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精霊の友として  作者: 北杜
十章 帝国皇城混乱編
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16 傷ついた心を癒す方法

 ……現在、部屋に引きこもっているトルクです。

 サクラに認識除外の術をかけてもらって心を癒しています。

 中二病のようなセリフと行動に恥ずかしくて心が酷く傷ついてしまいました。

 帝国の皆にオレの事を中二病の痛い奴だと思われて、影口を言われ続けるんだ。

 ……このまま何も考えない無機物になりたい……。

 お腹空いたらララーシャルが持って来た食事を壁のシミや傷を数えながら食べる。


「トルク、いい加減に機嫌を直して頂戴。貴方が立ち直らないと中二病精霊を封印できないわ。ドラゴンが捕まえているけど、何時逃げ出すか分からないのよ」


 ……僕は疲れたよ。……森に小屋を建てて誰にも会わずに一人で生きていくんだ。


「トルク~。森に住むよりも母親と妹と一緒に暮らすんじゃなかったの? 家族で森に住むつもり?」


 ……そうだった! 王国に行こう! 王国なら恥ずかしい言動を知られていないはず!

 よし! 王国に帰ろう! そして家族と一緒に静かに暮らそう。


「あ、元気出たみたいね、トルク」


 サクラが『やっとなおったわね』という表情でオレに「認識除外の術を解除するわよ」と言った。

 壁ばかり見ていたので久しぶりに客間を見る……。ってなんだこの綺麗に梱包された箱は? 大小さまざまな箱がオレの身長よりも多く積み重なっている。


「……なにこれ?」

「プレゼント作戦ね。機嫌を治す為にトルクにプレゼントを贈ったのよ。皇族達が」


 ……どうしてそんな状態に?


「その前はソバレーユ公爵やサンフィールド公爵が女の子を宛がおうとして、ララーシャルの怒りを買って反省中ね」


 ララーシャルの怒りを受けた二人は、どんな罰を下されて反省中なのだろうか?


「その前はエルモーア皇子が配下を連れて、強制的に客間に侵入しようとしたからララーシャルの怒りを買って……反省中よ」

「……ララーシャルの怒りを買わない様にしよう。どんな罰を下されたのか考えるだけでも怖い」

「その方が良いわ。私もちょっと怖かったから」


 サクラを恐怖させるララーシャルの怒り。……反省中の者達は心身ともに無事なのだろうか? 

「……そういえばララーシャルは何処に居るの? 他の人達は?」


 部屋にはオレとサクラしかいない。みんな食事でも食べに行っているのか?


「ララーシャルはロックマイヤー公爵とボルドランの三人で先代皇帝とその側近達と会談中よ。王国との戦争を止める事とララーシャルを殺した犯人について話し合っているわ」


 両方とも難しそうだな。数十年前から続いた戦争を止めるのと、数十年前に殺した人間を捜すのは。


「ララーシャルは王国側に殺されたと思っていた人達が仇を討とうとして、戦争がはじまったからね。仇が敵国ではなくて自国なのだからショックで死にかけた人も居たそうよ。ララーシャルが治したけど」


 老人にはショッキングな話題は禁句だな。


「ボルドランの情報収集力のお陰でララーシャル殺しの犯人が数人に絞れたそうよ。でもみんな墓の下で証拠が無いから犯人捜しは難航しているわね」

「数十年前だからな。……帝国には時効はあるのか?」

「時効? 罪の消滅時効の事ね。今回は皆に慕われているララーシャルが殺されたから、犯人が皇族や貴族でも厳罰になるでしょうね」


 ……厳罰。爵位剥奪とかかな? なんにしても先祖の罪で厳罰になるって悲惨だな。


「ベルリディアとルルーファルとシルヴィアーナの三人は少し前までトルクを見舞っていたけど、今は席を外したわ。そろそろクリスハルトが戻って来るわ」

「クリスハルトはお手洗いにでも行ったの?」

「プレゼント作戦を考えた変態皇子を別室で説教しているわ。第一皇子と一緒に」


 ……うん。わかった。理解した。

 オレが目覚めた時、サクラしかいなかった理由も。ララーシャルは先代皇帝達と会談に出た時には皆居たけど、ベルリディア達は席を外し、クリスハルトと第一皇子が残っていたが、第二皇子が大量のプレゼントを持って来たので二人で説教中という事だな。

 あれ? そういえばオーファンは?


