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精霊の友として  作者: 北杜
十章 帝国皇城混乱編
259/275

1 現状確認①

 オレは跳ね起きた! 心臓がバクバクいっている。呼吸が荒い。


「あ、トルク! 目覚めたのね! 大丈夫なの? うなされていたわよ」


 ララーシャルがオレを心配するように見る。……夢か。……いや悪夢だったか。


「ちょ、ちょっとトルク、何しているの? 女性の前で変な事しないでよ」


 ララーシャルがオレの行為を咎める。

 すまない、ララーシャル。しかし悪夢の影響で自分が男である事を確認しないと気が済まなかったんだ。それから自分の顔が元に戻っているかの確認!


「ララーシャル! 鏡取って!」

「え? はい、私が使っている手鏡で良いかしら?」


 オレはララーシャルから鏡を貰って自分の顔を映した。……元の顔だ。良かった。

「……どうしたの? トルク」

「悪夢を見た。……サクラのフュージョンの後遺症で女性になった夢だった。そしてサクラがオレに女服を着せようと迫ってきて……」

「……トルク、大丈夫よ、大丈夫だから」


 オレの頭を撫でるララーシャル。……夢で良かった。


「本当に無事で良かったわ。無茶なフュージョンで魔力を使い切って、死人の様な顔色だったから目覚めて本当に良かったわ」


 ……なかなか酷い状態だったようだ。


「帝都に戻ってロックマイヤー邸で休ませてる時も大変だったのよ。トルクとオーファンの精神を交換するはずだったけど、魔力が減った状態のオーファンの体に交換すると、オーファンが死ぬ可能性があるから、魔力が回復するまで様子を診ていたけど、皇族の使者が乗り込んで来て大変だったのよ……」


 帝都に戻っても大変だったんだな。……そういえばオレは何日くらい寝込んでいたんだ?


「トルクは五日寝込んでいたわ。オーファンと精神を交換したのは昨日で、トルクとオーファンは元の体に戻ったわ」

「五日も寝ていたなんて。でも体は普通に動くな。前寝込んだ時は体がガチガチだったのに」

「私が回復魔法を使っていたからよ。リハビリで大変な目にあわないようにね」


 ララーシャルの気遣いに感謝を!


「どこからかトルクが倒れたっていう噂が広まって、医者や回復魔法の使い手を派遣するとか、ロックマイヤー公爵邸ではなく城で治療させるべきとか言ってきて、クリスハルト達が対応していたらしいわ」


 対応していた? 


「私がちょうどトルクを迎えに行った時よ。皇都に戻ってきたら公爵邸内外が大騒ぎだったわ。そして私が飛んで戻ってきたら、私まで御使い扱いされたから魔法を使って黙らせて帰したわ」


