25 脱出。そして勘違い。
九章終了!
次回十章。サブタイトル未定。
オレの無事を見ると勢いよく抱き着いてきたララーシャル。……久しぶりって感じがするな。でも揺らすな! ララーシャルに吐く事になるから!
「無事とは言い難い現状だったよ。だから助かったよ、ララーシャル。だから揺らさないでくれ、吐きそう……」
「援軍お疲れ様、ララーシャル。助かったわ。今のトルクでは私の力を十分に発揮する事が出来なかったからね」
フュージョンを解いたサクラはララーシャルに感謝を述べる。そしていつの間にか重力魔法の負荷も無くなっていた。
「まったく、サクラやオーファン君が居なくなって、トルクが起きたらオーファン君だったからビックリしたわよ。オーファン君から説明を受けて私も助けに行くべきと思って急いで駆けつけたのよ。本当に良いタイミングで助ける事が出来て良かったわ」
本当にグッドタイミングで助けられたよ。マジで感謝だ!
「助けるタイミングを待って隠れていたんじゃないの? 出待ちってヤツ?」
「そんな事しないわよ! 大変だったんだからね! 途中でトルクの母親達が王国の騎士達に襲われている所を助けたりして遅くなったのよ!」
……ちょっと待て。ララーシャルとサクラの会話に不穏な言葉が出てこなかったか?
「とりあえず、トルクの母親達を助けてね。その後で偉い人からなんか感謝されてね。確か名前がバルム伯爵って人だったかしら?」
「トルクの上司ね。ほらトルクの正式な名前はトルク・フォウ・バルムでしょう。彼がトルクをバルム砦という不幸の始まりに連れて行った元凶よ」
「そうだったわね。一発殴って恨みを晴らすべきだったわ!」
「私は恨みを晴らし終わったから良いわよ」
ちょっと待て、オレはバルム伯爵に恨みを抱いていないぞ。二人はそんな事を思っていたのか? ってサクラ! 恨みを晴らし終わったって何したんだ!
オレがサクラとララーシャルに問い質す前に、
「貴様等! 私を無視するな!」
スーパー皇帝が切れてオレ達に怒声を放つ。……すまん、忘れていたよ。結構ピンチだったのにララーシャルが助けに来てくれた事と、サクラとララーシャルのやり取りを聞いた事で必死だった気持ちが和らいでいた。
敵に囲まれている状況には変わりはないけど、ララーシャルが来てくれたお陰で気持ちに余裕ができた。
「よし! ララーシャルが来てくれたからもう帰りましょう。この場所にいる意味は無いしね」
「無視するなと言っているだろう! 貴様達など私の魔法使い達に命じれば簡単に殺せるのだぞ!」
バルコニーの手すりをバンバンと叩くスーパー皇帝。
「貴方がオーファンの体を殴った人ね。今日のところは引き下がるけど、今度会ったら覚えてなさい!」
ララーシャルがスーパー皇帝に言葉を伝えると地面が動いた。そして徐々に浮き上がりスーパー皇帝の視線がオレ達を見上げている。
「サクラの作戦でね。私が派手に登場して、その隙にサクラが地面を浮かせて、私が飛ばす作戦だったの」
いつの間に相談していたんだ? テレパシーか? 念話か? ……というか気分が悪くてララーシャルに言葉を返す事も出来ない。
そしてララーシャルはオレの横でスーパー皇帝を見下して言った。
「精霊の友である御使いは、精霊を害する貴方達を許さない。貴方達は御使いの友である私達精霊の敵よ!」
スーパー皇帝に指さして宣戦布告したララーシャル。吐き気を堪えるオレの代わりに、オレの心情を伝えてくれた。
「今日のところは目的を達成したから帝国に戻るわ。今度会うときは覚悟しなさい!」
ララーシャルは捨て台詞を吐いて地面は空へ飛んで行く。
そしてスーパー皇帝が上空のオレ達に言った。
「精霊よ! 御使いオーファンよ! 私の名において! 全ての戦力をもってお前達を滅する! 精霊の味方する帝国を滅ぼして全ての精霊を隷属してやる!」
……あれ? 気分が悪くて聞き間違いか? 御使いの名をオーファンって言ってないか?
