15 後継者
珍しく連続投稿!
落ち着こう……。
サクラはオーファンが先代皇帝の子供だと言った。……それは真実か? 証拠は?
……サクラに聞こう。おい! サクラ!
「ただいまアイスクリームを食べている途中の為対応できません。ご用件のある方はトルクを通して頂戴ね!」
アイスクリームを没収するぞ! コラ! オーファンの事を教えろ!
サクラが「仕方ないわね」って言いながらアイスクリーム片手にオレから出てくる。……オレの中に居ても食べることが出来るのか?
「オーファンが皇族の血を引いているのは事実よ。彼の記憶を調べてみたら分かったのよ。彼の父は先代皇帝、母は城で働いていた侍女。侍女はオーファンが生まれて間もなく死んで、友人である女騎士に赤子を託した。それがベルリディアの母親よ」
「……証拠は? オーファンが先代皇帝の子供だという証拠は?」
「ロックマイヤー公爵夫人の手紙を火で炙ると、文字が浮かんでくるの。その内容は『ラグーナ宅の裏庭の石像の下にオーファンが先代皇帝の子供だという証拠を埋めてある』と書いてあるわ」
そこまで調べていたのか……。それをどうして教えてくれないんだよ! 天を仰いでため息をつく。
「こういう事は順番が大事でしょう。一つ一つ謎を解いていくのが醍醐味じゃないの!」
「サクラ! ここでのネタバレは酷いわよ! 答えを簡単に言ったら駄目じゃない!」
ララーシャルはサクラが食べているアイスクリームを奪って食べる。……やけ食いか?
「それよりも! どうしてオーファンとサクラが話をしているんだ? オーファンには見えないし声も聞こえないはずだろう!」
「ほら、オーファンを訓練させたときに会ったの。精神の精霊だから心の中で会う事が出来るのよ。世界広しと言え、こんな事が出来る精霊は私くらいじゃないかしら」
ドヤ顔で自慢するサクラに頭を抱えそうになる。……どうして説明をしてくれないんだよ! 背負っているベルリディアを落としそうになるよ!
……サクラだから仕方がないのか? 仕方ないか……。
「それから、ベルリディアだけど寝たふりしているわよ。オーファンが皇子って事を聞いて驚いているわ」
今の混乱状況にベルリディアが入っていたらどうなっていただろうか? ……まだ寝たふりをしているようだから、ベルリディアはそのままにしておこう。
「な、なあ、坊主。そこの娘さんはどうしてアイスクリームを食べているんだ? どこに持っていたんだ? さっきまで手ぶらだっただろう?」
ウルリオはどうでも良い事で混乱しているな。帝国の英雄の質問を無視して、オレはオーファンに言う。
「オーファン。お前がする事は、和平派の皇族になる事ではないだろう。家族と幸せに暮らす事だろう。馬鹿な事を言うなよ。ベルリディアや母親が悲しむぞ」
「トルク。帝国の現状を聞いて、少しでも力になりたいんだ。ロックマイヤー公爵やトルクの為にも、王国と和平を結べるのなら皇族になる!」
「オーファン! よく考えろ! 自分だけで決めるのではなく、ベルリディアやクリスハルトやロックマイヤー公爵と相談するべきだ!」
「分かっている。ロックマイヤー公爵やクリスハルト様にも相談するし、ベルリディアにも説明する。トルクの為にも帝国と王国の戦争を止めたいのだ!」
オレの為? どうしてオレの為という言葉が出る?
「トルクが王国に戻っても回復魔法が使えるから、また戦争に参加するかもしれないだろう。運が悪ければ戦死する可能性もある! トルクの知り合いや友人達が死ぬかもしれない! そんな事をさせない為にも戦争を止める!」
「オレの事はどうでも良い! どうしてオーファンが危険な道を歩く必要があるんだ! オレはそんな事は望んでいない!」
オレの為に戦争を止めるだと! 何を考えているんだよ! オレはそんな事望んでいないのに! 背中越しでベルリディアが悲しんでいるぞ!
「トルク……。私は君の力になりたいんだ! 友として! 君にも幸せになってほしいんだ!」
「オレもオーファンに幸せになってほしいんだ! 皇族なんてならずに、家族と穏やかに暮らせよ! オレは王国に戻ってもなんとかするから!」
にらみ合うオレとオーファン。こっちも平行線だ。どうしてオーファンとにらみ合う事になったんだ。……オレの事よりも自分の事を優先しろよ!
「オーファンお兄様……」
背中越しにベルリディアがオーファンに声をかける。ベルリディアは体を動かし、「トルク様、下ろしてください」と言ったので、オレはベルリディアを地面に下ろした。
「本気なのですか? お兄様」
「本気だよ、ベルリディア。私に皇族の血が流れているのなら、戦争を止める皇族になる。ロックマイヤー公爵やクリスハルト様の為にも。トルクの為にも!」
「だから! オレの為はいらないって!」
オレの言葉を無視して、兄妹で見つめ合う。聞けよ、こっち向けよ、兄妹!
