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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
253/276

21 作戦開始前

新作はじめました!


魔力ゼロの探索者~魔力ゼロは無才ではなく異才だった~


詳しくは下のから!

     ↓

https://ncode.syosetu.com/n1381hy/


よろしくお願いします。

 家族やウィール男爵家の皆と別れた次の日。

 辺境伯さんが王宮に行き、国王に対して決別する事を伝え、王妃様を救出する日だ。

 オレは昨日から精霊術の吸魔術で魔力を濃くして、今日の為に魔力を蓄えていた。その結果、サクラがいつも通り見える様になり体調も良くなった。

 辺境伯さん達と一緒に王都最後の朝食を取る。話題に上がったのは昨日の王都での出来事だった。

 領地持ちの貴族達が王都を出て、その後に傭兵ギルトの者達や平民達が荷運びで次々と続いて行く。商人達も貴族達の依頼を受けて王都から他領に行く。

 王都では、貴族達が去った事について、様々な噂があっという間に広がった。王都に迫る帝国軍から逃げる逃亡説。兵を集める為に一旦領地に戻った援軍説。王族に反旗を翻した反乱説。


「という噂があっという間に広がりました。広げたと言うのが正しいですが」


 ジェルトニアさんの話を聞いて、辺境伯さん達が噂を流したんだなと思った。


「本当に貴族達が王都から出て行ったからな。残りの者達も今日には出て行く。混乱中の王都なら逃げ出す事は容易だろう。逃げない貴族は辺境伯派以外の貴族と王宮貴族。そして情報取得の為に王都に残る味方の貴族達だ」


 ……他にも王都でスパイ活動をする人達は多いかもな。平民とか商人とか騎士とか兵とか。


「そういえば王太子とその配下の人達は?」

「王太子と配下の者数人は、人質として王宮に連れて行きます。残りは屋敷に置いて行くつもりです。流石に数百人も連れて行く事はできませんから」


 オレの質問にジェルトニアさんが答える。そして辺境伯さんが、


「王太子ともあろう者が一日中喧しく騒いでいたそうだ。自分の思い通りにならないと癇癪を起こして喚く事しか出来ない。宥めていた配下の者達に当たり散らしていた。情けない限りだな」

「身分の低い者とは離して牢に入れたのは正解だと思います。一緒にしていたら身分の低い者達が癇癪をぶつけられていたでしょう」

「そういう者達は命令されて来たのだ。普通なら厳しく処罰するが、先の事を考えると温情を与えた方が良いだろう。バルム伯爵領に、いや新しい国に来るかもしれないからな」

「……新しい国か。もうすぐ私達の夢が叶うのですね」

「そうだな。諦めかけていた夢がもうすぐ叶う」


 辺境伯さんとジェルトニアさんが食事を止めて感慨深く外を見る。……見ている方向は城ではない。何処を見ている? 過去の思い出でも見ているのか? それとも幻影?


「しかし王国と帝国の二つの勢力が敵になりますが……」

「心配するな、ジェルトニア。先日、バルム伯爵からトルク殿の帝国での行いを聞いた。皇族に数人知り合いがいるらしい。そうですね、トルク殿」


 いきなりオレに会話を振るなよ! 飲んでいた水を吐きそうになったよ。ゴホゴホ言いながら頷く。


「トルク殿は御使い様だからな。皇族と面識が有るのは当たり前だが、オーファン君も関係者だそうだね」


 バルム伯爵は辺境伯さんに、妹の方じゃなくてオーファンが皇族だと教えたのか? ヤバい、秘密が秘密でなくなっていく!


「トルク殿、心配されるな。オーファン君の事はここに居る者しか知らないから。しかしその伝手を使って帝国と同盟を結びたい。王国を倒す為に」

「辺境伯! トルク様の力を借りるのですか! 私達自身の手でと誓ったのに、それでは精霊に見放されます!」

「大丈夫だ、ジェルトニア。トルク殿ではなくオーファン君に頼むのだから。トルク殿、オーファン君に手紙を書いたので渡して欲しい」


 なるほど。御使いであるオレの力は借りる事は出来ないけど、オーファンの力を借りる事は出来ると考えたか。そして手紙を渡すくらいなら、オレに頼んでも大丈夫と思ったのだろう。一宿一飯の恩もあるしな。


「分かりました、オーファンに手紙を渡せば良いのですね。手紙の内容を聞いても?」

「同盟もしくは和平。できるなら王国を倒すのに協力して欲しい。他にも捕虜交換やバルム砦の件だな。和平派のロックマイヤー公爵にも手紙を書いたので届けて欲しい」

「分かりました。オーファンとロックマイヤー公爵にお渡しします」

「ありがとう、御使いよ」


 ホッとした表情の辺境伯さんとジェルトニアさん。この程度のパシリでは怒らないし断らないよ。




「では後は頼むぞ」

「ウィリバルテォイオン辺境伯の方こそお気をつけて」


 辺境伯さん達は王太子とその配下を連行して城に向かう。辺境伯さんの護衛騎士は二十人、王太子達の見張り兵と合わせて合計三十人。国王に直接敵対を宣言した後、人質がいるとはいえ、この少人数でいかに王宮から脱するのかが最初の山場になるだろう。しかし王宮から脱したら、王都外までの逃走通路の数ヵ所に百人単位の騎士や兵が配置されており、また王宮の近くには馬車や馬も隠してある。