何も考えられず気持ち悪くて意識が飛びそう……。
地面が空を飛び、王宮を脱出して辺境伯さんはララーシャルに話しかけた。
「助けて頂いて感謝する。貴方はトルク殿の味方の様ですが、名を聞いてもよろしいか?」
「私はトルクの家族でララーシャルよ。貴方は?」
「ウィリバルテォイオン辺境伯、現当主です。先代当主から御使いと精霊の事は聞き及んでおります。助けて頂いて感謝いたします」
「テルツエット公爵家のジェルトニアと申します。本当に助かりました」
辺境伯さんとジェルトニアさんはララーシャルに頭を下げて感謝を述べた。
ララーシャルは辺境伯さん達と会話している様だが、オレは気持ち悪くて殴られた箇所が痛くて話し声が聞き取れない。……体力魔力の使い過ぎだよ。
「トルク、大丈夫? 吸魔術で魔力を回復したら?」
サクラが横から声をかける。精霊術である吸魔術で魔力を回復させようとしているのだが、
「今やっている最中だけど、痛くて気分が悪くて集中できない。ララーシャル、回復魔法かけて」
オーファンの体を酷使しすぎた。帰ったらオーファンに怒られそうだよ。
「あら、出来損ないの半精霊が追っ手を仕向けて来たわね」
オレに回復魔法中のララーシャルがサクラの言葉を聞いて振り向き、オレも追っ手の方を振り向いたので、辺境伯さん達もオレ達にならって振り向いた。
敵の数は結構多い。そして上級魔法の威力を知っている辺境伯さん達。
追っ手に辺境伯さん達と一緒に王宮に来た騎士達が全滅させられる可能性がある。
「辺境伯、ジェルトニア様! 私達がしんがりを務めましょう。少しでも時間を稼いでみます!」
「御使い様! 御二人をお願いします!」
護衛騎士達が死を覚悟して時間稼ぎをするようだ。
しかしララーシャルがそんな事を許すはずがない!
「あの程度なら私とサクラとトルクで追っ手を撃退してあげるわ!」
「でもララーシャル。トルクは体調不良で戦力にはならないわよ」
浮いている地面に座り込んでゼイゼイ言っているオレを見るララーシャル。
「……トルク。もう少し頑張りましょう!」
「後は私達に任せなさい! トルクが気絶しても目が覚めたら全部終わっているわ!」
「私も手伝ってあげるからね。サクラがやり過ぎないように見張っておくから!」
「フュージョン中に気絶しても、私が体を動かしてあげるし、ララーシャルが支えてくれるわ!」
ララーシャルとサクラの微笑が死地へ導く天使もしくは死神に見えた。
オレはサクラとフュージョンして敵の追っ手を撃退して魔力不足になり気絶する事が決まった。
そしてオレに出来る事は一つだけ。
「サクラ、ララーシャル。頼むからやり過ぎに注意して。これはオーファンの体だから壊さないでね」
マジでオーファンに謝罪して、怒られ、説教を受けよう。
ごめんよ、オーファン。お前の体を酷使して……。
オルレイド王国の将軍の一人であるフォードンは王宮の騒ぎを聞きつけ、国王陛下に謁見を求めていたが止められていた。
ウィリバルテォイオン辺境伯が騎士達を連れて登城中なので、こちら側も騎士達で対抗するべきだと考え、国王陛下に許可を願い出る為だった。
しかし謁見の許可は下りなかったが、フォードンはいつでも行動できるように、騎士達を集め騒ぎを収める為の準備をした。
そして国王陛下とウィリバルテォイオン辺境伯がいる広場が騒がしくなる。
国王陛下直属の騎士や魔法使いが近くに居るとの事だから心配無用と言われた。だが念の為、味方の数が多い方が良いと考え、広場近くに騎士達を配置していた。
……しばらくして広場では話し合いが聞こえた。良く聞こえないが辺境伯が直訴している様だ。
その後ウィリバルテォイオン辺境伯の騎士達が広場から逃げ出した。偵察の騎士から第三王妃のスーザンヌ様が居たとの報告を受けたフォードンはただ事ではないと判断した。
広場では笑い声と魔法の破壊音が聞こえ音と共に振動が体を揺らす。……広場では何が起きているのだ? 偵察からの連絡はこない。もう少し様子を見るべきか? とフォードンは側近達と相談した。
そして更に時間が経つと、オルレイド王国の将軍は国王陛下から呼ばれて『ウィリバルテォイオン辺境伯とその一味を捕まえろ』という王命を受けた。
王宮で宣戦布告したウィリバルテォイオン辺境伯とその一味。国王陛下直属の騎士や魔法使いに敗れてウィリバルテォイオン辺境伯達は逃げ出した。
