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精霊の友として  作者: 北杜
八章 帝国皇都騒動編
205/276

6 皇子の嘆願

精霊の友として。1巻発売中! 2巻は12月28日発売予定!

 サクラに頼んで、寒天を作れる精霊に寒天を注文した後、レンブランド皇子を部屋に隔離した公爵さんが部屋に戻って来た。


「そろそろ皇女殿下にはお戻りになった方が良いでしょう」

「そうですね。この度は兄が御迷惑をおかけしました」


 公爵さんに謝罪し、ルルーファルさんに声をかけて帰る準備をする。そしてシャルが連れて来た護衛達と、公爵さんが率いる護衛達を連れてお城に戻る事になった。

シャルと公爵さんは帰りの馬車の中で今後の予定を話し合うらしい。


「寒天の件、お願いね。私も用意をして待っているから。出来ればアイスクリーム製造機もお願いね」


 出立するシャル達を見送る為に屋敷の門のところに立っていると、シャルに最後まで念入りに寒天とアイスクリーム製造機をお願いされたので「努力する」と答える。シャルは名残惜しそうにしながらも帰っていった。


「……皇都に着いた途端に、皇族と会うなんてな」


 独り言のように呟く。一気に疲れたよ。


「まだ一人だけ、屋敷に残っているわよ」


 ララーシャルが客間で寝ている第二皇子の事を言っている。


「そうだな。明日は会わない様に隠れておくか……」


 会うと騒がしくなるから、オレ達は隠れて会わないようにしようと思った。そしてクリスハルトが近づき謝罪する。


「トルク、今回の事はいろいろと迷惑をかけた」

「こっちこそララーシャルが勝手に皇子を気絶させて迷惑をかけた」

「いや、ララーシャル殿には妹を守って頂いて感謝している」

「そう言ってもらえると楽になるよ」


 クリスハルトと屋敷に戻り、今後の予定を話し合う事になった。シャル達と一緒にいた客間に戻り、侍女さんが淹れたお茶を飲みながら相談する。


「とりあえず、ラグーナ様との面会はシャルミユーナ様に段取りして頂けるから大丈夫だろう。先代皇帝との面会もその時になるだろうな」


 クリスハルトの言う通り、ラグーナ様の元にオーファンとベルリディアを連れて行って面会させて、先代皇帝にはララーシャルを会わせて終わりだな。


「後はトルクの妹を助けて、ラスカル男爵領に戻るだけね」


 ララーシャルの言う通りアイローン伯爵家に捕らわれている妹を助けて、ラスカル男爵領に居るルルーシャル婆さんを看取って、母親やエイルド様達が居る王国に帰るだけだ。

 その後はみんなで幸せに暮らしたいな。そういえばララーシャルの事をどう説明したら良いだろうか? 精霊? 帝国で知り合った女性という説明で納得するかな?

 そう言えばサクラは? 周りに居ないけど……。


「サクラは寒天を作れる精霊の所に行っているわ。久しぶりにゼリーが食べたいって。初代が作ったのを食べた事あるって言っていたわよ」


 雷音さんってゼリーも作れるんだな。とりあえずサクラが戻ってきたらお使いの礼でも言っておくか。

 とりあえず、ラグーナ様に会うまでは数日かかるみたいだから、今のうちに妹の救出だな。ついでにララーシャルと帝都を見て回るか。


「トルクも、ララーシャル殿も部屋に戻って旅の疲れを癒してくれ。私はレンブランド皇子を見張っておくから」


 クリスハルトはレンブランド皇子を見張る為に部屋を出ていった。オレはお茶を飲みほしてから、ララーシャルと一緒に部屋に戻る。侍女さんが案内すると言っていたが丁重に断りを入れて二人で部屋に戻った。


「明日はどうするの? 屋敷でベルリディアちゃん達と遊ぶ?」

「……妹を救出したいけど、情報を集めよう。何処に居るのかわからないし」

「それならサクラが調べていたわよ。戻ってきたら聞いてみたら」

「そうだな、あと時間がとれたら少しずつ帝都見物でもするか」 


 帝都見物という言葉にララーシャルは嬉しそうに笑って、「皆で行きましょう」と言う。皆には誰が含まれているのだろうか? サクラ、オーファン、ベルリディア、クリスハルトくらいかな? 流石に公爵さんやルルーファルさんやシャルは入っていないだろう。


