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精霊の友として  作者: 北杜
十章 帝国皇城混乱編
263/276

5 罪の理由と罰する方法

 クリスハルトはルルーファルに退出を促す。しかしルルーファルは拒否して「事情を知りたい」と言って移動しなかった。

 天敵であるレンブランド皇子と一緒に部屋には居たくはないルルーファルさんだが、ララーシャルが居るなら大丈夫だろう。それにララーシャルもルルーファルさんに退出しろとは言わなかったからな。

 クリスハルトは妹の退出を諦めたが「絶対に口を出すな、何も言うな」と厳命した。

 その後ボルドランがローランドとエディオン子爵とその騎士達を連れて来た。

 ローランドは薄汚れた姿で、バルム砦で会った時と変わっていない。

 エディオン子爵、ローランドの兄であるスレインは労働施設で会った薄汚れた時とは違い、身だしなみを整えている。

 騎士達、オレとランド爺さんを殺そうとした騎士達もローランドと同じ薄汚れていた。


「レンブランド殿下、クリスハルト様。なにとぞ、お慈悲を」


 スレインが命乞いをする。ローランドに対して命乞いをしているのか、エディオン子爵家に慈悲を求めているのかは分からない。

 しかしレンブランド皇子やクリスハルトは何も言わない。ボルドランやウルリオ、アーノルド様達も沈黙を守っている。ルルーファルは周りを見てオロオロしている。その沈黙を破ったのがララーシャルだった。


「エディオン子爵、スレイン。貴方の罪はトルクを殺そうとした騎士達を纏める事が出来なかった事。弁明は?」

「申し訳ございません。騎士達を纏める事が出来なかった私の罪です。しかし私達は過酷な労働施設で身も心も疲弊しており善悪の判断が鈍ってしまい、騎士達が行動した結果でして、なにとぞその点を考慮して頂ければ……」


 ……要するに心神喪失を負っていたから減刑を求めますって事?


「ボルドランが私達に脱走計画を託しました。彼の計画は予想外に仕事量が多く……」


 ってボルドランが脱走計画をしていた!? 初めて聞いたぞ!


「施設の重労働の他、囚人を纏める労力や計画を進める激務を負い、食料も他の労働者に分け与えて過労死寸前で……」


 ……そうだったか? 過労死寸前? スレイン達ってそんなに仕事していたか? 暇そうにしていた気がしていたけど?


「ボルドラン、貴方が計画したの? 当事者の一人なのかしら?」

「魔石鉱山の労働施設は破壊した方が良いと考えて破壊兼脱走計画を練ったのは私です。ですが実行する前に王国のアイローン砦に移動する事が決まっていたので、知り合いのスレインに策を引き継いでもらいました」

「……立案者として弁明は?」

「上手い作戦だったと思います。準備が完璧だと平凡な者でも遂行出来る事が分かりました。今後の計画にも利用できると判断します」


 ……ボルドランが立てた脱走計画か。恩人だったのか? いやでもボルドランの王国での悪事は看過できない。でも間接的に助けて貰っていたのか。でも……。


「エディオン子爵、スレイン。貴方は労働施設でトルクを助けてくれたのは分かっているわ。でも心神喪失の騎士達がトルクと一緒にランドも殺そうとした」


 ランドと言う人物に心当たりがない子爵様。オレもあの時は爺さんとしか呼んでいなかったからな。


「ランドはルルーシャルの付き人だったの。ロックマイヤー公爵夫人の母親の兄なのよ」


 クリスハルトの母の兄と聞いたスレインは驚愕している。っていうか部屋に居る全員が驚いていた。……そういえばランド爺さんの妹は夫人の母親だったけ。義理だけど。


「そしてラスカル男爵家出身の付き人の資格を持っているただ一人の人物なの。ボルドランならその意味が分かるでしょう」


 オレも分かるぞ、ララーシャル。御使いの付き人って意味だろう。しかし資格ってなんだよ。付き人に資格が必要だったのか?


