16 関係者達と相談と引っ越しの準備
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魔力ゼロの探索者~魔力ゼロは無才ではなく異才だった~
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バルム伯爵が迫力ある笑顔でオレに問いかける。
「……それでどういう事か説明してもらおうか?」
「えーと、先ほど御説明しました様に、ロックマイヤー公爵次期当主クリスハルトは私の友なのですが、その妹君のルルーファルさんが帝国皇女シャルミユーナ様の学友でして、その縁で帝都の公爵邸に居た時にシャルミユーナ様と仲良くなって、イーズファング第一皇子の治療を頼まれました」
「……のう、トルク。お主の方が深みに嵌っておらぬか? 後継者争いにどうして近づいているのだ! 何を考えておる!」
怒られました。怒鳴られました。マジで怖いです!
「オーファンが皇族で! お主まで皇族に知己を得て! 精霊の力を使える御使いになっただと! 帝国で何していたんだ!」
「すいません、流されていたらいつの間にか……」
真っ赤な顔で怒鳴るバルム伯爵。血圧上がってそうだ。怒りで体力を奪われたので息苦しそうだった。そして荒い息を整えて、
「……冷静に考えたら、帝国との伝手が出来て、交渉が可能となったのは僥倖だ。現在、ワシ等は王国と帝国の両国を相手にしようとしている。帝国と停戦する事が出来たら……」
冷静になったバルム伯爵。今度は一人で考えに耽っている。
「トルクさん、シャルミユーナ皇女殿下でしたか? 仲良くなったと言いましたが、貴方はポアラと婚約しているのですよ。その事は覚えていますか? 忘れたとは言わせませんよ」
「覚えています、アンジェ様。でもポアラ様は婚約解消しそうですよ。ほら、医療ギルド創立は私が当主にならなくても可能ですし、そもそも私の事よりもギルド作りに夢中ですし」
「違います! そうではありません!」
違うって言われても、何が違うのか理解できません、アンジェ様。
「アンジェ様、トルクが嫌がるなら解消しても良かったのですよね?」
「そうじゃないのよ、リリア! 婚約が嫌なのではなくて、トルクはポアラとの関係を勘違いしている可能性が!」
母さんがアンジェ様を問いただしている。勘違い? って言われても、勘違いされているような事した覚えないし。
「トルク様。私達ロンギア男爵家は『御使い様が王国に来たら従者として行動を共にする』と教えられています。私を従者にして頂けませんか?」
「ランナさん、従者はいりません。できれば昔みたいにリリア母さんと一緒に居てほしいです。お願いします」
「御使い様のご命令、承りました。リリア様の専属侍女となります」
ランナさんってここまで固い人だったかな? アイローン伯爵家に居た時は母親と和気あいあいの仲良しだった記憶があるんだけど。
「ランナさんみたいな人達に忠誠を捧げられるなんて、歴代の御使い様は凄かったんですね」
「ロンギア男爵家は御使い様や精霊に対して御恩を感じています。それに帝国のラスカル男爵家とも繋がりがありますので」
「ボルドランの実家だね。オレもラスカル男爵家に少し滞在していたし、労働施設で出会ったランド爺さんも御使いの従者だったしね」
「ちょっと待って! トルク君、今、ボルドランって言わなかった?」
ランナさんとの会話に入ってくるルーシェさん。
「トルク君。ボルドランって、帝国の英雄の右腕って言われる人かしら? 帝国の悪事の元凶と言われるボルドラン?」
「ルーシェさん。元凶かは分からないが、そのボルドランと英雄ウルリオだと思う。ロックマイヤー公爵邸に居るはずだよ」
「……その人、私の上司の上司。王国に散らばる帝国の密偵の上司。……報告した方が良いのかな」
「できれば止めて。オーファンが皇族って事を知っている人は帝国でも十人もいないから。王国ではこの部屋の人達と辺境伯家の人しか知らないんじゃないかな? ああでも辺境伯家の人達はまだ兄妹どちらが皇族なのかまでは把握してないか」
でもルーシェさんがボルドランの部下だったとはな。……そうなるとルーシェさんは帝国の密偵なの?