「オーファンは第三皇子と一緒に行動しているわ。貴族の顔合わせと城を案内しているわ」


 第三皇子ってたしか女嫌いの人だったよね。オーファンと一緒だったらショタ好きな女性に会う確率が……。そうだ!


「オレの精神を変えた精霊は!? 天と地を司る精霊!」


 思い出すのも恥ずかしいが、あの精霊をどうにかしないと! 封印するなり、隔離するなり、最悪の場合は消滅も考えないと……。


「彼の正式名称は音と幻の中二病精霊よ。名前はポット」


 え? 中二病?


「昔ライの決めゼリフを聞いた精霊ポットが惚れ込んで旅の仲間になってね。戦隊モノの決めポーズやアニメの決めゼリフを習って出来上がったのが中二病精霊よ」


 ……どうりで戦隊シリーズやアニメに詳しかった訳だ。


「そしてトルクも中二病化した理由はフュージョンのせいよ。フュージョンは合体するから精神や思考も精霊の思考に近くなるわ。そしてポットのフュージョンは相手を中二病にするのよ」

「……だからオレの言動がおかしかったのか。……そうか精霊がオレをあのような目に」


 思い出すだけで穴掘って、穴に入って切腹したくなる。


「ライもポットとフュージョンしてポーズを決めていたわ。……そして自己嫌悪して遠い目で夕陽を見ていたわね」

「オレもその気持ちを良く分かるよ。オレも今から夕陽を追いかける旅に出ようかな……」


 何もかも捨てて旅に出て、どこかで世捨て人の様な生活して過ごそう。


「そしてポットはやり過ぎて封印対象になったのよ」

「何をしたんだ? 中二病患者でも増やしたのか?」

「その通りよ。ポットが封印された理由は、中二病患者を増やしたの」


 ……病原菌の様に被害者を増やしたのか。


「戦隊モノって五人くらいでしょう。だからポットは御使いとは関係ない無害な人とフュージョンして中二病患者を増やそうとしたわ」

「……そんな事できるの? フュージョンは失敗したらヤバい事が起きるんだろう?」


 確かルルーシャル婆さんから『フュージョンは精霊と御使いの絆があって出来る。しかしその絆がないと失敗して最悪両方が消滅する』と聞いた。


「もちろん失敗したわよ。人間は精神崩壊して微笑みながら狂っていったわ。そんな人間を数十人も出したからライが封印したの」


 ……数十人もフュージョンして失敗したのか。ていうか被害者が酷すぎるだろう! 精神崩壊ってなんだよ! 最悪過ぎる!


「中二病精霊はドラゴンが捕まえて閉じ込めているわ。今のところは大人しくポーズの研究中ね。ドラゴンも負けずと踊っているわ」


 ……ドラゴンが捕まえているのなら今のところは大丈夫なのかな? ……踊っている?


「ドラゴンも踊り疲れて、中二病精霊を閉じ込める事が出来なくなるから早めに封印した方が良いわね」

「よし、今すぐ封印しよう。そして深海に捨てよう。それとも地面奥深くに埋めるという手もあるな」

「トルク。封印するにも準備がいるからね。それから深海に捨てたら水圧で封印が解けるから。深い地面に埋めても圧力で封印が解けるから止めた方が良いわ」

「……最後の手段の消滅か?」

「……ライも消滅を考えたわ。でもあの子有能なのよ。ほら、爆破シーンとか凄いでしょう。他にも煙幕とか閃光とか」


 確かに凄い技術だった。でも……。


「ライが消滅を考えた理由はトルクと一緒よ。黒歴史を作り出した元凶を滅ぼそうとしてね。でも封印という罰になったわ」

「……中二病精霊に中二病を教えたのが雷音さんなんだろう。生み出した元凶が責任持てよ」

「被害は甚大だったけど、なんとか精神崩壊の治療をしてね。お陰でライは魔力の使い過ぎで死ぬ寸前だったけどギリギリで助かったわ」


 最悪過ぎる……。死人が出なかったから最悪一歩手前か?


「そして今回の騒動も怪我人は居ても死者は出ていないわ。封印して反省したと思うわ」

 確かに反省したかもしらないが、今回一番被害を受けたのは多分オレだと思うぞ?