「……ランド様が労働施設に居たとは。不覚です。知っていれば弟子入りしていたのに」


 おいボルドラン。弟子入りして何する気だ? 付き人の資格をとってもオレは要らないぞ。


「スレインと騎士達の罰はトルクとランドに任せようと思うわ。でもトルクは『ランドに任せる』って言うと思うけどその間に何か罰が必要ね。クリスハルト、何か罰を考えておいて」

「トルクとランドという者を殺害しようとした騎士達は騎爵位剥奪の上、戦場へ出向と考えていたのですが……」

「温い! ロックマイヤー公爵子息! 温すぎる! トルク殿を殺そうとした罪人だぞ! 親族全員皆殺しに決まっているではないか!」


 確かに騎士達には恨みはあるけどレンブランド皇子の言う通り実行するのは少し引くよ……。


「レンブランド、悪乗りは止めなさい。貴方の思惑通りトルクが引いているわ。それにランドも騎士達を皆殺しとか言わないわ」


 ララーシャル、どうした? レンブランドが悪ふざけ? 思惑ってなに?


(変態皇子が酷い罰をトルクに聞かせて慈悲を求めたのよ。変態皇子の罰に引いたトルクは皆殺し以上の事は言えなくなるでしょう。でもクリスハルトの罰は軽いと思ったから口をだしたようね)


 サクラの説明通りレンブランド皇子は怒りの表情からいつもの表情に変わった。


「ララーシャル様、クリスハルト様、レンブランド殿下。ランドはラスカル男爵家の者です。なので私にも罰を与える権利があると思います」


 ボルドラン。お前まで参加するの? あんたの噂を聞く限りレンブランド皇子よりも引きそうな罰になりそうだけど。


「この騎士達を私の配下に。忠誠心は闇魔法の洗脳でエディオン子爵から私に変更します」


 うわっ! 酷い言葉が出たよ。洗脳するって。……でも皆殺しよりも酷くないけど、ボルドランが生殺与奪を握る事になる。死ぬよりも酷い扱いを受けるかもしれない。

 ボルドランと付き合いが長いウルリオが引いているよ。

 スレインは罰を受ける立場だから何も言えないが、慈悲を求めてそう。

 クリスハルトは無回答を貫き、ルルーファルは何か言いたそうだけど厳命されているので言えない。

 レンブランド皇子は「なるほど、面白い案だ」と言って納得している。

 ララーシャルはため息をついて「トルクとラスカル男爵とランドの許可が出たらボルドランの提案で良いわ」と思考を放棄した。


(トルクはどうする?)


 サクラ、オレはラスカル男爵とランド爺さんが許可したら許可するよ。オレも思考を放棄する。

 エディオン子爵の騎士達の裁きはいったん終了した。次にローランドの番だ。


「エディオン子爵のローランド。貴方はどうしてトルクを害したの? バルム砦では帝国兵の傷を癒した恩人ではなくて?」


 ララーシャルがローランドに質問する。ララーシャルの声が少し低い。怒っているのだろうか?

 オレもララーシャルの質問にローランドがなんと答えるのか知りたい。ローランドの怒りは他の帝国兵とは違っていたからな。


「答えろ、ローランド。ララーシャル様の質問に答えろ!」

「ローランド。命令する。ララーシャル殿の問いに答えるのだ」


 レンブランド皇子が威圧的に、クリスハルトが厳しい声で命令する。


「……王国など滅びればよい。貴族、騎士、平民全員死に絶えれば良いのだ!」


 質問に答えていないぞ。何を言っているんだ?


「父も祖父も友人も全員が王国に殺された! どうしてそんな奴の為に恩を感じなければならない!」


 一気に感情を吐き出したな。肉親が殺された恨みでオレを憎んだのか?


「クリスハルト様もあのガキに洗脳されたように恩を感じている! あのガキは帝国に弓射る王国の悪人共なのに! 王国の外道共は全員殺さないと父や祖父、友人が、戦友が浮かばれない! 王国は滅んでしかるべきだ!」


 ……肉親が戦死したから、王国出身のオレを恨んだってこと?


