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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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13 作戦会議

 辺境伯さんに「部屋に戻る」と言って、オレとサクラは与えられた部屋に戻った。


「精霊が少ないって本当なのか? それが異常って事も?」

「本当よ。今までずっと屋敷に居たから精霊達と会う機会がなかったけど、外に出て見たら精霊が居ないのよ。唯一会った精霊はこの屋敷の厨房にある包丁の精霊だったわ」


 ……いろんな精霊がいるんだな。


「その精霊に王都周辺の顔役の精霊を教えてもらおうとしたけど、知らないって言われてね。トルクが吸魔術をしている間に調べてみたけど、王都には精霊の気配がほとんど無いのよ」

「それが異常なのか……」

「王都に近づかないように、王都から逃げているような雰囲気だわ。理由は分からないけど」

「包丁の精霊も知らないのか?」

「包丁の精霊は数年前に生まれた精霊だから詳しい事が分からないの。王都に居る精霊達は全員若い精霊で、包丁の精霊と同じで知らないって言うし」


 原因はなんだろうか……。窓の外に見える城を見た。


「トルクも同じ考えね。お城に何かしらの原因が有ると思うわ」

「どっちにしろ、城に行く事になるのか……」


 ジェルトニアさんと一緒に城に侵入して、救出作戦のついでに原因を調べる。


「オーファンを助けるだけだと思っていたのに、こんな事になるなんて……。いつまでもオーファンの体を使っている訳にもいかないから、一回帝都に戻ってからの方が良くないか?」


 この肉体はどうも使いづらい。魔力の量も少ないからサクラが透き通って見えるし。オーファンの無事を皆に知らせないといけないし。


「出来れば早く原因を知って解決したいの。お願いよ、トルク」

「……分かったよ。でもララーシャル達に知らせる方法がないとなると」

「それなら多分大丈夫よ。トルクの体にオーファンが憑いているから、現状を理解しているはずよ」


 ……オーファンも大変だな。後で謝っておこう。


「そういえばどのくらいの間、オーファンの体に居る事が出来るんだ? 衝撃を受けたら元に戻ったり、寝て起きたら元に戻っているとかは無いよな?」

「その辺は大丈夫よ。私が元に戻そうとしない限り、精神の交換は続くわ」


 サクラが元に戻さなければずっと続くのか……。てことは、サクラに万が一の事が有ったら永遠にオーファンの体に憑依したままって事? 勘弁してほしいよ。


「それでこの後どうするの? トルクの家族に会いに行きたいのでしょう? それに辺境伯に城に行く事を説明しないと」

「……そうだな」


 サクラの提案を受けてオレは辺境伯さん達が居る部屋に戻る事にした。

 侍女さんに聞くと、辺境伯さん達は現在執務室に居るらしいので、案内してもらった。


「ウィリバルテォイオン辺境伯、このルートでは大人数での行動は難しい。他のルートを使った方が良いのではないか?」

「ジェルトニア、このルートが一番近いのだ。短時間でスーザンヌ姉上を助けるのならこのルートしかない」

「しかしこれでは逆に見つかって時間を取られる可能性がある。急がば回れという言葉通り、遠回りでも安全なルートで行く方が良いのではないか?」

「それならこっちのルートはいかがでしょう? この時間帯なら見回りの騎士達には見つかりません」

「ユリアンナ、そのルートは二階から発見される可能性がある。……待てよ、囮を使って目を誤魔化すか?」

「しかし囮を使ったら警備が厳重になるかもしれない。帰りが大変な事になるぞ。スーザンヌ姉上は臥せっているのだから」


 辺境伯さん、ジェルトニアさん、ユリアンナさんの三人が作戦を考えているようだ。他にも鎧を着た騎士の人と文官っぽい人の二人が一緒に居て作戦を考えている。クラリベルさんとスメラーニャさんは居ないようだ。


「トルク殿、いかがした?」

「会議中にすいません。皆さんに伝える事が出来まして」


 精霊の頼みで城に行く事を伝える。そういえば部外者がいるけど、精霊の事を知っているのかな?


「王都の精霊が少ない? その原因は城にある?」

「はい、精霊の数が異常に少なく、原因は城に在るのではないかと私の精霊が言っています。ですから原因を調べる為に私も城に行く事にしました」


 辺境伯さんの質問に答える。


「そのついでに、皆さんの手伝いが出来るかもしれません」

「よろしいのですか?」

「城の内部が分かりませんし、協力した方が良いと精霊が言っているので」


 城の情報、おもに城の見取り図が欲しいからね。さっきは綺麗事を言って協力を断ったけど、精霊が頼んだと言えば意見をひるがえしても辺境伯達は納得するだろう。それにオレ自身も貸しを作った方が良いと思った。


「感謝します、御使いよ。では今現状の策をお伝えします。バロッサ」

「初めまして御使い様。バロッサと申します。今回の作戦は三つに隊を分けます。スーザンヌ様を助ける為の救出部隊と、注意をそらす囮部隊、そして王都外にいる待機部隊です」


 大柄で強そうな騎士っぽい人がバロッサさんね。


「囮部隊は捕縛している王太子と側近達を人質にして王宮に行き、辺境伯が国王と面会して、王国と袂を分かつ事を宣言します」


 そういえば王太子や側近達を捕まえていたっけ。……って辺境伯さんが囮になるの? 大丈夫か?


