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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
225/276

25 ソバーレル公爵と交渉

 ソバーレル公爵は中庭に埋まっている父親と騎士達を見渡して、最後にオレ達を見た。


「ニューラ、これはお前の仕業なのか? 土魔法を使ってアイローン伯爵を埋めたのか?」


 そういえばソバーレル公爵はニューラの事を水の聖女の娘と紹介されていたな。


「彼女は水の聖女の娘じゃない。ニューラという名前で、水の聖女の娘の本当の名前はレイファだ」

「無礼者め! 平民が貴族に話しかけるな! 平民はおとなしく頭を下げていろ!」


 オレが説明をしたら怒られた。こいつも自分よりも下と考えている人間は道具と思っている口だ。


「これはお前がやったのか!」


 ニューラが問いに答えようとする前に、


「ソバーレル公爵! 早く私を助けろ! そしてこいつらを捕まえるんだ! 捕まえて拷問して絶対に後悔させてやる!」


 あ、父親が喋った。口から石を出せたの? 自分で? よく出せたな?


「うるさいぞ、アイローン伯爵! ……それで誰がこんな事をしたのだ! 中庭は地割れで半壊して、アイローン伯爵達は砂に埋もれている。水の聖女の娘が土魔法の才能に恵まれているとは聞いていない。そっちの女がやったのか?」


 そっちの女……。クイナさんの方を見ているな。ハズレだよ。クイナさんはソバーレル公爵から睨まれて震えている。


「違うよ。この女性はクイナさんと言って……」

「勝手にしゃべるな! この下郎が! 今度、許可なく口を開いたら処刑してやるぞ!」

「あ! あ! あ!」


 オレが「あ!」と連続して叫ぶ。意図的に許可なく口を開いて話しかけたオレに、ソバーレル公爵はさすがに怒った。顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。


「この平民のガキが! 痛い目を見たいのか!」


 騎士の一人がソバーレル公爵の前に出て剣を構えてこちらに向かおうとする。それに対してオレは土魔法の石礫を騎士に当てたけど剣で弾かれた。……石礫を弾くなんてかなり強い騎士かもしれないな。

 オレが魔法使いだと分かると周囲の騎士達も剣を抜いた。石礫を弾いた騎士は周りの騎士達に「ソバーレル公爵を守れ!」と指示してソバーレル公爵の周囲を固める。連携がスムーズ。他の騎士達も強いかもしれない。


「トルク、どうする?」


 オーファンが小声で話しかけてくる。


「とりあえず口喧嘩はオレの勝ちだな」

「……真面目な話、どうする気なの?」

「交渉して安全に屋敷から退去する」

「……これだけ騒ぎをおこしたのに?」

「無理かな?」

「無理だよ」


 確かに無理だよな。でも取り敢えずソバーレル公爵に父親に騙されていた事をチクっておこう。


「……魔法使いか。土魔法、それも中級レベルの使い手か。……誰の差し金で私の屋敷に来たのだ?」


 あれ? いつの間にか冷静な態度に変わっている。さっきまで怒っていたのに? でも頭に血が上っているようで顔は赤いままだ。激オコマークも付いているし。


「説明する。アイローン伯爵に紹介されていた子はニューラと言って水の聖女の娘ではない。オレはニューラとその母親のクイナさんを助けに来た。ついでにアイローン伯爵に恨みを晴らす用事も入っている」

「アイローン伯爵、そして騎士達を地面に埋めたのはお前の魔法か?」

「そうだ」

「……なかなか度胸が据わっている子供だな。屋敷に忍び込み、女達を誘拐して、アイローン伯爵を魔法で撃退して。……私の騎士達に囲まれているが次はどうするつもりかな?」


 いつの間にか騎士達が剣を抜いた状態でオレ達を囲んでいる。


「交渉する。オレの目的は彼女達の救出だけだ。アイローン伯爵の悪事を教えるから見逃してほしい」

「この状況で交渉だと? 正気か? 頭大丈夫か?」

「もちろん正気だし、頭も大丈夫だ。どうする? ソバーレル公爵。他にも情報はあるぞ。たとえばジャルブランド公爵やヤンキース辺境伯の情報とかはどうだ?」


 ジャルブランド公爵やヤンキース辺境伯の情報はブラフだ。知っているフリして相手よりも有利に立つ。交渉の基本は相手より優位に立つことだ!


「情報など、お前を拷問して締め上げれば良いだけだ。平民の分際で私の屋敷に侵入し、女をさらい、貴族を害した馬鹿を許すと思っているのか?」


 ソバーレル公爵は怒っているようだ。そして便乗した父親が言った。


「その通りだ! 無能の息子の分際で父親である私に逆らうのだから!」

「待て、アイローン伯爵。こいつはお前の子供なのか?」

「昔捨てたガキだ! そんな事はどうでも良いから! 私を助けてくれ! こいつには親に逆らった罰を与えないといけないのだ!」

「おい、お前! アイローン伯爵の言っている事は本当なのか!?」

「事実だよ。オレは水の聖女と呼ばれたリリア母さんの子供だ」

「確か、水の聖女には子供が二人いた。一人は死んだと聞いていたが……」

「誰から聞いたかは知らないが生きているよ。そしてレイファは王国に残っているらしい。何度も説明しているがこの子はニューラという名前でオレの腹違いの妹だよ」


 オレが事実を伝えるとソバーレル公爵は父親に「騙したのか!」と言った。


「騙していない! そいつが嘘を言っているのだ! そのガキと私、どちらを信じるのだ!」

「このガキはお前の子供だと先ほど言ったのはお前だろう! どうして黙っていたのだ!」

「こんなガキに利用価値があると思っているのか! 死んだと聞いていたんだから教えなくても問題無いだろう!」

「だが現に生きているではないか! それも魔法使いだ! そんな奴を利用価値が無いだと!? 寝ぼけているのか?」

「そんなガキよりも魔法が使える者はいくらでも居る! 貴族ではなく平民のガキが使える魔法なんてタカがしれている!」


 ……二人で言い争っているな。今の内に逃げ出すかな? サクラ!