「お気をつけて。王宮の外でお待ちしています」

「ご無事をお祈りしています。王都外でお帰りをお待ちしております」


 辺境伯筆頭騎士のバロッサさんは王都に潜ませている騎士達を指揮する為に別行動で、辺境伯筆頭文官のニールソンさんは先に出発して王都外にいる騎士や兵達を纏める為に別行動をとる。


「辺境伯! このような事をしてただで済むと思っているのか! この私を拘束するとはなんと考えている!」


 喚き散らす王太子と殴られた形跡がある配下の者達。……元気いっぱいだな。


「おい! そこの御使い! 私を助けろ! 助けたらお前の願いを叶えてやる! お前が見た事もない大金も、なんでも命令を聞く女も与えてやるぞ!」


 本当にうるさい人だな。助けてあげたって約束を守ってくれるとはとても思えないんだけど。


「……王太子さんが全裸になって腹踊りしながら、広場で春歌でも歌ってくれたら考えるよ」


 辺境伯さんが「ブホッ!」と吹き出して咳き込んだ。

 ジェルトニアさんは「ハハハ」と顔を引きつらせながら苦笑いしている。

 周りのバロッサさんとニールソンさんと護衛騎士達は、笑いを抑える者、咳き込む者、オレに「良く言った!」と褒める者や「春歌ってなに?」と他人に聞く者などいろいろだった。

 顔を真っ赤にした王太子が良く分からない言葉で叫んでいる。……怒りで言葉を忘れたようだ。近くの護衛騎士が喚き散らす王太子の口を塞いだ。これで静かになったよ。

 そして辺境伯さんの「行くぞ!」という号令で皆が移動を開始した。辺境伯さんは王太子達を連れて城へ。バロッサさんは騎士達を連れて王都へ。ニールソンさんは屋敷の者達を連れて王都の外へ。


「では私達も行くか」


 ジェルトニアさんの言葉に応える男性騎士と女性魔法使い。この二人と、ジェルトニアさんとオレの合計四人でスーザンヌ妃の救出に向かう。


「筆頭騎士バロッサの子、カーマード・ルウ・イーストライトと申します。よろしくお願いします、トルク様」

「レアーナ・ルウ・クロフォールです。水と火と風の魔法が使えます。父であるニールソンに代わり御協力します」


 辺境伯家筆頭家臣の御子息御息女ですね。身分の高い人達ですね。……二人が怪我したら大変だよな。怒られるかな?


「御使い様の事は祖父母から聞き及んでいます。そのような方と一緒に戦えるとは光栄です」

「トルク様と一緒に行動出来て嬉しく思います。御使い様の御業を見る事が出来るのですから」


 ……本当に辺境伯さんの領地の人達は御使いを敬っているな。精霊なんて、実物見たら幻滅モンなんだけど。


「トルク様も準備は良いか?」

「オレの準備は出来ているよ」


 もうここには戻ってこないから、忘れ物が無いようにする。辺境伯さんから預かった手紙。水と保存食と着替えと旅に必要な道具一式。妃様を助けて辺境伯さん達が安全に王都から出たら、オレも帝国に帰る予定だ。その為の準備は終わっている。しかし、


「トルク、頭痛いの……」

「大事な時に二日酔いってどうよ? 酒はほどほどにって言っていただろう!」

「だって持って行けないお酒よ。それもレアものお酒よ。飲まないと勿体ないじゃない……」


 サクラが昨日からの深酒で二日酔いになっていた。引っ越しの荷物に収まらない酒を捨てるという事をサクラが聞いて、「頂戴!」と飛びついてきた。それで、「頂戴」だけだと無礼過ぎて辺境伯さんに悪い気がしたから、オレが文字数を増やして頼んだ。辺境伯さんは快くサクラに酒を献上し、サクラが夜を徹して飲み続けた結果、見事に二日酔いになった。


「早く魔法で二日酔い治せよ。飲んだくれの駄目精霊」

「……分かったわ。酒精は自然回復で治す主義だけど、今回は回復させるわ。でもギリギリまでトルクの中に居るから。あと認識除外の術をかけておくから……」


 そう言ってサクラはオレの肩に捕まり、ダルそうにため息を吐いた。


「……動くの億劫。トルク、目的地まで乗せて行って……。今日は最悪の日だわ。二日酔いだし、トルクの中で寝る事が出来ないし、レアなお酒が飲めないし……」

 サクラは空が飛べるくせに、怠けてオレに乗っかって移動しようとする。まあサクラは重さがないから、乗っかっていてもオレは疲れないけど。


「はよ行くぞ、酒好き駄目精霊。……雷音さんが今のお前を見たら嘆くだろうな」

「……ごめんなさい、ライ。二日酔い対策の水分補給を忘れていたわ」


 この馬鹿精霊め。二日酔いでダウンした事をララーシャルやジュゲムやルルーシャル婆さんにもチクってやる。


「あ、あのトルク様。精霊が二日酔いって……」

「すいません。馬鹿な精霊ですいません」

「いや、怒ってはいないけど。精霊って二日酔いするんだね……」

「精霊に対して神秘性が無くなっただろう」


 オレの質問に目を逸らしてノーコメントのジェルトニアさん。オレも神秘的な精霊って見た事ないからな。

 そしてカーマードさんとレアーナさんも、精霊が二日酔いと聞いて複雑そうな顔をしている。


「私は神秘的な精霊よ! ……大声出させないで、気分が……」


 それで神秘的な精霊か? 早く二日酔い治せ!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王城乗り込んで三行半突きつけるとか辺境伯は死ぬ覚悟かと思ってたんですが、そんな事はなかったようで。 [気になる点] 人質になるような王太子など要らんと切り捨てられたら人質作戦が成り立たない…
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