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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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15 関係者達と相談

 王都のウィール男爵邸に帰って来た。……訪問したという言葉が正しいか。オレは初めて来たからな。って言うか王都自体が初めてだった!

 ウィール男爵邸では、騎士・兵士・執事・侍女・従者が引っ越しの準備で忙しく動いている。

 バルム伯爵とオレは屋敷に入ると、引っ越し責任者のアンジェ様と会った。


「お帰りなさい、お父様、オーファンさん。あちらの首尾はどうでしたか?」

「帰って早々、忙しくさせてすまんな。いろいろと話さないといけない事が出来たから、リリア殿の関係者を呼んで書斎に来てくれ。アンジェも忙しいと思うがお前も一緒に聞いて貰いたい事がある」

「分かりました。オーファンはエイルド達の荷物の整理を手伝って頂戴」

「いや、オーファンも話し合いに参加させる」


 バルム伯爵はオレの事をオーファンと呼んだ。みんな集まった時に正体を告げるのだろうか?

 アンジェ様は頷いて、引継ぎ事項を執事達に告げて、リリア母さん達を呼びに行った。

 そしてオレとバルム伯爵は書斎で皆を待つ事にした。


「しかし荷物は全部持って行けないだろうな。ワシも荷物の選定をしなければならないか。……今夜は徹夜かのう」


 バルム伯爵の愚痴にオレは、


「バルム伯爵達が出て行った後でも荷物だけなら、指示しておけば運べるのではないのですか?」

「その通りではあるが、馬車には入らんだろうな。人手も足りんだろうし」

「だったら傭兵ギルドに依頼すれば良いのでは? 他にも王都に住む平民を使って荷物を運ばせるとかは?」

「……王都に住む者達を減らすか。面白い手だな。王宮貴族への嫌がらせにもなる」


 あれ? なんか曲解された? 『人手が足りないならバイト雇ったら?』って意味だったんだけど。

 少し深く考えてみよう。傭兵ギルドや平民バイト雇う→引っ越しで傭兵やバイトが王都を離れる→王都の人口が減る→税金が減る→王宮貴族怒る→バルム伯爵笑うって計画か。ただ、その人達は移住するとは限らないよな。王都に帰っちゃうかもしれない。その辺は伯爵も何か対策を考えているのかな。

 バルム伯爵。さすがはトルクだなって顔しないで。そこまで深く考えた発言じゃないんだよ。


「急いで辺境伯にも手紙を書いて送ろう。それから傭兵ギルドだけではなく、魔法ギルドにも連絡して仕事を頼むか」


 バルム伯爵は執事さんに便箋を用意させて、手紙を書きだす。……他にも何か思いついたのかニヤリとして書き殴っているな。

 急いで手紙を書き上げて、執事さんに何か言った。執事さんと入れ替わりにアンジェ様とリリア母さんと見た覚えのある女性、マリーに似ているような女性の四人が部屋に入って来る。

 ……久しぶりに見る母親の姿に泣きそうになる。でもオレが声をかける前に、


「トルク! 無事だったのね!」


 と言ってオレに抱きついてきた。え? オレの外側はオーファンだよ! バルム伯爵しか正体知らないはずだよね! 誰にも言ってないよね! 


「リリアさん、トルクさんではありません」

「リリア様、彼はオーファン様ですよ」

「姉さん、違うって!」


 やはりオレの格好はオーファンだ。バルム伯爵もリリア母さんの行動に驚いている。


「いえ、前はオーファンさんだったけど、今はトルクです! 私と目が合った時のほんの少しの微笑み方、アンジェ様を見た時に出る背筋を正す動作の順番、知らない女性を見るときに向かう視線、私と会話しようとするときに出る表情の癖、どれを見てもトルク本人です!」


 何それ! うちの母親はどんだけの洞察力だ! それに癖ってどんな癖? うちの母親は探偵か! もしくは超能力者か!

 それに顔が胸に埋もれて声を出す事も、息をする事も出来ない! 窒息する! 助けてサクラ!


「感動の再会ね、良かったわね、トルク」


 使えない精霊だ!


