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精霊の友として  作者: 北杜
十章 帝国皇城混乱編
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4 深層意識の狭間で

 ……どうも、トルクです。

 ローランドが近くに居ると聞いて血の気が引いていくような冷静な憎しみから、エディオン子爵家配下の部下達の話を聞いて血が一気に頭に昇って憤怒して周りに迷惑をかけたトルクです。

 現在、サクラに気絶させられて、今は白い空間の深層意識にいる様です。

サクラの声が聞こえてきました。


(まったく、トルクが怒りを爆発させたから精霊も呼応して、屋敷を破壊するかもしれなかったから強制的に眠らせたんだから。冷静になった?)


 ……冷静になりました。ありがとうございます。


(トルクが魔力を濃くしなかったからフュージョンも難しかったのよ! 早く吸魔術して魔力を回復しなさい!)


 でも気絶中だから無理だよ。


(気絶中でも意識があるなら吸魔術出来るわよ。寝ながら魔法を使うようなモノよ)


 私はそんな器用な真似は出来ません。……とりあえず吸魔術でもするか。

 ……確かに魔力が濃くなっている気がする。寝ながら吸魔術できるんだな。その気になれば魔法も出来ると思うが、寝ながら魔法使ってどうする? 回復魔法でも使うか? 誰に回復魔法を?

 ……とりあえず今はどんな状況なんだろう?


(見てみる? 今は皆で話し合っているわよ)


 どうやって? と聞く前にオレの目の前にテレビの様な画面が出てきた。画面の中にはララーシャル達が居て部屋の様子が映っていた。

 ……なにこれ? どこから映しているの? オレの視線じゃないよね。オレも映っているから。

 オレを中心に壁際の上の方から映っている様だ。そしてオレはソファーでララーシャルに膝枕されていた。……自分の寝ている姿を見る事ができるとはなんかな……。

 クリスハルトとウルリオは一仕事終えた後の様に疲れ切っていた。

 ボルドランは配下の者達に指示している。……その配下の人達って誰? 騎士って感じじゃないね。密偵って感じの人だよね。

 アーノルド様達はどういうことかクリスハルトに説明を求めている。

 レンブランド殿下は部屋には居ない。廊下の方で声が聞こえる。

 この映像は声まで聞こえるのか……。どういう仕組みなんだ?


(あ、変態皇子の方が面白い事になっているわ! そっちに行きましょう)


 いきなり場面が変わって部屋の外の廊下が映った。

 廊下では騎士にエリーゼさんが床に押し倒されて口を塞がれていた。

 ルルーファルさんがレンブランド殿下に助けを求めている。


「お願いします、レンブランド殿下! エリーゼをお許しください!」

「ルルーファル。私は命令をしたはずだ。全員喋るな、動くなと。破った者は切り捨ても許可した。切り捨てないのは騎士達の慈悲だ。床に転がるくらい問題無いだろう」


 ……いや、問題あると思うよ。エリーゼさん泣いているよ。女の子の泣き顔は良心に響くよ、オレは。ルルーファルさんも必死に懇願しているじゃないか。

 変態皇子に似合わないマジ顔でルルーファルさんの懇願を無視して、エリーゼさんを見下しているレンブランド殿下に覇気と恐怖を感じるよ。


「エリーゼ。お前が命令を破ったせいで、帝都が破壊されそうだったのだ! お前が言葉を発したせいで我々は死ぬかもしれなかったのだぞ!」


 いや帝都破壊って、精霊もそこまでは……。


(変態皇子の言う通りよ。トルクの怒りの感情につられて屋敷を破壊しそうだったわ。ついでにドラゴンが建てた高台を城に落とそうって)


 マジか! マジでヤバかったのか!


「エリーゼ達を見張っていた騎士はどこだ! ローランド達にどうして近づけさせた!」

「私です、レンブランド殿下。申し訳ございません。エリーゼ様が急に走り出して、ルルーファル様を置いて行けなかったので……」


 見張りを一人しか付けていなかったのか。せめて二人は付けろよ。

 そしてレンブランド殿下は責任者を呼び出して剣を向けた。


「令嬢の護衛に兵を複数付けず、護衛すらまともに指示出来ない馬鹿者が。そして沈黙を厳命したのに喋らせた愚か者め。全責任を取る覚悟はあるか?」


 ヤバいぞ! 警護担当騎士とエリーゼさんが殺されそうだ! どうにかしないと! でもオレって寝ているから何も出来ない! だからサクラ頼んだ!


(しょうがないね。トルク、魔法を撃つように手を正面に向けて)


 え? 手を出すってこと? 

 映像を見ながら手を出すと、とてつもなく速いモノが室内側の廊下の壁に穴を開けて、レンブランド皇子の剣を破壊して、廊下の反対側の壁に穴を開けて飛んで行った。

 ……え? 何が起きた? 敵襲か!?


(高速で飛ばした土魔法の石礫よ。トルクの魔法に私が加速をさせて高速で飛ばした石礫よ)


 ……狙撃銃並みの速度じゃないのか? 

