表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
208/275

9 緊急事態

 オーファンが倒れた事をクリスハルトと公爵さんに報告してもらい、夕食はオーファン達の部屋で食べる事になった。

 片手はオーファンの手を握っているので食べづらい。見かねたララーシャルが食べさせてくれる。でも『アーン』は止めてほしい。

 クリスハルトも夕食を一緒にとり、今回の件について頭をかかえていた。


「オーファンが倒れ、トルクの髪の色が変わっているから、何事かと思ったぞ」

「すまん。オレもこんな事態になるとは思ってなくて……」

「トルクの氷魔法の訓練から、オーファンの魔力感知と魔法の訓練になっているとは、私も思っていなかった。それも精霊と御使いが教えているのだぞ。私も習いたいぞ」

「止めておいた方が良いとオレは思う。少なくともオーファンの感想を聞いて判断した方が良いぞ」


 オーファンを見ながらパンを食べる。本当に数時間後には目が覚めるのか? ちょっと心配。……ベルリディアがララーシャルの真似をして『アーン』をしてくる。食べるからそんな悲しそうな表情をしないでくれ。


「そういえば、この部屋は居心地が良いな。ちょうど良い気温というか……」


 オレも訓練中で、エアコン魔法で心地よい気温にしているからな。サクラとフュージョンをしていると魔法が使いやすいな。この便利さに慣れない様にしないといけないけど。


「このエアコン魔法は夏でも涼しく、冬でも暖かい空間を作り出せる魔法だからな。雨の日だってジメジメしないように、湿気対策済みで過ごしやすいだろう」

「だが御使いである奥義をいつまで使っているのだ? 髪の色が変わった事を他の者達に説明するのが大変だったのだぞ。とりあえず魔法で髪の色を変えたと説明したが」


 急にサクラ色の髪に変わったからな。使用人さん達も驚いただろう。……ベルリディア、その野菜は自分が嫌いだからオレに食べさせている訳ではないよな。表情が固まった。図星かよ!


「オーファンが目覚めるまでは解けないよ。それはそうと、頼んでいたモノは出来上がりそう?」

「けっこう苦労しているらしいが、明日の昼には形になるそうだ。そのときに出来栄えを見てくれ」


 凄く早いな。さすがはロックマイヤー公爵家の職人だな。これで明日の昼にはアイスクリームが食べられるかもしれないな。

 夕食は何事もなく終わり、食後のお茶を飲みながらクリスハルト達と他愛のない会話する。オレはとある事情でお茶には口をつけない。


「そういえば、サクラとオーファン君の訓練はいつまで続くの?」


 ララーシャルがオレに聞く。言ってなかったけ?


「サクラとオーファンの訓練は深夜には終わるっていっているから、まだ時間がかかると思う。魔力感知は普通なら一ヵ月以上の時間が必要だけど、半日で魔力を感じる事が出来る様に訓練するって凄いよな」

「……ねえ、トルク。本当にそれだけ? 本当に魔力感知の訓練だけ?」


 ララーシャルの言葉を聞いて、少し不安になった。でもオレには何も出来ない。サクラだから、結果に首を傾げたり、頭を抱えたりする事はあるだろうけど、それ以上の事は無いだろう……と思う。思いたい。


「ねえ、トルク……」

「諦めろ……。精霊のする事は人間の理解を超えているのだから。というか、ララーシャルは半分精霊だから理解できるだろう」

「私の中のララーシャルは、「サクラはきっとオーファン君に芸を仕込んでいると思う!」と言っているわよ。大丈夫なの?」


 芸って! さすがに芸は……でもサクラなら。ちゃんとオーファンを鍛えていると思う。でもオレにはサクラの行動を見る事は出来ないし。……そうだ!


「ララーシャルがオレの中に入ってサクラの様子を見る事出来るか? そして無謀な事しているなら止めてくれ。オーファンを助けるためだぞ!」


 ララーシャルは頷いて、ベルリディアに「ちょっとオーファン君の様子を見てくるわ」と言ってオレの中に入って行った。

 クリスハルトとベルリディアはオレ達の会話を聞いていて少し不安そうだったが、ララーシャルが様子を見ると言ったので安堵した。そしてベルリディアはオレにぬるくなったお茶のお代わりを勧めるが、