「そうだよ、元密偵だよ。ボルドラン様の元部下でー、今は普通の行商人だよー」
今思うと、リリア母さんの周りに居る人達は凄いな。母さんを妹の様に慕っている伯爵令嬢のアンジェ様。ランナさんは精霊や御使いを知っている男爵令嬢の侍女。ルーシェさんは母さんの妹で元帝国密偵の行商人。
「トルクが一番おかしいって理解している?」
「……サクラ。オレは別」
そう。オレは別。別ったら別。子供だから別。未成年枠で別。
「それでトルクよ。いつまで浮いているんだ?」
思考を終えたバルム伯爵が現状を教えてくれた。そういえば浮いていたままだった。サクラに頼んで降ろしてもらおう。
「……とりあえずだ。状況はだいたい理解した。この件をウィリバルテォイオン辺境伯に説明しても良いかの? 今後の方針を考える材料になる」
「オーファンが皇族である事以外だったら大丈夫ですよ」
とりあえずオーファンの事を念のために内緒にしよう。……遅いかもしれないが。
「もう一度、ウィリバルテォイオン辺境伯の所へ行く。アンジェよ、後を頼むぞ。明日の昼には出発したいからな。必要最小限の荷物だけを持って領地に戻り、他の荷物は使用人に運ばせる手筈を頼む」
「分かりました。何とかします」
「リリア殿もアンジェを手伝ってほしい。ウィリバルテォイオン辺境伯に説明したらまた戻って来る。それまでトルクよ、おとなしくしていてくれ」
「分かりました」
アンジェ様に指示をして、リリア母さんに手伝いを頼み、オレに釘を刺すバルム伯爵。……おとな
しくするつもりだけど、流されないかちょっと心配。
「お父様、エイルド達には説明をしないのですか?」
「……やめておこう。可哀そうだが今は大変な時期だ。だから内密にしておこう」
バルム伯爵はオレの事は口止めする事にした。言ったら信じてもらえると思うけど、後の事を考えると大変だと思うし。
そう言ってバルム伯爵は再度、ウィリバルテォイオン辺境伯の屋敷に向かった。
バルム伯爵の指示を受けてアンジェ様達は移動の準備をする。オレも手伝う事になるが、
「トルクさんの事はオーファンと呼びます。私の手伝いをしてもらいますね」
「分かりました、アンジェ様。ではどこから始めましょうか?」
指示されたのはエイルド様達の荷物整理だった。アンジェ様と一緒にエイルド様達の状況を見る。
「オーファン! 無事だったか。心配していたぞ」
「お帰り、オーファン!」
久しぶりのエイルド様とドイル様。二人とも身長が伸びている。二人を見て懐かしい気持ちになる。
……それはそうと仕事だ仕事。荷物整理の最中だったエイルド様とドイル様。部屋中に服や私物が散らかっていて悪戦苦闘している様だ。
「ご心配をおかけしました。荷物整理の手伝いに来ました」
「オーファンは二人をお願いね。私はポアラの様子を見るから」
アンジェ様と別れて、オレは二人の荷物整理を手伝う。木箱に必要なモノを入れているが、ぐちゃぐちゃに詰め込んでいる。
「エイルド様。服はキチンとたたんで、木刀は必要無いのでは? 必要ですか、ですが五本はいりません、予備を含めた二本で十分です。本は要らない? 学校指定の教科書は必要でしょう、トルクが見たいと思いますよ。割れそうなモノは服で包んで一緒に入れて。剣ですか? それは装備しておけば良いかと」
エイルド様の荷物はだいたいこんな所だろう。
「ドイル様もキチンと服はたたんで。玩具が多すぎますので何個か減らしてください。……無理? では次の荷物運びの時に持って行ってもらいましょう。本は……実用性があまりないからこれも次の荷物分だな。木刀はエイルド様と一緒で合計二本。ワレモノは服と一緒に包んで。え? お菓子? それは荷物入れに入れないで持って行きましょう」
