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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
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26 トルク無双

 ソバーレル公爵の配下の騎士に見つかり、オレは屋敷の中に逃げ出した。そして思った。『どうして空を飛んで逃げなかったんだ!』と。テンパっているのか?


「屋敷に逃げ込んだぞ! 捕まえろ!」


 一階から二階に上がり、廊下で挟み込まれたので窓から飛んで逃げようとしたら、窓に鍵がかかっていた。


「捕まえろ!」


 騎士達が飛び掛かってきたので、土魔法の石礫を放って騎士達に当てる。見事にノックアウトさせて、窓から出るのを諦めて再度逃げ出す。リアル鬼ごっこをする羽目になるとは!


「ドラゴンさん! どうしてオレだけ置いたの! オレもオーファン達と一緒に逃げてもいいじゃないか!」

「でも悪党を倒すために来たのでしょう? ちゃんと処理をしないと」

「ここに来た理由は妹の救出! 悪党退治は三の次!」

「二は?」

「二は屋敷から出る事!」

「だったら悪党退治が出来るね」

「はなし通じてる!? 悪党退治はもっと準備をしてからやらないと!」


 一緒に走っているドラゴンさんと言い争うが、彼は「御使いによる悪党退治! 楽しいね」と言って嬉しそうに笑う。……タヌキ姿だから笑っているのか良く分からんが。

 屋敷内ではなくて外に出ないと! 二階から一階に降りる。騎士達がオレを捕まえようとするので、火魔法の火玉、水魔法の水玉で撃退しながら外に出ようとする。

 正面玄関のエントランスホールに着いた。もうすぐ外だ!

 しかし玄関から騎士達が! そして後方も騎士達に囲まれてしまった! 逃げ場がない!

 騎士達に囲まれたが、こっちには寄って来ない。……天井を魔法で壊して飛んで逃げるか?


「さすがはトルク君。逃げるふりをしながら敵を集めていたんだね」


 ドラゴンさんの納得したような表情。タヌキ姿からは良く分からないが身振りで分かる。……勘弁してほしい。


「実を言うとね。僕も御使いとフ○ージョンをやってみたかったんだ。基本的に御使いは一緒に居る精霊としかフュー○ョンをしないからね。でもこの場所にはサクラはいないし、精霊は僕だけ」


 サクラをオーファン達と一緒に飛ばしたのは、オレとフュージ○ンをしたかったから? それよりも逃げ場を! マジで囲まれたぞ!


「さあ! トルク君。僕と合体だ!」


 ……嫌な単語だ。人外のタヌキの精霊から聞く言葉ではないぞ。


「友達を助けるのは当たり前の事だしね。僕と合体しよう! 僕はいつでもバッチコーイだよ!」


 短い両手を広げるドラゴンさん。可愛い女の子にやってもらいたいポーズのベストテンにランクインする動作をタヌキ姿の精霊がするなんて……。やる気無くすわ~。


「子供を取り囲め! 魔法を使おうとしたら阻止しろ!」

「逃げられないように武器を構えろ!」

「動かなくなったな。降伏しろ!」


 動かなくなった理由はドラゴンさんせいでやる気が阻害されたからだ。……いや、やる気を出せ! このままではマジで捕まって拷問されるぞ!

 騎士達は槍や剣を構えてオレを包囲している。この状況を打破する方法はフュージョ○によって強くなるしかないのか? でもサクラ以外の精霊とフ○ージョンをする事は出来るのか? 失敗してララーシャルのように半精霊とかになったりしないだろうな? 