 呆然と破壊された剣を見ているレンブランド皇子と即座に壁になる護衛騎士達。

 少し置いてボルドランが廊下に来る。


「レンブランド殿下。トルク様が魔法を使ったようですが、怪我人はいないようですね」

「……先ほどの攻撃はトルク殿なのか? 気絶していたはずでは?」

「まだ気絶中です。おそらくですが、精霊が力を貸したのではないかと推測します。今、ララーシャル様がサクラ様に確認を取っています」


 サクラ、ララーシャルから連絡来ているの?


(ちょっと待ってトルク。ララーシャルと話している最中だから)


 どうやらオレ抜きでサクラとララーシャルは会話している様だ。

 何も出来ないから画面でも観るか。


「そうか。エリーゼを処罰するのはトルク殿や精霊の意志に反するという事か……」

「……そのようですね。トルク様に判断を仰いだ方が良いかと。それまでは部屋に閉じ込めておいた方が良いかと」

「エリーゼと見張っていた者達の処罰は御使いの判断に従おう。しかし……」


 破壊された剣と廊下の壁に開いた穴を見る。凄まじい破壊力に恐怖するレンブランド皇子とボルドラン。


「この破壊力が武器ではなく私に向けられていたら……」

「体に穴が開いて、当たり所が悪ければ即死です。ご無事でなによりでした、と少数の人達しか思っていないでしょう。では私はララーシャル様に事の顛末をお伝えします」


 ボルドランは部屋に戻って行く。

 レンブランド皇子が「おい! お前! どういう意味だ! 不敬罪でお前も閉じ込めるぞ!」と言いながらボルドランの後に続く。

 そして画面が部屋に変わった。ボルドランとレンブランド皇子が部屋に入って来る。……テレビ見ているような気分だよ。


「ララーシャル様、トルク様から発動した魔法はハルトマン子爵令嬢エリーゼ様を救う為だったようです。見事にレンブランド殿下の持っていた剣を破壊しました」

「ララーシャル殿。確かにエリーゼに剣を向けたのは事実だが殺す気はなかった。御使いの近くで殺傷など出来る訳ない。そんな事をしたら私の頭髪が……」


 ボルドランの説明にレンブランド皇子が弁解する。……オレ的には止めてほしかっただけだったけど、サクラが介入して大事になった。早く起きよう。


(吸魔術出来た? 出来ないと起こさないわよ)


 ……分かったよ、サクラ。魔力が濃くなったら起こせ!


「それでトルク殿は? 寝ているのにいきなり魔法を放ったという事は目が覚めたので?」

「まだ寝ているわ。サクラから聞いたら吸魔術で魔力を濃くするまで起こさないって。あと、トルクは壁の精霊の視線で私達の事を見ているそうよ」


 レンブランド皇子がオレの具合をララーシャルに聞く。そしてサクラ、壁の精霊ってなに?


(この屋敷の壁を司る精霊よ。目が覚めたら自己紹介してくれるわ。壁を壊した事に少し怒っていたけど、修理するなら良いって。好きなモノは壁を磨いてくれるメイドさんで、嫌いなモノは壁に落書きをするエリーゼって子よ)


 壁の精霊に嫌われているのか元住人のエリーゼさんよ。罰は壁の掃除をさせた方が良いかもしれない。


「トルクの帝国での現状。ローランド達の事は理解したが、理解に頭が追い付かない」

「精霊? 我々は物語の中に入ったのか?」

「トルク隊長が精霊の友? 確かに隊長は変わった人だったが、更に変になったのか?」


 アーノルド様。現状を知って頂いて何よりです。頑張って理解してください。

 ムレオン様。此処は魔法有りの世界です。精霊が居てもおかしくはありません。神や妖精だっている可能性はあります。……妖精って居るの? 今度サクラに聞いてみるか?

 ケビン副隊長。オレは変だったのか? 酷くない? 王国に居た時は普通だったよ。


(トルクは転生者でライと同じ精霊に好かれる子だから一般人とは言い難いわよ。子供が回復魔法を使ったり、戦場で敵と戦う子は一般人とはいわないわ)


 サクラの正論が心をエグる。でもムレオン様がいう物語の主人公ではないはずだ。主人公はオーファンだろう。オレは主人公を導く脇役キャラだ!


(トルク。主人公は自分自身よ。世界の人達全てが自分という物語の主人公なの。貴方がオーファンを導く脇役ではなく、精霊の友として力を借り、王族になるオーファンを助け、自称魔導帝国皇帝の存在を消滅させる主人公よ)


 なにカッコ良いセリフ吐いている! そんな綺麗事聞きたくない! それにサクラが言うような主人公キャラ嫌い。面倒事が押し寄せて大変な目に遭うのが目に見える! オレは家族と幸せに暮らしたいんだ!