「囮部隊が注意を引いている間に、救出部隊が後宮にいるスーザンヌ様を救い出す手筈です」


 なるほどなるほど。簡単に聞こえるけど、後宮に潜入するのは難易度が高そうだ。


「そしてスーザンヌ様を救出したら、救出部隊はすぐさま王都を脱出して待機部隊と合流します。囮部隊は王太子を人質に取りつつ救出部隊とは別ルートで王都から脱出し、待機部隊と合流します。その際、最後尾には私を含め百人の騎士がつきます。その後、撤退戦となる予定です」


 ……一番の山場は王都から脱出する時か。白昼堂々、国王に喧嘩売って立ち去るのだから、王国が黙って辺境伯達を逃がすはずがない。街中での戦闘になって、最悪の場合は人質もろとも成敗か?


「御使い様にはスーザンヌ姉上の救出をお願いしたいが、よろしいでしょうか?」

「良いですよ。私の事はトルクと呼んでください。辺境伯様」

「そうか。ではトルク殿、姉上とジェルトニアを頼みます」


 ジェルトニアさんも救出部隊のメンバーに加わっている。辺境伯さんを説得出来たんだな。

 そしてオレとジェルトニアさんと、隠密行動に長けた騎士達二人。合計四人がスーザンヌ様の救出部隊となった。

 でも救出後は、なんだかんだでオレだけ囮部隊に合流しそうな気がするよ……。


「もちろんよ。面白そうだし」


 サクラよ。面白いからって、オレは『命を大事に』をモットーにしているんだぞ。見学ならお前一人でも出来るだろう? オレを巻き込むな!


「でも原因究明しないといけないでしょう。城で一番偉い人間が怪しいし」

「……サクラの言葉ももっともだ。辺境伯さん、私はスーザンヌ様を救出して救出部隊の安全が確認出来たら、辺境伯さんのいる囮部隊に合流します。精霊が言うには国王が一番怪しいとのことなので」

「おお! トルク殿に協力してもらえるとはありがたい!」

「では、作戦を詰めます。私は精霊の力を使って認識除外の術を救出部隊にかけます。そうすると他人から見えなくなるので城での移動が楽になります」


 辺境伯さんやジェルトニアさん、他の皆も驚いている。よし、実践しよう。


「とりあえず、オレとジェルトニアさんを見えなくします。サクラ、頼む」


 サクラに頼んで認識除外の術をかけてもらう。

 術にかかったオレとジェルトニアさんの姿が消えて見えなくなり驚く辺境伯さん達。

 ……オーファンの体で術を使うのは疲労を感じる。自分の体では何ともなかったのに。

 サクラに解除してもらって「この術を使ってスーザンヌ様を救出して脱出します」と皆に伝えた。……しかし、救出作戦の間、術を持続させる事が出来るか心配になった。


「素晴らしい。これならスーザンヌ姉上を助ける事が出来る!」


 辺境伯さん達は、驚きや恐怖よりも、救出の成功を確信出来て喜んでいるようだ。


「トルク君、大丈夫かい?」

「術を使って少し疲労を感じただけだ。自分の体ならこんな事にはならないんだけど、オーファンの体だから」


 唯一の心配は、脱出まで認識除外の術を継続できるかだな。

 ジェルトニアさんの勧めで椅子に座って疲労感を回復させながら言った。


「その後は王都に精霊が少ない原因を探りながら囮部隊に合流します」

「しかしトルク殿、城と国王が怪しいと言ったが、そんなに簡単に原因が分かるのか?」

「精霊がそう言っているので間違ってはいないと思います」


 伝家の宝刀、精霊任せ。この言葉で辺境伯さん達は納得する。……しかし精霊を神聖視している人達が多いからちょっと引くわ。辺境伯領には精霊信仰でもあるのか?

 この大陸は一神教を信仰しているけど大丈夫なのか?……思考が脱線した。後で考えよう。


「トルク殿が合流するのなら、我々囮部隊も無事に王都から脱出出来るだろう。……脱出と言えば他の貴族家の者達はどうだ?」


 辺境伯さんが秘書らしき人に聞く。


「予定では明日の昼過ぎには第一陣のバルム伯爵一行が王都を出る予定です。改めてご挨拶を、御使い様。ウィリバルテォイオン辺境伯の筆頭秘書のニールソンと申します。辺境伯派の脱出計画を担当させて頂いております」

「トルクです、よろしくお願いします」


 辺境伯さんに報告した後に、オレに自己紹介して頭を下げる。


「計画の説明をします。今回の王太子の暴挙を発端として、辺境伯派は王都から離れる事になりました。そして人質を取られる可能性があるので、女性子供は明日中にはバルム伯爵領に向けて出発します」


 その辺の事は聞いたな。エイルド様達も一緒に王都から脱出するって。


「今日のパーティーに参加していなかった仲間達にも連絡し、脱出後には王国中の者達にも我々の覚悟を伝える予定です」


 王国は大混乱になるだろうな。内乱一歩手前? いや内乱開始?