「クリスハルト様! レンブランド殿下! あのガキを、いえ王国を滅ぼさないと戦死した者達が不憫です! 今からでも遅くありません! 私はどうなっても良いですから王国の外道共を皆殺しにしてください!」


 自分が死んでも良いから王国出身者を殺せと願うローランド。

 そんなローランドを見る部屋に居る者達は誰も口を開かない。しかしアーノルド様がローランドだけではなく皆に言った。


「私の祖父と父は戦死した。兄もバルム伯爵領を守る為に戦った。私は肉親と友人の仇を討つためにバルム砦で戦い続けた。ムレオンの弟は帝国で捕虜になり虐待を受けて酷い姿になって遺体となって帰ってきた。そのときのムレオンの憤怒は今でも忘れない」


 アーノルド様が自分やムレオン様の過去を語った。


「長い間、戦い続けた。戦死した友人の顔を忘れるくらいの年が経った。戦死者が増えて覚える事が出来ないくらい歳を取った。そしてこのままで良いのかと疑問した」

「私とアーノルド様は戦死者を減らそうと考え、生き残る為に兵達に訓練させた。しかし訓練しても死ぬときは死ぬ。兵が少なくなったら補充する。そして戦死する。その繰り返しだった」

「捕虜交換で貴族や騎士達を戻す事が出来るが、身分の低い平民は捕虜になっても奴隷になるか、労働施設行きとなった。徴兵数が次第に少なくなった。このままでは平民が少なくなり働き手が居なくなると考えムレオンと相談していた」

「戦争を続ける事で戦死者が増えるのであれば、和平、もしくは停戦をすれば良い。しかし弟をなぶり殺された恨みは消えない。帝国兵を殺しつくしても恨みを忘れないだろう。しかしそれでは駄目だとアーノルド様は私を説得し続けた」

「私も肉親を殺された。戦友をなぶり殺された。帝国に恨みはある。しかしこのままでは王国が滅んでしまう。ワシが死ぬのは構わんが、王国と子供達が滅ぶのは看過できない。だから帝国との停戦の為にクリスハルト殿と話し合いをしたのだ」


 アーノルド様達はそんな事を考えていたのか。あの時のオレと同じ考えをしていたんだな。


「過去の憎しみよりも、未来の希望を願った。綺麗事だと思われても良い。しかしこれ以上戦死者を増やさない為にも、憎しみを内に秘める事を選んだ。なあ、ローランド。お前はワシよりも若く、友人の戦死者もワシよりも少ないだろう。それでも王国が憎いと言うのならワシ等以上の友人を殺されたのか? ワシよりも少ないだろう。これ以上戦死者を増やさない方が良いだろう」


 アーノルド様が王国の為に頑張っていたのは知っていた。ムレオン様が厳しい訓練を課していたのは戦死者を減らす為だった。ケビンは二人の想いに泣き崩れている。オレも二人の想いに涙が出そうだけど、この場所では感情が湧いてこないな。


「うるさい! 帝国と王国では命の価値が違う! お前達ムシケラを滅ぼしたくらいで帝国は何も変わらない! むしろ害悪を滅ぼした事で喜ばれる!」


 ……アーノルド様達の話はローランドには届かなかったようだ。そしてローランドは王国を恨み切っている。これは変われと言っても今の状況では変わらないだろう。


「あのガキだって死んだ方が世界の為だ! ダニエルに生き地獄を味合わせろと言ったが、殺した方が帝国の為だった!」


 ……あのガキってララーシャルの膝枕で気を失っているトルクって子供ですか? そのガキも聞いているんだけど知っているのかな? 生き地獄を味合わせる様に命令したのはローランドだったんだな。

 マジで感情が湧かなくて良かったよ。聞いていたら怒りで狂うかもしれなかったし。


「ダニエルとは誰だ?」


 クリスハルトが感情を押し殺しながらローランドに質問する。


「ダニエルは辺境伯領出身の者です。私と同じくらい王国に恨みを持っている奴で、捕虜の王国兵を何人も虐待した経験を持っていてガキを生き地獄に味合わせるくらい朝飯前です」


 どうしてローランドは嬉しそうにクリスハルトの質問に答えている? そんなにクリスハルトに声かけられて嬉しいのか? 嬉々とした答えにクリスハルトは更に感情を押し殺しているのに。


「ボルドラン。辺境伯領出身のダニエルを探し出せ!」

「その前にローランドが嘘をついている可能性があるので闇魔法の洗脳をかけさせてください」


 この状況で嘘をつく可能性は……あるのか? あるかもしれないな。

 でも洗脳って良いのか? 人格を変えるんだろう? そんな悪辣な魔法を良く使えるよな。


「許可する。レンブランド・オルネール・ベルンダランの名において許可する」


 クリスハルトが言葉を発する前にレンブランド皇子が許可を出した。それも皇族の名に置いての許可なので誰も何も言えなくなった。もしクリスハルトの許可だったらスレインやルルーファルが異議を申し立てる可能性があったが、皇子様に異議を立てることは出来ない。

