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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
224/276

24 積年の恨みを晴らす方法

 中庭に出てまず目に付いたのは、タヌキのドラゴンさんの舞うブレイクダンスだった。次は、地下牢に通じる地割れに入ろうとしている騎士達が、見えない壁に阻まれて右往左往している光景だった。


「ドラゴンさん、……なにしているんだ?」

「この場所を守る為に結界を張っているのだよ。ほら人間が近寄ってこないだろう」


 結界を張っていたんだ……。今までご苦労様です。でもどうしてブレイクダンスのヘッドスピン系なんだ? 


「久しぶりにドラゴンの踊りを見たわ。相変わらず良い踊りっぷりね」


 サクラ、観点が違うような気がする。あとドラゴンさん、もう踊らなくても良いよ。

 そしてオレの出現に騎士の一人が叫んだ。


「アイローン伯爵! 子供が出てきました!」


 騎士に言われて、父親が近くにやってきた。


「誰だ! こんな所で何をしている!」


 オレの事は覚えていないようだ。生まれた時から数回しか会った事なかったからな。


「トルク君、この人間は君の血縁者なのかい?」

「その通り。オレの父親。そしてオレや母さんを捨て、妹と離れ離れにした張本人。オレ達の不幸の元凶」

「なるほど、だいたい分かったよ。この人間を懲らしめるんだね」

「そうだね」

「無視するな! 私を誰だと思っている!」


 いきなりキレだす父親。瞬間湯沸かし器か? 相変わらず沸点が低い奴だ。


「久しぶり。オレの事を忘れたのか?」

「うるさい! 私の質問に答えろ! お前は何をしている!」


 話が通じない親父に説明するのは面倒になってきた。どうしようか考えていたら、


「お前達! このガキを半殺しにしろ!」


 父親の命令を聞いて騎士達がオレに向かって来るが、サクラが地面を砂に変えて騎士達全員を砂の中に落とした。首だけ残っていてそれ以外は砂に埋もれて動けないでいる。


「久しぶりにサクラ殿の落とし砂を見ましたな。敵を数千単位で砂の中に落とし入れる落とし砂。見事としか言いようがありませんな」


 ドラゴンさんの感想を聞いてオレも驚いた。確かにサクラは砂も司る精霊だし、落とし砂(?)の術も見たことがあるけど、それは多くても十人くらいの範囲だった。でも数千人規模であっという間に地面を砂に変える事も出来るなんて……。相変わらず理不尽な精霊だ。


「何が起こったのだ! お前の仕業か!」


 怒りっぱなしの父親。これで会話ができるかな?


「外野がいなくなったな。改めて聞こう。オレを覚えてないのか? クソ親父!」


 オレの『クソ親父!』という言葉を聞いてようやく思い出したようだ。


「リリアの子供か! まだ生きていたのか!」

「生きていたよ。アンタを半殺しにするまで生き延びたよ」

「あの売女がバルム伯爵に媚びて生き延びたのか!」

「うるさいぞ。落ち目の元アイローン伯爵。王国を裏切って、領地を捨て、先祖代々の功績をドブに捨てた先祖不幸者。アンタのせいで先祖があの世で号泣しているぞ」

「黙れ! あんな寂れた領地など私には相応しくないのだ!」

「アンタの治世が悪いからだろう。どうせ無駄な贅沢をして、領地の税を上げて、治水をおろそかにして、領民に辛苦を舐めさせた結果だろう」

「黙れ! 黙れ! 私は貴族だ! 何も間違っていない! 貴様に何が分かる!」

「普通に分かるだろう、アンタが無能だという事は。無能な貴族ほどタチが悪いからな。アイローン伯爵領の皆が可哀そうだよ。もっともアンタが帝国に行ったから領民は喜んでいると思うよ」

「貴様! 子供の分際で私に盾突くとは! 殺されたいのか! 誰かあの餓鬼を殺せ!」

「殺す? 誰が? 周りの騎士達は地面に埋まって誰も使えないよ。目まで悪くなったのか? それとも頭? あ、頭は元から悪かったか」

「キサマー!」


 父親は剣を抜いてオレに向けた。口喧嘩はオレの勝利だな。そして地面に落ちている剣を拾った。少し重いけど振り回すことは出来るだろう。

 殺す気満々の父親がオレに向かって来る。荒々しく「殺してやる!」叫びながら向かって来る父親にオレも迎え撃つ! こいつを殺して不幸の元凶を絶ってやるのだ!

