1 説明①
あけましておめでとうございます。
新章開始で今年もよろしくお願いします。
ポアラは学校の授業が終わり帰ろうとしたが、辺境伯の令嬢であるクラリベル・ルウ・ウィリバルテォイオンからお茶会に誘われて渋々参加していた。
先日、リリアの娘のレイファ達が屋敷を訪れ、その後に帝国に居たはずのニューラとクイナという者達が誰にも見つからずに屋敷に侵入した。
その事で、今日は母親のアンジェから「早めに帰って来るように」と言われたが、辺境伯の令嬢直々に誘われたので断る事が出来なかった。
お茶会には辺境伯の傘下の令嬢達が居て、アルーネ姉妹も参加している。
昔の私なら断れたのに……と考えながらお茶会に参加する。ポアラは昔からお茶会は苦手で、母親のアンジェやトルクの母親のリリアと一緒に訓練をした。しかしポアラは喋るのが苦手なので、従者兼友人のマリーがフォローしてくれていたが、今日はマリーが居ない。マリーは体調が戻ったリリアといとこのレイファの世話をしているので、今日はポアラの従者を休んでいる。
令嬢達のお茶会では最初は軽い噂話から始まって、恋バナに移り、最後はクラリベル辺境伯令嬢の真面目な話で終わる事が多い。今は恋バナに移っていた。とある貴族令嬢令息が王都でデートしていたというポアラにしたらどうでもよい会話だった。
中座してどこかで時間を潰そうかと本気で考えていたが、
「ポアラ様は婚約者とデートされた事がありますか?」
話題を振られて飲もうとしたお茶を持つ手が驚きで止まった。
「ポアラ様の婚約者は同年代でありながら騎爵位をお持ちと聞いたことありますわ」
「剣も魔法も使えるなんて素晴らしい男性ですね」
「私も妹のアルーネから聞いていますわ。乱暴者のアルーネを従者にして魔法を教えてくださり、お淑やかになって戻ってきたのですもの」
「あ、姉上! 皆さんも騎士トルク様の事は!」
アルーネがトルクの話題を抑えようとしたが遅かった。令嬢達はトルクが生死不明の行方不明となっている事を知らないのだ。しかしポアラはトルクが死んでいないと考えていて、
「トルクは戦争で行方不明になったけど大丈夫。そのうち帰ってくるから」
と静かに言った。令嬢達はポアラの婚約者が行方不明だと知って動揺する。一気に場が暗くなった。それをフォローするようにクラリベルが、
「ポアラ様は婚約者が戻ってくると信じているのですね。そこまで信頼しているなんて素晴らしいですわ」
と言ってお茶会の場を温めた。そしてクラリベルが令嬢達に話しかけた。
「第四王子が私達辺境伯派に学生隊の参加を打診してきました」
クラリベル辺境伯令嬢の言葉に緊張が走る。第四王子が参加を打診した令嬢はこのお茶会に参加している者達だった。ポアラは魔法が得意で、学校でも下級生ながら上位の実力を持ち、アルーネは戦争経験者である。他の令嬢にも剣術を嗜んでいる者や魔法が得意な者がいた。その令嬢達を第四王子は戦争に参加させようとしていた。
「他にも辺境伯派の男性方も打診をされています」
「クラリベル様、拒否は出来るのですか?」
「出来ますが、代わりに他の者が参加する事になります。第四王子は「辺境伯派の者達から最低二十人は参加するように」と言われました。王族からの命令に近いですね」
その二十人の中にお茶会に参加している令嬢達が名指しで入っている。そして参加を拒否したら他の者が代わりに参加しないといけないとクラリベルは言う。
「私も断りたいのですが、今は王国の窮地、辺境伯家の者として私が参加するのは責務だと考えていました。でも王族が他の者達まで強制させるとは思いませんでした」
