閑話 大広間での出来事と新たなる御使い伝説
ロックマイヤー公爵当主、デックスレム・ルウ・ロックマイヤーは疲れた表情を隠しながら、大広間で御使いであるトルクを待っている。
今日は御使いであるトルク殿が登城する。
その為に短い時間でさまざまな準備をした。
皇帝と面会する段取り。貴族達との連絡。皇帝の妹であるラグーナと皇帝の隠し子であるオーファンを会わせる為の段取り。
第二皇子の協力もあって短い時間で皇帝との面会する準備、ラグーナと面会する準備が整った。
貴族達の連絡には政敵だったソバレーユ公爵の協力もあり、ソバレーユ公爵の派閥が和平派寄りとなったが、それは御使いの機嫌を損ねない様にロックマイヤー公爵家の真似をしているだけだ。
準備は万端。皇帝も玉座に座って御使いを待っている。
数十年ぶりに御使いが皇帝と面会する。その重大さを分かっているのは年配の者達で、若い者達は御使いに不信がっている。
ソバレーユ公爵邸を見ても御使いの力を信用していないが、当のソバレーユ公爵が力説して御使いの偉大さと恐怖を語った。
実際に経験しないと分からない。しかし経験者であるソバレーユ公爵が、
「トルク殿の機嫌を損ねるな! 絶対だ! 損ねるのなら私が全力で相手になる!」
と全員に力説したが、内心は分からない。今日の面会は何事もなく終わる事をロックマイヤー公爵は願っている。
しかしトルク殿は遅いな。到着しているはずだが。何かトラブルでも? と思うロックマイヤー公爵。
時間が経つに連れて『トラブルは避けてほしい。トラブル回避の為にクリスハルト、ボルドランとウルリオが一緒に居るのだ。何事も無く来るはずだ』と願うロックマイヤー公爵。
大広間にボルドランが入って来た。
「失礼します。御使い様が面会を断り、どこかに行かれました」
「……ボルドラン、説明が良く分からない。詳しく説明してくれ」
「はい、ロックマイヤー公爵。城門に着くとエルモーア皇子が待ち構えており、トルク様を礼儀知らずと
見下されたので、トルク様はクリスハルト様と何処かへ行かれました」
大広間が騒めく。
皇帝の面会を断る御使いを責めるか、皇帝と御使いの面会を邪魔したエルモーア皇子を責めるか。
大広間は混乱中だ。
御使いを無礼と言う若い貴族達。
御使いを怒らせた事を恐怖する年配の貴族達。
無言で頭を抱える皇帝。
笑いを堪えている第二皇子。
今回の責任者であるロックマイヤー公爵は頭を抱えながら言った。
「……どうするべきだ? ボルドラン、トルク殿が何処に行ったか分かるか?」
「第一皇子の治療だと思われます。シャルミユーナ様とお約束していたそうです」
「ではトルク殿を迎えに……」
「私がトルク殿を迎えに行きましょう。ロックマイヤー公爵とソバーレル公爵は大広間で皇帝と御使いが面会できる状況にしてほしい。このように動物の声が響く場所は相応しくない」
面倒事を押し付ける第二皇子レンブランドは返事を聞かずに大広間を出て行った。
「……ロックマイヤー公爵」
「はい、皇帝陛下」
「エルモーア皇子が御使いの機嫌を損ねたという事で良いな」
「はい、皇帝陛下の面会を邪魔したエルモーア皇子の罪は重いです」
「ではエルモーア皇子を拘束して部屋に閉じ込めろ。賓客である御使いを持て成す事が出来ない者は必要ない。後日罰を与える」
皇帝の言葉を聞いた若い貴族達が異議を唱えそうになるが、年配の貴族達に止められる。
「失礼します! ラグーナ様の屋敷に騎士達が押し入り! その騎士達が空を飛んでいます!」
突如報告に来た騎士の説明の意味が分からない。誰も理解できなかった。
「とりあえず、外を見て下さい!」
大広間のバルコニーに近い者達が外を見る。……誰も声を出さない。
皇帝が玉座を移動してバルコニーへ向かう。ロックマイヤー公爵も皇帝と一緒にバルコニーに向かい、それに伴って護衛騎士や他の貴族達もバルコニーへ移動した。
「……確かに空を飛んでいるな」
「……そのようですね、飛ばされています、皇帝陛下」
「何処に飛ばされているのだ?」
「先ほどはソバレーユ公爵邸の方向に飛ばされていましたが、今は上空に飛ばされ続けています」
「ラグーナ叔母上の屋敷は内密の客人が来ていたはずだが……」