「オーファン達は狙われているから難しいだろう。オレ達も狙われている可能性があるから、サクラに認識除外の術をかけて貰って、帝都見物をした方が良いと思うぞ」

「その辺はサクラに相談してみましょう」


 明日の予定は明日考える事にして、旅の疲れを癒すために早めに休もう。


「……そういえばどうしてオレとララーシャルは一緒の部屋なんだ? 男女だから普通は別々の部屋だろう? ついでにサクラも」

「私は別に気にしないわよ。トルクは弟みたいなものだし。トルクは私が同じ部屋なのが気になる?」

「気にならないな。ララーシャルだし」


 オレの中でララーシャルは家族の様な存在にいつの間にかなっていた。母親やマリーと一緒の感覚だな。

 でもベッドで寝ている間に抱き枕にしないでほしい。オレは枕ではないんだぞ!




 朝起きて、顔を洗い、着替えて、身だしなみを整える。ララーシャルも起きて身だしなみを整えており、寝起きのお茶をたしなんでいた。


「おはよう、トルク」

「おはよう、ララーシャル」

 

 今日も良い天気……ではないな。雨だな。帝都見物は難しいかもしれない。……待てよ、雨の方が動きやすいかも。

 窓から雨を見ながら今日の予定を考える。


「サクラは?」

「貴方の中で寝ているわよ。それから寒天も貰ってきたって」


 机を見ると寒天が山のように無造作に置いてあった。オレが寝ている間に帰って来て、オレの中で寝ているとは……。全く気付かない。本気で意識しないと分からないからな。


「さてと、朝食を取る前にオーファン達と合流するか」

「そうね。今日は雨だから、屋敷でゆっくりと過ごしましょう」


 雨だから外出は無しか。……ララーシャルの言う通り、今日はゆっくり過ごすか。


「おはよう。トルク、ララーシャル」


 オレの中から出て来て挨拶をするサクラ。寝起きだがそんな事は感じさせない。オレ達もサクラに

「おはよう」と言って挨拶を交わす。


「トルク、寒天を貰ってきたから、ゼリーを作って頂戴! 久しぶりに食べたいわ!」

「……オレ、ゼリーを作った事ないぞ」


 ゼリーは食べた事あるが、作った事はない。もちろん、寒天も使った事も購入した事もない。


「そうなの? ゼリーは食べられないの?」

「作り方が分からないからな。サクラは作り方知ってる?」

「……知らないわ。ライが作った事あるから、トルクも知ってると……」

「オレも知らない。でもシャルは知っているはずだよ。今度会ったら頼んでみたら?」


 サクラは悲しい表情で「シャルに頼んでみて……」と言って落ち込んだ。オレからも頼むからそんな顔するな。

 ……廊下が騒がしいな。クリスハルトと公爵さんの声が聞こえる。それと……。


「御使いと精霊に会うだけだ! 邪魔をしないでほしい!」

「レンブランド皇子! 御使い様を呼ぶので待ってほしいだけです!」

「早朝に、事前の連絡無しで押し入るのは、礼儀に反します!」

「謝罪するだけだ! 毛が抜けるのを止めてほしいのだ! 朝起きて、枕をみると髪の毛が抜けている。これ以上の毛が抜けてしまったら、後頭部がツルツルになってしまう!」


 朝からクリスハルトと公爵さんは変態皇子を止める為に大変だな。皇子が部屋に乱入して、ララーシャルが暴れる前に、何かしらの手段をとるか。


「サクラ、朝から悪いけど、オレ達に認識除外の術をかけてほしい。変態皇子から身を隠そう」

「そうね。ララーシャルも会いたくないでしょうし」

「……私はトルクの中に居るから、どうでも良いわよ」


 ララーシャルはオレの中に避難するつもりだったのか。でもオレも会いたくないからサクラに認識除外の術をかけて貰う事にした。サクラが術をかけ、ララーシャルはオレの中に入ると、部屋のドアが乱暴に開いた。