フォードンは国王陛下から説明を受け、ウィリバルテォイオン辺境伯の居場所を聞くと、空を飛んでいる何かを指さした。
空を飛んでいる物体は距離があったが、良く見ると人が乗っている様だった。
「空を飛んでいる地面の上に辺境伯とその一味が乗っている。急いで捕まえろ! 絶対に捕まえろ! 護衛騎士達は殺しても構わないから辺境伯とその一味を必ず捕まえろ!」
王命を受けてウィリバルテォイオン辺境伯を捕まえる為に部下に説明した。
「空を飛んでいるのですけど……」
「辺境伯領の魔法使いは空を飛ぶ方法を見つけたのだろう。私達の命令は辺境伯とその一味を捕縛だ! 空を飛ぶ方法に関しては後で考えろ!」
フォードンも空を飛ぶ敵にどうすれば良いか考えていた。弓か魔法で対応するしかないと考えた。幸い、弓を持っている、魔法が使える者達がいるので、弓や魔法でけん制しながら辺境伯とその一味を捕縛すると側近に説明した。
馬に乗りフォードン将軍が騎士達を率いて、空を飛んでいる辺境伯達を追う。
その途中で王太子のジークフリート殿下とその側近達と合流した。
「私が指揮を執る! 奴等を全員殲滅しろ! 首を狩れ! 生きている事を後悔させてやる!」
王命は『辺境伯とその一味を捕縛』という命令なのだが、ジークフリート殿下の目が血走って異議を唱える事が出来ないフォードン。
王太子とその側近達に馬を奪われた騎士達は徒歩で追う事になる。そして王太子の命令で空飛ぶ物体に馬を走らせる。
空飛ぶ物体は次第に高度が落ちていく。そして先にはウィリバルテォイオン辺境伯騎士達が待っていた。
騎士の数はオルレイド王国側が多い。フォードンは全員に「辺境伯とその一味を捕まえろ」と命じた。
王太子は「殲滅しろ! 全員殺せ! 根絶やしにしろ!」と相反する命令を出して騎士達を少し混乱させた。
しかし空飛ぶ物体から一人の少年が、青白い顔の疲れ果てていたピンク色の髪の少年がこちらに手を向けた。
その直後、地面が砂に変わった! 馬が砂に足を取られて倒れ騎士達が落馬し、先頭に居た王太子と側近も落馬した。
フォードンは何が起きたのか理解できなかった。フォードンだけではなく側近達も分からない。
空飛ぶ物体は地面に着地して、辺境伯とその一味は辺境伯領の騎士達と合流した。そして追っ手の騎士達を無視して王都を出ようとする。
後方から魔法が放たれた。国王陛下直属の魔法使いが上級魔法を放った。
数多くの火玉の一つ一つが高熱を持つ火の上級魔法。
岩が宙に浮きそれがすごい速さで当たれば即死しそうな土の上級魔法。
上級魔法が当たればウィリバルテォイオン辺境伯の騎士達に大ダメージを与える事が出来る。
しかし一人の少女が手から膨大な風魔法を発動して火玉や岩を逸らした。さらにフォードン達に暴風を与えて飛ばされそうになる。
ウィリバルテォイオン辺境伯達は王都を出て逃げてしまった。
王都から出て辺境伯を追撃しようとしたが、なぜか街道とその周辺が砂に変わっていた。徒歩で砂を歩こうと試みたが砂に溺れて兵達が死にかけた。
「フォードン将軍……」
「……追撃は中断する」
フォードンは考える。砂を迂回すれば良いが、一度王都近くに戻らないといけない。怪我を負った兵達や馬の補充、追撃に数日かかるので補給等の準備をする必要がある。
そして王命を果たせない無能な将軍となったフォードンは側近と一緒に帝国との戦争に参加する事になるだろう。
「……フォードン将軍」
「……運が悪かったな。そういえば王太子は?」
「落馬して気絶したとの事です」
王命を受け、辺境伯とその一味を捕縛できず逃げられ、王太子を気絶させたフォードンは任務失敗を皆に土下座して謝罪したい気持ちになった。
フォードンは任務失敗の罰として、良くて左遷、悪くて辞任、最悪死刑となり、側近達にも罰が与えられるだろう。
後日、任務失敗の責任を取らされフォードン将軍達は、王国に歯向かったウィリバルテォイオン辺境伯の討伐軍に参加する事になる。
オルレイド王国側の追撃を逃げ切ったウィリバルテォイオン辺境伯達。
王都から少し距離をとった所で一度休息をとっていた。
テルツエット公爵家の最後の生き残りのジェルトニアは恩人の様子を見ていた。
「ララーシャル様、トルク君は大丈夫なのですか?」
トルクは王国側の追っ手を防ぐために上級魔法を使った。サクラとフュージョンしたトルクは気絶覚悟で地面を砂に変え、王都を出た後、街道と周辺を砂に変えた。
