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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
223/276

23 ポンポコドラゴン

「さてとこの場所から移動しようか。この辺は悪臭で臭くなるからな」


 オレは皆を連れてファルゴンが気絶している場所から移動する。……後ろから悪臭が漂ってきそうな音がし始めたからな。


「まずはニューラの母親の所に行こうか。ニューラ、案内頼む」

「母は屋敷の離れにある小屋に居るそうですが、私も場所が分からないのです」

「もしかして、この屋敷に住んでから会ってないの?」

「はい、何も用事がないときは屋根裏部屋に押し込められていて。母は離れの小屋にいるとしか聞いていません」


 困ったな。どうやって探そうか? 精霊に聞けば分かるかな?


「ニューラの母親は大丈夫なのかい?」

「……分かりません。最後に会った時はレイファ様達を逃がした罰としてアイローン伯爵の命令で皆に暴力を振るわれていました。本当なら私も暴力を振るわれるはずでしたが、母が身代わりになって……」


 ニューラの母親を早く助け出さないといけないな。重体患者の可能性が出てきたよ。


「サクラ、ニューラの母親の居場所が分かるか? 急いで助け出さないと!」

「ちょっと待ってね。今この屋敷にいる精霊達を呼んでみるから」


 そう言ってサクラはラッパを出して鳴らした。……屋台ラーメンで聞く音楽だ。……チャルメラではなくラッパで奏でるとは。


「サクラ、その音楽も雷音さんが?」

「え? この音楽は精霊に伝わる由緒ある呼びだし音よ。トルクもライと同じような事を聞くのね」


 由緒ある呼び出し音か……。ラーメンが食べたくなったな。今度作ってみようかな? そんな事を考えていると、笑い声を抑えているサクラがいる。……こいつ騙したのか?


「サクラ、本当に由緒ある呼び出し音か?」

「嘘よ。ライから教えてもらったのよ。でもこの音が呼び出しなのは本当よ」


 サクラの顔面をハリセンで叩きたい! そして思い出した!


「あ! どうして精霊に頼んだんだ!」


 ラッパの呼び出し音とサクラの虚偽で忘れていたが、精霊を呼ぶという事は精霊に何かを頼む事になり、こっちも精霊の願い事を叶えないといけないの!


「トルクの為よ。帝都にいる顔役の精霊に会わせる必要もあるしね」

「精霊に何かを頼めば、オレも精霊の頼みを聞く事になるだろう! また変な依頼されるのか!」

「大丈夫よ。私が先に頼みを聞いたわ。ほらアイスクリームを作ってもらったでしょう。あれは「御使いが作った新しい氷菓子よ」って言ってね。それを食べさせたの。精霊達も評判良くて「何かあったら協力する」って言質を貰ったわ」


 本当に大丈夫なのか? そしてオレが誰も居ない空間で会話しているので、ニューラが不審に思っているようだ。オーファンが「トルクは精霊にニューラの母の居場所を聞くみたいだから大丈夫だよ」と言っている。

 ……本当にオレは傍から見たら変な子供にしかみえないのだろうな。ちょっと悲しい。


「トルク、いったん屋敷の外に出ましょう。悪臭の漂う場所は会談するには場所が悪いわ」


 そうだな……。近くには弟も気絶しているし、そのうち他の人達も来るかもしれないからな。とりあえず屋敷の外に出るか。

 オレはオーファン達と屋敷の外に出る事にした。そしてサクラの案内で屋敷の中庭のような場所で待つ。

 サクラの認識除外が効いているのでオレ達の事は誰にも認識されない。しかし屋敷はかなり騒がしい。ニューラの行方不明とアイローン伯爵の息子が暴行を受けて気絶しているのを発見されて、下手人を捜しているからだ。


「あ、あの、本当に大丈夫なのですか? オーファン様」

「大丈夫だよ。彼等には私達の事がみえないからね」

「いったい、どうなっているの? 夢でもみているのかしら? それとも幻影? ……幻影ってどんな幻影なのかしら? 私の存在? それとも彼等が私を幻影として見ていたの? もしかして世界自体が幻影で 私は悪夢を見ているの」

