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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
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閑話 ウルリオ折檻中

 目が見えない。叫ぶことも出来ない。手も足も動かない。体の感覚がない。


「サクラ、ウルリオは」


 坊主の声が聞こえる。耳は聞こえるようだ。一体何が起きているんだ?


「ボルドラン。そこの倒れている馬鹿に精霊や御使いの事を教えなかったの?」

「申し訳ありません、ララーシャル様。どうかお許しを!」


 どうしてボルドランが謝罪しているんだ? 何かやったのか?


「許す? 何を許すの? この馬鹿がトルクを殺そうと思ったことを許さないといけないの?」


 どこかの馬鹿があの坊主を殺そうとしたのか? オレに気づかせないとは……。一体誰が? しかしララーシャルっていう嬢ちゃんはボルドラン相手になかなか迫力ある声を出しているな。


「この馬鹿には反省させますし、洗脳してトルク様の奴隷にもさせます。ロックマイヤー公爵家にも利用価値がありますので、なにとぞ……」


 公爵家に利用価値がある奴をボルドランの闇魔法で洗脳して坊主の奴隷にするって……可哀そうに。そいつの人生終わったな。

 しかしオレはどうして動けないのだろうか? ボルドランの闇魔法? 


「ララーシャル殿、サクラ殿。私に免じてウルリオを許して頂きたい。お願いします」


 え? オレの事なのか? 坊主を脅そうとしたけど、殺す気はなかったぞ。ただのフリだぞ。殺す気なら坊主ていどあっという間にぶっ殺すぞ。

 ロックマイヤー公爵も次期公爵も嬢ちゃんに謝罪しているな。……オレって結構ヤバい事したのか?

 お、坊主は気にしないって言っているぞ。殺気に気付かない子供だったから、そこまで気にしなかったのだろう。……しかしオレの殺気は子供でも気付くのだがな。坊主は鈍感なのか?

 ……しかし坊主が独り言のように話しているが、精霊と会話しているのか? ララーシャルの嬢ちゃんも独り言のように話しているし……。


「御使いや精霊についてはこっそり調べてみようか。場所はボルドランが知っているだろうし。あ、罪滅ぼしの代わりにボルドランやウルリオに調べ物を手伝ってもらおうよ。それが良いよ、サクラ、ララーシャル」


 罪滅ぼしに調べ物? どうしてそんな事になったんだ? それも精霊や御使いの事を調べる?

 精霊ってアレだろう。昔話に出てくるヤツ。そんなモノを調べてどうするんだ? そんな暇人みたいな事は学者にさせれば良いだろう。軍人や騎士の仕事ではない。


「少し納得がいかないけどサクラの言う通り、ボルドランとウルリオを許してあげるわ。次は無いわよ」

「謝罪を受け入れてくださり感謝いたします」


 嬢ちゃんはボルドランの謝罪を受け入れたようだな。罪滅ぼしも学者に調べさせたら良いから楽なモンだな。

 それでオレは何時になったら動けるようになるんだ?


「とりあえずウルリオは朝日を浴びたら動けるようになるそうです」

「トルク、もうすぐ夕方だぞ」

「……あと半日はこのままだと思う」

「……罰だし、半日くらい問題ないか」

「なに? ……分かったって。クリスハルト、オレ達は部屋に戻るから」


 坊主達は部屋から出て行った。残っているのはボルドランと公爵とクリスハルトの三人か。

 半日も動けないなんてな。……寝てたら半日くらいあっという間だから問題ないか。


「……助かった」

「本当に……。帝都が滅ぼされずに済んだ……」

「デックスレム様、クリスハルト様。誠に申し訳ありません。この馬鹿のせいで……」

「ボルドラン。トルク殿だけではなく、ララーシャル殿、オーファンとベルリディアにも害意が及んだら同じような事が起きる可能性がある。どんなことをしても守ってくれ」

「はい、全力を尽くします。私の部下を総動員して皆様をお守りします!」


 頑張れよ、ボルドラン。応援だけはしてやるぞ!