「大丈夫だよ、トルク君。歴代の御使いの中でもトルク君は初代に匹敵しているから。僕と合体して敵を倒そうではないか!」

「ドラゴンさんが地割れ起こしてくれた方が良くない?」

「地割れとか起こすと魔力が必要になるから。それに結界張っていたときに魔力を使ったから。これ以上魔力を使うよりも合体した方が効率良いんだよ」

「……分かった」


 ドラゴンさんが言う魔力うんぬんは本当か怪しいが、この状況を打破するにはドラゴンさんとフュ○ジョンするしかないだろう。


「じゃあ、行っくよ~」


 ドラゴンさんがオレの中に飛び込んでくる。そして魔力がグンっと高まり、その衝撃波が騎士達を吹き飛ばした。体を見ると青色のオーラが噴き出し、前髪が青色に変わっている。フュー○ョンは成功したようだ。……どこかの有名アニメの様な強くなる方法だな。

 オレを囲んでいた騎士達は、オレの姿が急に変わった事に戸惑い、わけも分からず吹っ飛ばされることに動揺している。衝撃波の影響で囲いが途切れ、玄関までの道が開いている。オレは出口に向かって走り出そうと足を踏み出す、その一歩目、ドスン! という音と共に強震が起きた。地面と一緒に屋敷が揺れて四方八方に衝撃が広がっていく。


(トルク君。ゆっくり歩かないと強震が起きるよ。足を踏み込んだら振動が起きて屋敷が大変な事になるから)


 ドラゴンさんの声が聞こえる。……試しに足で地面を強く踏み付ける。最初の踏み込みよりも更に大きな音で強震が起きて、地割れが起き玄関が破壊され、建物が揺れて家具が倒れ、騎士達も倒れる。


(トルク君! そんなに強く踏み込むと、敷地の地盤が上昇して大変な事になるから。ちょっと手加減して!)


 ゆっくり歩きだす。……大丈夫みたいだな。……走ったら強震。強く踏み込んだら地割れ。気をつけて歩かないと大地が揺れるなんてありえないだろう!


(この辺の大地と大気の精霊だから。この程度は楽勝だよ。でもトルク君も凄いよね。足を踏み付けただけで地割れと強震を起こすなんて、さすが御使い!)


 褒めているんか、それ? とりあえずゆっくり歩いて外に出よう。

 倒れ込んでいる騎士達を避けながら外に出ると、地面が隆起したり地割れ穴が空いたり、木が倒れ路面もぐちゃぐちゃ。外に集まっていた騎士達も地割れに落ちたりして大変みたいだ。


「こ、子供が出て来たぞ! 捕まえろ!」


 無事な騎士が数名、オレを捕まえようとした。オレはヤバいと思って魔法を使おうとしたが、魔法を使う前に騎士達が吹っ飛んだ。……あれ?


(この辺の大気はトルク君の味方だよ。敵対した相手を吹き飛ばす事が出来るから)


 動けば強震、念じて手を掲げれば人間を吹き飛ばす。……強すぎるだろう!

 他にも騎士がオレを捕まえようと近づくが、念じて吹き飛ばし、地面を踏み込んで地割れに飲み込ませた。


「魔法が使える者! 遠距離から攻撃するんだ!」


 今度は数名が魔法を使ってきた。……火魔法の火玉だな。しかし火玉が近づくにつれて小さくなり消えた。


(人間の魔法程度が僕のトルク君に当たるわけないよ)


 魔法が消えても連発して火玉を使う魔法使い。……うざくなったのでこっちも魔法使い相手に水魔法の水玉で迎撃する。……いつもよりも大きい水玉で発射スピードも桁違いだ。これもフュー○ョンの効果だろう。そして水玉に当たった魔法使いは衝撃で気絶した。


「私が相手だ!」


 魔法を使った隙をついて騎士の一人が槍を構えて向かってきた。槍を突かれて当たりそうだったけど、見えない壁に阻まれ槍が止まる。そして騎士は吹き飛ばされた。


(その程度の突きで、僕のガードが抜ける訳ないよ)


 近距離ではガードに阻まれ、遠距離攻撃は届かず、近づこうとしたら吹き飛ばされ埋められる。青色のオーラを纏っているオレから騎士達は距離を置く。普通ではない状況に恐怖を感じて動けずにいた。