 ……本当にレンブランド皇子ってギャップが激しいよな。真面目だったら王国にとっては厄介な皇帝になれる可能性があるのに。


(でも変態だから皇帝になるのは無理よ。今までの行いで貴族や騎士達が賛成しないわ。もし皇帝になっても内乱が起きる可能性大よ)


 本当に厄介で変態な皇子様だな。

 ボルドランは「失礼します」といってローランドに近づく。ローランドは「何をする! キサマ! 私にそのような事をして良いと思っているのか! 兄上! 助けてくれ! クリスハルト様! 私は間違っていません! ですから!」と叫んでいる。

 ウルリオがローランドを束縛し、ローランドの目の前に立ったボルドランは懐から紐が結ばれている小石をローランドの目の前で揺らした。……おい!


(あれは魔導帝国時代でも使われていた洗脳方法ね。対象者の深層意識の深い所に導いて闇魔法を使う事で意識を変化させる基礎的な技だけど、使用者の練度が高いと上級に匹敵するわ)


 サクラの説明を聞いていても馬鹿馬鹿しいと思うのはオレだけの様だ。

 ローランドの叫び声は次第になくなり何かを呟きながら最後には意識を失った。


「次に目が覚めたローランドはトルク様と私に忠誠を誓います。トルク様への罰も嬉々として受け入れるでしょう。嘘を付けなく真実を話し、死ねと命じればその場で死に、敵を殺せと命じれば絶対に殺すように思考します」


 スレインは泣き崩れた。エディオン子爵家騎士達は顔を下に向けている。

 クリスハルトは無表情を貫き、ルルーファルは闇魔法の恐ろしさに震えている。

 ウルリオはローランドの行動に耐性があるようで、何事も無いようにローランドを床に寝かせる。

 レンブランド皇子はローランドを見下ろしてスレインとエディオン子爵家騎士達に「御使いを殺害しようとした罪は重い。皇族として改めて罰を与えるので覚悟しておけ」と言っている。

 アーノルド様達はローランドと退室するスレイン達を見て何かを言いたそうだった。


「とりあえずローランドとスレイン達の裁きが終わったわね」


 ララーシャルが部屋の皆に言うが、少し待ってくれ。オレはローランドに恨みを晴らしたか? あの時の恨みを告げたか? 直に会って暴力で恨みを晴らしていないぞ!

 どうして当人が寝ている時にローランドを裁いた! オレの恨みは! 感情が表に出ないけど恨んでいるのは自分でも分かっているんだぞ! この場所では感情が表に出ないけどローランドを恨んでいるんだぞ!

 エディオン子爵家の騎士達はランド爺さんと協議するから保留するのは妥協してやる。でもローランドはオレが裁くのが筋ではないのか? そして闇魔法で洗脳されてオレに絶対の忠誠心だと! そんな奴の忠誠心なんて要らん!


(トルク。貴方の怒りは分かるわよ。記憶を観たのだから。でも憎しみに囚われては駄目よ。ララーシャルも精霊達もそう思っているわ。もちろん私も)


 ……なぁサクラ。お前、ララーシャルとこの結末を考えていたのか? オレに怒りが収まるようにボルドランがローランドを洗脳したのも二人の考えなのか?


(そこまで考えてはいないわ。でもララーシャルと一緒にトルクに感情を爆発させないようにといろいろと考えていたのは事実よ)


 で、結局、オレは罰を受けたローランドに深い怒りを出す事はなくなったと。洗脳されて人格が壊れたような人間になったから。


(ボルドランが洗脳するって言い出さなければ、私が記憶を消して罰するって計画もあったわ。でもそれは最後の手段よ。トルクの怒りが消えない場合と最後の手段)


 そうなるとオレの怒りは収まっているのか?


(ローランドと騎士達への怒りはかなり収まっているわ)


 ……せめて一発くらいローランドや騎士達を殴りたかった。今からでも遅くないかな?


(私が代わりに殴ってあげるわ)


 え? どう言う意味? お前がどうやって? 魔法を使って殴るのか?