「しかし精霊と御使い様の事を調べる事になるとは……。ボルドラン、大丈夫なのか?」

「問題ありません、クリスハルト様。ラスカル男爵家には御使い様や精霊に関する書物があります。それに城の書庫や機密文書を調べてみます。後は……」

「村や町の言い伝え等だな。……大丈夫か?」

「少し時間がかかりますが何とかします。しかしラスカル男爵家で保存している資料は、主に帝国に関係するものに集中しています。王国側にある精霊や御使いの言い伝えとなると……」

「……トルクも時間のかかる重い罰を与える。ボルドランが従者になるのが、そんなに嫌なのだろうか」

「……私の不徳と致すところであります」


 いつも陰険な作戦や、人が嫌がる事をしている罰だな。ボルドランざまぁだな。


「それで原因となった馬鹿はどうするのだ? 本当に洗脳するか?」

「そうだな。この馬鹿のせいで帝都滅亡の危機にさらされたのだから」


 そんなに怒らないでくれよ、公爵家の方々よ。オレも反省しているさ。オレも自分に罰を課して、明日までは酒を飲まないよ。……動けないから飲めないけどな。


「そういえばウルリオを洗脳するのか?」

「実を言うとウルリオは洗脳が効かないのです。前に洗脳を試したことがあったのですが……」


 ちょっと待て! オレを洗脳したって! いつ試したんだ!


「闇魔法の洗脳が効かない奴は偶に居るのです。ウルリオのような馬鹿には洗脳が効かないのが多く、記憶操作は馬鹿の方が上手くいくのですが……」

「……そうか。馬鹿には効かないのか」

「馬鹿だから仕方ないのか……」


 テメー等! 馬鹿馬鹿言うな! ぶっ殺すぞ!


「それに闇魔法の洗脳は五感を利用した方がやりやすいのですが、今のウルリオは聴覚しか感覚がないので無理です」

「……ではこの馬鹿を反省させるしかないか」

「それしかないか……。しかし大丈夫だろうか?」


 反省するよ! 絶対に坊主には殺気を出さないって。坊主だけじゃなくて関係者にも殺気を出さないよ。


「サクラからの伝言よ」

「ララーシャル殿? どこに居るのですか?」

「このメッセージは声だけをこの部屋に届けているの。だから返事は出来ないわ。ウルリオに残してある聴覚だけど、罰として聴覚も遮断するみたいだから。今のうちに言いたいことを言っておいてね」


 耳も聴こえなくするのか!?


「……クリスハルト、ボルドラン。質問があるのだが、精霊は私達の声を遠くから聞くことが可能なのか?」

「可能でしょう。ラスカル男爵家に伝わる書物には遠距離での会話が可能だと書かれてありました」

「父上もトルクの認識除外の術や空を飛んだりしたでしょう。声を聞く程度なら可能なのでは?」

「改めて精霊の凄さを……」


 ……本当に声も聴こえなくなった。考えることは出来るが何も出来ない。あと半日くらいこのままなのか……。

 ……暇だな。なにか面白いことないか? 暇すぎる。体感時間が長く感じる。暇な時ほど時間がゆっくり感じる様なものかな?

 ……体感時間も狂った。あとどの位このままなんだ? あと半分くらいか?

 ……何も感じず動けない事がこんなにもキツイとは思わなかった。腹も減らないし寝ることも出来ないなんて。

 ……見る事も、聞く事も、声を出す事も、感じる事も出来ない事が辛い。狂ってしまいそうな気がする。

 ……オレは息を吐いているのか? オレの心臓は動いているのか? オレの両手両足は在るのか? それすらも分からないというのが怖いと初めて知った。

 夜明けはまだなのか? 朝日はまだなのか? もうそろそろ時間だろう?

 いったい何時になったら動けるんだ! どうしてこんな事になったんだ! キツイ! 狂ってしまいそうだ! どうしてオレはこんな目にあっているんだ!? 


「どう? 反省した?」


 その声は! ララーシャルの嬢ちゃん! 他人の声を聞く事がこんなに嬉しいなんて!