「ま、まさか、お前は……」


 ソバーレル公爵がオレを指さす。なに震えながらしゃべっているんだ? そして隣の父親は、


「早くそいつを殺せ! ソバーレル公爵の騎士は子供一人殺せないのか!」


 あいかわらず傲慢な思考で他人を貶す。……地面から脱出できたんだな。もう一度地面に落としてやろう! 足を力強く踏み込んで父親のいる方に地割れを起こした。……地割れは命中精度が低く、明後日の方へ伸びて護衛の騎士が一人飲み込まれてしまった。


「ルルーシャルという老婆のはず。だが……」

「ソバーレル公爵! なにをしている! 早くあのガキを殺せ! 騎士達に命令しろ!」

「うるさい! 黙ってろ! ……アイローン伯爵の子供よ。お前は何者だ!」


 ソバーレル公爵の顔色が悪い。冷や汗が出ている。オレを指す手が震えている。そんな言葉を無視してオレは二人の方に歩く。


「動くな! アイローン伯爵の子供! 私の質問に答えろ! お前は本当にオルレイド王国出身なのか!」

「王国出身だ。そこに居る親父のアイローン伯爵領で生まれた」


 そんな事を聞いてどうする? オレがどこ生まれだろうが、護衛の騎士達を吹き飛ばして、お前達をぶん殴るだけだぞ。


(そうだそうだ! 行け、トルク君)


 ドラゴンさんがオレを応援してくれる。一緒に悪人をぶん殴ろう。


「ソバーレル公爵、早く命令しろ! このガキは異常だ! 早く殺さないゲフッ!」


 あ、ソバーレル公爵が父親を殴りつけた。いきなり仲間割れか?


「待ってくれ、アイローン伯爵の息子よ。 少し話し合いたい! 君はルルーシャルという老婆を知っているか? 精霊を知っているのか? 御使いという言葉を聞いた事は有るか!」

「……アイローン伯爵の子供だけど捨てられたからそのように呼ぶな。ルルーシャル婆さんと精霊の事は知っている。アンタの目の前に居る平民の糞餓鬼が代替わりした新しい御使いだよ」


 オレの言葉を聞いてソバーレル公爵の顔色は更に悪くなった。


「御使いが代替わりしている事も帝都に居るなんて事も聞いていない! どうなっているんだ!」

「そんな事よりも覚悟は出来たか? よくもオレの妹やクイナさんを酷い目に遭わせたな」

「私はそんな事をしていない! アイローン伯爵が勝手にした事だ!」

「そのアイローン伯爵と縁を結んだ事が原因だな。それにロックマイヤー公爵を陥れようとしただろう」

「い、いや、そんな事はしてない!」

「じゃあ、この手紙はなんだ?」


 密談していた時の手紙をみせる。ソバーレル公爵は『どうしてそれを持っている!』という表情をして、


「そ、それは……」

「ソバーレル公爵! 何をしている! 早くガキを殺せ! おい! 騎士ども! さっさとガキをゴブッ!」


 言葉を発する事が出来ないソバーレル公爵の代わりに父親が口を出してきた。そしてまた殴られる。


「やかましいぞ! なんでお前の子供が御使いなんだ! どうして知らない! お前は御使いがどんな存在なのか知らないのか! この大馬鹿野郎!」


 父親の胸ぐら掴んで大声で責めるソバーレル公爵。


「精霊の力を借りてなんでもする事が出来るバケモノなんだぞ! 毛根を死滅させられて死ぬまでずっと帽子を被り続ける羽目になるんだぞ!」

「な、なにを言っているんだ?」

「うるさい! 黙れ! 私の父は一生死ぬまで帽子を被っていた! 亡くなったときも帽子を被って墓に入った! 私はどんな事をしてでも頭髪を死守する!」


 ……ハゲになるのがそんなに嫌なのか? 歳を取ったら抜けるモノだろう?


「お前のせいだ! お前のせいで御使いが来た! この疫病神め!」


 父親をぶん殴って土下座させるソバーレル公爵。そしてオレに跪いて、


「御使いよ! 頼む! 許してくれ! アイローン伯爵と縁を切る! 貴方には逆らわない! 忠誠を誓う! なんでもする! だから命と髪を助けてくれ!」

(先代の御使いと一緒に居た精霊がハゲにしたからね。僕も彼等をハゲにした方が良いかな?)