「そうですね。ラグーナ様の屋敷には先代皇帝の御子息がおり、御使いであるトルク殿が精霊に護衛を頼んでいます。多分、護衛している精霊が騎士達を飛ばしているのでしょう」
「……どうすれば良い? ロックマイヤー公爵」
「私にも分かりません。トルク殿に聞けば分かると思いますが、肝心の御使いが……」
どうすれば良いのだろうか? 誰にも答える事が出来なかった。ロックマイヤー公爵は「ラグーナ様の屋敷にはララーシャル様が居るはずなのに、どうしてこんな事になったのだろうか?」と再度頭を抱える。
「陛下、私はラグーナ様の屋敷に行きます」
「頼む、サルバトーレよ」
皇帝の護衛をしていた第三皇子サルバトーレ。幼少の頃から剣の腕を磨き皇帝陛下の護衛騎士にまで登り詰めた。しかし幼少期に女性に襲われた事により極度の女性不信者。生涯結婚しないと明言している。
「ボルドランも第三皇子と一緒に行ってくれ」
「第三皇子にはウルリオを付けます。私はトルク様のもとへ行きます」
ボルドランはウルリオと短く会話してバルコニーから出て行った。
「……なぁ、ロックマイヤー公爵。今日は御使いと会うだけだったはずだが」
「はい、その通りです。皇帝陛下」
「どうしてこのような騒ぎが起きるのだ?」
「……私も知りたいです」
皇帝と玉座へ戻り、ロックマイヤー公爵達は大広間へ戻り列に並んだ。
ロックマイヤー公爵は『トルク殿、早く皇帝と面会してくれ。そして屋敷へ帰ろう。酒飲んで寝たい……』と現実逃避しながらトルクが来るのを待つ。
現実逃避中の酒のつまみを考えていると、ドドドドォーーーッン! 近くで衝撃音が連続で響く。
再度騒めく大広間。
「ハーハッハハッ! 我は御使い! 天と地を司る中二病精霊の力を得て参上!」
ドドォーン!
遠くから声とともに爆発音が聞こえた。
ロックマイヤー公爵は、現実逃避を中断して聞こえた声の主はトルクと判断した。そして『何が起きたのだ?』と本日最大のため息を吐き、
「皇帝陛下、私は現場に行きます。失礼します」
「……私も行こう。何が起きているのか気になる」
ロックマイヤー公爵と皇帝、大広間で御使いを待っていた全員は護衛騎士に守られながら、爆音を聞きながら騒ぎの元凶の元へ向かった。
さらに爆発音が響くが、元凶と思われる御使いがどのような状態なのかを調べなければならないが『保護者役のララーシャルが居ない状態で大丈夫だろうか?』と心配するロックマイヤー公爵。
そして『この状態でトルク殿から皇帝を守る、いや御使いであるトルク殿から皇帝を守る事が出来るだろうか?』と頭を抱えため息をついた。
少し前の事。
精霊サクラは御使いトルクと別れて皇都の上空を飛んでいた。
御使いで有るトルクと別行動をするまでの用事というのは、気になる気配を感じた事だった。
トラブルメーカーのトルクから別れるのは少し心配だったけど、クリスハルト達が居るから少しくらい大丈夫だとサクラは考えて、気になる気配の方へ向かっていた。
そして上空で対峙した。
「久しぶりだな! 精霊サクラ!」
「再度封印されなさい! 貴方の思考は周りに迷惑を与えるわ!」
「数百年前に封印は解かれていたぞ! そして放置プレイを満喫していたのだ!」
「一生放置プレイしていれば平和だったのに」
「そんな事言わないでくれ、精霊サクラよ。嬉しくなるじゃないか!」
「変な格好しながら話すの止めて! 気持ち悪い!」
「? 気持ち悪い? カッコ良いだろう?」
「気持ち悪いわ! 中二病精霊!」
「何を言っている! ライも言っていたぞ『ジ〇ジョポーズを極めてみろ!』と! だから私は数百年もの間、放置プレイ中に研究していたのだ!」
「……どうしてライはこんな馬鹿に変な事教えたのかしら」
「そしてライと同郷の新しい御使いが誕生したと、爆風の噂で聞いてな! 御使いにポーズの感想を聞いて貰おうと思って来たのだ!」
「会わせる気はないわ! 変態精霊! もう一度封印して、今度は深海に沈めてあげるわ!」
「精霊サクラよ! 私が簡単に封印されると思っているのか? 前回は油断したが今回は違うぞ! 今度はお前が負ける番だ!」
空間が緊迫する。そして一瞬の出来事だった!