「精霊は? ララーシャル殿は? 御使いは?」


 部屋の中に目的のオレ達が見当たらないので不思議そうな顔をする変態皇子。部屋に勝手に入って探しはじめるが、カーテンの裏やクロゼットの中や机の下には隠れてはいないぞ。公爵さんやクリスハルト、変態皇子の側近らしき騎士が呆れているぞ。


「御使いよ! 頼む! ハゲの呪いを解除してくれ!」


 部屋の中心で叫ぶ変態皇子。……ハゲの呪いって何? サクラを見るけど、『知らないわよ』ってゼスチャーしている。……そういえばジュゲムが先々代皇帝の毛根を抜いたって事件があったな。

 でもオレ達は何もしてない。……きっとストレスが原因による抜毛だろう。でもこの変態皇子にストレス? 変態でも皇子だからストレスを感じるのだろうか?

 ……仕方がないから話し合いをするか。ララーシャルには会わせたくないので、オレだけ会おう。サクラに認識除外の術を解いてもらう。


「術を解いたら私もトルクの中で過ごすわ」


 ララーシャルに続いてサクラもオレの中で休むと言う。オレの中はそんなに居心地が良いのか?

 急にオレが現れた事に驚く公爵さん達。公爵さんとクリスハルトと変態皇子達を、改めて部屋に招き入れる。


「改めて初めまして、トルクと言います。レンブランド様」

「先日の件は誠に申し訳ない。謝罪するのでハゲの呪いを解いてくれ!」


 そんな呪いは使っていないのだけど。変態皇子に「失礼します」と言って頭髪に回復魔法をかける。


「ストレスによる抜毛です。睡眠改善や適度な運動をしてください。成人男性は一日約百本くらい抜けるのです。ご安心ください。後は頭皮マッサージなどをお勧めします」


 どうしてオレは皇子に対して医者の真似事をしているのだ? おかしいだろう!


「育毛や頭髪にも詳しく、そして回復魔法まで使えるとは。御使いよ、感謝する。そしてララーシャルにも謝罪したいのだが……」

「ララーシャルは席を外しております。謝罪は私が伝えておきます」


 レンブランド皇子がララーシャルに会いたいようだが断る。結構というか、かなり無礼を働いたので、皇子の近くに居た騎士達が「無礼者!」と言って剣を抜こうとしたが、


「貴様が無礼だ!」


 と言ってレンブランド皇子がその騎士をぶん殴った。顎に良い具合にヒットして、主君のワンパンで気絶した騎士。

 ……戦争に行って武勲をたてたってクリスハルトが言っていたから、戦闘指揮で武勲を上げたと思っていた。でも近接戦闘も出来るようだ。ただの変態ではない。 


「部下が失礼した。御使いが言うのならララーシャル殿への謝罪はお願いする。ロックマイヤー公爵にも迷惑をかけた」


 なんだろう……。レンブランド皇子がまともに見える。変態は演技だと思えるくらいだ。 

 レンブランド皇子は側近の騎士と何か言葉をかわし、公爵さんに昼まで屋敷に滞在する許可を貰っている。二人のやり取りに意味が分からず、クリスハルトに聞くが、彼も分からないようだ。


「ロックマイヤー公爵よ。今日は来客が多くなるだろう。私が滞在していた方が都合がいいはずだ」

「……元を正せば、皇子が我が屋敷に来たからでしょう」


 公爵さんはため息を吐きながらレンブランド皇子の滞在を許可する。


「御使いよ、いやトルクと呼ぼう。してトルクよ、朝食を一緒にどうだ? クリスハルトも一緒に食べようではないか」


 主導権をレンブランド皇子がとっている。……良い事なのか? 悪い事なのか?

 レンブランド皇子がオレの肩に手を置いて、強引に食堂に歩かせる。……どうして皇子が食堂の場所を知っているんだ? 

 そして騎士に、再度「無礼者!」と何故か言われてしまったが、レンブランド皇子がぶん殴って倒れる。

 護衛騎士が少しずつ減っているが、皇子は何事もないようにオレを連れて歩く。

 この皇子の印象を考え直さないといけない。ただの変態ではなく、暴力的で手の早い変態のようだ。

 


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 捕虜になったとこくらいから読んでなかったけど、久々に読んだらまだざまぁしてなくて草
[一言] 禿げるかいなかの瀬戸際なのだから、必死になるのは仕方ない。
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