「しっかりしてください! ニューラさん!」


 ニューラは屋敷の人達から認識されていない事に現実逃避を始めた。……精霊に関わった者達が通る道だな。

 オーファンがニューラを労っている様子を見学していると、


「来たわよ、トルク」


 とサクラから声をかけられた。帝都の顔役の精霊か。……背の高さはオレの半分くらい、二本足で立っているタヌキだな。……こいつが帝都の顔役の精霊なのか? そしてタヌキって二足歩行できるんだな……。


「君が新しい御使いのトルク君だね。初めまして、私はこの辺一帯の顔役を務める者だよ。ドラゴンと呼んでくれ」

「は、初めまして、ドラゴン。よろしく頼むよ」


 ドラゴンって名前のタヌキ……。名前負けしてないか?


「彼はね、劇になるくらい有名なのよ。ほら、ポンポコドラゴンって劇があるでしょう。主人公を助けるタヌキの元になっているのが彼なのよ」

「お恥ずかしい、若気の至りでしてね。私を見る事が出来た青年を助けた縁で一緒に旅をしていたら、それが劇になるなんて思いもしなかったよ。でも楽しい思い出だよ」


 サクラの会話から思い出にふけるタヌキのドラコン。……劇を観てないからどんな旅だったから分からないが、楽しい? 旅だったのだろう。……精霊にとっては。


「えーと、ドラゴン。頼みだけど……」

「分かっているよ。彼女の母親の居場所だね。他の精霊から聞いているよ」


 もう調べていたのか。仕事がはやいな、タヌキのドラゴンは。


「場所は何処?」

「ちょうどこの真下だね。地下牢に閉じ込められているようだ」


 真下? 離れの小屋じゃくて、中庭の真下に地下牢があるのか? 急いでニューラの母親を助けに行かないと!

 オレはドラゴンに礼を言って地下室への入口を探すべく踵を返そうとした。するとドラゴンはおもむろに短い脚を上げて、勢いよく地面に叩きつけた。その衝撃で、ありえないくらいの轟音と共に大地が割けて地面が二つに割れた。そして割れた地面に階段が伸び、地下牢へと続く道が出来た。

 この光景に青ざめるオーファンとニューラ。そして現実逃避から気絶一歩手前の立ち眩みで倒れそうになったニューラをオーファンが支える。


「トルク君。この階段を降りると地下牢に行けるよ。懐かしいね、旅していたときもこんな風に大地を割って盗賊を落下死させたものだ」

 優しい口調から物騒なセリフを吐くドラコン。……精霊はやっぱり加減がおかしい!

 とりあえずオーファンにニューラを背負ってもらって、オレ達は割れた地面から地下牢へと下りていく。でもこの割れた地面からアイローン伯爵の兵達が入って来たらどうしようか?


「トルク君。早く女性を助けに行くと良い。この場所は私が守るから」


 タヌキのドラゴンはグッと親指を立てる。器用なタヌキだな、グッドサインが出来るなんて。オレはドラゴンに「頼んだ!」と言って、サクラとニューラを背負っているオーファンと一緒に地下牢に向かった。

 地下牢の奥は暗いので光魔法を使って周囲を照らす。階段を降りて周りを見渡す。地下牢の天井を支えていた石壁が割れて散乱していたが、牢屋の中は何事もなかったようだ。地下牢の入口は大きな石で遮られていて、入口側からの敵襲は無いだろうと思う。

 牢屋の中で女性が床に倒れている。ニューラはそれを発見すると「お母さん!」と言って近づく。

 ニューラの母親は床に倒れたままで、娘の声にも反応しない。気絶しているのか? まさか死んでいるのか?