サクラが倒れる。
なにが起きたのかは二人にしか分からない。
「少しの間、寝ているのだな。その間に私が御使いと熱く踊ろう! ハーハッハハッ!」
サクラを倒した後、精霊はトルクの元へ飛び、そして城に居るトルクを見つける。
ちょうどピンチの様だったので精霊がトルクに話しかける。
「助けが欲しいか?」
周りを見渡す御使い。しかし精霊には気付かない……精霊はトルクの後ろに居るのだから。
そして御使いは女の子に責められていた。
「助けが欲しいなら我を求めよ」
女の子に責められて喜ぶ御使いの表情も良いと考える精霊。
しかし彼を助けて恩を売ろう。精霊サクラを気絶させたが、スグに戻って来るだろう。その時の為に御使いと協力して戦う為に。
「沈黙は肯定と受け止めよう。我が助けよう!」
協力を求められて御使いの体の中に入る。そして、
「我! 天と地を司る精霊なり! 友である御使いの願いを叶えるために我は動こう!」
精霊が長年考え抜いたポーズを決める! 観客である女の子が呆然としている間に、
「アイ! アム! フリー!」
と言って窓から飛び出す。
「ハーハッハ! 我は自由な天と地を司る精霊! どうだ御使いよ! 無事に逃げているぞ!」
「お! 下ろして! 地面に下ろして!」
あ、女の子も一緒だった。
その後、体を御使いに返してフュージョン状態となり広い場所に着地した。
精霊は御使いであるトルクが初代であるライの思考と同じである事を知り、決めポーズやジョ〇ョポーズを嗜んでいる事に嬉しさを感じる。
その後、我が御使いを害する不届き者が現れたが、御使いと協力して倒し続ける。
光の球を放ち、敵の視界や耳にダメージを負わせて倒し、ビームソードの爆音で敵を散らす。
敵は多いが御使いが私の事を『唯一無二の精霊』と呼んだのだ。負けなしない!
そしてなにより御使いは戦いながら決めポーズを決めている事だ! なんて素晴らしく美しいポーズだ! これはバエる!
……そして強敵が現れた。
「トルク! 貴方何しているの!」
見た事の無い美人の精霊? 人? のようだ。それも御使いの知り合いらしい。
「ララーシャル、どうした? 我は今立て込んでいるのから話は後にしてくれ」
騎士を倒してポーズをキメながらララーシャルと会話するトルク。
「ちょ、ちょっと誰とフュージョンしているの! サクラは!? それ以前に話し方おかしいわよ! なんで変なポーズしながら戦っているの!?」
「ララーシャル。美意識が変わったか? この立ち振る舞いが変わっている? 否! これ其処が観劇者を魅了する香しき立ち振る舞い! 観よ! このポーズを!」
「……うん。理解したわ。変な精霊に乗っ取られたのね。今から変な精霊を追い出して正気に戻してあげるわ!」
「君に出来るな? 私と精霊の合体技を止める事が出来るかな?」
「……トルク、本気を出すわ。ちょっと痛いけど覚悟しなさい!」
「良いだろう、ララーシャル。一緒に踊ろうではないか」
「その口調気持ち悪いから止めなさい! あと変なポーズも!」
本日。最大の戦闘が始まった。
のちに誰かが語る。邪悪な精霊に乗っ取られて人間と御使いとの戦いが皇城で始まり、御使いが様々な精霊と人間達の協力で邪悪な精霊を倒し、乗っ取られた人間を救った、と。
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