「すまない、ベルリディア。クリスハルトに用事があって少し二人きりにしてほしい」


 クリスハルトは何事かと言った様子だ。ベルリディアは「少し席を外します」と言って部屋を出た。

 夕食から我慢をしていた事がある。そろそろトイレに行きたいのだ! ずっとオーファンと手を握っていたからトイレに行けなくて困っていたんだ! ララーシャルが居なくなったから今度はベルリディアを退出させて、オレはオーファンを背負ってトイレに行きたいのだ! 女性にどう言えば良いか考えていたが、ベルリディアに察してもらおう。


「トイレに行くのを手伝ってくれ。オーファンの手を握っておかないといけないから一人では無理だ」

「用事ってそれか?」


 クリスハルトはオレの用事を聞いて呆れる。仕方ないだろう! ララーシャルに手伝ってもらう訳にはいかないだろう! 頼む! クリスハルトが駄目なら使用人でも騎士でも良いから手伝ってくれ!

 やや呆れながらもクリスハルトはオレの願いを聞いてくれて、オーファンを抱き上げてくれた。オレはオーファンの手を握ってトイレに行くために部屋を出る。廊下ではベルリディアが「どうしましたか?」と聞いてきたので、どう説明するか迷っていると、侍女さん耳打ちにベルリディアは顔を真っ赤にする。……すまんね、人間の生理現象だから。

 ベルリディアは顔を真っ赤にしながら部屋に戻り、オレはトイレに急ぐ。マジでヤバいんだよ!

 



 所用が済んで心が軽くなった。クリスハルトとオーファンを運んでくれた騎士に感謝する。


「トルク、公爵家の人間にこんな事を頼むのはお前だけだろう……」

「すまん、でも仕方なかったんだ! どうする事も出来なくて……」


 呆れ顔のクリスハルトだが、オレも深刻な状態でヤバかったのだ。これでも我慢していたんだ! 飲み物だって極力飲まなかったし!

 真面目な顔でオーファンを抱えていた騎士さんも本当に申し訳ない。この恩は必ず返します!

 体調が戻り、オレ達はベルリディアが居る部屋に戻る。戻ったらララーシャルにサクラとオーファンがどんな状況なのか聞けるだろうか?

 そんな事を考えながら部屋に入ると誰も居なかった。……部屋を間違ったかな? でも廊下には侍女さんや騎士さんもいるし……。


「ベルリディアはどうした?」


 クリスハルトが廊下に居る騎士や侍女に聞くと「部屋に居ます。外には出ていません」と言う。しかし部屋にはベルリディアは居ない……。侍女や騎士が部屋の中に入り確認をする。オレとクリスハルト以外が部屋の中を探したがベルリディアは見つからなかった。


「どういう事だ! ベルリディアはどうして部屋に居ない!」


 クリスハルトは使用人や騎士達にベルリディアの探索を命じた。ベルリディアはこの短時間でいったいどこに行った? 別れてから五分もなかったはずだ! ……トイレか? いや部屋から出ていないと言っていた。ベランダから外に出たのか?


「クリスハルト、ベランダは?」


 オーファンの手を握っているから動けないオレはクリスハルトにベランダを調べてもらう。


「ベランダにロープが下がっている! ベランダから入ってベルリディアを攫ったのか!」

 クリスハルトはベランダから下に居る騎士達を呼んで、ベルリディアと誘拐犯を探す命令をする。外を警備していた騎士達は動き始め、クリスハルトは部屋にいた騎士達をつれて「ベルリディアを探索する」と言って部屋を出た。

 オレも動きたかったがオーファンから手を離せないから動けない。だからオレをトイレに連れて行ってくれた騎士が護衛と一緒に部屋に待機をする。……こんな時に限ってサクラやララーシャルが居ないなんて。みんなに怒られるかな?

 でもよく考えると五分程度で部屋に入って来て、ベルリディアを捕まえて、脱出なんて出来るのか? 争った形跡もないし。ベルリディアを気絶させたのか?

 あれ? そういえば侍女が寝室にはいないと言った。本当に居ないのか? ベルリディアを誘拐した人間と寝室を探索した侍女が共犯者だったら、まだ寝室に隠れている?