お茶会の場が再度暗くなった。令嬢達が戦争に行かなければならない事態がずっしりと伸し掛かっていた。
「学生隊のリーダーは第四王子になるでしょう。そして配下は王宮貴族。どんな無茶な事を言われるか……」
「王宮貴族は私達を見下していますからね……」
「アルーネに殴られた王宮貴族も参加するかもしれませんね」
「大丈夫です、姉上。理不尽な命令をされても拒否しますから」
アルーネの言葉にみんな笑ったが、令嬢達は学生隊の参加は決まったと思った。そんなとき、今まで黙っていたポアラが口を開いた。
「クラリベル様。第四王子の命令を聞かない方法はあります」
令嬢達はポアラの方を見る。そして、
「第四王子派はアイローン伯爵領方面に、辺境伯派はバルム伯爵領方面に分けて行けば命令を聞く必要はありません」
「部隊を分けてしまえば! そうですね! ポアラ様の言う通りです。素晴らしい案です」
クラリベルは嬉しそうにポアラに礼を言った。そして他の令嬢達もポアラの提案に賛同して賛辞を贈る。
「そういえばもうすく辺境伯主催のパーティーですが、ドレスはお決めになりましたか?」
「王都の王族御用達に注文するのは無理でしたので、他の仕立て屋に頼んでみました。王都でも評判の良い仕立て屋なのですよ」
「羨ましいですね。私は領地の仕立て屋にドレスを頼みましたわ」
「アクセサリーは王都で買いましたわ。素晴らしい耳飾りがありましたの!」
今度はパーティーに関する話題になった。ポアラの苦手な分野の話題なので、令嬢達の話を聞き流しながらお茶を飲み、お茶会が終わる時間をじりじりと待つ。
そしてお茶会は終わり、ポアラは急いで屋敷に帰った。
バルム伯爵領の当主であるサムデイル・ルウ・バルムは、娘のアンジェから急ぎの呼び出しを受けた。『大至急、屋敷に来てくれ』と。サムデイルは不審に思いながらウィール男爵家の屋敷を訪れた。
サムデイルがアンジェに会うと、呼び出した当の本人は疲労している。何事かと聞くと、
「客人が来て、事情を聞いたら混乱して……。私では判断が出来ないの」
「客人? 誰だ?」
「リリアさんの娘のレイファさんとその侍女のランナ。そしてレイファさんの代わりに帝国に連れて行かれたはずの親子。そしてトルクさんと一緒にその親子を助けた少年」
「ハァ!?」
サムデイルは愛娘の言葉に混乱する。水の聖女の娘、帝国から来た親子、そして行方不明のトルクを知る少年。
「トルクさんを知っている少年、オーファンという子で帝国の人間なの。その少年に事情を聞いたのだけど訳が分からなくて……」
「分からない?」
「気絶する前までトルクさんと一緒に帝都に居たそうなの。でもどうして王都に居るのって聞いたら、本人も分からないと言って……」
「それよりもその少年は本当にトルクの事を知っているのか?」
「トルクさんの生い立ち、家族構成、私達ウィール男爵の内容、バルム砦での出来事。エイルド達との昔話、他いろいろ知っていたわ」
「帝国の密偵か? トルクから事情を聞きだして……」
「それは無いと思うわ。救出した親子だけど、リリアさんの知り合いでレイファさんの恩人なの。少年はトルクさんと一緒にその親子を助け出したみたいで」
サムデイルはアンジェの意味不明な説明に混乱する。トルクが無事で、水の聖女の知り合いの親子を少年と一緒に助けた。……これは理解した。
どうしてトルクが帝都にいる? オーファンという少年がどうして帝都から王都に? どうしてトルクは王国に戻ってこない? オーファンとトルクはどんな関係? トルクは帝国で何をしている? 水の聖女の知り合いというのは? 娘のレイファが見つかった?