「オレは被害者だよね? 心に多大な傷を受けたよ? 周りの人達から変な目で見られ続けたら精神的に死ねるよ? それでも消滅ではなくて封印なのか?」

「トルク。御使いは精霊の友達だからそんなに怒っちゃ駄目よ」

「サクラ。オレが精霊の友達でも限界がある」

「トルク。刎頚の友って知っているかしら?」


 刎頚の友……首をはねられても友の為なら悔いはないという深い友情を指す諺。

 どうしてサクラが知っているのかは雷音さんが教えたのだろう。


「サクラ。刎頚の友という事は、死ぬ思いをしたんだから次はオレの番だよね。中二病精霊は喜んでオレに首を差し出すはずだ」

「トルク。深い友情には順番は関係ないわ、首を連続ではねられても笑って許す深い友情よ」

「サクラ。人間の首は一回はねられたら終わりだ。精霊が首を何度はねられても大丈夫なら首くらい切っても良いだろう?」

「トルク。精霊でも首を切られるのは嫌よ。だから我慢して頂戴」

「我慢できるか! こっちは精霊の我儘を何度も何度も聞いているんだ! これ以上我儘言うなら御使い止めるぞ!」

「止めれるもんなら止めてみなさい! 一生付きまとってトルクの人生メチャクチャにしてあげるわ!」


 サクラと睨み合う。……そんな最中にクリスハルトが部屋に入って来た。


「トルク、無事でなによりだが、声が部屋の外まで聞こえていたぞ。首をはねるとか物騒なこと言わないでくれ。外で護衛しているウルリオが真っ青だったぞ」


 クリスハルトの他に第一皇子と第二皇子、そしてウルリオが部屋に入って来た。

 ……外まで聞こえていたのか。ちょっと声が大きかった様だ。


「あ、ごめん。今サクラと御使いの環境改善について話し合っていて。これ以上精霊の我儘に付き合ったら精霊を封印する旅に出るかもしれない」

「トルクには精霊封印の方法は教えないわ」

「サクラから教えて貰わなくても他の精霊から教えてもらうから別に良いよ」

「精霊封印は私しか知らないわ。絶対に教えないんだから」

「だったら他の方法を探すよ。雷音さんの事だから封印術もアニメや漫画の方法だろう。だったらアレだな」


 国民的アニメにはいろいろな封印術がある。蓋付き容器で封印する魔〇波とか。


「……蓋付き容器なんて使わないんだからね。絶対に教えないんだから」


 なるほど。封印術はアレか。


「ト、トルク。お腹減っていないか? 食事もろくに食べてなかっただろう? 食事でもとらないか?」


 クリスハルトの提案を聞くと、急に腹が減ってきた。そういえば食事した記憶がないな。


「それからトルク、部屋の護衛をしていたウルリオが真っ青だったぞ。頼むからおかしな事を考えるなよ」


 確かにウルリオの表情が良くないな。ウルリオは精霊にお仕置きされたからな。


「サクラに御使い辞退するって言ったら『人生狂わす』って言われてな。酷いと思わないか?」


 ……うん。みんな唖然としているな。御使いは皇帝の次に偉い立場らしいからな。辞退するという事はその権力を捨てる事だから唖然としているのだろう。


「御使いよ。精霊は怒っているのではないか? 御使いを辞めるという事は、精霊に対する不敬ではないのか?」


 第一皇子のイーズファング殿下が質問する。オレはその質問に対して、


「精霊の頼みという面倒事を押し付けられ、苦労だけするのが御使いです。その苦労から逃れる方法は辞退しかないでしょう」


 皆は精霊が神に等しい存在だと思っているのか? 御使いは神の力を行使する絶対的な立場だと思っているのか?

 違うぞ。精霊の我儘を聞くのが御使いだ。御使いは精霊の頼みを聞いて助けるだけで見返りなんて求めない。


「オレは聖人や聖者ではない。どうして御使いなんて引き受けたんだろうな……」


 ルルーシャル婆さんに嵌められてたのか? 精霊と仲良くなれると言われたけど、精霊の我儘を叶えるとは言ってないはずだ。

 どうして御使いになったのかを深く考える。……王国に居る母親と妹に会う為だ!

 よし! 帰ろう。家族の元へ帰ろう。精霊の事は帰ってから考えよう。


「トルク。現実逃避はほどほどにね。ララーシャルが戻ってきたらポットを尋問するから貴方も立ち会って頂戴」


 ……多分多数決になるだろうな。オレが消滅に一票。サクラとララーシャルが封印に一票で封印となるだろう。……他に投票権を持っている人間が居ないかな?

 オーファンと精霊ドラゴンに投票権を与えて消滅に賛成させるか? ……無理だろうな。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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炊飯ジャーの代用にお札の貼られた小瓶を使えば良し。
まず炊飯器を探さないとww
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