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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
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14 戦争と止める方法

 部屋を出るとオーファンと会って、体調を確認された。大丈夫と言って、今からボルドランに会う事を伝えると、


「私も立ち会って良いだろうか?」


 と言ってきたので、「良いよ」と許可した。別に隠すような事ないし。

 さて、ボルドランはどこに居るかな? と考えていたら、オーファンが居場所を知っているそうなので案内してもらう。


「ボルドランさんはウルリオさんと一緒に中庭で休憩していたよ」


 中庭に向かう最中に、オレが気絶している間の事を聞いた。主にオーファンの事だ。


「ララーシャルさんから「アイスクリームを作って頂戴!」って言われて、ボルドランさん達と一緒にアイスクリームを作った。氷が出せるのはトルク以外では私だけだから。魔法で氷を作ったとき、ボルドランさんが驚いていたよ」


 氷を作る事が出来るのはオレとオーファンだけだからね。


「アイスクリームを作りながら、ボルドランさんはロックマイヤー公爵領での出来事を聞いてきた。トルク達と出会う前の事を説明してね。私が殴られ屋をしていた事を話したら、ウルリオさんはアイスクリームメーカーのハンドルを回しながら大笑いしていたよ」


 オーファンはボルドランの事を信頼しているようで、ロックマイヤー公爵領での事を説明したのか。……洗脳魔法はまだ解除されていない様子だ。光魔法を使って洗脳を解いた方が良いのではないだろうか? 


「ウルリオさんは「面白い職業があるな、帝都に殴られ屋があるか調べてみるか」とか言っていたよ。きっと殴られ屋を殴ってみたいのではないかな?」


 子供が殴られ屋なんて事をしていたら、普通の一般人は同情するか驚くと思うが、大笑いか……。ウルリオの事も信用している様だな。これも洗脳魔法のせいか?


「ねえ、トルク。オーファンとベルリディアは洗脳魔法にかかっているわよ」


 小声でオレに聞くララーシャル。……オーファンの洗脳は今解いた方が良いか、後で解いた方が良いか考えるな。ララーシャル、どう思う?


「急に洗脳を解いたら、混乱する可能性があるから、少し待ちましょう」

「……そうだな。時間と場所を考えて解くか」


 オーファンの洗脳魔法を解くか、解かぬか、もう少し考えよう。普通に考えるなら早めに解いた方が良いけど、もう少し余裕があるときの方が良いと思う。

 オレ達の様子に疑問を持ったオーファンが「どうした?」と聞いてくるけど、誤魔化して、中庭に向かった。

 

 公爵邸の中庭の中央には木が植っていた。公爵領の屋敷の庭にあったのと同じ種類の木だが、公爵領のよりも小さい。

 屋敷や中庭の外からの明かりに照らされているが、少し暗いのでオレは光魔法で周辺を照らした。

 夜の暗闇を照らして中央の木へ近づくと、その木の近くにボルドランが立っており、ウルリオも木の根元で座っている。

 ボルドランは跪いて頭を下げて謝罪する。


「トルク様。知らなかったとはいえ、危害を加えてしまい申し訳ありませんでした」


 ……どう答えれば良いんだろうか? 恩人の親族の息子で、王国で破壊活動をしていた闇魔法の使い手の帝国騎士。


「私はラスカル男爵家を立て直す為に、ルルーシャル様や精霊を守る為に帝国騎士になりました。一日でも早く武勲を立て、ラスカル男爵家を昔の様に繁栄させる為に戦い続けました」


 ボルドランは昔話を始めてしまった。……とりあえず聞くか。


「帝国は王国と何十年も戦争を続けておりました。そのため、爵位の低い辺境の貴族や平民に負担がかかり、ついには平民は死に絶え、国が滅びる可能性がある事を知りました」


 ボルドランもオレと同じような考えだったのか。王国も帝国も何十年も戦争を続けているからな。


「戦争で平民男性が徴兵されて、戦死者が増えて人口が減ると帝国の税収が減り、貴族達は更に平民から税を搾取します。そして平民達は暴動を起こし、暴動を抑える為に殺される。だから一日も早く戦争を終わらせないと帝国が滅びかねない」

「だから戦争を終わらせる為だったら、何をしてもかまわないのか? 一般人を洗脳して王国で破壊活動をさせたり、暗殺者に仕向けたりしても良いのか?」


 聞く側だったオレは、王国出身の人間として、ボルドランの行動に問いかける。ボルドランって目的の為なら手段を選ばない人間だよな。自分の行動が正しいと思っているのか?