 ドラゴンさん、それはまだ止めて。

 それにしてもソバーレル公爵の変わりように周りの騎士達が何事かと動揺している。……本当に上層部しか御使いの事はしらないんだな。オレはソバーレル公爵に話しかけた。


「……サンフィールド公爵と内密でロックマイヤー公爵を害するというのは」

「サンフィールド公爵とは縁を切る! ロックマイヤー公爵と同じく王国と和平を目指します!」

「ファーレンフォール伯爵家の先代皇帝の子供に関してだけど」

「手出しはしません! 皇族にも忠誠を誓います!」

「自分が皇帝になるという……」

「皇帝候補を辞退します! だから命と髪を許してくれ!」

「アイローン伯爵だけど……」

「縁を切ったので煮るなり焼くなり好きにして、いえ私が処罰します! 御使い様に迷惑をかけないようにこっちで処罰します!」

「何を言うんだ! 私は伯爵だぞ! ソバーレル公爵ともあろう者が、そんなガキに頭を下げて恥ずかしくないのか!」


 父親が土下座から立ち上がり、オレに殴りかかってくる。反撃しようとする前に、ソバーレル公爵が父親をぶん殴って止めた。


「売国奴の裏切り者が口を開くな、この低能が! 貴様の言動で御使い様の不興を買ったらどう責任を取る! 御使い様よ、申し訳ない。アイローン伯爵家の者達は全員罰するので怒りを収めてほしい。お前達! アイローン伯爵家の者達を捕まえて牢屋に入れておけ!」


 ソバーレル公爵の命令を受けても、本当に捕縛して良いのか考えている騎士達。動き出さない騎士達に「早くしろ! 命令が聞けないのか! アイローン伯爵家の者達を捕まえろ!」と怒声を浴びせ、騎士達は父親を拘束し、半壊している屋敷の住人達を捕まえに行った。父親はソバーレル公爵の豹変に怒り、悪態を付くが、拘束している騎士に口を封じられ連行された。屋敷内に居たアイローン伯爵夫人や腹違いの弟のファルゴン。そして騎士、使用人、侍女達も捕縛されて連れて行かれた。

 ソバーレル公爵は傷だらけで頭髪が抜けてハゲているファルゴンを見て、自分の頭を触り髪がある事を確認して安堵している。


(終わったみたいだね、トルク君。次はどうしようか? 屋敷の主人は改心したようだけど)


 ドラゴンさんの言葉に、終わったと判断して良いのだろうか? ニューラ達の救出は終わったし、ロックマイヤー公爵邸に帰ってあとはゆっくり過ごそうかな? そういえばニューラ達の事をクリスハルトや公爵さんに説明をしないといけないが、どうやって説明をすれば良いだろう? あとソバーレル公爵が味方してくれる事も。


「トルク! 何をしているの!」


 あ、ララーシャルが文字通り飛んできた。どうした? ロックマイヤー公爵邸で待っているんじゃなかったのか?


「帝都で地震が起きて大パニックよ! どうしてこんな事になったの! 誰とフュージョ○してるの! サクラは? オーファン君は? トルクの妹は?」

「え? ロックマイヤー公爵邸に先に帰ってないの?」

「誰も帰ってないわよ! 地震が起きてクリスハルト達にトルクが外出した事がバレるし、サクラ達は行方不明だし、どうなっているの?」

「ドラゴンさんに聞いてみる……」


 あれ? 意識が遠くなる……。なんで?


(あれ、トルク君の魔力を使い過ぎたかな? ごめんね、ちょっとやり過ぎたみたい)


 ドラゴンさんの謝罪が聞こえたけど意識を失って返事を返す事は出来なかった。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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この主人公、ほんと口だけだな。殺す殺す→殺さない。
[良い点] フュージョンする相手で能力や見た目が変わるのが某テイルズのやつみたいで胸熱! 今後も他の精霊とすることあるかな? サクラやララーシャルが嫉妬するかな次回が楽しみ
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