「リリア殿、トルクが喋れないので離した方が良いのではないか」


 バルム伯爵が声をかけてくれたお陰で、オレは窒息死する事はなくなった。


「トルク、無事だったのね。良かったわ」

「ハァ、ハア、ただいま、母さん。ちょっと変則的な帰還だけど、帰ってきたよ」

「良かった、本当に良かったわ」


 今度はオレの胸で泣き出す母親。そして、


「アンジェ様、トルクです。オーファンの体を借りて精神だけ戻ってきました」


 驚いた表情のアンジェ様は喋る事が出来ず、オレとバルム伯爵を交互に見た。バルム伯爵が頷いた事で「お、おかえり、トルクさん」と混乱中ながら返事してくれた。そして、

「お父様、説明! 説明してください!」

「どうなっているの、ランナさん」

「ルーシェさん、私も詳しくは分かりませんが、オーファン様の体の中にトルク様が居るという事でしょうか? そんな事出来るのは……、 いえ、でも、……しかし」


 母親が泣き止むまでバルム伯爵がアンジェ様達に説明をした。

 そして一通りバルム伯爵から説明を聞いたアンジェ様達。


「お父様、精霊って言われてもね。それに御使いって……」

「ワシもウィリバルテォイオン辺境伯から聞いた話でな。俄かに信じられんと思うが、トルクしか知らない事を知っておってな……」


 アンジェ様は信じられない様だった。

 母さんは泣き止んだが、泣き疲れて寝てしまった。今はオレの膝に頭を置いている。時折寝言で「ごめんなさい」とか「許して」とか聞こえる。……起こした方が良いのかな?


「えーと、トルク君。初めまして、貴方の母さんの妹のルーシェだよ。よろしくね」

「よろしくお願いします、ルーシェ叔母さん」

「なんだろう。トルク君に叔母さん呼ばわりされると心に傷が!」

「ではルーシェさんで」


 初めて見る母親の妹であるルーシェさん。……なんか軽そう。


「お久しぶりです、トルク様。私の事を覚えていますか? リリア様の侍女だったランナです」


 思い出した! 母さんと仲良かった侍女さんだ!


「トルク様、いえ御使い様。改めてご挨拶致します。ロンギア男爵家の三女、ランナと申します。四代前のロンギア男爵当主の妻ピーナは当時の御使い様の従者でした。よろしくお願い致します」


 え! オレが御使いだって知っている! オーファンが喋ったのか!


「いえ、ニューラ達を救い出した方法で、トルクが御使いと判断したみたいよ。彼女の祖母が御使いの従者だったから言い伝えられていたのでしょうね」


 サクラから説明を聞いて納得する。


「トルク様、近くに居る精霊の方はジュゲム様ですか?」


 ジュゲムの事も知っているのか! マジで御使いの事を知っているらしいな。


「いえ、ジュゲムは先代御使いのルルーシャル婆さんと一緒に居ます。今側に居るのはサクラっていう精霊です。オレの横で母さんの頭を撫でて慰めています」

「え? ……初代様と一緒に行動していたサクラ様?」

「そのサクラ」


 見えないがオレの横に居るサクラを見るランナさん。初代やサクラの事も知っているんだな。

 ……ランナさんが緊張している。大丈夫かな?


「……本当にトルクさん?」

「こんなナリですがトルクです、アンジェ様。ご心配をおかけしました」

「……とりあえず、トルクさんの今までの経緯を教えて頂いてもいいですか? オーファンさんから少しだけ聞いているけど、貴方の口から説明が欲しいの。捕虜になった後ぐらいから」


 アンジェ様に言われてオレは説明をする。初めは砦から脱出できるはずだったが、ムレオンさんの従者のモリスが帝国貴族のローランド・ルウ・エディオンに告げ口した為、捕虜になってしまった事。

 ダニエルという帝国人から魔封じの腕輪をされて暴力を食らい、目を潰されて、半殺しにされながら労働施設に移送された事。

 労働施設でランドという老人に出会い、精霊と御使いとその従者の存在を知った事。脱走時にローランドの兄で施設の囚人となっていたスレイン・ルウ・エディオンから殺されそうになったが、ランドに窮地を救われて逃走し、御使いであるルルーシャル婆さんに助けて貰った事。

