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皆さまありがとうございます。
おはようございます、トルクです。昨晩はあまり寝られませんでした。顔の痛みで夜中に数回起きたり、マリーが同じベッドで寝ていて寝相が悪くて起きたり、いつの間にかオレを抱き枕にしたり。
マリーよ。怪我人と一緒に寝ないでくれ。あと寝相がすごく悪いぞ。
いつも陽が昇ったら起きて仕事の準備をする習慣だから自然に起きてしまった。そのままベッドで横になっていると母親も起きたようだ。
「おはよう、母さん。悪いけどマリーをどうにかして。オレを抱き枕にして身動きが取れないよ」
「おはよう、トルク。マリーちゃんにも困ったわね。起きなさい、マリーちゃん」
母親がマリーをゆすって起こす。
「おはようございます、叔母さん」
まだ寝ぼけている様だ。キチンと起きろ。今度からはこの時間帯に起きないといけないんだぞ。
「おはよう、マリー。いい加減に離れてくれ。それから寝相が悪いぞ」
「おはよう、お兄ちゃん。どうしたの?」
「はぁー。早く起きてくれ。それと今度から母さんのベッドで寝てくれ」
「えー!なんで?」
「寝相が悪い。マリーのせいで夜中に何回も起きたぞ。だから怪我人のベッドで寝るのは禁止」
マリーが下を向いて考え込んでいる。顔を上げた。
「じゃあベッドを繋げてみんなで寝よう。私が真ん中で右がお兄ちゃん、左が叔母さんで三人で寝よう」
「いいから仕事の準備をしろ。もうすぐ仕事の時間だろ」
「私達の仕事は無いわよ」
母親が言った。仕事が無い?使用人だろう。仕事は探せばいくらでも有るよ。
「レオナルド様が「男爵家に着いてから仕事をしてもらう予定だから仕事はまだいい」って。今は客分でお屋敷にいるわ。平民なのに伯爵家の客分で良いのかしらね」
笑いながら言う母親。まあいい、オレは怪我を治すためにベッドでゆっくりしよう。そういえばこれが初めての休みだな。今までずっと働いていたからな。これを機にゆっくりしよう。
……思えば男爵領に来てからは休み無しで働いていたからな。そんな事を考えていたらレオナルド様と医師の人が部屋に入って来た。
「体調はどうだ?トルク」
「顔がまだ痛いですけどそれ以外は大丈夫です」
医師が顔の包帯を取って怪我をみる。
「フムフム……。だいぶ良くなりました。これなら大丈夫でしょう。顔の腫れも明日には治るでしょう」
「ありがとうございます」
「よし、トルク。今日から仕事が出来るな。後でお前にしてもらいたい仕事があるんだ。まずは伯爵様に紹介をする」
レオナルド様。怪我を理由に今日まで休もうと思ったのに仕事ですか?……テンション下がるよ。
「では食堂に行くか。クレイン様もアンジェ様も来る頃だ。お前が無事に仕事を出来る事をみんなに伝えないと」
「わかりました。着替えて仕事の用意をします」
……オレの休みが無くなった。使用人も下人と一緒で休みが無いのかな?今度、他の人に聞いてみよう。
仕事服に着替えをして、レオナルド様と母親とマリーと一緒に食堂に向かう。食堂に入ると男爵家族全員がそろっていた。
「遅れて申し訳ありません。クレイン様」
「私達も先程、食堂に着いたばかりだ。トルクの怪我はどうだ?」
「はい、今日から仕事に復帰できるそうです」
男爵様がオレの様子を見る。……オレは仕事したくないです。休みたいです。まだ怪我人ですよ。
「トルク、今日からまた頼むぞ。男爵家の使用人として仕えてくれ。それから子供達を頼むぞ」
使用人の仕事に子供の世話も入っているみたいです。仕事量が多いと思いますが仕方がないのかな。
「頑張ります」
としか言えません。上司の言う事はイエスのみ。黒いカラスも上司が白と言えば白いカラスだ。
……そんな話をしているうちに老人夫婦が食堂に入って来た。
「遅くなったな」
アンジェ様がニッコリと笑いながら言った。
「いえ私達も先程、着いたばかりですよ。お父様、お母様」
アンジェ様のお父様、お母さまというと確かバルム伯爵だよな。伯爵家から男爵家に嫁いだってダミアンさんから聞いたけど、アンジェ様の両親も良く許可したもんだ。伯爵様は年配だけどゴツイ体格をしているな。お顔も厳格で厳しそうな人だな。伯爵夫人はアンジェ様と同じオレンジ色の髪で優しそうな女性だ。
「お前がトルクか、孫を助けてくれたようだな、礼を言う」
「ドイルを助けてくれてありがとう」
伯爵様から礼を言われたよ。良いのか?貴族が平民に礼を言ったんだぞ?ショックで混乱していたら母親から肩を揺すられた。あ、返事を言わないと。
「初めましてトルクと申します。男爵家に勤めるものとして当然の事をしたまでです」
「うむ、良い心がけだ。私の名はサムデイル・ルウ・バルムだ。しっかり男爵家の為に励め」
名前がサムデイル、ルウが爵位を持つ人の事、バルムは領地の名前だ。
「私はネーファよ。娘のアンジェからあなたの事は聞いているわ。料理が得意だってね」
アンジェ様、何を言っているのでしょうか?オレはそこまで料理は得意ではありませんよ。
「では食事を始めよう。客人も食べてくれ」
伯爵様の号令で食事を始めるが食事の間は誰も喋っていない。男爵家ではみんな喋っていたのにどうしてだろう?カチャカチャと食器が鳴る音しか聞こえない。喋っていいのかな?そんな事を考えていたら伯爵様が言った。
「食事の後にリリア殿と話したい。子供達は先に部屋に戻っておくように」
伯爵様から母親に話があるのか。まさかオレの父親の事かな?