 あ、画面のオレが起き上がった。


「トルク……じゃない。サクラ、どうしたの?」


 意識がないのに自分が立っている事に違和感を感じる。本当に第三者目線で見ているんだな。……オレが当事者だけど。

 そしてレンブランド皇子がスレイン達を退出させようとしていたが『待った』をかけたトルクに憑依しているサクラ。


「トルクの代わりに私が一発だけ殴ってあげるわ。全員覚悟しないさい!」

「ちょっと待ってサクラ! 今の状態で殴ったら相手の体に穴が開くわよ!」

「穴なんて開かないわよ。トルクの筋力よ」

「それにサクラが手加減無しで殴ったら、トルクの体が持たないわ! トルクの拳が複雑骨折よ!」

「それは困ったわね。さすがに複雑骨折は……回復魔法で治せば良いとして。でも私が代わりに殴るって約束したし……。いい方法あるかしら、ララーシャル」

「棒で相手を殴れば良いのでは? それなら拳を傷めない」

「だったら木刀を用意しましょう」

「では私は準備を。部屋を血で汚す訳にはいけないので外が良いでしょう」


 ララーシャルが答える前にレンブランド皇子が提案し、ウルリオとボルドランが準備を始める。


「待ちなさい! 全員勝手な事しない! サクラもトルクの体を勝手に使わない! 

「大丈夫よ。トルクの許可は貰ったわ」


 許可していません。事後承諾は止めてほしい。


「あ、あの、エリーゼはどうなるのでしょうか?」


 今まで黙っていたルルーファルさんがララーシャルに恐る恐る問いかけた。しかし、


「だから止めてって、トルクの体が持たないから!」

「少しだけだから。ちゃんと手加減するから、ね良いでしょう、ララーシャル」

「ローラント、エディオン子爵家騎士達は外で罰を受ける事になった。子供の力で振るわれる棒だ。死にはしない」

「しかし中身はトルク様ではなく、精霊の様です。ララーシャル殿が止めていますが大丈夫でしょうか? レンブランド殿下」

「私達が優先するべき事は準備を十全にする事だ。罰を止められても問題無い。問題は罰を執行するときに準備が出来ていない事だ。準備が出来ない事に精霊の気が悪くならないように動くべきだ」


 レンブランド皇子とクリスハルトは準備を進めている。

 ウルリオは木刀を捜しに部屋を出て行き、ボルドランはスレインに、


「ローランドが意識不明なので、スレインが罰を代わりに受けた方が良いと、ララーシャル様に伝えた様が良いだろうか?」

「頼む、ボルドラン。許してくれ! 一生の願いだ!」

「お願いします! エリーゼはどうなるのですか!」


 スレインはボルドランに許しを請うている。しかし無視されている。

 そして誰もルルーファルさんの話を聞いていない。……オレは聞いているよ。でも伝える事が出来ない。


 ララーシャルとサクラの言い争い中でも準備は進む。

 そして準備は完了した。外でスレインとエディオン子爵家騎士達は跪いて、ウルリオが用意した木刀で殴られる処罰準備は終わった。なおローランドはスレインの横で倒れて意識は戻っていない。

