表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
211/275

12 ボルドラン・ルウ・ラスカル

 ポーラス執事長の案内で部屋に来たボルドランさん。

 ……何この人。視線で人を殺せそうな迫力ある眼力だが、そこには何の感情の籠っていない。無感情に、無感動に人を陥れて謀殺しそうな、暗黒面に落ちて闇の住人となった負のオーラ。パトラッシュさんとは全く似ていない。本当に似ていないよ!


「急な訪問で申し訳ありません。デックスレム様」


 部屋には公爵さんとサクラとオレ。クリスハルトは窓の外で帝国の英雄と模擬戦をしている。それを見学しているオーファンとベルリディアとララーシャル。


「初めまして、トルク様、ボルドラン・ルウ・ラスカルと申します。貴方様の事は父からの手紙でお聞きしています。新しき御使い様」


 低く、怖い声でオレに挨拶をするボルドランさん。オレの事はパトラッシュさんから聞いているんだね。……しかしパトラッシュさんの息子さんだけど、父親似ではないようだな。母親似かな?


「確かにラスカル男爵夫人とそっくりね。本当によく似ているわ。それに、あの時の子供がこんなに大きくなって。最後に貴方に会ったのは男爵夫人の葬儀のときだったわね」


 サクラはボルドランさんの母親の事をしっているみたいだな。母親も低くて怖い声なのだろうか? それはそれでちょっと気になるな。


「ボルドラン。お前がファーレンフォール伯爵家の兄妹を私達に送った理由と、公爵領に軍を送った理由を説明してくれるのだろうな」

「はい」


 公爵さんがボルドランさんに公爵領で起こった出来事について説明を促す。


「それから、その雰囲気を止めろ!」


 ……ボルドランさんの雰囲気が変わった。闇の住民のようなオーラが減り、視線で殺せるような迫力ある眼力も弱くなった。


「失礼しました。これでよろしいでしょうか?」


 言葉にも感情が少しこもっている。ボルドランさんって雰囲気を操作出来るのか? アカデミー賞モノの雰囲気操作だな。


「ボルドランは嫌われ者になる為に自分の雰囲気を変えているそうだ。敵から味方を守るためと言ってな」


 公爵さんがボルドランさんの演技についての理由を説明する。器用な事をしているボルドランさんに驚いた。


「お陰で暗殺者に好かれて困っています。逆に捕まえて黒幕を聞き出す事が出来て、暗殺者を寝返らせて暗殺仕返したりしています」

「ほどほどにしろよ、ボルドラン。お前に何かあったらラスカル男爵や皆が悲しむからな」

「大丈夫です。私に何かあった場合は喜ぶ人間の方が多いので」


 公爵さんの注意を笑いながら否定するボルドランさん。笑いながら言うセリフじゃないぞ。

 そして、ボルドランさんはオレ達を見て今回の件の説明を始める。


「では説明を。今回の件は、ファーレンフォール伯爵の妹であるレンリーディア様とその子供達が狙われている所を私が助け出した事からはじまります。本来なら全員をラグーナ様に保護していただこうと思いましたが、どうしてもロックマイヤー公爵夫人の手紙を取りに行かなければいけないと言われましたので、二手に分かれ、レンリーディア様を囮にして子供達をロックマイヤー公爵領へ逃がす事に成功しました」

「ボルドラン、まず一つ目の疑問だが、お前が三人を助けたのか?」

「はい、深夜の散歩中にレンリーディア様達が襲われていたのを助けました。訳を聞くと……」


 深夜の散歩中? 本当に散歩なのか? 賊をワザと逃がして尾行中とかの理由ではなくて?


「それに散歩中に助けた? 敵を尾行中ではなくて? 襲ってきた賊の依頼主は誰だ?」


 公爵さんもオレと同じような疑問を持ち、ボルドランさんに追求する。


「依頼主は後で説明します。日課である暗殺者のおびき寄せをしようと帝都を散策していたら、偶然レンリーディア様達が襲われそうだったので助けたのですが……」


 自分を囮にして暗殺者をおびき寄せる事が日課なのか?


「演技中だったので私が仕組んだ罠だとレンリーディア様は勘違いをされて、仕方なく闇魔法の洗脳で『私は味方』だと認識させて、襲われた理由を聞き出しました」


 ボルドランさんは闇魔法の使い手なのか。って闇魔法で洗脳したって! オーファンとベルリディアも洗脳されているのか! それ以前に洗脳したって何考えているんだよ!