 しかし父親は地面が砂になっている場所を踏んで砂の中に落ちた……。首だけ地表に出ていて「卑怯だぞ! 正々堂々と戦え!」と言っている。

 ……オレも父親が砂に埋もれるとは思わなかったよ。サクラを見ると真面目な表情で言った。


「トルク。親子で殺し合うのはいけない事だと思うわ。ライと一緒に行動していたときも、親を恨んだ子供、子供を殺そうとする親を見た事あるけど、ライは子供に親を殺させない、親に子供を殺させなかったわ。ライは『親族殺しは絶対に将来後悔するから止めるべきだ』と言ってね」


 雷音さんの言葉か。確かにその通りだと思う。でも……。


「トルクは半殺しにするって言っていたから、私も応援しようと思っていたけど、親を殺す気だったわね。殺す場合は止めようと思っていたの。ライの言う通り後悔すると思うから。トルクには後悔をさせたくないわ」

「サクラ殿の言う通りだと私も思う。トルク君が親を殺す行為は私も反対しよう。親殺しから来る罪で後悔の念に押しつぶされる事もある。トルク君、どうか考えなおしてほしい」


 サクラとドラゴンさんに言われて少し頭が冷静になった。久しぶりに見たクソ親父のクソな言動に感情が爆発して殺意が止められなかったんだ。確かに今までは半殺し、八割殺しとは言っていたが、殺すとは言っていなかった。でも、レイファやニューラやクイナさんのことを考えたら、元凶を絶ち切った方がいいと思ったんだ。寸前でサクラが止めてくれたから、ギリギリの所で止まる事が出来た。

 深呼吸をして冷静さを取り戻す。……いつものオレ、いつものオレ、いつものオレ。よし!


「サクラ、止めてくれてありがとう。ドラゴンさんも迷惑をかけたね」


 二人に謝る。でも、


「恨みをどう晴らせば良いんだ? サクラ、ドラゴンさん。半殺しまでは良いんだよな?」


 全殺しは禁止なら、半殺しなら可能か精霊二人に聞く。すると、


「殺さなければ大丈夫よ。ライも恨みを晴らす事を手伝っていたし」

「もちろんだよ、トルク君。子供を不幸にした親に罰を与えるのは正しい行いだよ」


 サクラもドラゴンさん賛成だ。


「まずは埋まっている人達を骨折させましょう。埋まっているから簡単に骨くらい折る事が出来るわよ」

「それから心に消えない傷を刻もう。これはサクラ殿が得意分野だから、骨折の方は僕が担当しよう」

「ドラゴンは壊すのが得意だったわね。だったら骨折は任せるわ!」

「サクラ殿も心に傷を負わせすぎて精神崩壊させるのはやりすぎだから注意してね」


 肉体と精神に傷を負わせようとする精霊二人。……オレはどうやって恨みを晴らすんだ?


「サクラ、ドラゴンさん。オレは何をしたら良い? 埋まっている親をぶん殴るだけ? そのくらいしか出来ないの?」


 殴る程度では『恨みを晴らした』って実感が湧かないんだけど……。


「そうね……。そうだわ! 皆で的に向かって魔法を放つのはどうかしら? オーファンも魔法が使えるし。ほら『魔法は動いている的に当てて上達する』って言うでしょう。せっかくだから的になってもらいましょう!」

「彼女達は魔法が使えないようだから、僕が投擲物を用意するね」


 精霊二人は父親を魔法や投擲物の的にする事を提案する。オレも『魔法は動くモノに当てると上達する』という変な魔法理論を確かめたかったから良いかと考えた。

 オレは地下牢にいるオーファン達を呼んで協力してもらう事にした。


「トルク、外は大丈夫なのかい?」

「大丈夫だよ。オーファン達に頼みがあるから来てくれ」


 しばらくしたら、オーファン達が地下牢から出てきた。そして埋まっているアイローン伯爵と騎士達を見て驚く。


「大丈夫、口喧嘩で負けて暴挙に出たけど、鎮圧したから」


 オレはオーファンには魔法で的を撃つように、ニューラとクイナには恨みを晴らすようにドラゴンさんが用意した石を的に当てるように説明した。


「……トルク、その理論を今実験するのかい? それにオレも参加するの?」

「オレ達の恨みを晴らす為に、オーファンも協力してくれ」


 うるさく叫んでいる父親はクイナさん達に「助けろ! お前の娘がどうなっても良いのか!」とか「早く助けろ! 罰を与えるぞ!」とか喚いている。クイナさんとニューラは恐怖したのか、


「トルク様、私達には出来そうにありません……」


 恨みよりも恐怖が勝っているようだ。父親は二人に対して相当酷い事をしたのだろう。そしてうるさかったのでドラゴンさんが、


「少し黙らせよう」


 と口に石を入れて黙らせる。父親は「フゴ! フゴ!」としか言えなくなった。

 そしてオレはオーファンに「やり方を見せる」と言って、石礫に魔力を込めて回転させて威力を上げて父親の耳に狙いを定める。集中、集中……!