 ……簡単にその場面が想像できるな。ララーシャルって怒ると怖いからな。


「ロックマイヤー公爵邸に居た精霊達も騒音に苛立っていたしね。精霊の力を使って黙らせて帰したわ」

「そしてララーシャルも周りの人々に御使い認識されました。おめでとう、オレの代わりに御使いする?」

「私はトルクの友よ。御使いではないわ」


 御使い代わってくれたら楽が出来そうなのにな……。


「そういえばオーファンは? 無事?」

「オーファンは大丈夫よ。特に異常はないわ。いろんな経験が出来て良かったわ」


 そうか、無事で良かった。……いろいろ無茶したから後遺症とか少し心配したんだよな。でも今回の出来事を経験出来て良かったって……。トラウマになってなくて良かったよ。


「でもトルクがオーファンの体でいろいろと無茶したから魔法技術が上昇したわね。下級魔法使いレベルから中級レベルに上がったわ」

「……良かったのかな?」

「今のところ問題無いから大丈夫でしょう。他にもいろいろと能力が上がってそうな気がするけどね。……あとトルクの運の悪さもうつっているかも」


 でもオーファンってもともと運が悪くない? ……それは置いておいて。


「サクラは? オレの中で寝ているの?」

「え? 外のうるさい声が聞こえないの?」


 ……窓の外は晴れて風のささやきが聞こえそうな落ち着いた風景だ。


「トルクの今の魔力量では精霊達の声も聞こえないのね……」


 自分の魔力量がどのくらいかは知らないが、寝起きで精霊術を使っていないから精霊の声が聞こえる魔力量に達していないのか。


「サクラは外で精霊達の宴会に付き合っているわ」


 ……なるほど。精霊達の声が聞こえなくて助かった。宴会の乱痴気騒ぎで目が覚めるなんて気が滅入るからな。……でも悪夢で目が覚めるのも勘弁したい。


「苛立っていた精霊達を抑える為にサクラが宴会を開いたのよ。そして王都の出来事を説明して協力を仰いでいるわ」


 自称スーパー皇帝か。あいつを倒さないと王国だけではなく帝国まで、いや大陸に被害がでるからな。


「魔導帝国最後の生き残りが居ると知って、その時代を知っている精霊達は怒るか泣くかで大変だったみたいでね。でも説得に応じてくれて王国を滅ぼすって確約してくれたみたいね」

「……待て。王国を滅ぼすって言ってないか?」

「大丈夫よ。サクラも滅ぼすのは、やり過ぎって分かっているから『関係者だけを滅ぼす』って精霊達を今も説得しているから」


 そうか。サクラが精霊達に助けを頼んでいるんだな。味方が増えるのはありがたい。

 ……そういえばいったい何日宴会しているんだ? オレ達が帝都に戻ったのは五日前。窓の外を見ても精霊の姿も声も聞こえない。魔力量が少ないからか?


「私達が戻って来て、苛立っていた精霊達にお酒を振舞って、それに乗じて他の精霊達もやって来て宴会が始まったわ。今日で五日目の宴会よ。宴会費はクリスハルトが持っているわ」


 ……ロックマイヤー公爵家の台所事情は大丈夫なのか? 酒代はいくらかかっている? 早めに宴会をお開きにしないとクリスハルト達に迷惑をかけてしまうぞ! ……今でも迷惑をかけているけど。


「とりあえず宴会をお開きにしよう。これ以上ロックマイヤー公爵家に宴会費を支払わせるのは気が引けるから」

「ロックマイヤー公爵は気にしないでと言っているけどね。あと皇族からも酒が送られてきたわ。御使い様に贈呈いたしますって」

「それって『酒渡すから少しくらい頼みごとを聞いてね』っていう事かな? ……皇族って油断できんな」


「ロックマイヤー公爵達も渋い顔していたからね。問題はどこの皇族なのかが問題なのよ。送り主がエルアーモ皇子という点ね」


 ……誰だっけ?


「エルアーモ皇子は皇位継承権に一番近いと言われているボルドランとウルリオの元上司の側室の皇子よ。ロックマイヤー公爵家が酒や食べ物を大量に仕入れたから、御使い用の宴会だと考えたと思うわ」


 そういえばそんな名前の皇子だったな。すっかり忘れていたよ。この数日間いろいろな事があったからな。


「そのエルアーモ皇子が届けた酒は、止める間もなくあっという間に精霊達が全部飲み干してしまったわ。後日お礼の手紙を送らないといけないわね」

「お礼の手紙か……。なら『ありがとう』と五文字で済ませて送るか」

「その程度で良いと思うわ」


 ララーシャルから皇族のエルアーモ皇子に対しては手紙で十分だと言ったから後日作成するか。


「他の皆はどうしているの?」


 ララーシャルに他の人達が何をしているのかを聞く。

 ロックマイヤー公爵は城に登城して皇帝に説明したり、ソバーレル公爵と今後の話し合い、アイローン伯爵達の対応などなど。一番面倒な事をしているロックマイヤー公爵さん。マジで感謝です。

 クリスハルトは屋敷でララーシャルの頼みで精霊達の宴会用の食材の調達と料理関係を頼まれている。それ以外にも屋敷内の警備や他諸々の雑務に勤しんでいる。

 ボルドランはクリスハルトの補佐に奔走しつつ、情報を集めたりしていたそうだ。そしてオレが帝都に戻り寝ていた時に『オーファンを王都で発見!』という情報を得た。オレの叔母さんが情報を送ったのだろう。……王都から帝都までの距離で数日後に情報が送られるなんて凄い情報網だな。