「トルクに殺気を向けた事を反省したかしら?」


 反省した! 金輪際坊主に殺気を向けたりしない!


「……反省の色が足りないようね。トルクの事を坊主って言うなんて」


 すいません! ララーシャル様! トルク様に今後は絶対の忠誠を誓いますからどうか!


「本当に反省した?」


 反省しました! ものすごく反省しました! だから許してください! ララーシャル様!


「……信用できないわね」


 なんで! どうして!


「貴方みたいな口だけの男って居るのよねー。口だけ男ってヤツかしら」


 絶対にオレは口だけの男ではありません! 信じてください! なんでもしますから! 皆様に皇帝でも貴族でも殺せと言われたら実行します! 絶対殺しますから!


「じゃあ、口だけの男ではないという事を証明して頂戴」


 なんでもやります! どんなことでもします!


「まずはアイスクリーム作りを手伝って、それからトルクが作る料理の材料の仕入れ。それからボルドランと一緒に罰を受けて、クリスハルト達の手伝い。まずはそのくらいかしら?」


 分かりました! やります! やれます! やってみせます! どんな事でもします!」


「ん、起きたか? ウルリオ」


 ベッドから跳ね起きた。近くでボルドランが書類を見ている。

 目が見える! 声が聞こえる! 手も足も動く! 腹も減っている! 立ち上がって体を動かす!


「調子はどうだ? 一日以上も五感が無い状態だったが大丈夫か?」

「……大丈夫だ。……体は動く。しかし腹が減った。……どのくらいあの状態だったんだ?」

「一日半だ。昨日は曇りで朝日を浴びる事が出来なかったから罰が伸びた」


 どうりで腹が減っているわけだ……。ボルドランは何をしているんだ?


「お前が寝ていた間にいろんな事が起きた。ロックマイヤー公爵は皇位継承者の者達に目を付けられて大変な状態に陥っている。私は部下に情報収集と屋敷の警備を手配している最中だ。お前にも手伝ってもらうぞ」


 ……オレが寝ている間にいったい何が有った?


「それからウルリオにトルク様の説明をしなかった罰として、精霊や御使いに関する言い伝えを整理している。お前のせいで従者になる事が難しくなった」

「すまん、ボルドラン。マジで反省している。二度とトルク様やララーシャル様に反抗的な態度はとらない」

「……どうした? 頭がおかしくなったか? お前がそんな殊勝になるなんて」


 軍の上層部や貴族に何か言われても反省すらした事が無いオレだ。しかし精霊に罰を受けて御使い様には逆らわない事を心に刻み込まれた。あの恐怖を味わうくらいなら貴族殺しなんて朝飯前だ。


「御二人に謝罪をしようと思うが、トルク様とララーシャル様はどちらに?」

「お前が様付けとは……。それよりも警護を手伝ってくれ。お前が正面に出るだけでもロックマイヤー公爵やトルク様達の手助けになる」


 現状はそんなにヤバいのか? どういった状況なのかボルドランから説明を聞いて顔から血が引く。


「どうしてそんな状況に陥っているんだ! お前が居ながら!」

「お前のせいでトルク様達から距離を置かれた。その挽回中に起こった事件だ。そして今の私には御使い様や精霊に対応できないという事が分かった。トルク様やララーシャル様への謝罪は後にして、先に警護を手伝ってくれ。落ち着いたらオレが間に入って謝罪の場を作るから」

「……分かった。警護に回ろう。現場責任者は誰だ?」

「クリスハルト様だ、頼んだぞ!」


 ボルドランの頼みを聞いてオレはロックマイヤー公爵次期当主の所に向かう。腹の減りも忘れるくらいの状況だ。

 今回の件でトルク様の為に働き忠誠を誓おう! 絶対に御使い様には敵対しない! またあの暗黒空間に閉じ込められるのは死んでも嫌だ! トルク様に信頼されているロックマイヤー公爵にも仲裁を頼み込もう。その為には働きを観てもらわないと!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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