ドイル様の荷物もこんな所だろう。
「凄いな、オーファン。まるでトルクの様な働きだな」
「そうだね、なんだがトルクみたい」
久しぶりに二人に会ったからいつもの調子で動いたからな。オーファンらしい行動をしないといけなかったのに。
「アハハ、トルクの様に考えて行動しただけですよ」
とりあえず笑って誤魔化す。子供の勘って偶に凄いな……。
冷や汗をかきながら笑っていると、ドアがバン!という大きな音を立てて開いた。
オレの知らない少年が息を切らして怒鳴り込んだ。
「エイルド様! 貴方達は何を考えているのですか! 急にバルム伯爵領に行くって! 学校はどうするのですか!」
「アントン、説明を聞いていなかったのか? 王都に居るのは危険だと母上が言っただろう」
「危険? 危険なのはバルム伯爵やアンジェ様の言葉です。王族に逆らうなんて何を考えているのですか! 王族の命令に逆らうなんて、処罰されてもおかしくないんですよ!」
「既に逆らって処罰されそうになったぞ。しかし私はお爺様の言葉は正しいと思っている」
「王族の言葉が正しいに決まっているだろう! 王族に逆らうなんて頭おかしいんだよ!」
言葉使いが荒くなって敬語を止めてしまったアントン。
「叔父が王宮に務めているので、そのコネを使って謝罪しましょう。エイルドだけなら何とかなるから! そして第三王子の派閥に入ってエイルドが正統バルム伯爵となって、王国に忠誠を誓えば何とかなるから!」
ついにはエイルド様を呼び捨てにしているよ。そして正統って何言ってんだ、こいつ。現バルム伯爵はニセモノって言いたいのか?
「……お前馬鹿か。そんなことする訳ないだろう。早く領地に戻る準備しろ」
「オレの言う事を聞け! このままじゃ破滅だぞ! お前がオレの言う事を聞けば大丈夫だから、頭を下げて謝りに行くぞ!」
命令しているよ、こいつ。……男爵家よりも位が高い子弟なのか?
「アントン。従者の分際で何を言っている。勝手な事を言うな!」
「うるさい! 従者辞めるから命令聞け! オレの方が年上だぞ! ガキの分際で生意気なんだよ! 王族に取り入ろうともせずに好き勝手しやがって! 黙って言う事を聞け!」
アントンはエイルド様の従者だったのか。しかし従者が主に向かって命令するなんて良いのか?
それよりも二人の言い争いを止めた方が良いのだろうか? エイルド様もこれ以上怒ったら手を出しそうだし、ドイル様もアントンの言動に怒っているみたいだし。
「二人とも落ち着いてください」
「うるさいぞ! 平民風情が! 口を出すな! 処刑されたいのか!」
「処刑できるだけの偉い立場に居るのですか? アントン様は」
しまった。つい反論してしまった。すると顔を真っ赤にしたアントンがオレに殴りかかってきた。すかさず腕を取って投げ飛ばす。
アントンは床に叩きつけられて、受け身を取れなかった様で痛みに苦しんでいる。
「オーファンに敵う訳がないだろう。こいつはトルクに鍛えられているんだ。馬鹿かお前」
「アントンって頭悪いよね。昨日負けたばかりなのに」
エイルド様とドイル様の言葉を聞いて、アントンは忌々しそうに顔を歪める。そして痛めた体を引きずりオレを罵倒しながら部屋を出て行った。逆恨みは勘弁してほしいのだが……。
「しかし先ほどの投げ技は良かったな。トルクから習ったのか?」
「そ、そうです、エイルド様。トルクから習いました」
「トルクみたいだったよ。凄いね、オーファン」
中身がトルクですから。二人に褒められて懐かしさに胸がジンと暖かくなる。早く二人に本当の名前で呼ばれたいな。
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