 オレは牢獄の中にいる女性を助ける為に牢の入口を開けようとするが、鍵がかかっていて中に入れない。仕方ないので魔法を使って鍵を壊すことにした。

 火魔法→密室で使ったら一酸化炭素中毒の可能性大。

 水魔法→水で鍵を壊せるのか? 思いつかない、無理。

 風魔法→風魔法で鉄が切れるか? 答え、無理。

 土魔法→石礫で壊す? 壊れるかどうか試すしかない。

 ……土魔法の石礫で鍵を壊してみるか。


「魔法で鍵を壊してみるから離れて」


 オレは久しぶりに土魔法の石礫を発動させる。魔力を込めて回転させて威力を上げる。鍵以外の物を破壊しないように、まずは六割くらいの威力で試してみよう。

 よし! いくぞ!

 オレの手から発射された石礫は鍵を壊し牢内の壁に大きな穴を空けた。……威力がおかしい。全力でもこんな威力を出した事ないはずだ。

 石礫の威力に驚くオーファンとニューラ。……二人とも怪我はない?


「トルク、強すぎだよ。全力を出さなくても……」

「ニューラの母親に当たったらいけないから六割くらい。全力は出してない。」


 オレの返事を聞いてオーファンはため息をする。そして、


「オレにはそんな威力は出せないよ。トルクと同じ技術を持っているはずなのにオレには出来ないという事は、ララーシャル様の言う通り経験不足なのか……」


 ララーシャルに何を言われたのか知らないが、ひとまずニューラの母親の容体を見よう。

 ニューラは母親に呼びかける。オレも容体を確認する……気絶か。しかし暴行を受けて怪我が酷い。回復魔法で癒やさないと!


「お母さん! 大丈夫?」

「……ニューラの、声が、聞こえるわ。幻聴が、聞こえるなんて、私も終わりなのかしら」


 ニューラの母親の意識が戻った!


「お母さん! 大丈夫?」

「……ニューラ。ここに、居ては危ないわ。貴方、だけでも、逃げて」

「お母さん、ここから逃げましょう。彼等が私を助けてくれたの! 一緒に逃げましょう」

「ニューラ、怪我の治療をする。ニューラのお母さんももう少し我慢してください」


 ニューラの母親は怪我で話すことも困難だ。オレは回復魔法を彼女に使う。まずは会話しやすいように顔から。他にも暴力を受けて体や手足の骨もヒビや打撲が多い。火傷の跡もあるから魔法の的になったのか? 治療に少し時間がかかるな。

 ニューラの母親はオレ達を見て言った。


「私はニューラの母のクイナと言います。私は良いですから娘を助けてください。これ以上、ニューラの足手まといにはなりたくないのです。私はどうなっても構わないので、娘だけでも助けてください」


 サクラのようにパッと治せないが別に構わない。回復魔法で治療する間に自己紹介しよう。


「初めまして、オレはトルク。こっちがオーファン。回復魔法で傷を癒すから一緒に逃げましょう」


 オレの名前を聞いたクイナさんはオレをジッと見る。クイナさんはオレの事を覚えているのかな?


「失礼ですか、リリア様の御子息のトルク様でしょうか?」

「あ、オレの事を知っていますか? 六歳くらいまでアイローン伯爵邸に居て、それからリリア母さんと一緒に捨てられたトルクです。お久しぶりと言った方が良かったかな?」

「いえ、初対面です。トルク様の事はランナから聞いています。どうしてトルク様がこちらに居るのですか?」

「その辺の説明は後で。今は此処から逃げましょう。回復魔法で治療するので体を楽にしてください」


 怪我が重いな。殴られ屋をしていたオーファンを助けたときよりも重体患者だ。まだ時間がかかる。でも時間がかかると言っても数十秒くらいだから大丈夫だろう。

 ニューラは怪我が治っていく母親を見て喜んでいる。サクラは、


「あ、トルク。腕の傷は浅いから軽めに。肩は骨にヒビが入っているから少し強めに。火傷の跡は慎重にしないと痛みを感じるわ。顔の傷は魔力を馴染ませて丁寧に。古傷の足は時間がかかるから最後に癒しましょう」