 ルルーシャル婆さんに御使いの才能があると言われて、王国に帰る為に御使いになろうと考え修行していたが、ロックマイヤー公爵領に用事が出来たから向かっている最中にオーファン達と出会い行動を共にしている事。

 オーファン達の用事を済ませる為に帝都に行き、帝都にアイローン伯爵とその娘がいるという噂を聞いて助け出したが、精霊の制御に失敗して気絶していた事。

 夢の中でサクラからオーファンが危険だと聞いて助けようとしたら、オーファンと精神が入れ替わり、知らない人間から斬りかかられそうだったから殴り返した事。その後、サクラから簡単に説明を聞いて、敵の装備を全部砂に変えたけど、オーファンの体で御使いの力を使ったから体調不良を起こして気分が悪くなり、辺境伯さんの所で体調を治した事。

 また、これからの王都での予定として、明後日に城に侵入して第二妃を助け出して、辺境伯さんを逃がし、王都に精霊が居ない理由を調べる事、を説明した。

 あ、説明が終わったときに母さんが起きた。そして腕に抱き着く。


「その後はどうするのだ? 辺境伯と一緒にバルム伯爵領に来るのか?」

「オーファンの体を帝都に戻さないといけません。だから私は帝都に帰ります。そして帝国の用事が全部済んだらバルム伯爵領に戻ってきます。」


 バルム伯爵に帰る事を伝えるが、アンジェ様は「帰るのは十日後? 二十日後?」と聞かれた。


「命の恩人である先代御使いの余命が一ヵ月切っていますので、それを看取ったら帰ります」


 ルルーシャル婆さんの寿命を聞いて、ランナが「ルルーシャル様がお亡くなりになるのを知っている方は居るのですか! 先代のウィリバルテォイオン辺境伯様は幼少の頃にお会いした事が有ると聞いています。お伝えした方が良いでしょう」と言ったが、


「さすがに今は無理でしょう。戦争中の帝国のラスカル男爵領に行く事は難しいし」

「でも甥っ子君は~。帝都に帰るんだよね~。どうやって? 秘密の~抜け穴使って?」


 ルーシェさんの言葉使いが変になったよ。え? こっちが素なの?


「空飛んで帰ります」

「……あのね、オーファン君にも言ったけど、人間はね、お空を飛べないの。これ常識よ、常識……」


 サクラがオレとリリア母さんを浮かす。急に浮かすな! 驚くだろうが!


「これが御使い様の御力……」


 浮いた程度で御力言わないで、ランナさん。


「常識が……常識が……」


 常識破ってゴメン、ルーシェさん。


「リリアさんまで浮いて、私も浮く事が出来るのかしら?」


 童心に戻ったアンジェ様。サクラに頼んで浮かせてもらおうか?


「……トルク、お前は前々から変だったが、これまで以上に変になるとはな」


 変とは酷いです。まだ人間ですよ、オレは!


「半精霊のララーシャルと少し同化している、ちょっと精霊に好かれやすい、ちょっと精霊に近い人間よ、トルクは。だから純粋な人間とは言い難いわね」


 オレは人間を止めていたのか! 叫んだ方が良いのか? オレは人間止めたぞー! とか。


「凄いわね、トルク。空まで飛んで。こんなに成長して……」


 純粋に喜ぶ母さん。空飛ぶのに成長は関係ないような……。


「トルク、貴方の説明を聞いていたけど、帝国に行くのね」

「この体はオーファンのだから。オーファンの用事を済まして、恩人を看取って、帝国の奴らに恨みを晴らして、第一皇子を治療もしないといけないし」

「……トルク。最後のはなんだ。第一皇子を治療?」


 あれ? 失言したかな?


「トルク、どうしてお前が、皇子の治療をするんだ! 帝国で何をしているんだ! オーファンが現皇帝の弟という事と関係しているのか!」


 オレにつられて失言したバルム伯爵は、口を手で塞いだ。アンジェ様は驚愕してオレを見る。ランナさんは「さすが御使い様」と苦笑い。ルーシェさんは頭抱えているし、母さんはオレの頭撫でている。オレは、


「アハハ」


 と笑って誤魔化すが、皆の混乱が収まったら説明しなければならないだろうな。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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