 侍女さんが探していた寝室を調べようとしたら、侍女が青ざめた表情、「一度、部屋にお戻りになった方が……」と進言してくる。

 ……オレは騎士さんに手伝ってもらってオーファンを背負う。そして寝室に入ろうとすると、侍女は止めようとするが無視して入る。

 やっぱり居た。意識を失っているベルリディアと使用人風の男が居た。


「う、動くな! こいつがどうなってもいいのか!」


 ナイフをベルリディアの首筋に当てて脅す使用人風の男。やっぱり、犯人は部屋の中にいたのか。

 しかしこれでは動けないな。隣の騎士が剣を抜こうとするが、


「動かないでください!」


 と言って背後から刃物を突き付ける侍女。……しまったな、共犯者である侍女の存在を忘れていた。刃物がオーファンに向いているから、侍女を無力化するのは難しいな。


「この子を誘拐しないと、妹が殺されるんだ! 済まないと思うけどしかたないんだ!」

「母親を人質にされて、私は命令を聞くしか……」


 侍女はオレを騎士から離して、使用人風の男の近くに移動させた。騎士は二人を説得しているが、「人質が居るから」「殺されるから」と言って応じない。

 しかしこの後どうするんだ? 屋敷から出る事は出来るのか? 人質を脅しながらなら可能か?


「誰の命令なんですか? 人質を取られたのはどの貴族ですか?」


 オレが犯人達に聞くが、二人は教えてくれない。……当然だな。教える訳がないか。

 ……しかし困った。オレ一人なら何とかなるが、背中にオーファンを背負って片手が使えない状態。後ろには侍女がナイフをもって脅している最中。そしてベルリディアが人質中。せめて両腕が使えたら犯人達に魔法を放てるのに……。

 それから他にも共犯者が居る可能性があるから注意をしないと。これ以上マヌケな事をしたら、サクラやララーシャルに何を言われるか。

 あ、騎士さんが後ろから殴られて気絶した。三人目の共犯者が出て来た。ちょっとまずい状態だ。


「二人ともご苦労だったな。……どうして客人の子供がいる?」


 騎士の格好をした中年男性が寝室に入って来て言った。……こいつがリーダー格かな?


「言われた通りにしたぞ! だから妹を解放してくれ!」

「母を助けてください!」


 懇願する二人にリーダー格の犯人は言った。


「客人の子供よ、静かにして捕まれば命の保証はしてやる。黙ってファーレンフォール家の兄妹と一緒に来い」


 殺害ではなく誘拐が目的か?


「公爵家の人達に見つからずにどうやってオーファンとベルリディアとオレを誘拐する気だ? 空飛んで屋敷から出るのか? それとも脱出用の秘密の抜け道でもあるのか?」


 つい、口を出してしまった。……だって気になるから。どうやってこの状況から逃げ出すのか。


(トルク、私が合図したらベルリディアを助けて頂戴。ララーシャルが侍女を無力化するわ。リーダー格の騎士はオーファンが戦うから)


 いきなりサクラが話しかけて声を出しそうになった。オーファンの目が覚めるみたいだな。ナイスタイミングだ! 今からのオレがとるべき行動は、リーダー格の犯人と話して情報を引き出しながら油断させる事だな。

 そんな事を考えていたらサクラから(今よ!)と合図が聞こえた!

 背負われていたオーファンが目覚めて、リーダー格の騎士に土魔法の石礫を放つ! 

 ララーシャルがオレの体から出て来て侍女に突風を放った!

 オーファンが背から降りて身軽になったオレは、ベルリディアを人質にしている使用人風の男に水魔法の水玉を放って、怯んだところぶん殴ってベルリディアを助け出した。

 リーダー格の騎士はオーファンの魔法に驚き下がる。侍女はララーシャルが放った突風に飛ばされて壁に激突して気絶した。使用人風の男はオレのアッパーで宙を浮いて天井に激突して気絶した。

 そしてオレは思い切って殴った事により拳にダメージを負った。骨にヒビが入っているかも。

 破れかぶれで武器を掲げて襲ってくるリーダー格の騎士に対して、オーファンは水魔法の水玉を顔面に放って視界を遮って、背後に回り込み膝裏を蹴って倒した所に土魔法の石礫を後頭部に放って衝撃を与え騎士を気絶させた。

 オーファンが両手で魔法を発動させるなんて。初心者には難しい技術なのに……。それにオーファンの戦闘方法がオレと似ている?

 そんな事を考えていると、オーファンがオレの方を向いて「トルク、ありがとう」と言う。……何に対しての感謝だ? 今まで背負っていた事? 疑問に思いつつ、回復魔法で拳を治療しながらオレは頷いた。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ん〜何がしたいの?やらせたいの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