「そうね、でも父親に恨みを晴らさなくて良いの?」

「オレには父親に反省させる事も、性根を治す事も、後悔させる事も出来ないようだ。きっとなに言われても反省出来ない人種なんだろうな」


 自分が偉いと思っている人間は、自分より下と思っている人間の言葉なんて聞く耳を持たないのだろう。自分が正しいと思っているので、下の人間の言葉は正論でも反論に聞こえるのだろうな。


「二人が争っている内にオレ達もお暇するか。サクラ、認識除外の術は使える?」

「ちょっと難しいわね。見られている人数が多いと認識除外の術を使っても認識される事があるのよ」


 え? 初めて聞いたぞ。認識除外の術に欠点があるってこと。認識除外の術を使うのなら此処から移動しないといけないのか…。どうすればいいか考えているとドラゴンさんが、


「大丈夫だよ、トルク君。一時的に私達が見えなくなれば良いのだから。サクラ殿」

「分かったわ」


 ドラゴンさんとサクラが通じ合う。何をする気なのか?

 そしてドラゴンさんが短い足で地面を踏む。すると大きな音とともにソバーレル公爵達がいる方の大地が弾けて砂埃が宙に舞った。そこにサクラが認識除外の術をかけたので、オレ達の姿は他人から認識できなくなった。

 オレはオーファン達に「今の内に移動するよ。それから認識除外の術をかけたら静かにね」と言って騎士達が居ない屋敷の方に移動した。


「ソバーレル公爵、一時避難を!」

「全員、後退しろ! 盾持ちは前に出て警戒しろ!」


 騎士達は砂埃が舞う中、いろいろと行動しているようだ。……そういえば埋もれている父親や騎士達はどうなっているだろう。動けないから埃まみれになっているのかな?


「私を助けろ! ソバーレル公爵、早く私をどうにかしてくれ!」


 父親は動けない状態で助けを呼んでいる。……無様だな。

 砂埃が段々と落ち着いてきた。盾持ちの騎士が埃まみれとなっており、その近くには埃まみれで砂に埋もれた父親がゲホゲホ咳き込んでいる。そして遠くに避難したソバーレル公爵は騎士達に囲まれて守られていた。


「子供達が居ないぞ! どこに行った!」


 うむ! 認識除外の術が効いている様だ。行方が分からなくなったオレ達に混乱するソバーレル公爵達。


「まだ敷地内に居るはずだ! 探し出して捕まえろ!」


 ソバーレル公爵が命令すると騎士達は分散して中庭から居なくなった。


「おい! 早く助けろ!」

「……アイローン伯爵達を助け出せ」


 ソバーレル公爵が嫌々ながら父親を助けるように指示した。さっきから喧しかったからな。

 それはそうとオレも混乱しているニューラとクイナさんに認識除外の術の説明をしないとな。


「……トルク様の魔法の様なもので、私達の姿は他の人には見えないのですか」

「そんな魔法聞いた事ない……」


 クイナさんとニューラはオレの説明を受け、他人から認識されていない事で納得した様だ。


「さて、これからの事だけど。安全な場所に移動して屋敷から出るか……」


 出る方法は簡単だ。他の人間達には認識されていないから静かに移動すれば良い。


「それなら僕が手伝ってあげる」


 ドラゴンさんが手伝ってくれるというので頼んだ。そして「今から声が出せないようにするけど心配しないでね。あと着地はサクラ殿に任せたよ」と言う。……着地って?

 ドラゴンさんが足を上げて地面を叩く。するとオーファン達の足元が少し揺れて、ドン! という音とともにサクラ、オーファン、ニューラ、クイナさんが飛ばされた。


「僕は帝都周辺の大地と大気を司る精霊。大地の力で人間を飛ばす事は訳ない。そして大気を操る事が出来るから声も遮断出来る。凄いでしょう、トルク君」


 確かに凄いね。大地を割ったりしていたから土系統の精霊だと思っていたけど、大気、空気の精霊でもあったんだね。みんな見事に飛んで行ったね。着地もサクラが居るなら大丈夫だろう。……でも。


「どうしてオレは残って居るの?」


 オレはどうして現地に居るの? オレも飛んで帰るんじゃないの? 仲間外れ?


「え? トルク君はこの人達を成敗するんでしょう。御使いなんだから」

「御使いだから、成敗するから、オレだけ残したの?」

「そうだよ。大丈夫だよ、僕も手伝うから。それに着地も成功したからサクラ殿もすぐに戻って来るよ」


 ……ドラゴンさんはソバーレル公爵とアイローン伯爵達を成敗するのに手を貸してくれるそうだ。どうしてそうなっているんだよ! オレは妹の救出に来たはずなのに! いつの間にか悪党退治になっているし!


「子供を発見しました!」


 そしてサクラが居なくなったから認識除外の術が解けて見つかったし!


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「精霊の御使いです^^」って言えば、この国ではなんとでもなるよね? …まあ、全員ハゲにすれば良いか!
[良い点] 更新ありがとうございます。皆んな禿げにしてしまえば良いのに。
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