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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
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8 作成と習得と訓練と混乱

 変態のレンブラント皇子が無礼者の客人達を連れて行った後、オレ達はお茶を楽しんだ。

 そのときにオレは手動アイスクリームメーカーの設計図を作成して、クリスハルトに必要な材料を頼もうとした。


「ふむ、この設計図を貸してもらえるのなら、公爵家の職人に作らせよう」

「頼む。オレも手伝うから」


 クリスハルトは執事長に職人の手配を頼んだ。

 オレ達のやり取りを見ていたサクラは、


「なるほどね。ライがアイスクリームを作った事があったけどこんな装置は使わなかったわ」


 サクラが設計図を見ながら言うが、ちょっと大型かな? 少し大きめの樽の中に鉄製の、でも大は小をかねるっていうから大丈夫だろう。


「アイスクリームってどんなお菓子なのですか?」

「プリンよりも美味しいのでしょうか?」

「甘くて冷たくて美味しい氷菓子よ。プリンと同じくらい美味しいわよ。私も食べた事ないから分からないけど」


 オーファンとベルリディアの問いにララーシャルが答える。しかしオーファンもベルリディアもアイスクリームの想像ができないみたいなので、ララーシャルが、


「冷たくて口に入れるとサラッと溶けて甘みが口に広がる氷菓子よ。食べた事ないけど、そうサクラが言っているわ!」


 と説明した。サクラはそんな事言っていないけど……、ま、いいか。

 昼食後、執事長のポーラスさんが、職人の準備が出来たと報告をした。


「屋敷の職人を連れてきました。応接間に居るのでご案内します」


 オレとクリスハルトとサクラで応接間に行く。ララーシャルはオーファン達と一緒にいるので別行動だ。

 ポーラスさんに案内された応接間は、レンブラント皇子が使った部屋ではなく、他の応接間だった。


「公爵家には応接間が多数ある。爵位や地位によって使う応接間が違うからな」


 なるほど。だから屋敷も大きいし部屋も多いんだな。ランクの高い応接間だなと思っていたら、


「この応接間は一番ランクの低い応接間だな。職人を連れてくるような部屋だからな」


 一番低い部屋だったんだね。その低ランクの応接間には二人の中年男性が膝をついて頭を下げている。

 オレとクリスハルトは上座に座って、ポーラスさんは職人達に設計図を渡して言った。


「二人とも、明日までに、この設計図に書いてあるモノを作れ」


 ……明日までに作れとは言ってないんだけど。無理じゃない?



「明日までに作成とは言いませんから、遅くならない程度でお願いします」


 締め切り日を伸ばしてもらう。流石に明日までは無理だろう。


「分かりました。ですが早めに完成させますので、ご安心ください」


 ポーラスさんはオレに頭を下げたが、職人二人には作成を急がせた。


「この設計図を作成したトルク様の希望通りに作成するように」


 急にこっちに振られてビックリだよ。職人二人がオレを見る。……なんか不審がっている雰囲気だよ。


 設計図を見た職人達は、ポーラスさんに質問をする。


「このフリーザーボウルという素材は木製ではなく、鉄製で作成するのですか?」

「ボウルの中で回転させる部品の強度についてですが……」


 ポーラスさんでは答える事が出来ない質問だな。オレが答えよう。


「フリーザーボウルを鉄製にする理由は熱伝導率が木材よりも高いからです。回転させるパドルも強度が欲しいので鉄製でお願いします。ボウルの中には液体を入れますから、漏れない様に、取り外して洗浄できる様に作ってください」


 職人さんの質問に答えたが、理解できない様だった。一から説明をしよう。


「これは氷菓子を作る器具です。まずは樽に氷を入れて、金属製の筒の中に液体を入れて、筒の中身を回転させます」


 一つ一つ詳しく職人さん達に説明をする。途中でポーラスさんから「樽に氷を入れるのでしたらのある程度の強度が必要では?」と質問してきたので答える。

 ポーラスさんや職人さん達が理解出来たようなので作成に取り掛かってもらう。


「職人達に出来上がりを聞いたところ、明日には出来そうです。使ってみて改良点を調べるとの事なので、トルク様にも立ち会ってもらいたいのですが」


 早いよ! そんなに早く出来るのか!? ロックマイヤー公爵家の職人を甘く見ていた! 

 出来上がってもアイスクリームに必要な材料とか詳しく知らないよ。牛乳と卵と砂糖だけ? 他に必要な材料ってある?