(オーファンを助けて、魔導帝国皇帝を殺したら後は『めでたしめでたし』で良いわよ。私達と一緒に家族と幸せに暮らしましょう)


 サクラの言う『めでたしめでたし』は『死ぬまで精霊とのトラブルを解決する』って意味なんだろうな……。

 そしてオレは何時まで意識を失っているのだろうか?


(吸魔術で魔力が濃くなるまでよ)


 ……気絶している時間は長そうだ。

 オレは気合を入れて吸魔術で魔力を濃くする作業に入った。画面からの皆の声が聞こえるが目を閉じて集中する。


「……クリスハルト。御使い様はお怒りだろうか? 呪いをかけられるだろうか?」

「分かりません。だから私にしがみ付かないでください」

「お前はトルク殿のお気に入りだから、お前が近くに居ればハゲの呪いにかからないだろう!」

「お気に入りではありません。確かにトルクは私の恩人ですし。信頼されていると確信していますが、トルクの性格ならヤル時はヤリますよ」

「ヤルのか! お前にも! ハゲの呪いをかけるのか! それなのになんでお前は冷静なのだ! クリスハルト! お前はハゲの呪いを軽く見ているのか! ハゲの呪いは頭髪だけではない! 全身の毛が抜けてしまうのだぞ!  頭髪から髭まで! そして眉毛、睫毛、鼻毛、脛毛、〇毛、腋毛、腹毛、なにもかもだ!」


 ……笑わせないでくれ、変態皇子。吸魔術に集中できない。


「呪われたら結婚できないではないか! 全てをさらけ出す初夜で笑われるのは一生の恥だ!」


 ……バツ二だろう。自重しろ、変態皇子。


「私はトルク殿に良かれと思って、アーノルド達を保護した。恩を売る為にローランド達を捕縛して連れて来た。しかしこのような事態になってしまった! 私はどうすれば良い! これ以上御使いに敵視されるのは勘弁だ!」

「……トルクは貴方を嫌ってはいないと思います。言葉遣いは皇族に使う言葉ではありませんが、言葉遣いや対応も最初から今まで同じでした。それはトルクなりに信じているのだと思います」

「では私にタメ口を使っているのは信用しているからなのか! クリスハルトと同じように友人と思っているからなのか!」

「……多分」

「友人ならば私に呪いをかけないよな! 毎朝枕を見て頭髪が抜ける確認はしなくて良いのだろう! 髪を整えるのも細心の注意を払わなくては良いのだろう! 風呂やトイレで〇毛の確認をしなくても良いのだろう!」


 ブホッ! マジで笑わせないで! 腹が痛い! 


「そういえばレンブランド殿下。お聞きしたい事がございます。ローランドからダニエルの事はお聞きになりましたか?」

「ダニエル? 誰だ? そのような話は報告されていないぞ、ボルドラン」

「トルク様が捕虜になった時にトルク様に暴行し、片目を奪った者です」


 ダニエルの話題になった。これは吸魔術を使っている場合ではない。目を開けて画面を見る。


「バルム砦が降伏してトルク様が捕虜になり、ダニエルという者がトルク様を労働施設に連行しました。ダニエルはその道中でトルク様に暴行し、トルク様は片目を奪われております」

「ボルドラン。ローランドからダニエルに関する事を聞き出せ。私の名において全てを許可する」

「御命令お受けしました。早速尋問しますので失礼します」


 ボルドランに任せればダニエルの素性が分かるだろう。頼むぞボルドラン。


「待って、ボルドラン。ローランドとエディオン子爵と騎士達を連れて来て頂戴。トルクが感情を爆発させないように先に相手に会う必要があるわ」

「よろしいのですか? トルク様は私達を見聞き出来るのでしょう? そして魔法も……」

「大丈夫よ。魔法の使用はサクラの許可が必要だし、見聞き出来るけど感情は表に出ないから精霊も呼応出来ないから」


 ララーシャルがボルドランに説明する。そしてレンブランド皇子が「ボルドラン、私の部下達を使え。命令違反の罰だ」と言い、ボルドランは騎士達と部屋を出て、一緒にローランドが居る場所へ向かった。

 ……吸魔術に集中できる。早く魔力を濃くしよう。


「あ、あのララーシャル様。エリーゼはどうなるのでしょうか! 私の友達なのです! お願いですからお慈悲を!」


 ルルーファルさんがララーシャルに懇願しているな。


「ルルーファル、少し待て。エリーゼは悪いようにはしないから」


 クリスハルトの言う通りエリーゼさんには罰を与えるつもりはないよ。でも壁掃除させて精霊の機嫌を良くしよう。


「ルルーファル。これは高度な政治が絡んでいる。帝国の未来がかかっているのだ。だから私に任せたまえ。悪いようにはしない。だからグハッ!」


 悲鳴を上げるレンブランド皇子はまた床に這いつくばっていた。ララーシャルの重力魔法だろう。


「貴方、また変な事を言うつもりだったわね。欲望が駄々洩れよ」

「ララーシャル様! 欲望ではなく愛です! 私はルルーファルをギャ!」


 ……吸魔術に集中させてよ。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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