 後はララーシャルが勝てば処罰中断。サクラが勝てば処罰実行。

 しかしまだ言い争いは続いている。


「ララーシャル、準備が終わっているのよ。これは処罰実行しないと準備してくれた皆に悪いわ!」

「あの、ララーシャル様……」


 ちなみにルルーファルさんはララーシャルに話しかけようとしているが、ララーシャルはサクラとの口論中なので無視され続けている。……なんか哀れ。


「だからトルクの体が持たないって! トルクの為を想って言っているの! また怪我したらサクラが怒られるわよ!」

「怪我しても回復魔法があるでしょう…って良い訳あるか!」


 ようやく戻ったぞ! 過去最短時間の吸魔術だった。


「まったくサクラ! 勝手にオレの体を使うなよ!」

「トルク、お帰り。サクラに体を使わせないで頂戴」

「サクラに言ってくれよ。サクラが勝手にオレを気絶させたり、体を好き勝手に動かすんだから」

「だったら感情を爆発させないで。いつも冷静沈着に何事も落ち着いた言動を心がけて頂戴」


 ローランドを前にして落ち着いた言動って難しいぞ。……でも目の前に居るんだよな。そしてオレを殺そうとした騎士達も。


「トルク、いやトルク様! 許してください! 貴方の為に貴重な薬を使ったり、労働施設では仕事量を減らしました。どうか許して頂きたい!」


 必死に懇願するスレインさん。……だんだん面倒臭くなったよ。ため息をついて、


「とりあえず一発殴らせろ。後はランド爺さんとラスカル男爵に謝罪したらお前と騎士達を許す」


 後はローランドだけど、ボルドランが洗脳して人格変えたから恨みを晴らす事が難しい。なんていうか記憶喪失の人間に恨みを晴らす様な感じだよ。


「お待ちください、御使い様」


 なんだよ、変態皇子。オレは忙しいんだ。今から惰性で復讐するんだから。

 ……復讐が惰性って。感覚的におかしいよな。しかし怒りに任せたら精霊達が勝手に動いて大変な事が起こる。今まで恨んでいたのに、今は「ケッ」って言いながら唾吐いて面倒事を済ませるような感じだよ。


「御使いの殺害未遂にしては罰が軽すぎます。やはり一族郎党皆殺しが適切かと」

「……その案はララーシャルに拒否されただろう。そんなに罰したいのなら、オレの代わりにアンタがやってくれ。エディオン子爵家の騎士達はランド爺さんラスカル男爵家と話し合って、ローランドは……」


 ローランドは殴っても恨みは晴らせない。だって洗脳されているのだから。ボルドランの命令通りに動く別人格に変わったのだから。……復讐系物語ならこの結末は復讐済みとなるのだろうか?


「まあ、一族郎党皆殺しは冗談として。オホン、過去に御使いを暗殺しようと企てた不届き者が居まして。精霊の加護のお陰で未遂に終わりましたが、その時の罰が『男は女装して三年間侍女として働く。女は男装して騎士見習いとして働く』でした。なので今回の罰も過去に習おうかと思いまして」


 なんてアホ的な罰だ!


「……エディオン子爵家の騎士達が侍女として三年間働くと?」

「三年ではなく五年に増やします。ローランドはボルドランの部下と死ぬまで女装させる罰でどうでしょうか?」

「……おまかせします、レンブランド皇子」


 敬語を使った。なぜか本当にどうでも良くなった。恨むのが馬鹿馬鹿しくなった。

過去の罰は誰が考えたんだ? サクラや雷音さんではないから、ジュゲムか? それとも近くに居た精霊達か?


「そういえばライがそんな罰を実行していたわね。でもライが死んだ後だから、それを知っている精霊が提案したのかもしれないわ」


 サクラの言葉を聞いてジュゲムの案の可能性が大だな。


「あの! トルク様! エリーゼはどうなるのですか!」


 ルルーファルさん。そういえばずっと無視されていたよな。今までの会話が酷すぎてオレもすっかり忘れていた。


「……エリーゼさんは基本的に無関係の部外者だから罰無しで。ローランドの婚約者だったお姉さんも部外者だから問題無いと思うよ」

「ルルーファル。エリーゼ達は可哀そうだが諦めろ。私達にはどうする事も出来ない。私達が出来る事はエリーゼ達を援助する事だけだ」


 ルルーファルさんの問いにオレは部外者と言って、クリスハルトは諦めろと諭す。

これ以上どうする事も出来ないよ。屋敷に住めなくなったのも父親が賭博で負けた自業自得だし、お姉さんとローランドが結婚しても良いけど、絶対に不幸になると思うから止めた方が良いとは言えないし、オレの怒りのトリガーになった言葉も過失はないし。ハッキリ言って運が悪かったとしかオレは言えないよ。

 クリスハルトがエリーゼを援助すると言ったのでレンブランド皇子もその提案に乗る。


「なら私も援助してやろう。……エリーゼの姉は王宮務めでもすれば良い出会いがあるかもしれない。エリーゼは……」

「召し抱えるとか側室にするとか愛人にするって変な冗談は言わないよな」

「も、もちろん、そ、そのような冗談は言いませんよ。トルク殿。あ、当たり前ではありませんか」


 ……やはり変態皇子だ。これは釘刺さないと駄目だな。


「この件でルルーファルさんが自分を責めないように、エリーゼさんとそのお姉さんを援助する。そしてルルーファルさんとエリーゼさんを近づかせないように。二人は今回の件でショックを受けているのだから」


 なに絶望した顔をしている皇子様よ。整った顔が台無しだぞ。……人格は元から台無しだけど。

 ララーシャルはルルーファルさんに「今回は不問にするってエリーゼに伝えなさい」と言ってルルーファルさんは侍女さんと一緒に屋敷に戻った。

 そしてララーシャルは飛んでも発言を放つ!