 それ以前に氷が無いから出来ないよ! どうする? 高山に行って氷を取ってくるか?


「魔法で氷を作れば良いんじゃない?」


 サクラから氷を魔法で作れと言われた。……そういえばその手があったな。まずは水魔法で水玉を作り、それを凍らせる。……どうすれば凍る? 原子や分子の動きを止める? 火魔法の火玉を作る逆の方法? 


「どうした? トルク」


 氷の作り方を思考中にクリスハルトの声に呼ばれて意識を取り戻した。


「氷を魔法で作る方法を考えていた。……それよりも帝国では氷を作る魔法ってある?」

「……文献によれば魔道帝国では氷を魔法で作っていたと伝えられている。しかし今では氷を作る魔法は誰も出来ない」


 魔道帝国では氷魔法があったのか? ……だからサクラは氷を魔法で作れと言ったのか。サクラ、氷を魔法で作るにはどうするの?


「詳しくは知らないわよ。ライも氷魔法なんて使ってなかったし。でも氷の精霊に頼んで氷を貰っていたわよ」

「氷の精霊に氷を貰う事は出来るの? サクラ」

「出来るけど、氷の精霊はこの辺にはいないわよ。基本的に寒い所にしかいないから。冬になったら帝都にも来ると思うわよ」


 やはり魔法で氷を作るしかないか。でもどうすれば?


「ねえ、トルク。私は『詳しくは知らない』としか言っていないわ。多分だけど魔法で氷を作る事は出来ると思うわ」

「出来るのか! 氷魔法が!」

「出来ると思うわ。ライの気温を下げる方法を応用すれば可能だと思うわ」


 雷音さんが使った気温を下げる方法を応用する? エアコンか?


「そう、エアコン魔法。エアーコンディショナーの略よ。夏には涼しく、冬には暖かく。部屋を快適にした魔法よ。空調魔法とも言うわ」


 ……雷音さんは空調魔法という名のエアコン魔法を開発していたのか。


「空調魔法は慣れないとトルクでも大変よ。最初はフュージョンをして自身の能力を上げて覚えた方が良いわ。そして周辺の空気を温めたり冷やしたりするのだけど、氷が張るまでの温度に下げるのは大変よ」


 周辺を冷やすのではなく、指定した場所を冷やせば良いんじゃないかな? しかしフュージョンしないとエアコン魔法を覚えるのは難しいようだな。

 とりあえずサクラにエアコン魔法のやり方を教えて貰おう……。




 昼食後、御使いとして、エアコン魔法をサクラから習った。適正気温・湿度を把握して自分に纏うのが第一段階。次に纏っている適正気温を室内中に広げるのが第二段階。最後に広げた適正気温を維持するのがエアコン魔法だ。

 エアコン魔法は簡単に習得できた。これもサクラとフュージョンをしているからなのか? そして最終的にはフュージョンを解いたままでエアコン魔法を使えるようにならないといけない。

 そしてエアコン魔法の特殊な使い方として、特定の位置の温度を氷点下にして氷を作る。

 部屋に座って水瓶のある周辺を氷点下以下に温度を下げる。その空間を触ると冷凍庫の温度になっている。好奇心からララーシャル達も水瓶周辺を触り身震いをした。

 しかし水が凍りつくまで時間がかかるな。もっと温度を下げるように集中する。

 少しして水瓶の中の氷を確認する。とにかく、これで氷の心配はなくなった。アイスクリームメーカーが完成したらアイスが作れるだろう。


「お疲れ様、氷が出来たみたいね」


 ララーシャルが飲み物を手渡す。少し喉が渇いていたので飲んだ。

 見物していたやオーファンやベルリディアが水瓶の氷を見たり触ったりして確認している。


「凄いな。氷を作るなんて……」

「本当です……」


 兄妹の感想を聞きながら『ついでにかき氷機でもつくろうかな?』と考える。あとは水魔法の水玉を凍らせて、氷玉に出来る様に訓練をするだけだな。


「トルク、私にも魔法が使える様になるだろうか?」


 かき氷機の設計図と氷玉の訓練を考えていたオレにオーファンが質問してくる。

 え? いきなりの質問だな。どうしたんだ?