「早い者達は明日出発。最低でも明後日出発です。ですから荷物を全部持って行く事は不可能ですが、王都の商人に頼んで後から荷物を運んでもらおうと思います」


 引っ越し作業は大変だからな。大事な荷物以外は引っ越し業者に任せるのは正解だよね。


「問題は馬車の数が足りない事です。明日の馬車は足りると思いますが、明後日分の馬車が足りないので、王都や近隣領地の商人から馬車の購入を考えています」

「馬の数は?」

「そちらは大丈夫です。屋敷に攻めて来た王太子達の馬を使用します」

「最悪は徒歩でバルム伯爵領に向かわないといけないな」


 平民は徒歩が当たり前なんだけど、貴族は馬車での移動が当たり前だからな。


「アイローン伯爵領で帝国軍と戦っている者達にも連絡して、バルム伯爵領に戻らせます」


 帝国にも王国の内情が伝わってしまいそうな勢いだな。そうなると帝国が前にもまして攻めて来るだろう。……でも今は継承権争いで戦争どころじゃないから大丈夫かな。


「バロッサ、ニールソン。王太子達や騎士達はどうなっているのだ?」

「全員束縛して屋敷の一角に隔離しております。警備も厳重です」

「猿ぐつわをしているので会話の心配もありません」


 辺境伯さんの問いに答える二人。……人質は問題無いようだな。

 おや? ドアからノック音が聞こえて、バルム伯爵が入って来た。

 久しぶりだな。あ、オレを見て驚いている。


「オーファンよ、体調を崩したと聞いていたが無事だったか」


 あれ? オレの事をオーファンって勘違いしている。……そういえばまだ説明してなかったよ。


「しかしお前が御使い様とかいう者だったとは。辺境伯から簡単に聞いたがいろいろと納得出来たぞ」


 ……何を納得したんだ? 聞くのがちょっと怖い気がする。

 それよりも先に勘違いを解かないといけないが、バルム伯爵は辺境伯と話を始める。


「辺境伯よ、さきほど領地に連絡を送った。受け入れの準備はそれで整えられるだろう」

「感謝する、バルム伯爵。こちらも準備を進めている。娘達は昼過ぎにはそちらに向かわせる」

「そうか、では昼過ぎに出発だな。他の貴族達にも伝えておこう」


 辺境伯さんとバルム伯爵は、王都脱出の他にも、護衛の説明、荷物の量などを話し合っている。最後に、


「オーファンもワシ等と一緒に脱出させるので屋敷に戻らせようと思う。体調も回復して良かった」


 そしてオレに「屋敷に帰るぞ」と言って退出させようとするが、


「ちょっと待ってくれ、トルク殿はスーザンヌ姉上の救出の要なのだ」

「バルム伯爵、トルク君を帰らせないでほしい」


 辺境伯さんとジェルトニアさんがバルム伯爵を止める。そして、オーファンの体にオレが乗り移った事を知らないバルム伯爵は、


「辺境伯よ、こやつの名はオーファンだ。トルクではないぞ。オーファンも偽名を名乗るのではない」


 と、嘘を言うなと咎める。


「バルム伯爵、お久しぶりです、トルクです。今はオーファンの体に乗り移っています」

「……オーファンよ。何を言っているのだ? 乗り移るなんて出来る訳ないだろう。やはり体調が元に戻っていないのか? 寝れば元に戻るだろう。エイルド達も心配しているから屋敷に戻るぞ」


 うん、信じてくれなかった。普通はそうだよね。他人の体に乗り移るなんて普通は「頭大丈夫か?」と思うよね。バルム伯爵の反応が普通だよね。


「待ってくれ、バルム伯爵。確かに体はオーファンだが、精神は御使い様のトルク君だよ」

「御使い様の能力でトルク殿が私達を助けたのだ。敵の武器道具を砂に変えただろう。あれは御使い様の力で、そのときにオーファンとトルク殿が入れ替わったのだ」


 ジェルトニアさんと辺境伯さんが説得した。


「辺境伯よ。御使いという者の説明を聞いたが、トルクにはそんな能力は無いぞ。回復魔法が使える少し変わった少年だ。トルクが御使いとは考えられん。オーファンよ、敵国だからと言ってトルクの責任にするべきではない。嘘はいかんぞ」


 バルム伯爵はまったく信じてくれなかった。……ここまで信じてくれないと少し悲しい。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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