかもしれないから行けない。だから妹が王都に行く時に助ける。その為に頑張ってきたのか。


「分かった。リリア殿の言うとおりにしよう。リリア殿の存在を隠して二年後、子供を助けるために協力しようではないか」


 伯爵様が言った。母親を、妹を助けるために協力してくれるみたいだ。


「アンジェ、養女の件はトルクの妹を助けた後にすれば良い。二年後には姉妹になれるぞ。リリア殿、私は貴方に命を助けられたのだ。水害の時に貴方の魔法で助けられた一人なのだよ。命を助けて頂いた恩を返したい。家族がそろって暮らせるように協力をしよう」

「ありがとうございます。ご恩は一生忘れません」


 母親が伯爵様に向かって礼をする。オレも母親にならって礼をした。


「リリア殿の娘の名前は確かレイファだったな。その子の事を調べておこう。クレイン、大丈夫と思うがリリア殿の事は隠す様に、万が一の事がある。アンジェも気を付けるように」

「わかりました」

「わかっているわ、お父様。では難しい話はこれで終わりにしてリリアさんお茶をしましょう。お母様もご一緒にいかが?」

「あらあら、では準備をしましょう。では行きましょうかアンジェ、リリアさん」


 女性陣は部屋を出て行った。お茶会のようだ。

 しかし、オレはいつまで此処にいるのだろう?


「しかし、トルクには驚いたぞ。水の聖女の息子とは」


 クレイン様、オレも今日初めて聞きました。


「私も驚きました。水の聖女の噂は耳にしたことがあります。川の水害を治め王都とその周辺の村を救った。雨に濡れながら水を制御する姿は美しい水の精霊のようだと」


 レオナルド様、オレはさっき水の聖女に頭を叩かれましたよ。


「私も恩人に恩を返せる。水の聖女が病で亡くなったと聞いたときはみんな悲しんだものだ」


 伯爵様、みんなって誰?ファンクラブでもあるのか?


「トルク、お前には頼みたい事がある」


 クレイン様が真剣な顔でオレを見た。なんだろう?


「はい」

「リリア殿のことは置いておく事にして。お前は男爵家の使用人として今後もエイルドとポアラ、ドイルの世話を頼む。お前には将来、レオナルドと同じく騎士爵を与える事を考えている。男爵家に仕えてもらおうと考えていたが、リリア殿の事を考えたら少し難しくなった」


 使用人から騎士爵?男爵家に仕える?少し混乱をしています。確か騎士爵は一代限りだが貴族だよね。


「リリア殿が二年後にはバルム伯爵の養女になる予定で動くと少し予定がずれる。リリア殿が養女となり伯爵令嬢になったらその子も爵位が継げるだろう。トルクとお前の妹もバルム伯爵家の子供になる」


 そういえばそうだ。母親が養女になったらオレもバルム伯爵の孫になるのだ。クレイン様が話を続ける。


「バルム伯爵家にはアンジェしか子供がいない。アンジェが男爵家に嫁いだから現在は伯爵家を継げるのは私達の子供達、エイルドかドイルのどちらかが継ぐだろう。お前には男爵家にいて欲しいが、リリア殿が養女になったら話が変わる。トルクにも継承権が発生するのだ」


 マジか、伯爵になれるのか?どうしよう?ヤバい混乱しているよ。


「バルム伯爵領の継承権はエイルドが継いで、男爵はドイルが継ぐ予定にしている。そしてリリア殿が養女になったらトルクはバルム伯爵領の継承権はエイルドやドイルの次になる」


 みんながオレを見るよ、どうせいって言うねん。あ、方言が入った。混乱をしている様だ。平民が貴族の養子になって爵位をもらう?どうすればいいんだよ。とりあえず。


「すみませんが先の事は後に考えませんか?まだ母が養女になるって決まってませんし、猶予も二年あります。今決めなくても良いでしょう」


 とりあえずは先延ばししよう。

 そうしよう。

誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やんごとなき事で死ななければ主人公みたいな先延ばしにする行為がお家騒動になるのにな
2021/07/23 14:41 退会済み
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