「私も魔法が使えたら、母様と別れた後、ベルリディアに苦労をかけなかったかもしれない。もっと強ければ、今の状況は無かったかもしれない」


 深刻に考えているオーファン。でも強ければ大丈夫と思うのは違うと思うぞ。


「オーファン、確かに魔法が使えたら、違う状況になっていたかもしれない。オレも魔法が使えたから今まで生きてこれた。でもそれはハッキリ言って運が良かっただけだ」


 もしも母親から魔法を習わなかったら、辺境の村で死んでいただろう。襲った帝国兵に殺されていたかもしれない。精霊を見る事が出来なくて回復魔法を使えず、母親が死んでいたかもしれない。

 今まで生きてこれた事はハッキリ言って運が良かっただけだ。魔法が使えたからウィール男爵家に拾われた。回復魔法が使えたから騎士になりバルム砦でクリスハルトに出会った。帝国にバルム砦を落とされ捕虜となった。ランド爺さんやルルーシャル婆さんと出会ったから御使いとなった。そしてクリスハルトに会う為にロックマイヤー公爵領でオーファン達と出会った。だから、


「オーファン、お前が少しでも生き延びる可能性があるのなら魔法を教える。まずは魔力を感じる方法からはじめて、攻撃魔法や回復魔法を使えるように頑張ってみるか?」

「本当か! ありがとう! トルク」

「じゃ、今から魔力を感じる方法を始めよう。まずは……」


(トルク、ちょっと良いかしら?)


 ビックリした! サクラが急に話しかけて来た。……そういえばフュージョンしたままだった。


(オーファンに魔力を感じさせる訓練よね。この状態ならすぐに感じさせる事が出来るわよ!)


 え? そうなの? そんなに簡単に出来るの? オレは一ヵ月くらいかかったのに……。


(まずはオーファンの手を握って。後は私が魔力を感じさせるから!)


 とりあえずオーファンの手を握って魔力を感じる訓練をはじめ……。オーファンが白目むいて倒れた! 何したんだサクラ! 回復魔法! 回復魔法!

 ベルリディアが悲鳴をあげ! 周辺にいた侍女さんが混乱する。


「ちょ、ちょっと、トルク! オーファン君は大丈夫なの!」


 ララーシャルもオーファンの具合を見て、回復魔法を使いながらオレを責める。オレだって意味不明だよ!


(大丈夫よ、体が動かないだけでオーファンの意識はあるわ。トルクの魔力を使ってオーファンの魔力を濃くしているの。吸魔術の応用ね)


 吸魔術の応用? あれは自然の魔力を吸収して自分の魔力に変換して魔力を濃くする方法だ。……サクラはオレの魔力をオーファンに吸収させて魔力を濃くしたのか!


(その通りよ。今オーファンは、視覚や触覚や嗅覚や聴覚や味覚を遮断して、魔力だけを感じているわ。だから白目むいて倒れているけど、感覚を魔力だけに向ける為に必要な事なのよ)


 ……大丈夫なのか? その修行法? 命の危険性は?


(私が居るのだから心配いらないわ。光と土と砂と精神の精霊よ。傷は回復できるし、心の傷も回復できるわ!)


 とりあえず、精霊サクラの修行法だとララーシャルとベルリディアに伝える。ベルリディアは兄の手を握りしめ祈る。ララーシャルは回復魔法を止めてオーファンを横にして休ませた。

 オーファンを見ながらオレはサクラに聞いた。この修行法は雷音さんが開発したのだろう。


(やっぱりトルクは分かった。ライが故郷の本を参考にしたって!)


 どんな本を参考にしたのか分からんが、安全面を考慮してくれ! それでオーファンはどのくらい動けないんだ?


(深夜までには目を覚ますわ。魔力を感じる事だけではなく、他にも魔法の使い方や応用まで教えておくから大丈夫よ)


 本当に大丈夫なのか少し不安だが、とりあえずオーファンを部屋に戻して休ませよう。侍女さんが騒いで使用人さんや騎士さんも来たからオーファンを部屋に運んでもらおう。

 そしてオレはいつまでオーファンの手を握っているのだろうか?


(オーファンが目覚める深夜まで手を繋いでおいてね)

 

 サクラの言う通りにオレがオーファンの手を繋ぎながら背負って部屋に戻り、オーファンをベッドで休ませる事にした。

 本当にオーファンは大丈夫かな? ついでに手を握っている意味もあるんだろうか?

 夜まで手を握り続けるって大変だよ……。

 

誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらっています。 [気になる点] 御使いになってからの主人公が「受け身系主人公」になったように思います。何か起きてからその対応ばかりで、主人公が自らの意思で動く描写がほぼ失く…
[一言] 更新ありがとうございます。これからも更新をよろしくお願い致します。
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