「敵対貴族が増えて困っていたので、レンリーディア様達を利用しようと考えました。それにロックマイヤー公爵家に行くとの事だったので、ついでにキャメロッテ様を奪ったモルダーの処理も出来て一石三鳥の計画を立てたのです」


 オーファン達の用事と、敵対貴族達の捕縛と、モルダーの処理と、確かにうまい具合に考えたな。何も考えずに聞くと、良くぞ三つの事態を調整出来たモノだと思う。


「ロックマイヤー公爵領を攻めた馬鹿共は前もって『公爵領で暴れろ』と洗脳して、指揮官のギャンバに作戦を伝えて、モルダーの処理も頼みました。上手くいって良かったです」


 ……上手くいったのか? 屋敷に攻め込んだ奴やモルダー達が人質を取ったり、キャメロッテ嬢の壊れた記憶を取り戻したり、モンリエッテ嬢を助けたり。……全部、オレや精霊が関わっているな。

 公爵さんは驚きを通り越して呆れてため息を吐いているよ。サクラは「なかなかの策士ね」と呟いているし。オレも呆れているよ。


「しかし最後の詰めで、レンブランド様が来るとは予想外でした。あの方は陛下に頼まれた仕事を他人に押し付けたようです。申し訳ありません」


 ボルドランさんの計画と公爵領での事件には大きな勘違いがあるような気がする。


「ボルドラン。領地に攻めて来た軍とオーファン達を狙った賊達は任せるが、モルダーはこちらで処理する」


 公爵さんがモルダーの処罰の件を伝える。ボルドランさんは「分かりました」と言って「キャメロッテ様の居場所ですが……」と苦い表情で伝えようとするが、


「キャメロッテとモンリエッテは保護して屋敷で休ませている。少し面倒な事になっているがな」

 

 公爵さんがキャメロッテ嬢の事を伝える。


「キャメロッテはモルダーの件や他諸々の用件が済み次第、クリスハルトと結婚する事になっている。シャルミユーナ様や他の皇族の方々に協力してもらい、キャメロッテが被害者でモルダーに誘拐されそうになったが未遂に終わったと貴族令嬢達に噂を流す予定だ。ボルドランもモルダーを極悪人の犯罪者として帝国中に噂を流してくれ」

「分かりました。私の伝手と洗脳魔法を使って帝国中に噂を流しましょう」


 ボルドランさんは頭を下げて噂を流す様だ。しかし洗脳魔法を使ってまですることなのか?


「モルダーは王国側に情報を売った犯罪者としましょう。ついでに冤罪を押し付けて、御禁制の品や麻薬の密売、帝国民を奴隷として王国に売り渡したことにして、罪状を増やして帝国中に広げましょう。」


 ボルドランさんが、ここぞとばかりに罪状を増やすが、公爵がため息をきながら言った。


「密売、奴隷売買は上層部の命令でモルダーは全部やっている。証拠もそろっているから皇帝陛下と相談するが重い処罰にする。……だから罪状は暈したままで情報を流してくれ」


 屑騎士モルダーの罪状には怒りを通り越して、無感情で股間を蹴り上げたくなる。……やっておけば良かった。


「それでボルドランよ。どうして帝国の英雄と呼ばれる者と屋敷に来たのだ?」

「あの馬鹿は暇つぶしです。私の近くに居ると、暗殺者が来るから楽しいのだと。もっとも今回はクリスハルト様と遊んでいますが。私の用件は父上から暗号文の手紙が届いた件です」


 パトラッシュさんからの暗号文?


「初めまして、トルク様。ボルドランと申します。ルルーシャル様の後継者である御使い様と出会えて光栄です」

「初めまして、トルクと申します。ラスカル男爵にはいろいろとお世話になりました」


 本当に光栄って思っているのか? っていうくらいの感情がこもってないな。


「御使い様であるトルク様の付き人になりたいのですが、もう少し時間を頂きたい。現在、帝国では内乱一歩手前で、王国側とも戦争再開の可能性があるのです」


 帝国の内も外も大変なのは知っているが、お偉いさんも大変だな。


「ですが、諸々の用件が解決したら、御使い様の付き人として、御側に居させてください。父上に御使い様の付き人としての修行を受けています。特技は闇魔法の洗脳と謀略です」


 ……サラッと特技に洗脳と謀略とか言ったけど、もっと他に自慢できる特技は無かったのか? 聞いているこっちが引くぞ。


「ボルドランは闇魔法の洗脳を使って敵から情報を集めたり、殺したりしているからな。先ほどの暗殺者も捕まえて洗脳して情報を集めて依頼主を殺すそうだ」

「他にも王国側の人間を洗脳して悪事を働かせたり、主要人物を殺害という任務もしています」


 公爵さんとボルドランさんの説明に引いた。……外道だな。その一言に尽きる。


「情報を把握して反撃する。情報を操作する。なかなか出来るわね」


 サクラも何納得しているんだよ。……待てよ。王国側の人間を洗脳して殺害している? ウィール男爵領でもバルク伯爵領でも、闇魔法の洗脳に酷い目にあったよな。オレの元部下のケビン達とか、他にもバルム伯爵領に向かっている最中にクレイン様達を殺そうとしていた賊達。……帝国の闇魔法の使い手って!