 ウルリオはロックマイヤー公爵邸の警備責任者となり屋敷内外を警備している。皇族と一触即発になりかけたり、貴族の使者は半殺しにしたりと逆にクリスハルト達の仕事が増えたとララーシャルは説明した。……ケンカっ早い脳筋だから仕方がないか。

 そして一番大変な目にあった人がロックマイヤー公爵令嬢のルルーファルさん。彼女は皇女殿下であるシャルミユーナの指示の下でロックマイヤー公爵を手伝ったり、変態皇子のレンブランドをロックマイヤー公爵邸に行かせないように自らを犠牲にして皇女が主催するお茶会に変態皇子を招いたりしたそうだ。

 それを知ったララーシャルはルルーファルさんを抱きしめて「ごめんなさい、元凶を潰すから安心して」と言って本気で変態皇子を潰すつもりだったらしい。変態皇子はララーシャルを恐れて「自室に謹慎する」と言って部屋に引きこもった。しかし部下にいろいろと指示をしているので謹慎とはいえないだろう。

 オレは『何を潰すのか?』とは聞かなかった。ララーシャルの迫力ある笑顔が怖いから。

 ベルリディアはララーシャルと一緒にオーファンの体で気絶していたオレの看病をしていた。怪我等は回復魔法で癒して問題無いが、寝たきり状態だったので心配していたそうだ。

 オーファンも体を交換するまでオレを看病しながら「自分の体を看病するって……」と呟いていたそうだ。そして看病中のオーファンにサクラが、


「オーファンの体でも精霊の声だけは聞き取れたから、オーファンも精霊術を覚えたらどう?」


 とララーシャル経由で言われたが、


「私には無理です……。トルクを見ていると精霊と会話なんてとても……」

「大丈夫よ! 少し精霊術を訓練してみる? 御使いが多ければ精霊達も『おもちゃ』が増えて一緒に遊べるわ!」


 ……ララーシャル経由で『おもちゃ』という言葉は言い換えられたが、精霊術の訓練を拒否するオーファン。そして拒否し続けているオーファンは最後に土下座して拒否して、オーファンの御使い計画は無くなった。

 ……オレはサクラが土下座程度で諦めるとは思えない。御使い製造計画からオーファンを助ける為に、早めにオーファンと離れて帝都を移動した方が良いと思った。


「マジでオーファンには迷惑をかけたな……」

「そうね、私も今後の為に経験を積ませたかったけど、必要以上の経験だったわ。ベルリディアちゃんに申し訳なかったけど……」

「ララーシャルがジャンケンで勝ったのが悪い」

「それを言うならトルクがジャンケンで負けたのが悪いわ」

「それを言うならララーシャルがグーを出すのが悪い」

「それを言うならトルクがチョキを出すのが悪いわ」

「それを言うならララーシャルが……、止めよう、不毛だ」

「そうね……。今後の事を考えないといけないしね。主に王都に寄生している自称魔導帝国皇帝だったかしら? あれ、どうする?」

「サクラと雷音さんに誓ったからね。精霊を害する奴は倒すよ」


 あの自称スーパー皇帝が一番の元凶だからな。王国が劣悪なのも、一部貴族が低能なのも、精霊を隷属化しているのも、ルルーシャル婆さんが不幸なのも、戦争が続いているのも、家族と幸せに暮らせないのも、オレが大変な目にあったのも全部あの自称スーパー皇帝が原因だ。

 それに今度はこっちの恨みを晴らさないと気が済まない! 前はオーファンの体だったから全力は出せなかったけど、今度会ったら絶対にシメてやる!



誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[良い点] なんだ。夢オチか。 [気になる点] もしかして、ララーシャルの『潰す』宣言がなんらかの形で伝播してあんな夢を見たのでは?
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