表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
221/276

21 妹を知っている腹違いの妹

 トルクです。現在サクラとオーファンと一緒にソバーレル公爵邸の屋根の上に退避しています。

 屋根から地上を見ると、侵入者情報が行き渡ったため警備が厳重になり、騎士や兵達が動き回ってハチの巣を突ついたような騒ぎです。

 ……みんな頑張っているな~。


「トルク、これからどうしようか?」

「認識除外の術はかかっているから、見つかる事はないよ。とりあえず今は動かないでおこう」


 オーファンの質問に答えて、オレは屋根に寝転んで空を見る。……朝は曇っていたが今は晴れたな。良い天気だ、明日は晴れるだろう……。


「トルク、現実逃避は良いから。とりあえずこの手紙どうしようか?」


 サクラがオレに渡した手紙。サンフィールド公爵がソバーレル公爵に送った密書。ロックマイヤー公爵を協力して倒そうという内容の手紙だ。

 この手紙がここにあるから、屋敷内が大騒ぎなんだな。

 ……どうして手紙があるのか? いつの間に手に入れたんだ?


「他にも裏帳簿と暗殺依頼書と愛人宛てのラブレターも有るわよ」

「……愛人宛てのラブレターは処分、待てよ、嫌がらせに良いかもしれないな」

「ナイスアイデア! 面白そうねトルク!」


 ソバーレル公爵のラブレターを公衆の面前で披露したら笑えるな。爆笑モンだぞ。

 そして執事姿をした男がソバーレル公爵に耳打ちする。するとソバーレル公爵は「犯人を捜せ!」と言って怒り出した。……なにやら事件が起きたのかな?


「トルク、ソバーレル公爵が裏帳簿を盗まれた事に気付いたようね。顔を真っ赤にして怒っているわ」

「そうだね、サクラ。大変だね~。大事なモノが盗まれたんだから」

「この手紙やら裏帳簿やらが表に出たら、継承権争いから脱落ね」

「日頃の行いが悪かったから、こんな目に遭うんだよ。オレ達は善行を積んで生きて行こう」


 オレとサクラの会話は分からないオーファンだが、オレとサクラが原因だと分かったようだ。そして、


「……善行ってなんだろうね。トルクとは善行について話し合いが必要だと思うよ」

「オレは基本的に寡言善行を是として生きているよ。結果は別として」

「そうだね。トルクの場合は結果的に上手くいって解決するか、おかしくなるか、深みに嵌るかだと思うよ」

「……現状は?」

「深みに嵌っているけど、トルクの場合は精霊が物理的に解決するからね……」

「オーファン、『終わり良ければ総て良し』って言葉って良いよね」

「それは終わってから判断しよう」


 ……オーファンとの会話が長年連れ添った相棒相手みたいになっているな。これもオレの能力や経験を写したからだろうか?

 しかし今回の侵入は失敗だったな。助けるはずの妹が別人で、ぶん殴ろうと思っていた父親もまだ殴れていない。……隙を見て父親を殴りに行くか? でも今の状況では難しいか。

 そういえば父親の家族も帝都にいるのかな? 偽の妹がいるのだから、正妻と子供もこの屋敷にいるのではないか? 他にも侍女や騎士や使用人もこの屋敷にいるのかな? 母親と親しかった侍女もいるのだろうか? その侍女に妹の事を聞けるだろうか?


「サクラ、アイローン伯爵夫人やその子供ってどこにいるかな?」

「その人達なら、離れの屋敷に居るわよ。ほら、あっちの屋敷」


 サクラに言われた方をみる。本館よりもかなり小さいけど、数十人は生活できそうな屋敷がある。……あっちの方は警備が手薄だから行ってみるか。上手くいけば妹の情報が聞けるかもしれない。


「とりあえず、偽の妹が何処に居るのか調査しよう。伯爵夫人や使用人達が何か知っているかも」


 オレはサクラとオーファンに話して、離れの屋敷に行くことにした。

 オレが自力で飛ぶと風魔法の気流で居場所がバレてしまう恐れがあるので、サクラにオレ達を浮かせてもらって風魔法の風力で移動する。


「これは加減が難しいね、トルク」

「慣れるまで難しいかもしれないな」


 風魔法での移動に難航しているオーファン。助けようとオレが手を差し出しだそうとしたが、

「あれ? 止まらない! ドワァー!」


 止まろうとして失敗し、上昇して下降し離れの屋敷の屋根を壊して侵入したオーファン。

 ……止める間もなかった。そして離れ過ぎたらオーファンの認識除外の術が解けてしまう。

 オレとサクラは急いでオーファンが壊した屋根から侵入した。そこは屋根裏のような所で埃臭い。そしてオーファンは女の子を押し倒して二人で見つめ合っていた……。

 ……普通に考えるなら、着地に失敗したオーファンが、着地地点に居た女の子にぶつからないように頑張って移動し、でも体勢を崩して女の子を押し倒すように着地した、という状況だな。

 でもどうして見つめ合っているのだろう? 二人は知り合い?