 サクラの助言を受けながらクイナさんの怪我を癒していく。怪我の傷みが和らいだのかクイナさんがオレに話しかけてきた。


「あの、トルク様。リリア様も帝国に居るのですか?」


 クイナさんが母親の居場所を聞いてくる。オレは治療しながら答えた。


「いや帝国に居るのはオレだけ。母さんは王都にいるはずだよ。妹が王都の学校に来る時を狙ってアイローン伯爵から助け出す計画があったんだ」

「……そうなのですね。ランナも王都に向かうと言っていましたので、お二人が無事に会えれば良いのですが」

「そうだね。オレもレイファと会って家族と幸せに暮らしたいよ」

「トルク様はどうして帝国にいるのですか?」

「回復魔法が使えるからバルム伯爵から騎爵位を受けて、回復要員としてバルム砦に行って、砦が落ちて捕虜になって帝国に連れて行かれて、バルム砦で知り合った貴族と一緒に行動してたら、アイローン伯爵の娘が帝都に居ると知ったから、レイファだと思って助ける為に帝都に来た」


 オレが説明を終えたら、クイナさんが黙った。……そうか、


「レイファは王都に居るみたいだけど、二人を助け出す事が出来て良かった。母さんもきっと二人が無事だと知ったら喜ぶよ」


 クイナさんは、恩人の息子が自分の娘をレイファだと誤解して助けに来た事に負い目を感じたのだろう。自分の意図した事ではないとはいえ、騙してしまったと思ったのではないのかな?


「オレも腹違いの妹とその母親を助け出せて良かったよ。クイナさん、今まで妹を助けてくれてありがとう。兄としてお礼させてほしい」

「そ、そのような言葉を、私も感謝しています。本当に娘や私を助けてくれて……」

「でも、まだ助けている途中だから。助かったら改めてお礼を貰うよ」


 現在地は帝都のソバーレル公爵邸の別邸の地下室の牢屋の中だからな。敵陣から無事に逃げるまで救出です。

 そんな事を考えながら治療していたら、オーファンが言った。


「トルク、外が騒がしくなった。入口と中庭に騎士や兵達が集まっているようだ」


 オーファンが外の声を聞いて判断したようだ。中庭からの入口はタヌキ精霊のドラゴンが守るって言っていたから大丈夫と思う。やり過ぎないと良いけどな……。地下牢の入口は大きな石壁で遮られているから大丈夫だろう。でも何か起こるか分からないから急いでクイナさんを治さないとな。


「オーファン、あともう少し時間がかかる。それまで情報収集しながら警戒してくれ」

「分かった。でもなるべく急いでくれよ」


 オレとオーファンのやり取りを聞いていたニューラがオレに「大丈夫なの」と聞く。


「大丈夫。ちょっと現実逃避するような事が起きるかもしれないが、心配しないで意識を保っていてくれ。無理だと思ったら気絶しても構わないから」

「本当に大丈夫なの! それ!」


 とりあえずニューラの言葉をスルーして治療を急ぐ。

 ……良し! 治療完了! これで脱出できるぞ! クイナさんは自身の体が癒された事に、そして動かなかった足も治った事に驚いている。


「トルク、地下室の入口方面には多分五人くらい、中庭方面には十人以上集まっている。どっちから出る?」

「……中庭から出ようか。敵を一掃して飛んで帰るのがベストだけど、人数増えたから飛んで行くのは無理かな」


 一人くらいなら背負って飛べるけど、二人は無理。


「サクラ様の認識除外の術で素通りする?」


 オーファンの提案に乗ろうと考えたが、中庭の方から偉そうな声が聞こえた。


「いったいどうなっている! 説明しろ!」


 父親であるアイローン伯爵の声が響いた。ニューラとクイナさんは恐怖に震えている。

 元凶が近くにいる。この元凶を無くさない事には、ニューラ達だけではなく、オレの家族が不幸になる。

 オレは覚悟を決めて父親と対峙する事を決めた。


「オーファンはニューラ達を頼む。サクラ、手伝ってくれ」


 そう言ってオレは中庭へ向かう事にした。オーファンが「トルク、大丈夫かい?」と聞いてきたので、オレは親指立てて「大丈夫」と答えた。




誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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