「質問良いですか? 王国の主要人物の殺害ってバルム伯爵やウィール男爵とか? 他にも洗脳した人達ってどこ出身の人ですか?」

「バルム砦方面の被害を減らす為に、その方面の主要人物の殺害を実行しましたが失敗しています。洗脳した者達は帝国と王国中に散らばっています」


 こいつが! クレイン様達を襲った奴等の黒幕か!

 ……落ち着け。この人はパトラッシュさんの息子で恩人の知り合いだ。でもこいつが立てた計画のお陰でクレイン様が襲われてアンジェ様が死ぬところだったし、ケビン達も洗脳されて罰を受けた! 辺境の村が襲われて叔父さん達が死んだのも! 賊に襲われたのも、カミーラさんやファルラさんやマーナさんやミーナさんのこともこいつのせいなのか!


「トルク! 落ち着いて! 心を静めて!」


 サクラの言葉を聞いても落ち着く事が出来ない。ボルドランが計画して王国に住んでいたオレ達に酷い事をしたのだ。あの時の悲劇は忘れる事が出来ない。


「トルク殿?」


 様子が変わったオレに声をかける公爵さん。でも今のオレは心臓が早く脈打って呼吸が荒い。きっと頭に血が上って顔も真っ赤になっているだろう。


「オレは王国の辺境の村で育ち、ウィール男爵家の使用人になって、クレイン様達と一緒に生活をした。その後はバルム伯爵から騎爵位を受けている。ボルドラン、お前がウィール男爵やバルム伯爵を殺そうとしたのか?」

「はい、戦争を終わらせるために、殺そうとしました」


 沸騰しそうな脳味噌を冷まそうと努力しながら、オレはゆっくりとボルドランに聞くが、ボルドランは間を置かず答える。

 拳を握りしめて、跪いているボルドランを殴ろうとするが、窓から木刀が飛んで来た! オレとボルドランの間を通り壁に突き刺さる。


「凄い殺気を放つ子供だな。何モンだ?」


 窓から入って来たのはクリスハルトと模擬戦をしていた帝国の英雄と言われている騎士だ。オレはそれを無視して、ボルドランに殴りかかろうとする。サクラが何か言っているけど頭に血が上って聞こえない!

 ボルドランの顔面を殴ろうとするが、帝国の英雄に腕を掴まれ止められた!いつの間に接近したんだ?


「すまないな、坊主。オレはこいつの護衛的な立場にいるんだよ」

「邪魔するな!」

「ウルリオ! 手を出すな!」

 ボルドランが何か言っているが関係ない! 意味を考えるよりも、感情を優先して目の前の敵を倒す!


 オレは反対の拳で殴り掛かるが、帝国の英雄は掴んだ腕を持ち上げ、身長差のせいでオレは宙に浮く。

 宙に浮かせた程度で、オレが無力化できると思っているのか! 両足に風魔法を発動させて、帝国の英雄に蹴りと一緒に叩きこんだ! 

 衝撃を受けて少し怯んだ帝国の英雄は掴んでいたオレの腕を離す。衝撃でオレも壁際に移動したが、壁には木刀が刺さっている。その木刀を抜いてボルドランを叩き殺すために走り出す!


「トルク!」


 声の主、ララーシャルがオレを呼ぶが関係ない! オレが母親やマリー達と別れている元凶が目の前にいる! ボルドランが洗脳魔法を使って皆を不幸にしなければ、オレは今でも王国で生活をしていたはずだ! その元凶を叩き切ってやる!

 しかしまた帝国の英雄が立ち塞がる。今度はオレと同じく木刀を持って。


「邪魔! するな!」


 オレは叫びながら帝国の英雄に挑んだ! しかし相手はクレイン様よりも強い。魔法で隙を作っても勝てる可能性は低い! でもどうにかする!

 魔法を使って隙を作ろうとした瞬間に、サクラはオレの正面に立ってオレの行動を阻止する! オレの前に急にサクラが出てきたので動きを止めてしまった!


「サクラ! 邪魔するな!」

「落ち着きさない! トルク! 精霊が集まって来たわ! これ以上は私でも抑える事が難しくなるわ!」


 そんなの関係ない! 無視して進もうとしたけど、背後から抱きしめられて止められた。ララーシャル! 邪魔しないでくれ!


「落ち着いて、トルク!」


 その言葉を最後にオレの視界が暗くなった。……サクラとララーシャルがどうして邪魔するんだ? と思いつつ、オレは意識を失った。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。脱字

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ウルリオがトルクと戦いそうになったところで ボルドランが体を張ってウルリオを止めるのが自然な行動だと思う そうでなければボルドランの”御使い様”への思いが嘘っぽくなってしまう [一言]…
[一言] トルクが可哀想だな。トルクだけ割が合わなさ過ぎて
[一言] で、また仇を見つけたのにおあずけくらうわけですね。 妹奪還に協力させるぐらいしないと割りに合わないなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