「オーファンはラッキースケベ体質なのかしら?」

「そんな事は良いから、オーファンと女の子にも認識除外の術をかけてくれ、サクラ」

「終わっているわ。あとその女の子だけど、彼女がニューラよ」


 オーファンは押し倒した女の子、ニューラから離れて謝り、怪我がないか聞いている。ニューラも

「大丈夫です。ご心配をおかけしました」と言ってオーファンから差し出された手を取って立ち上がり、服についた埃を払ってお辞儀した。

 この子が妹の代わりを務めているニューラか。茶髪の長い髪を三つ編みでまとめている彼女は、妹と同じ年齢くらいだ。


「初めまして、私はニューラと申します。お二人は私に御用ですか?」


 なかなか冷静な子のようだ。屋根を壊して侵入した見知らぬ男に押し倒されたのに、何事もなかったようにオレ達に自己紹介をしている。……本当に子供か? いや大人でもこんな冷静な対応はしないだろう。


「初めまして、私はオーファンと申します。こちらの方はトルク。不躾な立ち入り方で申し訳ありません」

「少し驚きましたが、大丈夫ですよ。ですがどうして此処に?」


 驚いていたようには見えなかった……あ、ちょっと顔が赤い。オーファンに押し倒されて恥ずかしかったのを我慢して冷静に立ち振る舞っていたのか。


「えーと、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてしまって……。貴方もどうしてこんな場所に?」

 オーファンは屋根裏部屋を見渡してニューラに聞く。埃臭い荷物置き場の屋根裏部屋に閉じ込められていたのか?


「ちょっと事情があって……」

「事情、ですか?」

「はい。ミンティーア様に閉じ込められて……」


 ミンティーア? 確かアイローン伯爵家の正妻だったような……。母親と仲良かった侍女が良くその人の悪口を言っていた記憶が蘇ってきた。我儘で自己中で見栄っ張りで悋気持ちな女性だったかな。

 オレの母親が綺麗で男性陣の目を引いているのが気に食わないから、人前で糾弾したり、暴力を振るったり、鞭を使って叩いたり、毒を盛って狂わせようとしたり、側近の侍女達を使って嫌がらせをしたり、雇った魔法使いを使って殺そうとしたり、と聞いたな。


「ミンティーア様が『愛人の子は屋根裏にでも閉じ込めなさい』と命令したそうで……」


 ……数年経っても性根は変わらないようだ。

待てよ、愛人って言ったよな? アイローン伯爵の子供? しかしオレの記憶では妹と同年代の子供は居なかったはずだが……。


「横から失礼、質問させてくれ。君はアイローン伯爵の子供なのか?」

「はい、私の父親はアイローン伯爵だと聞いています。侍女だった私の母を……」

「詳しく言わなくても良い。だいたいの事情は把握したから」


 頭が痛い……。腹違いの妹が居たなんて……。そしてニューラは少しずつ生い立ちを話した。

 ニューラの母親はアイローン伯爵家で侍女として働いていたが、アイローン伯爵に襲われたそうだ。そして妊娠が発覚して報告したら、幾ばくかの金を投げられて屋敷から出された。

 ニューラの母親は、侍女を解雇させられ、しかも頼れる親族がおらず、途方にくれた。それでも投げ渡されたお金と僅かばかりの貯金を使って街でギリギリの生活をしながら、なんとか赤子を出産した。

 しかし、貯金が底をつき、でも働き口もなく、赤子の世話で肉体的にも精神的にも疲労して、とうとう自殺を考えるようになってしまった。そのときに、母親とともにアイローン伯爵家で働いていた侍女と会った。

 その侍女は死にそうな元同僚から事情を聞きだして、「子供の世話に専念しなさい」と言ってお金を工面して助けてくれたそうだ。

 侍女の少ない給金で援助し続けられた方法を聞くと、「私のお仕えしている方に相談して、お金を工面してもらっているわ。だから心配しないで頂戴」と言って笑っていた。母親本人も家で出来る仕事をしてお金を稼ぎながらニューラを育てたそうだ。


「こんな世界にも奇特な方っているモンだな」

「良い縁に恵まれたんだね」


 オレとオーファンは同じ感想を述べる。


「私もその方々にとても感謝しています。家に来るときには私とも遊んでくれて大好きでした。ですが私が五歳くらいの時にその方が死んだと聞いて……」


 ニューラの母親は確認する為にアイローン伯爵家に行ったが、三日間帰ってこなかった。そして四日後に帰ってきたとき、母親は騎士に囲まれていた。ニューラと母親はアイローン伯爵家に連れて行かれた。


「母と私の存在を思い出したアイローン伯爵は利用価値があると思ったのでしょう。私は母と離れ離れにされて、レイファと一緒に教育を受けました」

「ちょっと待て! レイファを知っているのか!」


 この子って妹の知り合いか! レイファの事を知っているのか?