「恐れ入りますがトルクも同席させてもよろしいでしょうか」
「許可する」
オレも話し合いに参加するようだ。胃に穴が開くような話ではないよね。そんな事を考えていたら食事が終わった。マリーに「ポアラ様と話をしてみれば」と言っておく。メイドさんが食後のお茶を配り部屋から出る。部屋の中にいるのはオレと母親、男爵夫婦と伯爵夫婦とレオナルド様だけだ。
「改めて挨拶をしよう。久しぶりだな。水の聖女、リリア・ルウ・アイローン伯爵第二夫人よ。死んだと聞いていたが息災でなによりだ」
男爵夫婦とレオナルド様が母親を見て驚いている。しかしなんだ、その名前は。水の聖女って中二病か?
「何その変な名前」
と言ったら母親に頭を叩かれた。
「トルクの母親が水の聖女だと、レオナルドは知っていたのか?」
「いえ、私が知っているのは男爵の養女で、男爵家が不正をして家が潰れてしまい。生まれた村へ戻ったと」
クレイン様の問いにレオナルド様が言った。え、男爵家の養女?母親は辺境の村で生まれてその後に男爵家に行ったの?
オレは伯爵家の家で生まれて六歳まで育ったはずだ。男爵家は関係ないはずだけど。
「私は辺境の村で生まれました。しかし、アイローン伯爵が戯れに村に訪れた時に私を連れて行ったのです。たかが平民を伯爵の側室には出来ないという事なので、ヴォルグ男爵家の養女として礼儀作法を習い、その後伯爵家の側室になりました」
「水の聖女って王都の水害を治めた有名な上級水魔法の使い手でしょう。上級の魔法使いは王都では有望されているはず。どうして辺境の村に?あと側室?第二夫人ではなくて?」
アンジェ様が混乱をしている様だ。そういえば母親は上級水魔法の使い手だったよね、忘れていたよ。
「伯爵家の第二夫人でしたが、当主と正室から追い出されました。その後ヴォルグ男爵家からは養女から外されて、私は生まれた村に帰りました。その時にヴォルグ男爵からは「アイローン伯爵様からお前は生かさず殺さず扱えと言われている。お前は生まれた村にしか居場所が無いが帰っても村での生活は地獄だろう。他の領地に行くことは許さん。お前のせいで生まれた村が無くなるなんて嫌だろう」と言われて村を人質にされて、私はヴォルグ男爵領の辺境の村に帰りました」
「なんですか!それは。伯爵から生かさず殺さず扱われ、貴方は村を人質にされてヴォルグ男爵領の村に帰った?何を考えているの!アイローン伯爵は」
アンジェ様がもの凄く怒っている。ちょっと、いやマジで怖いです。美人は怒ると怖いって聞いたことがあるけどマジで怖いな。
しかしオレの父親は何を考えているのか?母親とオレが村で村八分にされていた事は事情があったのか?
「アイローン伯爵の考えはわかります。平民は貴族の奴隷かおもちゃと思っているのです。ただ困らせて遊んでいるのでしょう」
「なんですか!その考えは。平民は貴族のおもちゃ?奴隷?」
「落ち着けアンジェ。落ち着くんだ」
クレイン様がアンジェ様を落ち着かせる。アンジェ様、お願いですから落ち着いて、オレの心の平穏の為に。
「……ヴォルグ男爵家はどうなったのでしょうか?」
母親がレオナルド様に聞いた。
「ヴォルグ男爵家は数年前に不正が発覚して取り潰しとなった。ヴォルグ男爵は死罪。他の家族は領地追放になったと聞いている。私はリリア殿がヴォルグ男爵領から追放されて生まれた土地に帰った事は聞いていた。しかし水の聖女とは知らなかった」
「だから男爵から嫌がらせが無くなったのですね。トルクが下人になったと聞いたときは私への嫌がらせだと思っていました」
「その件に関してはすまなかった。私は使用人を探していたつもりだったのだが、村長に勘違いをされたようだ」
アンジェ様がお茶を飲み深呼吸をしている。だいぶ落ち着いたようだ、見た目は。そしてクレイン様が母親とアンジェ様に言った。
「アンジェ、落ち着け。しかし私はリリア殿が死んだと聞いていた。出来れば詳しい事を教えてほしい。アイローン伯爵家で何が起こったのだ?」
母親が少し考えて言った。
「つまらない話になりますがよろしいでしょうか?」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