「……トルク様。皇帝の御子息が分かった以上、皇族にならず穏やかに暮らすのは無理かと」
「そうだな。他の貴族達が利用するだろう。皇族として守ってもらう方が生存率は高いと思うぞ?」
ボルドランもウルリオも肯定するなよ! サクラ! ララーシャル! 何とか言ってくれ!
「私はオーファンが決めたのなら、口出ししないわよ。その為に鍛えたのだからね」
「トルクはオーファン君が敵と戦っていけるようにサクラに訓練させたのでしょう? 皇族として生き残る為の訓練を課したのだから心配いらないわよ。ロックマイヤー公爵の後ろ盾もあるしね」
……全員がオーファンの皇族化に反対していない。オレが間違っているのか?
「トルク。私は皇族になり、ロックマイヤー公爵と共に和平を実現してみたい! 戦争を無くし、帝国と王国のみんなが平和に暮らせるように!」
「……少し考えさせてくれ。そしてロックマイヤー公爵やクリスハルトも交えて話し合おう」
オーファンは皇族になる気満々。ベルリディアも承諾。ボルドランとウルリオも肯定。サクラとララーシャルも賛成している。オレの考え方がおかしいのだろうか?
「分かったよ、トルク。ロックマイヤー公爵達と一緒に話し合おう。今後の事も相談しないといけないから」
きっと公爵さんもクリスハルトもオーファンが皇族になって和平を目指すのは賛成だろうな。……オーファンは子供なんだからまだ進路を決めなくても良いと思うのに。
ため息をついて、公爵さんとクリスハルトに中庭で話した事を説明しないといけないなと考える。
「トルク様、よろしいですか?」
ボルドランが声をかけてくる。どうしたんだ? ……そういえば話し合いの最中だったな。
「帝国の現在の状況を説明します。次期皇帝の後継者ですが、先々代皇帝の孫であるソバーレル公爵家のイルモンド様。領地持ちに支持されているヤンキース辺境伯の孫であるバルバトス様。上位貴族を纏めておりファーレンフォール伯爵家に縁のあるサンフィールド公爵家の孫であるガルモンド様。そして王国の砦を奪った帝国の英雄ウルリオと私の上司であるエルモーア皇子。この四人が次期皇帝になるだろうと言われています」
その辺は公爵さん達から聞いた。
「そして新たな勢力として、和平派のロックマイヤー公爵が支持するオーファン様が参加する事で五人となるでしょう」
オレはオーファンが後継者争いに参加する事を賛成していないけどな。
「実を言うと、中立の立場で和平派に近い皇族がいるのです。その方が後継者争いに参加すると状況は変わり、他の参加者達は辞退するかもしれません」
ボルドランは何をいっているんだ? オーファンの代わりにそいつを次期皇帝にさせろというのか?
「その方は正室の皇妃が生んだ皇子達です。その方々が皇帝になると宣言するのなら、後継者争いは終わるでしょう」
「……シャルの兄のレンブラント皇子達の事か? ボルドラン」
「はい、その方々が皇帝になれば皇位継承権争いは終わり、帝国は王国と戦争を再開する、もしくは二つの砦を使って防衛戦をすると思います」
「だったらどうして、レンブラント皇子は駄目としても他の皇子は皇帝にならないんだ?」
「全員が継承を辞退しています。理由は、長男は体が弱く病弱で皇帝になる事が難しく辞退、次男のレンブランド様は継ぐ意志が無く、三男の皇子は女性不信で結婚する気がなくて、正室男性の全員が辞退しています。それで側室の皇子や皇族の血を引く公爵家が皇帝になろうとしているのです」
……聞くだけなら馬鹿馬鹿しい理由だな。体調不良で仕事が出来ないは分かるが、継ぐ気が無いとか女性不信って……。普通に『馬鹿か?』と思うのはオレだけではないはずだ。
「……その辺の情報はクリスハルトから聞く。要するに、オーファンが穏やかに暮すためには、正室の子供が皇帝になれば良いという話なんだな」
「その通りです」
友達のオーファンの為に、皇族のお家騒動に首を突っ込む事になるとは……。ロックマイヤー公爵領でオーファン達を助けた時に、こんな事になるなんて想像しなかったよ。
ルルーシャル婆さんの寿命までに、このお家騒動は終息するのだろうか?
どうしてこんな事になったんだろう。……本来ならロックマイヤー公爵領でクリスハルト達と会って、ルルーシャル婆さんの死に際に立ち会ってから、王国の家族のもとに帰るだけだったのにな。
友達のオーファンとベルリディアを蔑ろにするつもりはないけど、こんな状況に陥るとは思ってもみなかったよ。……まあ、良い。これからの事をクリスハルトや公爵さんと相談しないとな。
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