「戦争を終わらせる為なら、どんなことでもする覚悟です」


 そう言うと思っていたよ。目的の為なら手段を選ばないと思っていたよ。


「帝国が戦争に勝ち、王国が負ける。そして帝国は王国の人間を全員滅ぼすのか?」


 仮定の話を振ってみる。帝国は王国を占領したらどうするんだ?


「王国の人間を奴隷にするそうです。上層部はそのように考えています」

「オレも王国出身の人間だ。そんな事を許せると思うか?」


 王国の知り合いが戦死したり奴隷になる。そんな未来は絶対に阻止したい!


「普通は許せないでしょう。しかし王国も同じ事を考えているのです。王国側も『帝国に勝ったら帝国の人間を奴隷にする』と。そして今でも帝国領の辺境の村々を焼き払い、主要人物の暗殺や誘拐。帝国の平民も王国を恨んでおります。数十年もの戦争による恨みは、どちらかが滅びないと無くならないでしょう」


 ……王国も帝国も泥沼状態だな。両国とも恨み続けて和平も難しいかもしれない。


「私の計画は、二つの砦を奪ったウルリオを帝国の英雄に祭り上げ、クーデターを起こし、皇族貴族を打倒して帝国の実権を握ることでした」


 ……なかなか過激な考えだな。でも隣のウルリオは「知らねえぞ! なんだその計画は!」って言っているよ? 


「その後、ウルリオを皇帝に祭り上げて、王国と和平なり停戦なりして、国土の復興をはかる予定でした」


 ウルリオの言葉を無視して話すボルドラン。……でも面白い計画だな、成功するかは別だけど。


「ロックマイヤー公爵が和平案を出していますが、現状では難しいでしょう。帝国は勝ち進んでおり、王国を滅ぼす勢いなのですから」


 確かにクリスハルトや公爵さんが王国との和平を考えているが、聞く限りでは実行は難しいかもしれない。でも方法はある。


「二つの砦を奪ったから防衛戦が出来るだろう。人材や資源が回復するまで停戦協定を結べば良いのでは? そして少しずつ王国と帝国が歩み寄れば、和平に繋がる可能性もある」

「上層部は防衛戦など考えていません。二つの砦を奪ったので、これを機に王国を攻め滅ぼすとの主張が大多数です。停戦や和平を考えるのはロックマイヤー公爵が率いる少数しかいません」


 帝国の首脳は王国を占領する気満々のようだ。……二つの砦を失った王国は大丈夫だろうか?


「そして和平派となったロックマイヤー公爵は、先代皇帝の血を引くファーレンフォール伯爵家の兄妹を保護していますので、戦争派の皇族から貴族、軍の上層部までロックマイヤー公爵を責めています。他の皇位継承者が暗殺を依頼したという情報もあります」


 ボルドランの言葉に驚くオーファンとオレ。公爵さんが暗殺される可能性が!