「……何が起きたんだ? アンジェ」
「……この二日間にいろいろ有ったの」
サムデイルは混乱から立ち直り、関係者を集めて事情を聞く事にした。
アンジェは関係者を集める。レイファと会って体調が少しずつ回復してきたリリア。侍女見習いのマリー。リリアの娘のレイファと侍女のランナ。ウィール男爵家の子供であるエイルド、ポアラ、ドイル。レイファ達を王都に連れて来たリリアの妹のルーシェ。帝国に連れて行かれたクイナとニューラ。トルクと一緒に親子を助けたオーファン。そしてバルム伯爵当主のサムデイル。
大人数を応接間に集める。マリーとランナは皆にお茶を用意する。お茶が行き渡りアンジェが喋りだした。
「とりあえずオーファンさんから事情を聞いて、クイナさんからも事情を聞いたのですが、良く分からないのでもう一度説明をお願いします。クイナさん、お願いします」
進行役となったアンジェはクイナに説明を求めた。
クイナは自分とニューラの事から話し始めた。アイローン伯爵家の侍女として働いていたとき、伯爵に目を付けられてニューラを身ごもった。その後、伯爵家の侍女をクビになったが、リリアとランナが援助してくれたので、ニューラを育てながらなんとか生活する事が出来た。数年後にリリアが死んだと聞いてアイローン伯爵家にいるランナから事情を聞こうとしたが、運悪くアイローン伯爵に捕まってしまった。
「リリア様が死んだと聞いて、ランナと会おうと思って考え無しにアイローン伯爵家に行った私が悪かったのです。そのせいでニューラの存在がアイローン伯爵にバレてしまいました。私はアイローン伯爵の専属の侍女となり、ニューラはレイファ様付きの侍女見習いになりました」
この場に子供がいるので、クイナはいろいろと言葉を考えながら説明した。大人達は事情が分かり厳しい表情をする。
「ニューラは私達の人質に近かったです。私やレイファ様が不興を買えばニューラが叱られ殴られるのです。娘に不憫な思いをさせて……」
泣きそうになるクイナをニューラが慰める。「私は大丈夫だから、お母様やレイファ様、ランナさんがいてくれたから」と言って母親を慰める。
クイナが泣き始めたのでランナが「私が説明を引き継ぎます」と言って説明を始める。
レイファが王都の学校に入る前にアイローン砦が陥落した。そしてアイローン伯爵は前々から帝国と繋がりを持っていたので、これを機に帝国に寝返る事を決める。レイファは帝国でも有名な水の聖女の娘で利用価値が有る為、連れて行かれることになった。レイファが帝国に行くとリリアとはもう会う事は出来ない。ランナはレイファを連れて逃げ出そうとしたが、失敗して罰を受けた。
帝国との国境付近でクイナは提案する。ニューラにレイファの振りをさせて時間を稼ぎ、その間にレイファ達は伯爵の手から逃れるという計画だ。そんなことをすればクイナもニューラも無事では済まない。しかしクイナの必死の説得によって最終的にはレイファとランナはその計画を受け入れ、遂にアイローン伯爵から逃げ出す事に成功した。その後、最初の逃亡失敗の罰を受けて怪我をしていたランナの回復を待って王都に移動する。その途中でリリアの妹であるルーシェと会い、三人で王都に向かった。
「私の怪我が酷く、回復するために時間がかかりました。しかしルーシェさんの協力が有って、無事にレイファ様をリリア様のもとへお連れすることが出来ました。私達の代わりにクイナとニューラが帝国に連れて行かれた事が気掛かりでしたが、無事に再会できて良かったです」
レイファ、ランナ、クイナ、ニューラの苦労が分かる説明だった。エイルド達もアイローン伯爵の酷さに怒りを覚え、オーファンも怒りを感じながら「私も殴っておくべきだった」と呟く。
「それで帝国での事だが……」
クイナは泣き止んでいない。ニューラは母親を慰めている。帝国出身のオーファンに視線が集まる。
「では私が説明させて頂きます。まず、帝国にアイローン伯爵の娘がいるという情報をトルクが聞いた事から始まります」
「ちょっと待て! お前とトルクはどういう関係だ!」
エイルドがオーファンとトルクの間柄を聞いてくる。ポアラもドイルも知りたそうだった。
「友達です。あとトルクから剣と魔法を教えてもらっています」
「トルクは無事なの! 捕虜じゃないの?」
ドイルがトルクの現状を聞いてくる。
「肉体的にも精神的にも健康だと思います。捕虜収容施設から逃げて、バルム砦で知り合った帝国貴族のロックマイヤー公爵家の人達と一緒に行動しています」
トルクの状況に頭を抱えたサムデイル。バルム砦で帝国貴族のロックマイヤー公爵家の者と知り合ったとは報告にあった。だが、今現在どんな事が有って帝国貴族と行動しているのか分からなかった。
リリアはトルクの無事を喜ぶが、貴族と一緒で大丈夫か心配になる。息子が貴族の不興を買わないかを心配した。
「オーファンさん、トルクは大丈夫なの?」
「大丈夫です、絶対に」
リリアの言葉に絶対大丈夫と言い切るオーファンにある意味不安ではあるが、信じる事にした。
「トルクは帝都で何をしているの? 何をするつもりなの?」
ポアラがオーファンに尋ねる。的確で本質を捉える質問に、オーファンはどう答えれば良いか言葉に迷う。トルクは帝国の後継者争いに足を踏み入れている。原因は自分なのでどう説明すれば良いか分からない。だからオーファンはトルクの真似をした。
「とりあえず、帝都での出来事を先に答えます。トルクがアイローン伯爵とトルクの妹が帝都に居るという情報を聞いた時の事です」
オーファンは先伸ばす方法を選んだ。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