「ねえ、トルクがダニエルに暴行を受けた事を体験させたらどうかしら? サクラなら記憶を見せる事は可能よ。ダニエルの悪行を心に刻み込んで精神に傷をつけてトラウマにしましょう。それなら少しくらい恨みが晴れるでしょう」


 ……どうして処罰終わり後にそんなネタを出すんだ! ララーシャル! 

 オレも怒りが込み上げないように罰をどうでも良いようになっている時に!

 そんなこと言ったら絶対にサクラが賛成して行動に移すだろう!


「それは良い考えね! じゃ、やりましょうか!」


 オレが止める間もなくサクラが此処に居る皆に魔法をかけた。エディオン子爵家の騎士とスレイン

だけではなく、クリスハルト、レンブランド皇子、ボルドラン、ウルリオ、アーノルド様、ムレオン様、ケビン達が倒れる。そして近くでオレ達を警護していた騎士達、待機していた執事も倒れてしまった。

 立っているのはオレとララーシャルの二人。


「……ララーシャル」

「……ごめんなさい。私が悪かったわ」


 クリスハルト達がいきなり倒れてしまったのを見て、屋敷に居る人達が何事かという感じで出て来た。……皆にどう説明すれば良いのだろうか?


「ごめん、ちょっとやり過ぎちゃった」


 テヘペロをする前に全員起こせ!


「今はトルクの体験記憶を見せている最中だから三日後には起きるわ。今は砦で隠れていた時にローランドに見つかって殴られているところね」


 状況を教えろではない! 皆を起こせ!

 倒れている全員がうめき声を上げたり、悲鳴を上げる。


「体験記憶と一緒にトルクの感情も共有しているからね。ローランドに殴られた痛み憎しみと、家族と別れ離れになる絶望とかも共有したから」


 砦でローランドに捕まったときでこんな感情だったら、ダニエルとの旅の間の感情はどうなるんだ? っていうか無関係な人までオレの記憶を見せるのか? クリスハルト達には見せなくても良いだろう! だから早くクリスハルト達を起こせ!


「……少し疲れちゃったわ。後よろしく」

「ちょっと待て! サクラ! クリスハルト達の魔法解け!」


 サクラはオレの中に入って寝てしまった。って言うか逃げた! ……どうしようこの状況。

 そしてクリスハルト達が倒れた事を知ったルルーファルさんが来てくれた。エリーゼさんの監禁部屋に行く途中に窓からクリスハルト達が倒れた所を見ていたそうだ。


「とりあえず、倒れているクリスハルト達を屋敷で寝かせましょう。ルルーファル、クリスハルト達を寝かせるから手伝って」


 ララーシャルがルルーファルさんに頼む、そしてルルーファルさんはどうして倒れているのかを聞いてくる。


「精霊が与えた処罰の範囲に入っていた。三日後に目が覚めると精霊が言っている。オレに出来る事は精霊に減刑を頼む事だけだ。マジで申し訳ない」


 泣きながら謝罪する。ルルーファルさんだけではなく、侍女さんも土下座して謝罪している。

 逆にオレが土下座して謝りたい気分だ。


「早くトルクも手伝って」


 レンブランド皇子とボルドランとウルリオ、アーノルド様達は執事さんに任せて屋敷で休ませた。クリスハルトはロックマイヤー公爵邸で休ませる。

 ロックマイヤー公爵にどう説明すれば良いだろうか? ララーシャル、何か案はある?


「……トルクに任せるわ。私も疲れたから休み……」

「絶対に逃がさないぞ! 絶対に! 二人でロックマイヤー公爵に説明するぞ」


 逃げ腰のララーシャルの腕を握って逃げ出さないようにする。

 絶対に逃がさないぞ! ララーシャル! お前の案が原因なんだからな!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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殺す殺す詐欺だから何もできません
[一言] テ(へぺ)ロ
[一言] 「目には目を」と言いますが、 同じ傷を負うことと追体験、どちらが辛いのでしょうかね? ……ストレスは毛根に悪い 巻き添えで追体験することになった皇子 犯人に慈悲を与えようとしたこと……は刑…
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