「はい、レイファは私や母を助けてくれたリリア様の御息女です。私の唯一のお友達です」

「レイファの居場所を知っているか! 妹はどこにいるんだ!」

「妹ですか? 確かにレイファ様の兄君の名前はトルク様と言いますが……」


 レイファの知り合い! 妹の居場所が分かる!


「……ランナ様とレイファ様の居場所を聞くために、今度はトルク様のフリをして私に近づいたのですね!」


 オレを睨みつけた。優しそうな雰囲気から一転して、鋭い目でオレを睨みつける。……ランナって確か母親の侍女だった人だよね。


「私はランナさんもレイファ様の居場所も知りません! 知っていてもアイローン伯爵の為に教える事はありません!」

「ちょっと待ってくれ! オレはリリア母さんの息子でレイファの兄のトルクだ。オレは母さんの為にレイファを捜していたんだ! アイローン伯爵の所に水の聖女の娘が居るって聞いたからレイファを助け出そうと……」

「そして私を信用させてレイファ様の居場所を聞き出そうとしたのですね! なかなか手の込んだ計画ですが、私はレイファ様の居場所なんて知りません!」


 ……勘違いされているな。オレ達がアイローン伯爵の手先と思われているようだ。

 レイファの事を聞いたら疑われて敵視される。……この子ってアイローン伯爵家で酷い目に遭って生きてきたのだろうか。

 なんとか誤解を解かないと……。そう思っていたら屋根裏部屋の入り口が騒がしい。屋根を壊した音で誰が来たのかもしれない。

 ニューラはどうしようかオロオロしているが、使用人が屋根裏部屋に入ってきた。


「大変です! 屋根裏部屋には誰も居ません! 屋根に穴が開いており、そこから誘拐されました!」


 ……オレ達は三人と精霊一人は部屋にいるんだけどね。認識除外の術で部屋には誰も居ないと使用人は勘違いして報告した。


「アイローン伯爵とミンティーア様に報告しろ!」

「ニューラが目的だったのか?」

「アレがさらわれたなら伯爵がお怒りになるぞ!」

「まだ近くに居る可能性がある! 急いで探し出せ!」


 屋根裏部屋にいるオレ達を無視して、屋敷内が騒がしくなった。


「……あの、どうして、私達が居る事に気付かなかったのでしょうか?」

「トルクの認識除外の術で、あの使用人には私達を認識できなくて、誰も居ないと思ったのだろう」

「認識除外? そんな事が出来るのですか!?」

「現に彼等は私達を認識できなかっただろう」


 オーファンが混乱しているニューラを落ち着かせている。敵視されているオレよりもオーファンの方が信頼されているからちょうど良い。


「……貴方達は本当にアイローン伯爵の配下の人間ではないのですね」

「どちらかと言うと敵だな。母親を不幸にして、妹と別れさせた敵だよ」

「……百歩譲って貴方がアイローン伯爵の敵だとしましょう。ですが貴方がリリア様の御子息だという証拠がありません。そのような方にレイファ様やランナさんの居場所を教える事は出来ません」


 オレとニューラのやり取りにサクラが突っ込む。「彼女、二人の居場所を知っているって言ったわよ。良いのかしら?」と。オーファンは気付いていないようだから、オレはスルーした。


「オレがトルクである証拠か。身分証は母さんが持っているし……」


 現状ではオレが母さんの息子という証明は出来ん。諦めてサクラにニューラの記憶を覗いてもらってレイファの居場所を知ろうかな。

 あ、また屋根裏部屋に使用人が入って来てニューラの私物を漁る。……どうやら手がかりを捜しているようだ。ニューラは荷物を乱暴に漁られて、止めさせようとしたが、オーファンに止められた。


「今動くと貴方を認識してしまいます。静かにしてください」

「……分かりました」


 私物、普段着、下着が床に散らばり、下着をオレ達に見られてニューラは顔を赤くした。……オレ達に出来る事は顔を背けて見ないようにするだけだ。

 手がかりを見つける事が出来なくて、使用人は屋根裏部屋から出る。そしてニューラは顔を真っ赤にしながら下着を回収して、散らばった私物を片付ける。

 オレとオーファンは背を向けて話し合った。


「トルク、彼女はどうする?」

「どうするとは?」

「ニューラを此処から助けるか、それとも……」

「でも敵視されているからな。オレ達と一緒に行動してくれるかどうか……」

「証拠はないの? 彼女が知ってそうな事とか」

「無いな。それにニューラは母さんやオレを見た事ないようだし。……妹の特徴を言えと言われても五年以上会ってないからな」


「……難しいな」


 二人して壁に向かってため息をついた。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 別にトルクだって分らせる必要もないじゃろ? 「精霊の御使いです^^」って言って、公爵邸でも吹っ飛ばせば言うこと聞くよ!
[一言] 目の前でアイロン半殺しにすればとりあえずアイロンの敵だとは証明できるんじゃ?w 異世界の常識じゃあ勧進帳は無理だろうしw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