「魔力の使い過ぎで気絶よ。数日寝れば回復すると思うわ」
ララーシャルの言葉を聞いても安心できないジェルトニアだった。
ジェルトニアは白目で気絶中のトルクが力なき動作で、操り人形のような動きで無理矢理魔法を使う様を見て、皆を助ける為だと思っても本当に申し訳ないと言う気持ちで一杯だった。
「御使い様にご負担をおかけして本当に申し訳ありません」
頭を下げるジェルトニアにララーシャルは「大丈夫よ、心配しないで」と微笑む。
辺境伯領の騎士達に説明し指示を出していたウィリバルテォイオン辺境伯とスーザンヌ第三王妃がトルク達のところに来た。
「この度は、本当にありがとうございました。姉上を助ける事も出来て、感謝いたします」
「初めまして御使い様、スーザンヌと申します。娘や家族を助けて頂いてありがとうございました」
「気にしないで。トルクが好きで取った行動だから。え? 女の子を助けたのはオーファンなの? あの子もやるわね」
ララーシャルはサクラに話を聞きながら返事をする。ララーシャルもトルク達が王都でどのような事をしていたのかは知らないので、休憩中にサクラから詳しい情報を聞いていた。
「ララーシャル様は御使いなのでしょうか?」
「いいえ、私は精霊よ。人間にも姿が見る事が出来る特殊な精霊よ、第三王妃」
「私の事はスーザンヌとお呼びください。もう王妃ではありません」
姿を見る事が出来る精霊と聞いたジェルトニアと辺境伯は驚いている。二人は「確かに神秘的な美しさだ」「精霊とはこのように神秘的なのだな」「サクラ様もララーシャル様の様に美しく神秘的な方なのだろうか?」「他の精霊の方も素晴らしい方なのだろうか?」と精霊の神秘性について話し合っていた。
トルクが話に加わっていたらジェルトニア達の精霊の神秘性を壊すだろう。
「そろそろ私達は帝国に戻るわ」
ララーシャルは『もうすぐ夕方だから家に帰ります』という感じでスーザンヌ達に言った。
「お待ちください! 皆様にお礼を! 辺境伯領へ来てください!」
「ごめんなさい、スーザンヌ。帝国に用事があるの。帝国の用事が終わったらトルクの家族のところに戻るわ」
「ララーシャル様、恩人に対して何も出来ず……」
「詳しい事は辺境伯さんに聞いてね。私もトルクが王都に居た事を詳しく聞いていないしね」
ララーシャルはトルクを抱えて宙に浮く。
「またね、今度はトルクと一緒に会いに来るから」
ララーシャルはスーザンヌ達に言って帝国方向に向けて空を飛んで行った。
「……トルク様と一緒? どういう意味なのかしら?」
スーザンヌの疑問にジェルトニアはふと思い出した。
「そういえば、ランドロリウム・ヨルバッハ・グラインシュール・マーランレイル・アンドロキュロスが御使いの事を『オーファン』と言っていたような……」
「そういえばオーファン君の事を御使いと……」
ジェルトニアの言葉に辺境伯も最後の言葉を思い出した。
二人は『オルレイド王国はオーファンを御使いと勘違いしているのではないか?』と思い至った。
……近い将来。オルレイド王国の国王は帝国に攻め込むとき「帝国にいるオーファンを必ず捕まえろ!」と命令を下す。
御使いと精霊と辺境伯達が逃げ切った事にスーパー皇帝ことランドロリウム・ヨルバッハ・グラインシュール・マーランレイル・アンドロキュロスは怒りで周りに当たり散らしていた。
「怒りをお納めください! 偉大なる皇帝陛下! 必ずや帝国の御使いを捕まえます!」
「当たり前だ! その程度くらい出来て当然だろう!」
オルレイド王国の一番の権力者と言われている国王が頭を下げている。
「この私に歯向かった事を後悔させてやる!」
約百年前からオルレイド王国を陰から操る黒幕。精霊と融合した不老の半精霊。魔導帝国の魔法技術を教授した歴代の国王の上に立つ、魔導帝国最後の皇帝ランドロリウム・ヨルバッハ・グラインシュール・マーランレイル・アンドロキュロス。
「許さんぞ! 精霊! そして御使いオーファン! 必ずや捕まえてやる!」
オルレイド王国は帝国にいる密偵にオーファンという者を調べさせた。
……遠くない未来。オーファンは王弟として帝国と王国に名前が広がる。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