「その暗殺者は暗殺に失敗して、地中奥深くで寝ているわよ。トルクが寝ているときに来たから、退治したってサクラが言っていたわよ」


 ララーシャルの言葉に驚き安堵したオーファンとオレ。公爵さんが無事で良かった。ボルドランもララーシャルの言葉に驚いている様だ。


「……さすが精霊ですね。厳しい立場にいるロックマイヤー公爵ですが、御使い様が側にいるのなら心配ないでしょう」


 いろんな意味で現状は最悪一歩手前のようだな。……しかしオレが居る場所は災難が降りかかっている気がする。辺境の村でも、ウィール男爵領でもバルム砦でも、ロックマイヤー公爵にも。……お祓いした方が良いかもしれないな。


「なあ、坊主は王国の人間らしいが、オレ達は今まで王国と戦争を続けて来て、やっと終わりが見えそうなんだよ。今回の皇族の後継者問題が発生していなかったら、王都まで攻め込んでいただろう」


 木の根元に座っていたウルリオが会話に参加してきた。


「王国を滅ぼして平和に暮らす事が帝国人の願いなんだよ。圧政を強いている皇族貴族を殺すよりも王国を恨んでいる。何十年も戦争をしているからな」


 ウルリオは立ち上がってオレの近くに来て言った。


「王国の非道は帝国の人間なら誰でも知っている。平民を残忍に殺したり、女や子供を奴隷にしたり、他にも口には言えないような事をした者達だ。そんな王国の人間達と手を取り合うって事は不可能だろう」

「……確かに不可能に近いな。しかし帝国も王国に同じ事をしたと聞いたぞ。王国の人間は帝国の非道を許さないと言っている」


 帝国の英雄ウルリオがオレを見下ろしながら言ったので、オレも見上げて睨みつけながら言った。

 ……平行線だな。王国も帝国も恨み恨まれている。どうにもできない。


「現在、王国の首都に攻め入らないのは、帝国の後継者問題が発生しているからです。後継者問題が解決したら帝国は王国に攻め込みます。しかし問題が解決する前に攻め込む可能性もあります。後継者候補の中には、武功を立てて後継者問題を有利に進めたいと考えている者もいますから」


 ボルドランの言葉にオレは何も言えない。……オレにはどうする事も出来ない。戦争を止める事は難しく、クリスハルトが和平を考えているが不可能に近い。ここまで酷い状態だと勝負がつくまで戦争は終わらないんじゃないか?

 ここまで泥沼化していたとは思ってなかった。数十年の戦争をしているからこんな状態になったんだな。


「ボルドランさん、王国と帝国の戦争は皇帝が命令をすれば止める事は出来ないのですか? 何かの理由があれば戦いを止める事は出来ないのでしょうか?」


 ずっと聞いていたオーファンがボルドランに質問する。


「先代皇帝が戦争派のトップでしたので、上層部は全員戦争派なのです。現皇帝は戦争派に言いなりの中立に近い戦争派。そして後継者候補も戦争派です。和平派に近い皇族は後継者争いには参加していません」

「だったら! 私が立候補します! 和平派の皇族になります! 後継者争いに参加します!」


 何言っている、オーファン? お前が後継者争いに参加する? 皇帝になるって事? ……オーファンが先代皇帝の子供? それも男子だから後継者争いに参加可能だよな。

 ララーシャルを見る。……驚いているな。オーファンを見て、


「どうして今言ったの! もっと劇的な場面で言った方が良いのに!」


 ってお前も知っていたのか? いつの間に知ったんだ? ほとんどオレと一緒だっただろう?

 ボルドランとウルリオを見る。ウルリオは目と口を大きく開けてオーファンを見ている。ボルドランはジッとオーファンを見つめている。……ボルドランは驚いているみたいだが顔には出していない。


「サクラ様が教えてくれたんだ。私が先代皇帝の子供だと!」


 サ! ク! ラ! め! どう! して! 大事な! 事を! 伝えないんだ!

 オレは大声を上げて叫びそうになった。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トルク自身が周りに流され易い傾向なのが問題でしょう。妹の救出と王国への帰還が一番の目的ですが全く目処が立っていないです。何より読者が気になっているのは、心配しているであろう母親の存在をトル…
[一言] やっぱりボルドランが1mmも信用できない
[一言] もう個人的に必要なことさっさと済ませて王国帰ろうよ。 ダラダラダラダラしてて、主人公にとって何が大事なのかさっぱりわからない。
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