「フゴ! フンゴ! ゴハハンゴ!」


 父親がうるさいが集中しているオレには効かない! 牢屋の鍵を壊したときは手加減していたが、今度は本気を出して狙いをさだめる。そして「発射!」という言葉で石礫が目にも見えないくらいのスピードで父親の近くで着弾。砂を巻き上げる。……外したか。父親が首を動かしたから外れてしまった。


「……なかなか的に当てるのは難しいな。いつもなら当たるはずなんだが」

「トルク、当たったら顔面に穴が空く威力よ。殺しは駄目だからもう少し威力を抑えて頂戴……」

「大丈夫だよ、サクラ。耳を狙っただけだし。耳なら穴を空けても大丈夫だろう」

「石礫は駄目よ! 水魔法の水玉にしなさい! 致命傷は禁止よ! 手加減しなさい!」


 仕方がないからオーファンにも水玉で的に当てるように指示する。ニューラにも的に当てるように指示したが、


「ごめんなさい。私には無理です……。怖くて……」


 女の子だから暴力的なモノは駄目なんだな。仕方がないからオレが代わりに投擲物を投げて二人の恨みを晴らそう。魔法で的に当てるのはオーファンに頼んで。

 ピッチャートルク、第一球投げました! ボール! ノーコンです! 久しぶりに石を全力で投げたので父親の近くに埋まっている騎士に当たりました。……魔法なら命中できるんだけどな。

 オーファンもオレの代わりに水魔法の水玉で父親に当てる。オーファンは見事に当たったよ。父親も「ゴハ!」と言ってダメージを受けたようだ。


「どうだ、オーファン。動く的に当てると魔法が上手くなるっていうけど、上手くなった?」

「……埋まって動けない人が、動く的なのかは分からないけど、魔法の上達にはならないと思うよ。……まだ的に魔法を当てるの?」

「アイローン伯爵が反省する為に必要な事だよ」


 オレもオーファンに習って的に向かって投げる。今度は当たったけど、なんだろう、恨みが晴れない。

 オーファンが的に向かって当て続けているが、オレは的に当てる気が無くなった。


「……サクラ。こんな事をしても恨みが消えないよ。それにこんな事をしている自分が情けなくなった」


 無抵抗な人間を的にする。情けない行為だと分かった。魔法で的に当て続けるオーファンも、こんな事で魔法技術が上がるのか? 上がらないだろうと考える。


「父親のせいでいろんな人達が不幸になった。母さんもレイファもクイナさんもニューラも。アイローン伯爵領の人達もきっと恨んでいるだろう。魔法の的にした程度では恨みは晴れない。もっと他のやり方で自分の言動を反省させないと」

「……確かに罰が軽く感じるわね」


 オーファンに水魔法を当てられ続けている父親の顔は腫れて膨らんでいる。オレも石を投げたくらいじゃ恨みを晴らす事が出来ない。それに本人も反省はしていないようで「フゴ!フゴゴ!」と言っており、意訳『こんな事をしてただで済むと思うなよ! お前達、絶対に後悔させてやるからな!』と叫んでいる気がする。


「アイローン伯爵に罰を受けさせて罪を償わせ、反省させないと駄目じゃないのか?」

「そうね……。でもこの人間は反省する事ができるかしら? 身分が上位だから自分が正しいと思っている人間よ。そんな人間は自分よりも下だと見下している人には絶対に頭を下げないと思うわ」

「典型的な貴族だね。この人間はトルク君を見下しているから、反省を促しても反発して怒り出すよ。典型的な小物貴族だね」

「そんな奴に後悔させる方法か……。地面に埋まっている騎士達は反省している様だけど」


 オレを捕えようとして、サクラに砂に落とされて首だけ地面に出ている騎士達は、心に傷を刻まれてうめき声を出しながら反省している。父親だけはオレが魔法の的にしていたから心に傷が刻まれていない。先に傷を刻み込んだ方がよかったかな?


「トルク、いつまで魔法を当て続けるんだ? いい加減疲れてきたんだけど」


 オーファンはオレの代わりに魔法を当て続けていて、オレは「止めて良いよ」と言って『的に魔法を当てる魔法上達法』を止めさせた。

 父親は相変わらず「フゴフゴ!」と呻いており、反省の色がない。サクラが「ハゲる呪いかける?」と言ってきたので頼んでみるが、オレの恨みは晴れない。どうすれば良いのかオーファンとニューラとクイナさんに相談しよう。


「なあ、オーファン、ニューラ、クイナさん。埋まりながら喚いている馬鹿な中年オヤジを反省させる方法ってあるかな?」

「……オレは関わり合いがないから。というかオレに魔法を当て続けさせたのは恨みを晴らす為じゃないのか?」

「……分かりません。でも私は謝罪がほしいです。お母さんやみんなを不幸したのですから!」

「……平民である私達を道具扱いする人です。私達に謝罪するような事はないでしょう。でもアイローン伯爵のせいで不幸になった人々はたくさん居ます。その人達に謝罪してほしいですが……」


 オーファンはノーコメント。ニューラやクイナさんは反省させる方法が分からないが謝罪が欲しい。……オレも家族に謝罪が欲しいが無理だろうな。


「なんだ! この状況は!」


 声の方を向くとソバーレル公爵が配下の部下達を連れて中庭に来ていた。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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